Case3 営業
午後から新製品の売り込み六社。【直帰(営業先から会社には戻らず、直接帰宅すること)】と書いてきたから、ゆっくり回れると思っていた。ところが、行った先々で「同じ社の別の営業の対応が悪い」と、とばっちりを受けてしまい、謝罪ばかりで売り込みも出来なかった。最後の一社を残し、このまま帰ろうかと考えながら、ファミレスのコーヒーを飲んでいた。
何気なく外を見ると、個TELで話しながら歩く女子高生がいた。
「ながらTEL」は、違反になったのではなかったっけか。高校生かぁ。あの頃は良かったなぁ。でも戻りたいか?
ここのところ慌ただしく過ごしていて、会社のTELばかりに気がいっていたせいだ。
見るとメールが何十件も送られてきていた。
その中に【不幸なあなたへ】という件名があったので、自分の気持ちに呼応してると思い、開かずに中味が少しだけ見えるようにTELを
すると【不幸が続くあなたへ送ります。こちらへ】と案内サイトの一部が見えた。
迷惑メールなので開くコトはしないが、自分の今の状況を考えると思わず苦笑してしまった。
続けて他の件名を見ると、今度は【幸運なあなたへ】とある。アドレスを見ると、この内容の送信元はどうやら同じところみたいだ。《幸運》と《不幸》がセットで八件ばかり。
人の気分を下げたり上げたり、一体何が言いたいのだろう。
「次は」
思わず言葉が出てしまった。
【件名 キラリン45のメグでーす❤】
はあ? 誰だ?
俺はとんとアイドルに
【件名 メグのマネージャーです】
マネージャー? マネージャーなら、しっかりしろよ!
【件名 キラキラ48のハルでーす!】
キラリン? キラキラ? どうちがうんだ?
【件名 みんなにはナイショ❤サヨコだよぉ】
やけに馴れ馴れしい。お前、誰だよ?
一向に判らない。
次に見ていると、
【件名 友人登録をしました】
はぁ? 誰だ? Facebookか? Twitterか? イヤ、インスタグラム?
いやいや、どこもきちんと管理されている。 されている
【件名 登録ID を変更しました】
お前も誰だ?
よく見ると五件あった。
誰だよ? 名を名乗れ!
更に目を通す。
【件名 着信アリ】
ホラー映画デスカ? これは怖い!
関わらないほうがいい。うんうん。
自分に
最後に目についたのは、
【おめでとうございます! ひとみ様が八百五十万円で落札されました。ついては、お振込み先をご案内願い…。】
ほえ? 俺はいつ売られたんだぁ!
【おめでとうございます! ひとみ様が六百四十万円で落札されました。】
八掛けかよ! 二割も値引きしやがって!
【おめでとうございます! ひとみ様が四百万円で落札されました。】
半額以下ぁ?
【おめでとうございます! ひとみ様が八十万円で落札されました。】
とうとう一割かい? 90%OFFのバーゲンセールじゃないぞ!
俺の名は「仁実」と書いて「ひとみ」と読む。しかし、どこで名前を仕入れてきたんだ? 考えること十五分、お袋だと気が付いた。
昔から懸賞応募に俺の名前を使っていたが、アドレスまで書いたのか?
悪質な迷惑メールばかりだが、これだけいろんな手で来ると、笑えるものが多く、一人でツッコミを入れては笑った。笑っていた。笑わせてもらった。
気が付くと、あんなに余裕の無かった気持ちにゆとりが生まれていた。
外はまだ明るい。
俺は、迷惑メールのドメインをTELメーカーに報告し、二度と受信しないように操作してから、請求書の紙を握りレジへ向かった。
最後の一社を回る為に。
終わり
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