第8話 大勇者の「美学」

【小解説】 DODにおけるPlayer Killingについて


 VRMMO-RPG「Dead or Dungeon」では、プレイヤー同士の闘いは幾つかの方法がある。闘技場において一対一で戦う「フリーバトル」、パーティー同士で闘う「チームバトル」、より多くのプレイヤーが集まる「ギルド対抗戦」などがあるが、それ以外にもダンジョンおよびフィールドで突如として発生することがある。それが「PlayerP KillingK」である。PKには、他のイベントで発生するプレイヤー同士の闘いとは異なる特徴がある。


1.敗者(HPがゼロ状態)は強制ログアウトされる

2.敗者は累積EXP(経験値)が下がる。それに伴いレベルも下がる

3.敗者は装備品を最低一つはドロップする


 上記の特徴、特に「3」を目的としたPKが横行し、数多くのプレイヤーが被害にあった。「Player Killer」たちは徒党を組み、上級プレイヤーを対象としての「狩り」を行うため、たとえLv999の上位プレイヤーであっても、DOD内では油断はできない。当然ながら、Player Killerたちを撲滅するための活動が生まれ、PK者を狩る「Player Killer's Killing(PKK)」も盛んに行われた。DODの運営はこの状態をむしろ歓迎しているかのように、「Player vs Player(PvP)」向けの装備、魔法、アイテムなどを次々とリリースし、戦争状態を煽っていた。


 上位者同士のPvPは、双方のレベルが拮抗していたため、結局のところは「プレイヤー自身のキャラクター操作能力」によって勝敗が決する。DODで勝つためには、実生活において剣術や格闘技を学び、闘技場での闘いを録画して検証するなど「努力」が必要とされ、プレイヤーの中には「そこまでは出来ない」と諦める者も多かった。PvP勝数、ダンジョン攻略数、ダンジョンマスター討伐数などの上位者は、そうした努力を怠らなかった者たちと言われている。





 「エフギウム脱出」を使って第一層の出口前に戻る。ゆっくりと階段を上がり、外に出る。陽光に眼を細める。ちょうど朝であった。さすがのヴァイスも疲れを感じていた。眠気が襲ってきている。どこかにキャンプを張り、少し休もうと考えていた。


「ふぅ、疲れたな」


「シュヴァイツァー殿ッ!」


 声の方を向くと、金髪の美女が走ってきた。その後ろには五人の美人たちが立っていた。ヴァイスはようやく思い出した。子供に頼まれて女性二人を助けたのであった。ゾディアックとの激闘、魔神と思わしき強敵の出現ですっかり忘れていた。


「良かった! 無事だったようね。色々と聞きたいこともあるけれど、まずはこれだけは言わせて。有り難う。本当に、有り難う!」


 自分の手を取って何度も頭を下げてくる。美人に感謝されるのは大歓迎だが、とにかく今は眠かった。


「あぁ…… 悪いが、少し疲れている。詳しい話は、寝たあとで良いか?」


「そ、そう…… そうよね。なら、私達のテントで寝ると良いわ。すぐ近くでキャンプをしているから」


 自分で用意をするのも億劫だったので、ヴァイスは素直に従い、テントの中に入った。装備を解除し、柔らかな毛皮の上に横たわる。すぐに意識が途絶えた。





「取り敢えずは大丈夫そう。ゾディアックが来る気配は無い」


 ヴァイスが寝ているテントの前では、六色聖剣が警戒態勢を取っていた。ゾディアックの生死は確認できていない。迷宮の外に出て来る可能性も否定はできないのだ。交代で第一層に降りるなどの警戒をしたが、ミレーユがダンジョン内の魔素の落ち着きを確認し、ようやく安心することができた。


「それにしても、レイナが自分のテントに男を寝かせるなんてねぇ。どんな心境の変化かしら?」


 アリシアが面白そうにからかう。レイナは少し顔を赤くして、反論しようとした。だがグラディスが真剣な表情で呟いた。


「あのゾディアックという化け物は、尋常な強さではなかった。私たちが束になった掛かっても、傷一つ付けられなかった。まさか、アレと闘って生きて帰ってきたとはな……」


 エレオノーラもルナ=エクレアも頷いた。


「魔物に前後を挟まれ、心が折れかけた時に彼が現れました。スケルトンを粉砕しながら、風のように駆け抜けた姿は今も目に焼き付いています。彼もまた、尋常ならざる強さの持ち主なのでしょう」


「でも、それって不思議よね? だってそんなに強かったら、きっと名が知られているはずよ? ヴァイスハイト・シュヴァイツァーなんて名前、私は覚えが無いけれど?」


 アリシアの疑問に、レイナが答えた。


「ギルド回覧の中で、彼の名を見た覚えがあるわ。二月ほど前に、リューンベルクのギルドに『シルバーランク』で初登録されたそうよ。その時は特に気に止めなかったけれど、その後すぐにダンジョンが攻略されたでしょ? 攻略メンバーの中に、夜明けの団と一緒に彼の名があったのを覚えている」


「夜明けの団か。たしか真純銀ミスリル級だったな。その一員なのか? それにしては一人だけでダンジョンに入ってきたようだが。ところでミレーユ、どこへ行くつもりだ?」


 ヴァイスが寝ているテントに忍び寄ろうとしていたミレーユをグラディスが捕まえた。自分の腕の中に抱え込んで頭をグリグリと締める。子犬のような鳴き声が漏れる。レイナが切り替えるように手を叩いた。


「とにかく、今は休みましょう。全員が無事に生きて戻った。これが一番の勝利よ!」


 約一名を除いて、全員が笑顔で頷いた。





 どれだけ眠ったのだろうか。目を覚ましたヴァイスは、見慣れぬ天井をヴァイスは忘我の状態で眺めた。少し良い匂いがする。女性の匂いだ。目頭を抑えて首を振る。どこで寝ていたのかを思い出し、ヴァイスは起き上がった。テントの外に出ると陽は既に西に傾いていた。どうやら数時間以上は寝ていたようである。テントの周りを幾つかの光の玉が飛び回っていた。精霊魔法による結界である。周囲を見渡したが、女性たちはいないようだ。


「喉が乾いたな……」


 遠くに水の音が聞こえる。ヴァイスは音の方に向かった。まだ頭がぼうっとしているようだ。水を飲み、顔を洗えば目が覚めるだろう。茂みを出ようとすると、複数の女性たちの声が聞こえた。


「あ……」


 美しい裸体が眼の中に飛び込んできた。白い肌をした金髪の美女、褐色肌の銀髪の美女がよく発達した胸を晒して水を浴びていた。髪が光を反射し、幻想的な光景を見せている。その美しさに、ヴァイスは思わず見とれてしまった。だが足元の枝を踏んでしまったようで、パキという音がする。それに気づいたグラディスが眉間を険しくした。


「誰だっ!」


 ヴァイスは慌てて後ろを向いた。両手を上げる。


「スマンッ! 覗くつもりは無かった!」


「シュヴァイツァー殿? 目が覚められたか。そのまま待っていてくれ。いま服を着る」


 ヴァイスは安堵したように息を吐いた。すると目の前に青髪の少女が現れた。無表情のまま、ヴァイスを見上げる。右手の人差し指を突きつけてくる。


「……出歯亀」


「違うわっ!」


 ヴァイスは思わず反論してしまった。少女は頬を膨れさせると、服を脱ぎ始めた。


「……おい、何をしているんだ?」


「レイナとグッディだけ見るのはズルい。私も見せる」


「阿呆ゥッ! 俺を犯罪者にする気か! だいたい子供の裸なんぞに興味ないわ!」


「私はミレーユ、子供じゃない」


「子供だろ! とにかく服を着ろ! 俺を困らせるな!」


「シュヴァイツァー殿、終わった…ぞ…… 何をしているんだ?」


 キャミソールの肌着姿になっているミレーユを見て、グラディスが殺気を放ち始めた。剣に手を掛けている。ヴァイスは両手を上げながら、恐る恐る振り向いた。冷たい笑みを浮かべる銀髪の美女と視線を合わせる。ヴァイスは溜息をついた。


「何か誤解をしているようだが、俺は何もしていないぞ? あの子供が勝手に脱いだんだ」


「言い訳か? 私の裸を見たのはまだ許そう。だがよりによってミレーユに手を出すなど、この変態がっ!」


「グッディ? ちょっと……」


 レイナが止めようとする。ヴァイスは呆れたように少し嗤った。どうやら目の前の女は、理屈よりも感情で動くタイプのようである。


「お前、脳筋かよ…… おい、俺の話を聞いていないのか?」


「黙れっ!」


 剣を抜こうとした瞬間、ヴァイスは既に目の前にいた。右手で剣の柄を抑え込み、左手は手刀の形で喉元に突きつけられる。顔を接近させ、眼を覗き込む。


「落ち着け。何もしていないと言っているだろう」


「うっ」


 ヴァイスは接近させた身体を離すと、そのまま水辺にしゃがみこんで顔を洗い始めた。レイナがグラディスの肩を掴む。それで、グラディスも落ち着いたようだ。騒ぎを聞きつけたのか、他の三人、アリシア、エレオノーラ、エクレアもやってきた。清流で顔を洗い、水を飲む男の背中を六名の美女が見つめる。ヴァイスは水に頭を突っ込んだ後、水を滴らせながら顔を上げた。手元に厚手のタオルを出現させて顔を拭く。


「あれは、異空間収納? 初めて見たわ」


 アリシアが驚いたように声を上げた。ヴァイスは首にタオルを掛け六名に顔を向けた。


「改めて名乗ろう。俺はリューンベルクのゴールドランク冒険者『ヴァイスハイト・シュヴァイツァー』だ。ヴァイスと呼んでくれて構わない」


「私たちはウィンターデンのオリハルコンランク冒険者パーティー『六色聖剣』よ。私はそのリーダー、レイナ・ブレーヘン」


「副リーダーのグラディス・ワーゲンハイムだ」


「アリシア・ワイズバーンよ。アリシアで良いわ。よろしくね」


「エレオノーラ・セシルです」


「ミレーユ・カッフェン…… 特別にミレーユと呼ばせてあげる」


「ルナ=エクレアです。宜しくお願いします」


 ヴァイスは魔眼を取り出して装着した。奇妙な形をした装備を顔につけたヴァイスに、全員が眉を顰めた。ヴァイスは軽く眺めて、頷いた。


「なるほど、六色聖剣か…… プラチナランクのアウグストより全員が上だ。これがオリハルコンクラスの実力か」


「その装備は何かしら? 私達の何かを調べるためのもの?」


「まぁそうだ。簡単に言うと、お前らの強さとパーティー内の役割を確認した。魔法剣士のレイナ、グラディスは壁役と切り込み隊長役ってところか。魔導士のアリシア、弓師のエレオノーラ、錬金術を使うミレーユ、回復役はルナ=エクレアか」


 いきなりファーストネームで呼ばれたが、それ以上に全員の役割を喝破されたことに驚いた。不穏な空気に、レイナが咳払いをした。


「そんな装備は聞いたことが無いけれど、もし本当なら一言、断りを入れるべきではないかしら?」


「そいつは失礼…… 覗かせてもらうぞ?」


 悪びれる様子もなく、ヴァイスはもう一瞥して、魔眼を仕舞った。ミレーユが「やっぱり出歯亀」と小声で呟いたが無視する。


「まぁ良いわ。別に隠しているわけでもないし…… それより、教えてくれないかしら? あの化け物はどうなったの? 貴方は一体、何者? どうやってそこまで強くなれたの? それから……」


「落ち着け。それよりそろそろ日が暮れる。そういった話は、飯を喰いながらで良いか?」


 返事を待つこと無く、ヴァイスはテントを張った場所へと向かった。





 DODのアイテム「加熱式石板ハロゲンプレート」を並べ、平鍋を置く。木のまな板には熟成させた黒毛和牛肉の塊が置かれている。肉を一センチ程に切って塩とスパイスを振り、牛脂を馴染ませた鍋で焼く。深鍋には鶏ガラスープの素、トマト、玉ねぎ、セロリ、そら豆、舞茸を入れ胡椒で味を整えたスープを用意した。通常のキャンプでは有り得ない光景に、六色聖剣の全員が絶句していた。


「一体なんなんだ? こんな光景は見たことが無いぞ? これがキャンプだというのか?」


「本で読んだことがある。伝説では、異空間収納は『時の流れを遮断する』と書かれていたわ。焼いたパンを収納して一年後に取り出しても、焼き立てのままだって…… まさかこの目で見れるなんて」


 グラディスは頭を抱え、アリシアは興味深そうに異空間から出し入れするヴァイスの様子を眺めていた。肉の焼かれる芳ばしい香りに、ミレーユは我慢できないようだった。


「じゅるり……」


「もう少し待て。ほら、皿持ってろ」


「良いの?私達も食べて」


「一人でこんな量を喰いきれるわけ無いだろ。俺の奢りだ。食わせてやる」


 DODの上位プレイヤーになれば、Goldは有り余ってしまう。Lv999スリーナインダンジョン以外は単体ソロでも攻略できる爽快ウォッカともなれば、保有額は桁外れであった。そのため街の食材店(某大手チェーン)や魔道具店(某大手電気店)などで買いまくっていた。特に肉に関しては、牛、豚、鳥は無論、羊やイノシシ、熊などが「トン」単位でアイテムボックスに入っている。

 木の皿を渡されたミレーユが、肉の前で待っている。やがてヴァイスの手が差し出された。ミディアムレアに焼けたステーキをカットして皿に盛る。木の椀には野菜のスープを入れた。全員に行き渡る。だが誰も手を付けようとしない。信じられない光景に、どうしたら良いのか解らないのだ。ヴァイスは苦笑した。


「毒なんか入ってねぇよ。良いから食え! 闘いの後は腹が減るだろ?」


 ヴァイスはフォークを持ち、食べ始めた。


「私達もいただきましょう」


 レイナに促され、全員が食事を始める。ヴァイスは焼き立てのパンが入ったバスケットを取り出した。全員に回していく。角切りのチーズが入ったロールパンは、石窯から取り出したばかりのように熱く、千切ると湯気と共に小麦の香りが広がった。食事をしながら話をする約束だったが、あまりの美味さに六色聖剣全員が夢中で食べている。


「足りなければ遠慮なくお代わりして良いぞ。肉はまだ山ほどあるからな」


 DODでは「キャンプ」は人気があった。ダンジョン内で焚き火をし、串肉を焼いて食べるなど、現実世界では決して出来ないような「遊び」が無課金で出来るため、相当数のプレイヤーがこうした「キャンプ道具」「食材」をアイテムボックスに入れていた。追加でステーキを焼く。今度はステーキソースで味を付けた。結局、話が始まったのは食事を終え、茶を飲み始めてからであった。


「結論から言えば、ゾディアックは生きている」


 ヴァイスが語り始めた。





「魔神…… ゾディアック以外にも、そんな奴が出現したのね」


「アスモデウスの正体は不明だ。魔神のように見えたというだけだ」


 闘いの顛末を一通り説明し、暫くの沈黙の後にレイナが呟いた。だがグラディスは別のことが気になったようだ。鋭い目つきでヴァイスを睨む。


「一つ確認するが、先程の話によると、ヴァイスは魔法を使わずに闘い続けた。使った魔法は回復魔法だけ。相手ゾディアックはヴァイスが魔法を使えることに驚いていた…… ということだったな」


「まぁ、そうだな」


「なぜだ? なぜ最初から魔法を使わなかった。お前は逃げられたのではない。逃したんだ!その気になれば、ゾディアックを倒すことも出来たのに、本気を出さなかった! それでも冒険者か!」


「グッディ、それは言いすぎよ」


 レイナがたしなめる。だがヴァイスは否定すること無く頷いた。


「いや、グラディスの言うとおりだ。確かに、最初から魔法を使えば、もっと楽に戦えただろう。決定的な隙を生み出し、倒すことも出来ただろう。俺は本気を出さなかった。その結果、奴を逃がす結果となった」


「だから何故だ!」


 ヴァイスは少し黙った。実際、あの戦いでは常時発動スキルの「身体強化ブースト」や「補正セミオート」を使っていない。意図して使わなかったのだ。グラディス、そして全員に顔を向る。


「なぁ。お前らに確認するが、ゾディアックの目的は、お前たちを『殺すこと』だったのか?」


「なに?」


「俺にはそうは思えなかった。俺が現れた途端、ゾディアックはお前たちへの興味を失った。そればかりか、俺が戦いやすいようにお前たちが立ち去るのをわざわざ待っていた。アイツの目的は『全力を尽くして闘うこと』であって、相手を殺すことでは無い。相手が死んでしまうのは『闘いの結果』に過ぎない。あのゾディアックは、純粋な『戦闘狂バトルジャンキー』なのさ」


「それがどうした。そんなことは関係……」


「関係あるさ。お前、剣を持たない丸腰の相手に剣を向けるのか? 俺にも、善悪や羞恥の判断基準がある。もし相手が、理性を持たないただの魔獣、あるいは相手が婦女を暴行し殺害する山賊や、手段を問わず人を殺すことを目的とするような殺人鬼なら、俺は遠慮せずに剣や魔法を使う。だがゾディアックはそうした奴らとは違う。目の前に子供がいても、アイツは無視して通り過ぎるだろう。美しい女性がいたとしても、相手が弱ければ何もしないだろう。まして行商人を襲って金品を強奪するような真似はしないだろう。ゾディアックがお前達に闘いを仕掛けたのは、お前たちが強かったからだ。闘うに足る相手と見込まれたからだ。さて、グラディスに問う。ゾディアックは『悪』だろうか?」


「………」


 グラディスは沈黙せざるを得なかった。ヴァイスハイト・シュヴァイツァーという男の考え方がなんとなく理解できた。自分たちはパーティーである。仲間を護るための闘いならば、たとえ相手が何であろうと容赦はしない。だがヴァイスは単独ソロである。彼はパーティーメンバーとしてではなく、一人の「戦士」としてゾディアックに向き合ったのだ。良し悪しではない。価値観の違いであった。レイナが心配そうに声を掛けてきた。


「グッディ?」


「……納得はしていない。納得していないが、理解はした。その上で言う。お前は、バカだ」


「自分でも理解してるよ。俺はバカだな」


 ヴァイスは自嘲するように嗤った。





 そこは、まるで皇帝の私室を思わせるような豪華な部屋であった。金髪の男が革張りの椅子に座り、背もたれに頭を載せて目を閉じている。そこに紫髪をした美女が入ってきた。アスモデウスであった。男の前に跪礼して報告する。


『主よ。アスモデウス、御前に参上致しました』


 男は眼を開けると、アスモデウスを見下ろした。


「ゾディアックは無事か? 手傷を負ったと聞いているが……」


「ハ…… 些か深手を負っておりましたので、治癒に集中させております」


「ゾディアックは歴戦の猛者だ。アレにそれ程の傷を与え得る人間が存在するとはな」


「強力な魔法も操れるようでした。かつての『我らが宿敵』を彷彿とさせる男でした。二人掛かりでも勝てたかどうか……」


「それ程か…… 解った。その者についてはいずれ手を打つとしよう。だが今は残りの二柱を探すことが優先だ」


「一柱については、既にメドは付いております。どうやらエルフ族の森の方にいるようで、近日中に吉報をお持ち出来るでしょう」


 男は頷いて手を振った。アスモデウスの姿が消える。男は再び、背もたれに頭を載せ、眼を閉じた。


「これは宿命か? やっと目覚めたと思ったら、また『プレイヤー』が出現するとはな」


 呟いて、小さく嗤った。


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