第19話 冒険者パーティー「黒い牙」

《 「単独ボッチプレイ」の何が悪いィィィィッ!! 》


有名声優のナレーションが全世界・・・に流れ、夜空に盛大な花火が打ち上がる。剣やロッドを天に掲げ、全員が雄叫びをあげる。DODの年間イベントの中で、最も盛り上がる「祭り」の始まりであった。


《 さぁ、今年も始まったぞ! 年に一度のお祭りだ! いまリアルでは、お洒落なレストランでワイングラスを片手に談笑するカップル、銀座や表参道のイルミネーションの下を、腕を組んで歩きながら「寒いねぇ~」なんて言って寄り添いあうカップル、渋谷や新宿のラブホテルで、キャッキャウフフな一時を過ごしているカップルたちで溢れてる! そんな「聖なる夜クリスマスイブ」にDODにログインしているみんな! 盛大に叫ぼうっ! 三・ニ・一 》


「「「リア充爆発しろォォォォォッ!」」」


 この日だけは、秩序側オーダー混沌側カオスは停戦状態だ。課金アバターの「血涙」をわざわざ買って感情表現するプレイヤーまでいる。左右を見て、自分の知り合いがインしていないか確認する。互いに確認が取れたら喜び合い、確認が取れない場合は「個別メッセージ」まで使って呼ぶ。


《 そんな聖なる夜だから、運営から素敵なプレゼントだ! なんと今夜二〇時から二四時間、ガチャのレア出現率も、ダンジョン内のレアドロップ率も三倍だぁっ! 》


「いいぞ運営~~!!」


「最初っからそうしろぉぉ!」


「アイツ、ログインしてねぇぞっ! PKだっ! PKしてやるぅぅっ!」


《 なに? キャッキャウフフの後にログインするリア充野郎がいるかも? 安心したまえ! 今夜二〇時から四時間以内にログインしないプレイヤーは、明日の二〇時までGM権限で強制排除! ログインさせない! 今夜のプレゼントは、今ここにいる君たちだけのものだぁぁぁっ! 》


「「「うぉぉぉぉっ!!」」」


《 なに? カップルでDODにログインしてイチャイチャする不届き者もいる? 安心したまえ! 今夜のDODは特別仕様「アンタッチャブル・モード」! これから二四時間、異性アバターとの接触は厳禁! パーティープレイやPKどころか、会話も手繋ぎも出来ない! カップルでインしたところで「あんなことやこんなこと」は無論、話しかけることすら許されない! そう、今夜は年に一度の「単独ボッチプレイ」の夜なのだぁぁぁっ!! 》


「「「単独ボッチ言うなぁぁぁっ!!!」」」


 うっううっ…… どうせ、どうせ俺は、今年も来年も…… 啜り泣きと共に、そんな声がそこかしこから聞こえてくる。ギリギリになっても知人がログインしていないため、フレンド登録を取り消して「爆ぜろ!」と喚く奴もいる。


《 さぁ! 聖なる夜に集いし「クリぼっちツワモノ」たちよ! 君たちにはダンジョンがある! あと五分、二〇時ちょうどからタイムアタックも開始されるぞ! 各プレイヤーのレベルに応じてダンジョンが割り振られ、二四時間でどこまで単独ボッチ攻略できるかを競い合うターイムアタァック! 優勝者には、そのダンジョンで出現する最もレアな素材が与えられる! ちなみに「Lv999スリーナイン」だったら超絶レアアイテム「全能神の神骨」だぁっ!! 間もなく始まるぞ! みんな、ダンジョン前に集まれぇぇぇっ!! 》




 帝国全土に名が知られるオリハルコン級パーティー「紅の騎士団」は、単一のパーティーではなく「クラン」である。幹部は、皇立騎士学校を卒業した貴族の三男以下や非嫡出子によって固められているが、その資金力によって幾つかの冒険者パーティーも囲っている。彼らは、ダンジョンの下調べや素材回収の支援などが主な役割だが、クランの方針に逆らわない限り、ギルドの任務を独自で請け負うなど自由な活動が許されている。


「チッ…… シュナイダーの野郎、待たせやがって」


 黒髪の男が舌打ちした。色白で一見すると優男だが、蒼い瞳が放つ眼光は鋭く、その肉体は鍛え抜かれている。脚を組んで椅子に腰かけ、温くなった茶を啜った。

 ミスリル級冒険者パーティー「黒い牙ブラックファング」のリーダー、ミュラー・カウフマンとその仲間たちは、クランの本部の一室で待たされていた。


リーダー:ミュラー・カウフマン

前衛:バルドス・ヴァルクホルン

斥候:リタ・スヴァーニャ

後衛:ロベルタ・カウフマン

ポーター:ゾルタン・リッケン


 彼らは紅の騎士団に囲われている冒険者パーティーだが、単独でも二つの迷宮を討伐しており、その実力はオリハルコン級とも言われている。特にリーダーであるミュラーの戦闘力は桁外れで、その黒髪とあいまって「英雄王の血筋」と囁かれるほどであった。


「待たせたな。よく来てくれた」


 扉が叩かれ、男が入ってきた。紅の騎士団団長 アルフレッド・シュナイダーと副団長のエンリケ・イグレシアである。黒い牙ブラックファングのメンバーのうち四人は立ち上がったが、ミュラーは脚を組んだままであった。


「遅いぞ…… 糞でもしてたのか?」


 ミュラーの嫌味を無視して、アルフレッドとエンリケは椅子に腰かけた。


「遅くなって申し訳ない。まずは座ってくれ」


 アルフレッドに促され、他のメンバーも着席する。全員を一瞥して、アルフレッドが話し始めた。


「本日、皇帝陛下より一人の冒険者に勅命が下った。帝都の東の迷宮を単身で討伐せよ、との内容だ」


「えっ? 帝都の東って、確か……」


 アルフレッドは、声をあげたリタに顔を向けて頷いた。


「そうだ。我々、紅の騎士団が討伐に動いている迷宮だ。これまでよりも魔物が強く苦戦しているが、それでも第十八層まで進んでいる。だが今回の陛下の勅命により、迷宮から撤退せよとの指示がギルドから来た」


「撤退…… であるか。それはさぞ、無念であろうな」


 バルドスが野太い声で頷いた。一方、ゾルタンは肩を竦めた。


「まぁ陛下の勅命ってんなら、仕方ねぇんじゃね? それより単身で討伐しろって…… その冒険者、陛下から恨みでも買ったのかよ?」


 不敬にも近い言葉を軽薄な口調で喋ったため、エンリケは咳ばらいをした。


「話が見えねぇな。で、俺たちは何で呼ばれたんだ? こっちは折角の休みを台無しにされたんだ。まさか状況説明だけって訳じゃねぇよな?」


 ミュラーが鋭い目を細めた。瞳が小さめで、白目の部分が多いその眼で睨まれると、大抵の男は萎縮する。アルフレッドは机に手を組んで頷いた。


「勿論だ。先ほどの話だが、幸いなことにギルドから騎士団への正式な指示はまだ来ていない。そこで、先手を打っておきたい。君たちには、我々と一緒に東の迷宮に向かってもらいたい」


 アルフレッドが何を狙いとしているのか、その場の全員が理解した。ロベルタは沈黙しているが、リタは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。


「つまり、邪魔したいってことでしょ? アタイは反対だね。みっともない」


「リタに一票。俺も反対だね。だいたい、一人で討伐に向かうソイツの身にもなってみろよ。勅命で自殺しに行ったら先客がいて待たされ、その間ずっと死の恐怖と向き合わされる。いい趣味とは言えないな」


 ゾルタンの意見にバルドスも頷いた。だが副団長のエンリケが口を開いた。


「ゾルタンの意見には、私も同意だ。それが、普通の冒険者だったらね」


 そう言って、ミュラーに紙を差し出した。ミュラーは一瞥して、特に興味なさそうに仲間たちに回した。「はぁ? なにコレ?」 とリタが叫ぶ。


「その冒険者の名は、ヴァイスハイト・シュヴァイツァー。つい先日、ウィンターデンとリューンベルクのギルド長及び六色聖剣の推薦で、真純金オリハルコン級冒険者となった。パーティーではなく、単身ソロの冒険者だ。あまりに異例のため、ギルド本部では緘口令が敷かれている。今回、単身で迷宮を討伐した暁には、ギルド本部から各支部に正式に通達される。もっとも、ウィンターデンでは既に話題となっているようだがな」


「そこに書かれているのは、彼のこれまでの実績だよ。まだ調査中のものもあるけど、判っているだけでも桁外れた強さを持つ冒険者のようだね。先ほどのゾルタンの話だけど、皇帝陛下は恨みで勅命を下したんじゃない。本当に、たった一人で迷宮を討伐できると期待して勅命を下されたんだ」


 団長と副団長の説明に、黒い牙ブラックファングの全員が沈黙した。ミュラーはコツコツと指で机を叩くと、特に面白くも無さそうにアルフレッドに問いかけた。


「で、俺らに何をしろってんだ? コイツを殺せってのならお断りだ。迷宮にも潜らねぇぞ。結局のところ、他人の足を引っ張るってのは変わらねぇんだからな」


単身ソロ真純金オリハルコン級冒険者…… そのような世迷言、紅の騎士団としては認めるわけにはいかん。迷宮の単独討伐など出来るわけもないが、念のための処置だ。それはこちらでやる。その間、君たちには地上の護衛をしてもらいたい」


「ほう? 殺し合いでも始まるのか?」


「相手次第だ…… このシュヴァイツァーだけでなく、六色聖剣まで来るそうだ。こちらも相応に準備をしておきたい」


 ミュラーは少し考え、仕方なさそうに頷いた。





 皇帝と謁見した夜、ヴァイスと六色聖剣は、帝都でも最上級の宿に泊まっていた。一般的な安宿とは造りが違う。高級貴族の寝室のような豪華さであった。

 部屋に入ったヴァイスは、愛用の剣をアイテムボックスに収めると、二振りの刀を取り出した。日本刀でいう「小太刀」である。


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装備名:最上大業物「風神」

種類:小太刀

装備Lv:999

装備ランク:赤

攻撃力:+480

効果:力上昇(大)

   速度上昇(極大)

   スキル発動速度上昇

※「雷神」との相乗効果

製作者:Conrad Solingen

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装備名:最上大業物「雷神」

種類:小太刀

装備Lv:999

装備ランク:赤

攻撃力:+480

効果:魔力上昇(大)

   速度上昇(極大)

   魔法発動速度上昇

※「風神」との相乗効果

製作者:Conrad Solingen

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 DODのイベント「タイムアタック」の為に自ら製作した装備である。速度に特化した装備で、両手に持った小太刀を宙に放り投げ、その間に魔法を打てるように、発動速度を上昇させる特殊効果を組み込んである。これにより、常時発動パッシブスキルである二刀流を使いながらも、魔法攻撃ができる。


Lv999スリーナインがあるとも思えんが、念のためタイムアタック仕様でいくか。あとは……」


 ゾディアックなどの強力な魔物が出現した場合を考えた。だがすぐに止めた。「身体強化ブースト」と「補正コレクト」を使えば、苦戦はしないだろう。これはゲームではない。一度は相手の土俵に付き合ったが、二度は無い。次に戦う時は、容赦なく最初から本気を出すつもりでいた。

 扉が叩かれた。開くとそこには金髪の美しい美女が、顔を朱にして立っていた。


「明日は早いんだぞ?」


 そう言いながらも、ヴァイスはその手を取って部屋に招き入れた。





 翌日の朝一番に、帝都レオグラードの冒険者ギルド本部に顔を出す。受付嬢も緊張しているようだ。自分の名を名乗り、ギルドカードを示す。皇帝アレクサンドル・F・ゴールドシュタインの指名により、ヴァイスハイト・シュヴァイツァーに帝都東方のダンジョンの討伐が正式に依頼される。「可能な限り最短で討伐せよ」との依頼であった。ギルドを出ると、帝国騎士団長のヨブフリードと副長のエリザベートの二人が立っていた。さらに騎士団たちが整列している。


「陛下の命を受け、シュヴァイツァー殿の討伐を支援します。ダンジョン内にはお一人で入っていただきますが、道中の警護ならびに地上でのキャンプを手伝います」


「有り難い…… と言いたいところだが、そんな必要はないと思うがな。まぁお目付けの役目、ご苦労様……」


 騎士団長の肩をポンと叩いて、ヴァイスは馬に乗った。手伝いというのは口実で、自分が逃げないようにする為の見張り役である。無論、逃げるつもりなど無い。騎士団に前後を挟まれる形で、ヴァイスと六色聖剣は、馬を東へと進めた。

 途中で休憩を挟みながら進む。昼を過ぎ、太陽が西に傾くころには問題の迷宮が見えてきた。すでにテントなどが張られていた。ヴァイスは馬を止め、ヨブフリードに笑いかけた。


「へぇ、手回しが良いな。昨日のうちに、先遣隊を出していたのか?」


「いや、そんなはずは……」


「待って。あの旗は『紅の騎士団』の旗よ。なんで彼らが?」


 レイナが訝しんだ。馬を進めると、何人かが立ち上がって離れていく。やがて甲冑姿の男が姿を見せた。その後ろに、冒険者らしき男たちがゾロゾロと並んだ。





「へぇ。六色聖剣のみならず、帝国騎士団まで一緒だよ。陛下はそれだけ、シュヴァイツァーって奴を気に入ったんだな」


 近づいてくる騎馬隊を見て、ゾルタンが声をあげた。貴族出身の冒険者たちが剣呑な雰囲気で立ち上がる。ミュラーは冷めた眼で六色聖剣を見て、そして赤茶髪の男に視線を向けた。


「兄さん……」


「あぁ」


 妹のロベルタから声を掛けられ、ミュラーは微かに頷くと立ち上がった。


「悪いが、俺たちは降ろさせてもらう。戦うんなら、お前らだけでやるんだな」


「なにっ! カウフマンッ 貴様……」


 騎士団の幹部たちが騒めく。だが「黒い牙ブラックファング」の他のメンバーたちも荷物を持ち始めた。


「悪いけど、隊長の言う通りにするわ。ありゃヤバイ。早く逃げろって、アタイの勘がガンガン警報鳴らしてる。アンタたちもそうしたほうがいいよ?」


 リタは自分の荷物を抱えて、隠れるようにそそくさとその場を離れていった。怒鳴って引き留めようとした時には、既に騎馬隊が近づいていた。





「私はアルフレッド・シュナイダー、真純金オリハルコン級パーティー 紅の騎士団の三代目団長である! 貴殿らの名を聞こう!」


 帝国騎士団や六色聖剣たちが颯爽と馬を下りる。一方、ヴァイスは馬の首にしがみついてヨタヨタとしていた。挙句、落ちるようにドシャッと尻もちをつく。「なんだよアレ」という失笑の声が、騎士団の中から漏れる。

 見苦しい姿を見せたヴァイスは、特に気にする様子もなく尻を叩いて、アルフレッドの前に立った。六色聖剣もそれに倣う。アルフレッドの背丈は、ヴァイスより若干高かった。


「俺の名は、ヴァイスハイト・シュヴァイツァー。冒険者だ。依頼を受けて、このダンジョンを攻略しに来た。よろしく」


「私はオリハルコン級パーティー六色聖剣のリーダー、レイナ・ブレーヘンよ」


「同じく、六色聖剣の副リーダー、グラディス・ワーゲンハイムだ」


 全員が名乗り終えると、帝国騎士団副長のエリザベートがアルフレッドに文句を言った。金髪縦ロールで気の強そうな瞳をした顔が険しい。


「このダンジョンは、陛下の御意によりシュヴァイツァー殿が単独で討伐することになっています。昨日の時点で、あなた方にも連絡が届いているはずです。ここで何をしているのですか?」


「あぁ、確かに届いている。だが少し行き違いがあってな。すでに何人かが潜っているのだ。いま呼び戻そうとしているのだが、何しろ迷宮だからな。何日かかるか……」


「貴様…… わざと」


「最低……」


 グラディスが怒りの表情を浮かべ、その後ろでミレーユが小さく呟いた。だがヴァイスにとってはそんなことはどうでも良かった。


「関係ない。さっさと潜らせてもらう」


「待って。皇帝陛下は、ヴァイスの単独討伐を希望されているのよ? もし討伐したとしても、彼らが『自分たちも手を貸した』と言ったらどうするの?」


「あぁ、なるほどな」


 レイナにそう止められ、ヴァイスは目の前の男に顔を向けた。ニヤリと笑った。後ろの男たちも、嘲るような笑みを浮かべている。それが気に入らなかった。ポリポリと首を掻いたヴァイスは、強硬手段を取ることに決めた。


「レイナの話は『先に潜っている奴が生きて戻ったら』ということが前提だろ? 迷宮内は何が起きるかわからない。俺が潜ったら、すでに死んでいた…… ということだって十分にあり得るわけだ。死人は 『自分たちも手を貸した』なんて言えないからな。さて、さっさと潜らせてもらう。帝国騎士団の皆は、俺以外は潜らないよう、周辺を封鎖してくれ。すでに潜ってる奴は気にしなくていい。どうせ俺以外は戻ってこない」


「待てっ! 貴様、騎士団の仲間を手に掛けるつもりか!」


 アルフレッドが剣に手を伸ばした。その仕草に六色聖剣たちが反応して応戦の体制を取った。一方、ヴァイスは懐から奇妙な形をした眼鏡を取り出すと、顔に装着した。殺し合い寸前という緊張感などまるでない。魔眼イビルアイで目の前の男を観て、そして後ろの男たちを観た。


「……ザコばかりだな。せいぜいアウグストやトマスと同等の奴が数人か…… ん?」


 離れた場所に立っていた一人の男に目を向けた。黒髪で背はそれほど高くないが、冷静に観察するような視線を向けている。五十メートルほど離れているため、魔眼の範囲外であった。


「まぁまぁまぁ……」


 男か女か判らない中性的な男(仮)が宥めるように両手を挙げて出てきた。


「どうやら、ちょっと手違いがあったみたいで、ゴメンなさい。こちらはすぐに撤退しますから、どうかここは、抑えてもらえませんか?」


「エンリケ…… 何を」


(確認役は、ギルドの職員だと思っていた。帝国騎士団まで出てきたのは計算外だよ。これ以上ゴネたら、厄介なことになるよ)


 紅の騎士団のメンバーの多くは貴族の子女である。帝国騎士団を敵に回せば、親たちにまで迷惑がいく。最悪、取り潰しの危険まであった。アルフレッドは一瞬瞑目し、姿勢を正した。


「わかった。団員たちを引き揚げさせる。だが少し、時間を貰いたい」


「三十分だ。その間に呼び戻せ。どうせ地下一階あたりで待機してるんだろ? 三十分後には動き出す。早くしろ」


 アルフレッドは苦虫を噛み潰したような顔をして、後ろに待機している部下に指示を出した。二人が慌てて、ダンジョンに入っていく。ヴァイスはアイテムボックスからストップウォッチを取り出した。ピッピッと音がする。レイナたちは馴れているので、ヴァイスを無視してキャンプの設営を始めた。アルフレッドが悔しそうに、ヴァイスの背中に吐き捨てる。


「単独でダンジョン攻略だと? そんなことが出来ると思ってるのか!」


「さぁな。やってみるだけさ。俺のことより、自分のことを考えろ。他人の足を引っ張る暇があるのなら、少しでも強くなる努力をしろ』


 およそ二十五分後、ダンジョンから七名が出てきた。


「これで全員だな?」


「あぁ、全員だ!」


 アルフレッドに念押しし、ヴァイスは頷いた。


「さて、では帝国騎士団ならびにオリハルコンランクの諸君。これより、ヴァイスハイト・シュヴァイツァーが単独でこのダンジョンを攻略します。皆さま全員が証人です。宜しいですね?」


 帝国騎士団および六色聖剣が頷く。ヴァイスの仰々しい態度に、アルフレッドたちは悔しそうに顔を背けていた。ヴァイスは一礼し、ダンジョンの入り口に向かった。腰に刺した二本の小太刀はまだ抜いていない。顔に魔眼を装着し、聞こえない程の小声で呟く。


(スキル装填「身体強化」「補正」……)


「では行ってくる。タイムアタックの開始だっ!」


 左腕に着けたストップウォッチのボタンを押す。ピッという音が鳴った時には、ヴァイスの姿はすでに消えていた。

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