高校1年生
1年生の春、軽音はじめました。
春、窓からの景色はまだ慣れない。でもどこにいても桜は相変わらず綺麗なんだなぁー、なんて思いながら桜以上に慣れない扉の前に立つ。
「ねぇ
そう尋ねてきたのは同じクラスの
「いや私が聞きたいよそれ」
「軽音部の部室が音楽室じゃないって意外だよね〜」
そう言ったのは
だって、
「ほんとにここ?」
明らかに倉庫。そうこの扉。そもそもここは本当に用事がない限りこないだろってくらい3階廊下の隅の隅の方だ。
頑丈に見える鉄の扉は意外と薄いのか、近づけば近づくほど中の音が漏れて放課後の人気のない廊下によく響いていた。
「でもドラムの音するから多分ここだよね…」
「ていうか、こんだけ音聞こえて違いますってことある?」
「…ねぇ、2人とも私の後ろに隠れないでくれませんか」
誘った2人よ、なぜ私の後ろに隠れるのか。
言っとくが私だって緊張している。
この扉の先は踏み込んだことの無い世界だ。
「えぇい!」
意を決して扉を開いた。
そして、一瞬で世界が変わった。
真新しい制服に、激しくて、眩しくて、ガムシャラで、キラキラ輝く音がぶつかった。
全てが一瞬。でもその一瞬が眩しくて。
あの眩しさだけは、今も忘れてないよ。
そこから先、先輩とどんな会話をしたか思い出せない。興奮したまま入部届けをカバンに押し込んで、次の日には提出してた。
こうして私は軽音部に入ったのだった。
.
「にしてもあんたが軽音部とはねー」
リビングでお菓子を食べながらママが言った。そりゃそうだろうな。
「てっきりダンス部だと思ってたのに」
そう思うのも当たり前、私の人生はダンス一筋だったから。
実は幼い頃からダンスを続けている。楽器を弾くより何倍もダンスの方が得意だし上手いという自信もある。だからこそだ。
「うちの高校、K-POPの完コピばっかで惹かれなかった」
そりゃあしかたないね、とママは笑った。
「でもなんでそれで軽音部にしたのさ」
「憧れだったから…」
そう、完全に憧れ。世は高校生バンドブーム。
と言っても大体アニメの影響だけど。
「んーまぁ本気でやるなら応援するわ」
「ありがとママ大好き」
「で?楽器何やるの」
「…多分ギター。本当はボーカルだけやりたい」
「なりバンドじゃなくて歌手になれや」
「そんなこと言わないでぇ〜」
笑いながら、未来は膨らむばかり。
あぁ、どんな生活が始まるのかなぁ!
.
.
.
「…そんな頃もあったなぁ」
1年の時の写真を見返して呟いた。
キラキラしてたな。この先何があるか、想像するだけで楽しかった。ときめいてた。
「そんなこと…無かったのにね」
少しだけ、泣きたくなった。
あ、もうすぐ幕が開く。
ステージが、
私のいないステージが、始まる。
ノイズ 結月 万葉 @mywld71
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