第23話 虫歯で手術?虫歯で死亡?あるんです

 私は常日頃、ゆきのさんに言っていました。

「もうネタは十分だ」「無理をするな」「命を大事にしてくれ」

 

 ……ゆきのさんはその度に「平気~大丈夫!」と言っていたはずなのですが……


 いやマジ、本当に現代日本に生きていて「命を大事にしてくれ」なんてリアルで言う機会があることすら思わなかった朝樹は未熟者だったのでしょうか?


 ゆきのさん、また何度目かの(何度目かの!!数えきれないの!!)三途の川ツアーに行かれたようです……(涙)


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 さて、新年早々三途の川観光に行ってきたスタローン・七沢です。

 ただ、今回は緊急手術と緊急入院をちゃんとしたのでいつもと違い観光程度だと思います。

 スタローンに続いて三途の川に近い人でギネスに載せてくれないかな……。


  ↑普通は観光すらしない所だと言うことに気がついて欲しい……


 発端は奥歯の痛みでした。

「またひどい歯ぎしりをしたのかな……」(第9話 歯ぎしり 参照。七沢は歯ぎしりがひどく歯が真っ二つに割れたことがあります)と歯を保護するマウスピースをつける時間を延ばしました。


 冷たいものや熱いものがしみるわけでもない、虫歯らしきものもない、奥歯全体がひたすら痛い、なのでまたいつもの歯ぎしりの症状だと思ったんです。定期健診にも行っていたし。


 けれど痛みはどんどんひどくなり、「あ、これもうムリ」と思った私は行きつけの歯科の予約を取ります。年始で立て込んでいたのか、痛みを訴えましたが予約が取れたのは5日後でした。


 そして次の日。


 痛む歯のある方の顔半分がきれいに提灯フグになっていました。


 瞼の上までぷっくりと腫れあがり、自分で見ても「うわあ……」です。人間の顔って腫れあがりすぎると表情も作れなくなるんですね……。


 それを見て「お岩さんwww」と笑う父。「お岩さんはもっとコブが黒い!」と妙にムカつくフォローを入れる母を横目に、口腔外科のある総合病院に診療のお願いの電話を入れます。


 行きつけが休みだったので近所だという理由だけで電話をしたのですが、結果的にこれが最良の選択でした。


  ↑……虫歯で目の上まで腫れるって…… そして七沢両親……(泣)

   そして確かに年末年始とかお盆とかは歯医者に限らず病院は混んでいます。でもそこまで痛いんなら、何時間でも待つ覚悟で直接行くという方法はあります。少なくともうちの病院は来た患者を追い返したりはしません。


            ※※※


 無事診療を受け付けてもらい、パノラマレントゲンを撮ります。

 そしてそれを見ながら医師の話が始まります。


「あーこれ膿んでるねー見える?膿」

「はい……」


 素人目にも見事に歯根から顎骨にかけて影が映っていました……。


「銀歯の下が虫歯になったから今まで気づかなかったんだねー。まあこれはしょうがないよ。奥歯全部が痛いのは、歯はあまりにも痛くなるとどこが痛いか認識できなくなるんだよー」

「(この時点で気を失いそう)抜歯はしないですみそうですか?」

「うん。抜歯はしないですむと思うよ。じゃあ今から入院ね」


 ……え……?


 いま世界で一番「じゃあ」の意味が分からない言葉が聞こえたんですけど!!!!


「入院…?」

「すぐ手術するから」


 なんで?!


「この膿とんないといけないからさー」

「家はすごく近いんで手術だけして帰っちゃダメですか……?」

「ダメー。こんなんなっちゃうと抗生物質の点滴を1日3回しないとヤバいんだよこれー。髄膜炎とかさー。じゃあ手術したら入院するからなるはやで入院の用意して戻ってきてねー。なるはやー!」


 なるはやは脚色ではありません。医師のノリの軽さと言っている言葉の重さのギャップに脳がついていきません。


「……わかりました」


 病院から出るとき、腰が抜けて三度ほど転びました。


  ↑ゆ、ゆきのさん、あれだけいろいろヤラカシテいて入院でそこまで驚かなくても……。

   それに手術って言ってもピンキリですから。

   私には膿瘍形成しておいて帰宅と言う方が恐ろしい。(理由は後ほど説明)



             ※※※



 さて手術です。

 病院が怖い七沢はそれだけでもう死にそうな上に執刀するのは主治医ではなく研修医。


 時折聞こえる「違う違う!バックバック!ヤバイから!」「だからー!骨膜!」等と指示する主治医の声が本当に恐ろしかったです……。何がヤバかったんだろう……。

 そして、排膿のためのドレーンを2本留置し、手術は無事終了しました。局所麻酔でした。


  ↑コレも割と普通です。研修医一人のOPじゃないだけましです(マジ)。

   夜間救急では傷を縫う程度の創傷処置は研修医が一人で(後ろの看護師に睨まれながら)縫ったりします。

   「ヤバいから」は神経とか血管に傷つけそうになったとかですけね?ホントにヤバい時は研修医は手術から降ろされますので、ただの口の悪い上級医だったのかもしれません。




           ※※※




 その後は医師の言う通り3回の点滴をし、とうとう次の日、点滴と病院が異常に怖い七沢は白旗を上げました……。


「先生もう入院してるの無理です……常時針が血管に入ってると思うとヘパロックぶっちぎりたくなります……」

(点滴の回数が多いため、そのたびに針を抜くことはせず針は血管内に留置されヘパロックされていました)※ヘパロック:点滴の針を点滴をしていないときにも血管内に入れっぱなしにする際に、管の中で血液が固まらないようにされる処置です。


 あまりの恐怖に血圧が常に上160代あったのも考慮されたのか、夜眠れず、ベッドの上にずっと正座をしていたのを巡視の看護師さんに気味悪がられたのか、匙を投げられたのか、主治医も「うん……今日の点滴が終わったらもう帰っていいよ……」と。

 ここで、抗生物質と痛み止めをもらって無事退院です。


  ↑「無事」退院じゃないよね(にっこり) 



           ※※※



 総合病院の口腔外科は基本的に虫歯の治療はしないため、「あとはかかりつけになんとかしてもらってねー」ということで、七沢は現在かかりつけの歯科で治療を続けています。

 手術が必要だった程の膿は取れましたが歯の中の膿の排膿など、前途多難です……。


 被ばくのリスクなどは朝樹さんに解説してもらうとして、みなさん、歯科定期健診ではたまにはパノラマも取りましょう……。虫歯は目に見えるところにできるとは限りません。


「冷たいものがしみるよぅ」なんて可愛い初期症状があるとも限りません……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 と、言うことでございました。

 ゆきのさんの守護霊とか、何してるんでしょうね?


 で。


 虫歯の話です。


 歯を磨きましょうね~ なんて平和な話はしません。

 せっかく?ゆきのさんが三途の川を遠目に見てしまったので、危険性をガッツリお話します。


 虫歯と言うのは、そもそもが歯、または歯周囲の感染です。

 感染ってことは細菌がいます。

 その細菌は、ほっておくとどんどん深くまで浸食して行きます。

 今回ゆきのさんは顎骨まで感染が及んでいました。これが骨の中(骨髄)に入りこむと厄介さは激上がりです。

 骨髄内は手術で膿を取ることは難しく、延々と抗生物質の点滴でしのぐことになりますが、命にかかわる場合もあります。

 

  命 に 関 わ る んですよ!ゆきのさん!!


 心臓の手術をする前に歯科を受診させられた人はいませんか?

 うちの心臓外科は手術が決まったら必ず歯科受診が入ります。虫歯菌は心臓に入り込むと心内膜炎とかいろんな厄介事を持ってくるので、術前に8本抜歯しました、とか言う話も珍しくない程です。


 心臓の話が出たので、虫歯が心臓に及ぼす影響について。心筋梗塞などの他、心臓の弁置換の手術をした方などは虫歯は恐ろ

しいです。せっかく入れた人工弁に虫歯菌がついたら、また手術のし直しです。

 これは簡単ではありません。一回心臓止めないとできない手術ですから。


 他にも、脳梗塞・誤嚥性肺炎・動脈硬化、最近は糖尿病にも関係しているのでは言われています。

 意外なところでは早産や低出生体重児(いわゆる未熟児ちゃん)の出生にもかかわっているとか。

  (※日本臨床歯周病学会のHPより) 


 私の病棟でもたまたま、虫歯が原因で脳膿瘍になった人がいて、緊急手術になりました。

 脳はまだ手術と言う方法が取れます。それでも厳しいですけど……

 でも骨髄炎はそうはいきません。


 ホントに危なかったんですよゆきのさん!!


 そして、夜間救急で歯科をやっている病院はほぼないと言って良いでしょう。

 昼間は我慢できても、いざ寝ようと思ったら痛くて眠れない。でもやっている歯医者はない。

 救急外来にもよく電話はかかってきました。でもどうしようもないんです。歯科医師免許は普通の医師免許と違うので、当直の普通の医師免許の医師が診察すると法に触れるんですよ。獣医に診察しろって言ってるのと同じです。

 歯科は日中、かかりつけへ行きましょう!。


 現在推奨されているのは、年一回はかかりつけのは医者に行って検診&歯石を取ってもらいましょう、って感じでしょうか?

 職場の検診項目に入っている企業もあるはずです。


 そしてやっぱり日頃の歯磨きです。

 大事ですよね。

 

 歯医者さんの撮るパノラマレントゲン写真。

 私はレントゲン技師ではないので詳しい解説は出来ないのですが、風邪をひいた時に撮る胸部レントゲンはほとんど被曝の心配はないと思います。(CTは胸部レントゲンの100倍以上の被曝線量があるとか)。


 「めんどくさい」「時間が無い」「炬燵から出たくない」

 いろんな意見があるでしょうが、虫歯を放置しているといざ心臓の手術!ってなった時に、治療をする時間がなく全部引っこ抜かれますよ? 

 体調にもお財布にも余裕のある時に、是非歯医者さんへ行って下さいませ。


 そしてゆきのさん?

 ホントに本当に、もうネタの提供は十分ですからね!

 死なないように生きて下さいよ―!(切実)


(監修:朝樹さん)

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