第14話 モンスター・パレード

「それにしても、いつになったらウォッカさんから一本取れるのかなぁ~」


 黒髪の男が硬い地面に仰向けで大の字になっている。模擬戦で完敗したNEOの弱音に、爽快ウォッカは苦笑した。ゲームDOD内に秩序が形成されてからというもの、皆が退屈しているのか毎日のように闘技場で誰かと手合わせをしている。Lv999プレイヤーの中には、格闘戦や魔法戦という限定したフィールドで、ウォッカに勝った者もいる。だがNEOとは剣と魔法を駆使する「総合戦」で戦っている。NEOは無課金者の中で最も戦闘力が高いが、重課金者にしてゲーム内最強の爽快ウォッカと総合戦をして勝てるはずが無かった。


「NEOも相当に強くなってるぞ? それに何度も言ってるが……」


「VRMMOにおいて、ステータスは絶対ではない。剣術や体術などの研究や経験といった『見えないステータス』こそが闘いを左右する…… でしょ? いやいや可怪しいでしょ。大学生の僕よりも社会人のウォッカさんのほうが勉強してるなんて」


「ハハハッ…… そこはまぁ、年功と課金の違いだな。能動アクティブ常時パッシブ共に、スキル枠を最大に拡張してるしな」

 

補正コレクトでしょ? 地味に効くんスよねぇ、ソレ……」


 差し出された手を握り、NEOは起き上がった。


「そうだ。ウォッカさん、新しい迷宮が出たんですよ」


「ん? そうなのか? 俺は知らないが……」


「名前、何だったかな。 まぁ、座標は解ってますので、これからどうです?」


「あぁ、スマン。明日は少し早いんだ。今日はそろそろ落ちようと思う。悪いな」


「いや、いいッスよ。じゃぁ、今度一緒に行きましょう」


「おう。またな」


「乙ッしたぁ~~」





 迷宮の一角に、不思議な香りが漂う。新しい武器を試した六色聖剣たちは、結界に入った瞬間に、未知の香りに鼻をヒクつかせた。空腹感が急速に襲ってくる。


「よし、戻ったな。メシが出来てるぞ」


 真っ白な穀物らしきものに黄土色のソースが掛かった食べ物「カレーライス」が差し出された。スープは豚汁である。鰹節ではなく豚骨で出汁を取り、豚肉、人参、大根、玉葱、シメジ、牛蒡、薄くスライスした生姜を加え、合わせ味噌を溶く。差し出された料理を皆が夢中になって食べる。


「これは東方料理か? 大陸中央の国々では、香辛料をふんだんに使った料理を食べていると聞くが?」


「これはカレーライスと言ってな。俺のいた世界では万国共通で人気の食べ物だ。少し辛いかもしれないから、これを飲め」


 木の杯にラッシーを注ぐ。ミレーユは、酸味と甘みのある飲み物が気に入ったようである。全員がおかわりをし、ようやく腹が落ち着いた頃にヴァイスが尋ねた。


「それで、新しい武器の使い勝手はどうだ?」


「最高よ。みんなが驚いているわ」


「あぁ、これまで使っていた剣とは雲泥の差だ。国祖ルドルフ王の剣にも匹敵するかもしれん」


 グラディスも満足そうに、壁に立てかけられた両手剣に目を向けた。「朝の紅茶」を注いでいたヴァイスが手を止めた。


「国祖ルドルフ王の剣?」


「あぁ、ヴァイスは知らないだろうな。帝国の礎となったゴールドシュタイン王国は八百年前に建国されたが、その始祖、ルドルフ・ゴールドシュタインが使っていたと言われる剣が帝都にある」


「ルドルフ王は、冒険者ギルドを立ち上げた人でもあるのよ? たった一人で数多の迷宮を討伐して、皆から英雄王と崇められた人だわ。冒険者のランクである『アダマンタイン級』は、ルドルフ王の強さを基準としているの。冒険者ギルドの本部が立ち上がった時、ルドルフ王は大きな巌の上に立って、自分が使っていた剣を突き刺し、こう宣言したわ」


〈この剣を抜きし者は、如何なる出自、身分の者であろうともアダマンタイン級と認める〉


「以来、八百年。数多くの冒険者が挑戦したが、誰も抜くことが出来なかった。もっとも、挑戦者があまりにも多かったため、王国から帝国へと変わったことを機に、剣への挑戦は皇帝陛下の許可が必要となったがな。王都にあるギルド本部の隣で見るだけなら出来るぞ」


「以上、レイナとグッディによるルドルフ王伝説(略)……」


 レイナとグラディスの説明を受けて、ヴァイスは頷いた。最後に茶々を入れたミレーユはグラディスに頭を締められているが、それは無視する。


(ルドルフという男がプレイヤーなら、その剣を鑑定すれば何か判るかもしれないな。 帝都に行ってみるか)





「ハァッ!」


 グラディスの剣がレッサーデーモン二体を同時に横薙ぎにした。これまで振るっていた両手剣よりも遥かに破壊力が増している。新しい剣の威力に呆れた表情を浮かべる。


「やるわ。私も負けられないわね」


 レイナも次々と魔物を屠っていった。その後ろからエルフィーナが矢を射かけ、アリシアとミレーユが魔法で攻撃をし、ルナ=エクレアが神聖魔法で魔物の戦意を打ち砕く。全員が新しい装備の力に驚き、そして喜んでいた。


「参ったわね。こんな装備を手にしたんじゃ、もう普通の装備には戻れないわ。一応、借りているってことになっているけど……」


「いや。もうこの杖は私のモノ」


 ミレーユが新しい杖を抱きかかえる。


================

装備名:精霊の聖杖

種類:魔法杖

装備Lv:200

装備ランク:紫

魔法攻撃力:+100

効果:魔力上昇(中)

   魔法攻撃力上昇(中)

================


「更に強くなったら次の装備を貸してやる。それまでは大事に使えよ?」


 頭を撫でられ、ミレーユは目を細めて頷いた。DODではLv200が一つの区切りとなる。JOBの組み合わせにもよるが、大抵のプレイヤーは中級職から上級職を求めるか、全く異なる系統のJOBを取得するかで岐路が分れる。そして後者の場合は、ある程度の装備を持っていなければ、そこから先に進むのに時間が掛かってしまう。特に無課金者にとっては一気にハードルが高くなり、その間にPKにあって引退するプレイヤーも多かった。

 DOD内で秩序と混沌の対立が激しかったころ、ヴァイスはそうしたプレイヤーに無課金で手に入る素材で自作した装備を配っていた。無課金者であってもLv500を超えれば戦力になりうる。別に優しさからではない。秩序側の力を高めるためにも、プレイヤーの数を集める必要があったからだ。


(捨てるのも勿体ないし、売っても大した金貨にならないから放っておいたんだが、まさかこんなところで役に立つとはな…)


 数十メートルほど離れた場所に出現した魔物をエルフィーナが射貫く。弓自体が持っている魔法力で形成された矢が光を放って消えた。


================

装備名:ユン=ステリナ

種類:中位弓

装備Lv:200

装備ランク:紫

攻撃力:+110

効果:魔力上昇(中)

   魔法攻撃力上昇(小)

   物理結界無効化

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「矢が必要ないというのは便利ですね。これでもう、残量を気にせずに放ち続けることができます。ヴァイスさんには、なんてお礼を言ったらよいのか」


「注意して欲しいのは、無尽蔵に撃てるわけではないということだ。弓自体が持っている魔力が切れれば、矢は放てなくなる。掌に魔力を集めて握れば補充できるから、定期的に補充してくれ。また物理結界は無効化できるが、魔法結界には弱いのも難点だな」


「それでも、今までの弓と比べると雲泥の差です。これまでの弓は、里でも最高位の弓だったのですが……」


 地下八階までは順調に魔物を屠っていく。魔物は徐々に強くなってきているが、装備を変えた六色聖剣はそれを上回っていた。だが地下九階に下りた時にヴァイスの足が止まった。異様な雰囲気を感じたからだ。


「ん? なんだ? 何か妙な気分だな」


「あぁ、私も感じる。これは…… 魔物の気配が無い?」


「奇妙ですね。魔素が消えているようですが……」


 その時、ミレーユがブルッと震えた。


「始まる。始まってしまう…… みんな、逃げてっ!」


「ミレーユ? どうしたの?」


 ガタガタと少女が震える。何かを察したようにエルフィーナの表情が変わり、次にアリシアが気付いた。


「不味いわ! 『魔物大行進モンスターパレード』が始まるっ!」


 地面が震え始めた。どこからかドドドッという地響きが聞こえてくる。それはどんどん、大きくなっていった。やがて、ヴァイスたちの前方二百メートルほどの分かれ道から、大量の魔物が姿を現した。





「レイナとグラディスは左右から来る魔物を斬れ。アリシアとエルフィーナは内側から遠距離攻撃!ミレーユとエクレハは四人に支援魔法をかけ続けろ。俺は正面を引き受けるっ!」


 ヴァイスの指示に、六色聖剣は一斉に陣形を整えた。正面と左右から無数の魔物が迫ってくる。


能動発動アクティブスキル入れ替え。「二刀流」……)


 だがヴァイスは剣を持つ前に、両手に魔法を発動させた。


「S級純粋魔法『拡散追尾弾ディフュージョンミサイル』!」


 両手から数百発もの純粋魔法が放たれ、前方および左右から迫る魔物に撃ち込まれていく。無数の爆発が起き、魔物たちが砕け散る。だがその死体を踏み越えて狂乱した魔物が押し迫ってきた。


「なんだ? あの黒い狼のような魔物は……」


「『吸血鬼ヴァンパイア』の眷属だ。おそらくどこかに吸血鬼もいるぞ。お前たち、俺が渡した腕章は付けているな?」


 万一の場合に備えた認識票を全員に配っている。「転移の罠」などの対策で使われているもので、万一逸れてもどの階層にいるのか判るものだ。

 全員を確認し、ヴァイスは目の前の魔物に集中した。アイテムボックスから二本目の剣を取り出す。



================

装備名:エクスカリバー

種類:片手剣

装備Lv:999

装備ランク:赤

攻撃力:+500

効果:力上昇(大)

   速度上昇(中)

   状態異常耐性(中)

製作者:Conrad Solingen

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(「伝説勇者の剣」が完成したから、付与効果枠拡張しなかったんだよな。課金だし……)


 一つですら手に入れることが困難な「赤ランク装備」だが、ヴァイスは全身をそれで固めていた。一万時間におよぶ素材集めと累計一千万円以上の課金によって、それを実現したのである。自分と同等の装備を持つプレイヤーは他には一人しかいなかった。


「……来いっ!」


 迷宮全体を覆いつくすほどの魔物の群れに向けて、ヴァイスは剣を構えた。





 どれ程、時が経過しただろうか。素材を回収するわけでもなく、目の前に出現する魔物をただひたすらに斬り続ける。DODでは見たことも無い魔物も複数種が出現した。だが名前を確認する間もなく、斬り伏せる。ヴァイスは破壊の竜巻となり、延々と続く魔物の暴風を食い止め続けた。背後で魔法が発動されるのを感じる。六色聖剣たちも頑張っているようだ。振り返ることなく、ただひたすらに屠り続けた。


 魔物が、怒涛のように押し寄せてくる。だがレイナの中に恐怖はなかった。視線の端に、男の背中が映った。この男が立ち続けている限り、自分も立ち続ける。左の掌に魔力を込めた。この数週間、剣と魔法の同時発動による新たな技を磨き続けてきた。この迷宮を討伐すれば、男の背に少しは近づける。魔物が押し寄せてきた。剣の柄を強く握った。





 最後の一体を屠る。視界に入る魔物はこれで全てであった。ヴァイスは深く息を吐いた。背後から荒い息が複数聞こえてくる。振り返るとレイナたちが血まみれで立っていた。


「終わった……の?」


「あぁ、よく頑張ったな」


 レイナは安堵した表情を浮かべると、その場に崩れ落ちそうになる。ヴァイスが抱きかかえ、回復魔法をかける。アリシア、エルフィーナ、ミレーユ、エクレアも無事なようだ。だがそこに、グラディスの姿が無かった。


「おい、グラディスはどこだ?」


「え? だって、さっきまで……」


 アリシアたちの顔色が変わる。レイナが震える膝で立とうとしていた。


「黒い影が見えたわ。 きっとグッディはそれに…… 急がないと……」


「そんな…… まさか、吸血鬼に」


「状況は解った。だがまずは回復が先だ。腕章を付けている以上、グラディスの居場所は把握できる」


「ダメよっ!今すぐに… うっ……」


 後頭部を打たれ、レイナは意識を失った。抱え上げ、適当な場所を探す。


「ヴァイス…… グッディは大丈夫かな」


吸血鬼ヴァンパイアは若い女の血を好む。吸われている可能性はゼロではない。だが『真祖』であるならば、血を吸うタイミングにこだわるはずだ。若い女の生命力が最も横溢するとき…… 妊娠期と呼ばれる「黄体期」に血を好むと言われてる。グラディスはいつ頃『ツキノモノ』が来たか解るか?」


 露骨な言い方に、女たちが顔を朱くした。アリシアが咳払いをして応えた。


「前回は私と同じくらいの時期だったから、二週間前ってところね」


「…… もう間もなく、黄体期に入るな。逆を言えば、まだ時間はある。回復したら、すぐに討伐に向かうぞ」


 全員が頷いた。





「うっ……」


 意識を取り戻したグラディスが呻いた。ぼやけていた目の焦点が戻る。


「ここは?」


 ガシャンという鎖の音が室内に響いた。天井から鎖が下ろされ、釣り上げるかたちで両手が縛られていた。両足は肩幅ほどに開かれ、足首が床の鉄枷に填められている。


「クッ……」


 ガシャガシャと身動ぎをするが、固く繋がれ動くことができない。


「おやおや、気づきましたか?」


 冷たい風が血の匂いと共に吹き込んでくる。赤い瞳をした白髪の男が入ってきた。背丈はヴァイスと同じくらいだろうか。肌は死人のように真っ白なのに、唇だけは血のように赤い。赤い口元に笑みを浮かべ、グラディスの前に立つ。


吸血鬼ヴァンパイアか」


「いかにも。吾輩はヴィラゴニア・ツェペリンと申します。美しきヴァリ=エルフよ。貴女の名を教えていただけませんか?」


「魔物に教える名など持っておらんわ!」


 ヴィラゴニアは笑みを浮かべたまま、グラディスの後ろに回り込むと褐色肌の背中を撫でた。両手を背後から回し、右手で胸を掴み、左手で下腹部を撫でる。


「美しい…… 実に良い躰です。生命力あふれる若きヴァリ=エルフで、しかも処女…… その血はさぞかし、旨味に富むでしょう」


 耳元で囁かれ、耳朶をチロと舐められる。だが口から漂う血の臭いに、グラディスは顔を顰めた。


「クッ…… 殺せっ!」


「とんでもない。そんな勿体ないことができますか。今すぐでも良いのですが、貴女の躰はあと十数時間で、子を宿す準備が整いそうですね。貴女の血はもっと旨味が増す。その血をゆっくりと味わいながら、貴女の子袋に種付けてあげましょう。貴女は私の肉奴隷として、永遠に生き続けるのです……」


「ふざけるなっ!」


 ガシャンと鎖の音が響く。男の鼻を噛み千切ろうとしたときには、既に男の姿は消え、扉の前にいた。スケルトンに指示を出している。


「定期的に水を与えよ。それと、糞尿はそのままにせよ。どうせ後で洗うからな」


「貴様ッ!」


「恥ずかしがる必要はありませんよ? 明日には血を頂きます。それまで色々と調教して差し上げましょう。その躰と血に、もっと旨味を蓄えるために……」


 男はクツクツと嗤い、出ていった。





 地下九階にキャンプを張る。万一を考えて、課金アイテム「安心戦隊」を使う。どんな魔物も入ることができない結界を形成し、幻影や毒ガスなども無効化してくれる。「地上最強女子」を中心に、奇妙なポーズを決める男女が並んだ彫像を置くと、室内を結界が覆った。後頭部を打たれて気を失ったレイナを寝かせると、ヴァイスは一人で結界から出ようとした。だが、アリシアが鋭い声を発した。


「待ちなさいっ! レイナを放って、独りで行くつもりなの?」


「レイナのことだ。目覚めたら即座に行動しようとするだろう。だが相手のレベルは最低でも800以上だ。今のお前たちでは、掠り傷すら付けられない。そもそもお前たちは、さっきの戦いで消耗している。俺が単独で救出しに行く。そのほうが成功率は高い」


「私たちは足手纏いってこと? ふざけんじゃないわよっ!」


 ヴァイスの前に回り込み、頬を引っ叩いた。無論、物理攻撃無効化があるためダメージは受けない。ヴァイスの襟を掴む。


「レイナはね。アンタに惚れてる。それこそ、この男と一緒なら死んでもいいって思うくらいに惚れきってる! アンタの背中を護れるようになりたい…… そう言って頑張ってた。だからアタシたちも黙ってたんだ! それなのにその女を置いて、ここで待ってろって言うの?」


「ヴァイスさん。貴方の理屈は解ります。ですがグッディは六色聖剣の一員、かけがえのない私たちの仲間です。『余所よそ者』に任せて自分たちは安全な場所で待っているなど、私たちにはできません!」


 アリシアとエレオノーラが詰め寄ってくる。レイナを介抱しているミレーユ、エクレアも決意の瞳を浮かべていた。しばし沈黙し、溜息を吐く。


「仕方ないな。だが回復を待つ時間は無い。これを使うか……」


 アイテムボックスからガラスの小瓶を何本か取り出す。赤や青色に輝く液体が揺れている。エレオノーラが目を剥いた。


「それは…… まさか『ポーション』ですか? 赤いポーションなんて』


「知ってるのか? これを飲めば体力と魔力、状態異常などが全快する。この世界にもあるとは思っていたんだが、その様子だと珍しいようだな?」


「希少な薬草類を調合し、老神木の朝雫で煮出し、そこにエルフ族の秘術を掛けることで、強い回復薬になります。ですが赤いポーションなどは初めて見ました。普通は「紫色」のはずなのですが…… それに、その『青色』のは?」


「コイツは魔力を回復させるポーションだ。全員、それぞれ一本ずつ飲んでおけ。それで全回復するはずだ」


 ヴァイスが持っているポーションは最高品質のLv5のポーションである。最高ランクの生産職「神匠」は錬金術師も極めているため、こうしたポーションなどの回復アイテムも生産できる。最高レベルの錬金術師が調合したポーションは、低レベルポーションと比較すると回復するステータス値が全く異なる。Lv5ともなれば、一本で5万以上のHPを回復させることができた。


「うっ……」


 レイナが目を醒ました。ヴァイスが膝をついて寄り添う。


「さっきは、すまなかったな。まずはコレを飲め。全快次第、グラディスを助けに行くぞ」


「ヴァイス…… 私はどれくらい寝ていたの?」


「一時間ほどだ。大丈夫だ。腕輪を付けているから、グラディスの居場所は把握できる。真祖トゥルー吸血鬼バンパイアが血を吸うまで、もう少し時間があるはずだ。必ず間に合わせる」


 差し出された二本の小瓶を空け、レイナは一気に喉に流し込んだ。眼を剥いて自分の手足を見る。切り傷、擦り傷などが完全に消えた。


「有り難う。でも私を殴ったことは、後で精算してもらうわ。街に戻ったら覚えてなさい」


 レイナはそう言いながらも笑みを浮かべ、手を差し出した。それを掴み、立ち上がらせる。


「ここからは俺のペースで攻略する。素材回収はせずに、最短時間で一気に最下層まで降りるぞ。しっかり付いて来い!」


 ヴァイスたちは走り始めた。

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