第8話 赤茶色の喪失
ユレイは店番をしながら後悔に喘いでいた。
昨日ライカとの別れ際、思わず吐いてしまった言葉。もしかしたらライカはもう忘れているかもしれないが、ユレイが自責の念を抱くには十分な内容だった。
ライカを見つけ、まだ思考が整理しきれていない状態で臨んだ。人と話し、自分で考えた結果を伝えた。
しかし、今ユレイは一つ重大なミスを認識している。
……俺、ライカのこと全然知らなかった!
ライカの両親や“師匠”のこと、そういったライカが抱えているものをまったく知ろうともせずに、ただ表面に見える信念にだけ反発し、自分の想いだけを一方的にぶつけた。その言葉が果たして通じるものだろうか。ましてや昨日今日に自分について考え始めたユレイだ。きっとライカはずっと、考えてきただろうに。
カウンターに腕で枕を作りながら塞ぎこむユレイ。しかし、
「うぃー、ユレーイ! って暗いな!」
「あン、おィおィバイトくーん! 店を暗くしてんじゃねェーよ! 女にでもフラれたか!」
バカ二人がハイテンションハイタッチを決めて爆笑している。
「……バカ店主とバカ冒険者、昼間から飲んでんなよ」
「はァ? 飲んでねェよ! どこに目ェついてンだ!」
「そうだそうだ!」
これで飲んでいないのだとしたら逆に心配になる。というかグルドはともかくギルベルトは確実に飲んでいる。酒臭い。
「ちょっといい品が手に入ってなァ、知り合いの道具屋が店畳むからって、格安で売ってくれたンだよ」
そう言うグルドは大きな箱をカウンター横に置いた。中からぶつかり合う音が聞こえる。どうやらアイテムがいくつか入っているらしい。
「よっしゃ! 早く中身みせろグルド!」
「うるせェ酔っぱらい! ちょっと待ってろこの野郎!」
うるさい。しかしユレイとて道具屋の端くれ。落ち込んでいたことは一旦置いておき箱の中身を見に行く。
「マジックアイテム?」
「おゥそうだ。普通に仕入れる半額以下だぞ。珍しいモンもある!」
箱の中にはマジックアイテムに相応しい色とりどりの品が入っていた。メガネ、御札、腕輪、人形、ランタン、コイン、ナイフ、懐中時計、秤、ペンなど形も多種多様だ。
……つーかこんなに乱雑に入れて大丈夫なのかよ。
マジックアイテムの中には勝手に発動するものもある。しかしグルドも道具屋。そのグルドがこの状態を許しているということは、そこまで危険な品はないのだろう。
店においてある白手袋を着けつつ、いくつか手に取ってみる。
マジックアイテムの作り方は大きく三種類だ。
一つ目は、
ユレイが手に取った朱色の腕輪は、起動語に反応して火球を飛ばせるアイテムらしい。手袋越しでもけっこうビリビリ来るので割と高位のマジックアイテムなのだろう。
二種類目は、モンスターから採れる素材を加工して作られたアイテム。それによってモンスターの性質に沿った効果を得られる。しかし素材採取は大変だ。動物型のモンスターであれば普通に素材を採取すればいいだけだが、それ以外のモンスターは討伐後自然消滅してしまう。そのためその素材を採るためには専門のアイテムを使って「魔素」を固定する必要がある。
この種のアイテムは、装備すれば効果が常時発動もしくは条件発動するものが多い。ギルベルトが持っている水色の首飾りは『ウンディーネのネックレス』。装備すれば水中でも呼吸ができる一品だ。しかし、
「ギルベルト、それ近づけるな……うっ」
吐き気がする。ユレイの体質はかなり高位のアイテムであれば近くにあるだけで影響が出る。
「おう悪い悪い。いやー難儀な体質だよな、しかし。あ、グルド、これ嫁さんへのプレゼントに貰っていいか?」
「道具屋としてはマジックアイテムのレベルを瞬時に判断できるっつー利点があるけどな。あと買え」
二人が値段の相談をし始める。
マジックアイテム作成法の三種類目は「呪い」によるものだ。呪いは治癒魔法に対応している属性の基本魔法だが、扱いを間違えると危険である。だから治癒魔法の使い手は教会で精神修行をして、呪いの力に寄らないよう訓練を受けるのだ。
「呪い」魔法にはいくつかの特徴があるが、中でも大きな特徴が「契約」だ。条件を指定し、その条件下において行動を縛ったりできる。この性質を利用することでもマジックアイテムが作成できるのだ。
この作成法は最近になって出てきたもので、まだ安全性などあまり確立されていない。そのため、今までグルドも取り扱っていなかったのだが、
「おい、グルドこれ……」
「お、気づいたか。呪いで作られたアイテムだ」
ユレイが指差したのは、いかにも禍々しい色合いの粉が入った透明の袋だ。
「ユレイ、それはどんな風に感じるんだよ、体質的に」
ギルベルトの問いに、
「なんか……気持ち悪い。吐き気とかじゃないけど、落ち着かないっていうか……」
「まあ見た目は最悪だしなー。グルド、どんな効果よ?」
「あァ、その粉は『魔素』を変質させるらしい」
……? 「魔素」を変質させる?
「それ、具体的にどうなるんだよ」
「カロルをモゥタスにしたり、ルクスをリテュスにしたりするンだと」
「なに? それ意味あんのかよ?」
「たぶん、魔法使う時不便になるんじゃないか? 『魔素』の構成とかが変わると」
「…………」
「…………」
魔法が使えない男三人。当然ながら「魔素」の制御をしたことがないため、具体的なイメージが湧かない。
「お、この指輪は娘に似合いそうだな!」
「いや、こっちの髪飾りをメイがつけたらモンスターどももイチコロだぜ!」
「…………」
すぐさま別の品に興味を移しだす大人二人。
……これ、一緒に不用品も押し付けられているんじゃ……?
●
店番を終え、今日のバイトは早めに切り上げになったユレイが一人家に向かっていた。グルドとギルベルトはマジックアイテムを整理していながら遊んでいる。明日起きたら店が吹き飛んでいた、という状況にならないことを祈っておく。
一人で歩いていると、頭の隅によけていたことを思い出す。昨日のことだ。
とはいえライカに直接聞いて教えてくれるものだろうか。いや気まずい。無理だ。しかしライカの知り合いなど知らない。というかいるのだろうか、あのライカにそのような人が。
「あ、ユレイ見っけ! 探したッスよ!」
ヒョイッという風にユレイの前に顔を見せるのはコルトだった。
「何? どうした?」
「いや、そろそろユレイが僕を必要とする頃かと思って!」
「うん? 別に運んでほしいものなんてないぞ」
「違うッスよ、運送のはなしじゃないッス」
それ以外にユレイがコルトを必要とすることがあるだろうか。先日は年下の少年に人生相談をしたユレイだったが、今は皆目見当がつかない。今ユレイが必要としているものあるとすればそれはライカの情報だが、
「何? 実はコルト、ライカの“師匠”だったりするの?」
「ちょっと何言ってるかわからないッスけど、ライカさんのことで正解ッス! 実は昨日ちょっと二人の雰囲気が最悪なの見えちゃって!」
「………………」
「いや、会話は聞こえていないッスよ? 遠かったし」
「で、どういうこと?」
「いや、覚えてないッスか?」
ユレイは数秒考えて、ある事実を思い出す。
……「22歳位の男性、薄汚れた黒い服を着ていてアゴには無精髭。すごく疲れた眼で、あと猫背ッス」
「拾ったのは“師匠”だったのか!」
「だから何言ってるかわからないッス」
●
A級冒険者。
それは優れた冒険者に与えられる称号だが、実は別の側面もある。明らかに優秀であるにもかかわらず、この称号を得ていない凄腕もいるのだ。逆にA級冒険者に共通する性質がある。その性質をもって、ギルド職員たちは時々、A級冒険者たちを別の呼称で呼ぶ。
“問題児”。
「だから、お守りをつける必要があるってわけでね……もちろん貴重な戦力を損ないたくないという考えもあるんだろうけど……まあ理に適ってるよね……A級冒険者レベルなんて訓練すれば育てられるものでもないし……でもその煽りを食らうのを実際に担当になってしまった職員というか……別に給料がもっと欲しいってわけじゃないんだよ……たださ……休みが……足りていないよねっていうね……」
コルトの家に案内されたユレイの目前には、疲れきった様子の男性がいる。黒い装束を纏った男。二十二歳だというが、見た目はもっと老けて見える。フードを深く被って、猫背でこちらをジトッと見てくる。まさにライカとは真逆と言えそうな存在だが、
「この人がライカの専門ギルド職員?」
「そうッス。ジスさんッスよ」
彼、ジスはライカの担当として派遣されているギルド職員らしい。A級冒険者にはそれぞれ担当がつき、クエストの管理や行動の監視をしているらしい。ジスがいるからライカはあまりギルドに行かなくてもいいのだ。
「じゃあ昨日のやり取りとかも……」
「あ、それは見てないと思うッス」
「……多忙なんだよ……ただでさえ彼女はあまり報告をしてくれないから……周りの状況や冒険者たちから情報を得て……しかも彼女は相当アクティブだし……そもそも僕と彼女で話があうと思うかい?……もうなんで僕が選ばれんだろうね……」
ジスは基本的には無口というか喋ることにすらカロリーを使いたくないようだが、一度口を開くとブツブツしながらも連続して喋りだす。ちょっと今までに会ったことのないタイプだった。
「で、なんでジス……さんはコルトの所にいるんだ?」
「財布を落としたらしいッス。今一文無しッスよ」
「…………。いやそれこそ、ギルドに頼ればいいんじゃ?」
「嫌らしいッス」
「なんで?」
「ギルドが嫌いらしいッス」
「……なんでギルド職員に?」
「……ラクできると思ったんだよ……叔母はいつもカウンターで喋ってるだけだったし……田舎の小さいギルドで……でも職員試験に受かって都市で研修して……修了してやっと帰れると思ったら……彼女の担当にされてしまったんだ……それからは不遇の日々さ……」
ジスがさらにその陰を濃くする。
「でもジスさん優秀らしいッスよ。ギルドの人たちに聞いたッス」
「へえ、まあいきなり重要な職に抜擢されるってすごいよな」
「どこに放り込まれてもなんだかんだ生き延びるとかで」
「…………。なんというか、大変なんだな、ジスさん……」
あのライカの担当職員だ。今の十倍の給料を出すと言われても引き受けたくないとユレイは思う。絶対ストレスたまる。しかしライカと一緒にいてストレスがたまらない人種にはその役割が果たせないようにも思う。そう考えると、ジスのような人は必要で、
……生贄か。
そういうことだ。豊作祈願に村娘を捧げるノリなのだろう、たぶん。
「で、コルト。結局なんで俺を連れてきたの?」
「だからライカさんのことッスよ! 本人のことを本人以外に聞くのはあんまりよくないかもですけど……ライカさんだし」
ユレイはライカに感心する。コルトはかなり人懐っこく、また相手を尊重するいいヤツだ。そのコルトにこの言われようである。さすがA級冒険者ということか。
「……うん……コルト君にはお世話になっているし……何でも話すよ……A級冒険者に認定する前にギルドが調査した資料を覚えさせられたからね……本当はあまり話してはダメなんだけど……フフ……これが僕の反抗だよ……あの傍若無人と……クソったれのギルドに対するね……」
ユレイはジスに礼を言いつつ、あまり関わらないようにしようと心に決めた。
●
それは赤茶色のA級冒険者が誕生するまでの物語である。
ライカ・ユーストフィリアは、国の南方にある小さな地域を治める貴族の一人娘として生まれた。
ユーストフィリア家は、その規模も権力も小さなものであったが、地域住民には慕われ、使用人たちとの仲も良いおよそ理想的な貴族だった。
家長であるルクス・ユーストフィリアは典型的なお人好しであり、芸術を愛する教養人だ。妻のレイナも家柄を考えた、いわば政略結婚であったが、その夫婦仲は誰もが羨むものとなっていた。
その間に生まれた娘・ライカが深い愛情を受けて育てられたのは想像に難くない。ライカは父の優しさと教養、母親の気品を合わせ持ち、絵と花と音楽を愛する可憐な少女として育っていった。なお、南方貴族の基礎教養でも在る剣術に関しても才能を持ち、ルクスや使用人達を驚かせたものだ。
ライカは幸せだった。
別に国でも有数の裕福な貴族家庭というわけではない。望めば何でも手に入る環境というわけでもない。
しかし、ライカの幸せはそこにあったし、最初からあった。彼女にとっての幸いはすべて、そこにあったのだ。
日が昇れば父と学び、庭で遊び、住民たちと笑い合い、夜になれば母の、大好きな長い赤茶色の髪に包まれて眠りにつく。
だから、だろうか。
幸せというものが、続かないものだとするのなら。
彼女はこれから幸いを失っていくしかなかったのかもしれない。
始まりは、中央の派閥争いであった。本来地方貴族であるルクスには何の関係もない争いであったが、伯父に頼まれ、中央に向かった。彼は断ることができない人間だったのだ。向かった先でどのようなことがあったのか。権謀術数の末、ルクスに与えられた役割は、とある討伐隊の指揮官だった。
任務地は、とても危険な場所。ルクスは最低限の剣術を修めてこそいるが、根本的に戦いに向かない性格であった。レイナもライカもルクスを止めたが、
「必ず戻ってくるよ――」
その言葉を信じ、愛する夫、そして父を送り出した。
――三ヶ月後、帰ってきたのはルクスの訃報を告げる兵士であった。
レイナはショックで体調を崩し、ベッドから動くことも難しい状態となる。それでも母娘は幸いを続けようとした。地域住民や使用人、レイナの実家の支援もあり、なんとか領地は守られ続けた。しかしそれも長くは続かない。
レイナにとって、愛する夫の喪失は耐えられるものではなかった。幻覚を見るようになり、それから間もなく彼女もこの世を去る。
残った一人娘を、またも危機が襲う。
その地域には別の貴族が赴任するが、その貴族は大きな盗賊団の恨みを買っていた。
――起こったのは悲劇。大虐殺。
まだその地域に使用人と共にいた、ライカはその虐殺を目の当たりにした。貴族は殺され、土地は焼かれ、住民たちもまた多くの血を流した。
ライカを助けたのは流浪の冒険者。
その後“師匠”と呼ばれることになるその男はライカを助け、盗賊団は王都から派遣された騎士団によって討伐されることになる。“師匠”はライカを騎士団に預け、王都に届けてもらおうとするが、少女はそれを激しく拒否。ライカにとって、中央の人々は優しかった父を死地に追いやった憎むべき人々だ。結局、“師匠”がライカを引き取ることになる。
“師匠”はライカに冒険者として生きる術を叩き込んだ。ライカには才能があったし、剣術に関しては元々習っていた。さらに魔法の才能も開花させ、すぐに“師匠”を追い抜く。それでも“師匠”の知識と観察と経験から導かれる推論には毎度驚かされた。
ライカは大人しかった貴族の娘から一転、活発な少女冒険者となっていく。“師匠”と共に多くの冒険をした。
いつしか、少女の顔には笑顔が戻っていた。
――この世に神がいるとすれば、その神は大の悲劇好きなのだろう。
彼女は三度、大切な人を失うことになる。
それはある山にいるモンスターを討伐するクエストであった。“師匠”とライカならばクリア可能な、そのはずのクエストだった。モンスターには「魔素」のみから形成されるタイプと、「魔素」を動物が吸うことでモンスターに変化するタイプがある。そして稀に人間が「魔素」を過剰摂取することでモンスターとなる場合がある。
その山に巣食っていたのは、その稀なケースだった。女冒険者が魔獣に捕まり、その果てに生まれてしまったモンスター。邪悪なオーラを放ったその美しいモンスターは強力だった。それでも勝てるはずだった。
それぞれがソロとして相当の実力を持つライカと“師匠”。その連携でモンスターを追い詰め、とどめを刺せるとなった瞬間、黒い髪で覆われていたモンスターの素顔が明らかになる。
“師匠”の元仲間だった。元仲間であり、失われたはずの恋人であった。
その自我はもうないはずだ。殺してやるべきだったのだ。愛しているのなら、その手で殺すべきだった。
ライカが聞いたのは、“師匠”の剣が地面に落ちる音。見えたのは“師匠”がこちらを向き、動かす口。
「すまない」と――。
モンスターを討伐し、男の亡骸を背負い帰ってきた少女の姿を、迎えた人々は今も鮮明に覚えているという。
報告をし、男を埋葬し、去っていくその瞬間を、人々は見ていた。
――赤茶色。
鮮烈な存在感を放つ赤茶色の冒険者を見ながら、人々は涙を堪えていた。
これから少女が歩む悲壮な道を予感したのだろうか、少女の失ったものを感じたのだろうか。
しかして、赤茶色の冒険者は誕生した。
独りになった彼女が最初にしたのは、かつてルクスが向かった場所。未だにそのモンスターは討伐されていなかった。少女はクエストも受注せずにそこにふらっと現れる。
討伐した。
父はそのモンスターではなく眷属に殺されたらしいが、しかしそれがどうでも良くなるくらい、あっけなく終わった。
その討伐後、国とギルドはライカを呼び出し、A級冒険者の称号を与えることになる。
最年少のA級冒険者は戦い続けた。A級冒険者の中にはクエストを積極的に受けたがらない者も多いが、彼女は数多くのクエストを達成していった。足りない何かを埋めるように、しかし何も得ることはなく。彼女は戦い続けたのだ。
●
「……彼女の信念は僕も知っています……彼女はきっと恨んでいるのでしょう……彼女に喪失を押し付けたものだけでなく……失われていった人々のことも……だって……彼女の父は依頼を断って妻と娘と生き続けるべきだった……母は失われた父ではなく娘を見て、生き続けるべきだった……“師匠”はかつての恋人を斬り、弟子と生き続けるべきだった……結局のところ、彼女は選ばれなかったのだと……そう思っているのです……」
“思い出”は変わると、ライカは言った。
それが幸いであればあるほど、失われたときに得る哀しみは大きなものになる。そして、その幸いを守ってくれなかった相手に、負の感情を覚えてしまう。おそらく、その幸いを守れるほどの力を持つ彼女だからこそ、彼らの選択を強烈に、思ってしまうのだ。
そして同時に、ユレイは理解していた。
自分とライカとの違いを。
どちらも、大切な人を失った。一人になった。ユレイはそれでも助けられ、流されるように生きてきた。たったの一度も決断をすることなく、その生を享受してきた。
でもライカは違う。中央に行くのではなく、冒険者として生きることを選んだ。父の敵を討つことを選んだ。戦い続けることを選んだ。ライカは自分の足で立ち、選び続けてきたのだ。
……「止まっていたあなたにはわからない」、か……。
進み続けた彼女には何がわかったのだろうか。彼女にとってユレイはどう見えていたのだろうか。
ユレイは告げる。かつて彼女に言われたことを、自分に向かってもう一度続ける。
「きっと、止まっていた俺には、わからないよ」
ユレイはその日、その瞬間、ライカという赤茶色の少女を理解することを、諦めた。
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