第6話 未知の魔物
【小解説】魔獣と魔物
多くのファンタジー小説、RPGでは魔獣や魔物という言葉が使われている。この二つはそれぞれの作品で解釈の仕方が異なっており、ほぼ同じ意味で使う場合もあるが、VRMMO-RPG「Dead or Dungeon」では、この二つに明確な違いを持たせている。
魔獣:既存の動物が何らかの理由で強化・凶暴化した存在
魔物:魔素が集約した「魔石」を核として形成された存在
つまり魔獣は元々が「自然界に存在する動物、植物」であることに対し、魔物は魔石から生まれた「自然界に存在し得ない動物、植物」なのである。例えばDODの初心者級が狩りの対象とする「レッド・ベア」は、熊が強化・凶暴化した「魔獣」であり、魔物ではない。魔獣は皮や骨、血といった素材を多く残すが、魔石は残さない。一方で「アース・ゴーレム」は物理攻撃に耐性を持つ土系モンスターであるが、これは魔石から生まれた「魔物」である。倒すことで魔石を残すが、魔獣ほどに多様な素材は残さない。アース・ゴーレムは「精製された土」を残し、時に「砂金」などもドロップするが、魔石は必ず残すため、分類上は「魔物」なのである。
DODでは、魔獣でも魔物でも無い存在がある。「竜族」および「神族」などである。ドラゴン系のモンスターは数多くの素材をドロップし、同時に「ドラゴンの核」と呼ばれる特殊な魔石も残す。神族系のモンスターの代表格が「魔神」であるが、魔神はその都度、ドロップアイテムが異なる。伝説級の武器などを残す場合もあれば、「神核」と呼ばれる特殊素材を残す場合もある。このように、魔獣、魔物、その他というのは、ドロップアイテムによっても判断できるのである。
DODではこうした設計思想に基づいて、チュートリアルやクエストの案内文章、NPCのセリフなどが作成されている。一方で、プレイヤーはこうした定義を厳密に考えることはせず、単純に「モンスター」「敵キャラ」と呼んでいる。魔物の中には睡魔族などきわどい服装をしたキャラクターもあり、そうした18禁スレスレの魔物を専門に狩る「好事家」も存在している。DODのサービス開始から十年間、モンスターの種類は増大の一途を辿り、モンスターデータ欄をコンプリートしたプレイヤーは、十年経っても存在していない。
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Name:グレーターデーモン
Level:507
種族:
最大HP:50179
最大MP:47750
状態異常:無
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この世界に来て初めて、自分にダメージを与え得る敵に、ヴァイスは口元を歪めた。目の前に鎮座する四本腕の「青き悪魔」はゆっくりと立ち上がると、ヴァイスを見下ろした。
「よくぞここまで辿り着いた、冒険者よ。我が迷宮を荒らした罪、汝の死によって贖ってもらうぞ」
「なるほど。これもDODと同じかよ。それにしても……」
DODではダンジョン攻略の最終戦では、ダンジョンマスターからこうした言葉を掛けられる。無論テンプレートであり、どの迷宮でも同じ台詞である。だがヴァイスはゲームとは違う点に疑問を感じていた。相手のレベルが可怪しいからである。
「レベル500超えのグレーターデーモンだと? どうなってるんだ。普通400ちょっとだろ」
「ゴァァァァッ!」
魔力を圧縮した弾を躱す。地響きと共に大きな爆発が起こり、床に穴が空いた。
「純粋系魔術のA級魔法『ガーラの裁き』かよ。喰らったらダメージは避けられないな。ならこっちもいかせてもらうぞ!」
ヴァイスは右手で剣を持ち、左手で魔法を発動させた。
「火炎系S級魔法『アストライアの聖炎』!」
グレーターデーモンを紅蓮の竜巻が包む。炎属性と神聖属性を重ね合わせている。悪魔族の弱点を突いた攻撃であった。だが炎の竜巻の中から青い巨体が飛び出してきた。手に持った斧を振り下ろしてくる。ヴァイスは剣でそれを受け止めた。
「一撃で終わると思ったんだがな……」
グレーターデーモンが繰り出す二本の斧をヴァイスは完全に防いだ。レベル500を超えているとはいえ、それでも自分とは隔絶した差がある。余裕を持って屠ろうとした時、グレーターデーモンの腕がこれまでに無い速さで動いた。それまで動かなかった他の二本から、同時に魔法が打ち出されたのだ。
「なにっ!」
同時に繰り出された暗黒系A級魔法「死神の魔槍」がヴァイスを貫いた。ダメージの他にHP吸収という副次効果がある。思わず呼吸が止まるが、その隙をついて斧が襲い掛かってきた。剣で受け止めるが横に吹き飛ばされる。土煙が舞う中で、ヴァイスはすぐに立ち上がった。
「なるほど。やはりDODとは違うな。痛みがある。それにしても、意図的に隙きを作って誘い込んでからの魔法と物理の
物理防御力、魔法防御力共に最高レベルにあるヴァイスにとって、グレーターデーモンの攻撃はさほどの痛みはない。だがそれでもVRの設定とは異なり、ダメージを直に感じた。この世界がMMO-RPGとは全く違う「現実」であることを改めて自覚し、ヴァイスは本気になった。剣を構える。
「終わらせてもらうぞ!
高速で突き出した剣先から光が放たれ、グレーターデーモンの胴体を貫いた。胸に大きな穴が貫通し、グレーターデーモンは咆哮を上げて倒れた。やがて肉体は消え、大きな魔石と二本の角が残った。
「ドロップアイテム『上位悪魔の双角』か。神匠でない俺にとっては、あまり意味が無いんだがな。サブのコンラートに渡すってわけにもいかないだろうし……」
振り返ると、扉は消えていた。トマスたちが入ってくる。床に転がった漆黒の大きな石と角を見て、トマスが確認するように聞いた。
「倒したのか? 倒したんだな!」
「あぁ、倒した。これでこのダンジョンの討伐は完了だ。そのドロップアイテムは希少素材だ。かなりの高値で売れるだろう」
「そんなことより、怪我は無いのか? 本当に、ダンジョンマスターを一人で倒しちまったのかよ! 凄ぇぞ!」
自分のことのようにトマスたちが燥ぐ。だがヴァイスはそこまで喜べなかった。本来ならば楽勝の相手だったはずである。Lv500超えだったとはいえ、一撃を貰ってしまったのだ。これがPvPであれば、自分は立っていないだろう。
「最近、PvPから遠ざかっていたから、少し呆けているようだ。気を引き締めるか」
ヴァイスたちはダンジョンの出口へと向かった。
大量の魔石とレア素材、そして迷宮討伐という実績を引っさげて、ヴァイスたちは凱旋した。魔石と素材、ギルドからの報酬だけでも金貨五百枚になる。さらに公国から迷宮討伐の報奨金として金貨五百枚を上乗せされ、合計一千枚の金貨が目の前に積まれる。ヴァイスはそれを五等分した。トマスは「夜明けの団」として半分のつもりだったらしく、なかなか受け取ろうとしなかった。仕方なく、ヴァイスが金貨四百枚、他の四名は百五十枚ずつということで折り合いがついた。
「金貨百五十枚。たった一週間ちょっとの稼ぎとしては破格だな。魔物を討伐したわけでもないのに、こんなに貰っちまって本当に良いのか?」
「構わないさ。トマスたちのお陰で素材が回収できたんだ。俺一人なら何も回収できなかった。ダンジョンは資源場でもあるんだ。ただ攻略すれば良いというものでは無いだろう」
「そうか。じゃ、遠慮なく貰っておくぜ。どうだ、今夜はパァッとやらねぇか?」
「いいな。酒も良いが、女がいる店があればなお良い」
トマスは笑って、ヴァイスと肩を組んだ。一方その頃、ギルドマスターのアウグストは帝都にある冒険者ギルド本部への報告書をまとめていた。今回の迷宮討伐はゴールドランクの冒険者五名によるものであり高く評価はできるものの、本人たちの希望もありプラチナランクへの昇格は見送る、という内容である。このことは問題が無いのだが、報告書の中に書くべき別の事態についてアウグストは頭を悩ませていた。すなわち「出現する魔物が強化していること」についてである。
「これまでのダンジョンではレッサーデーモンは確認されてる。だがグレーターデーモンというのは、存在こそ知られていても誰も見たことがないような伝説級の悪魔だ。それが出現した。持ち帰られた魔石と二本の角がそれを証明している。もしこれが、今回の迷宮に限ってのことではなく全体的な傾向となっているのなら、大変な事態になるかもしれない」
《公国の迷宮では、従来は下層にいた魔物が中層に昇ってきている傾向があり、また魔物自体が一回り強化しているという報告がある。これが公国に限ってのことなのか、帝国全土の傾向なのか、あるいは隣国のルストハンザ王国、聖フェミリア教国領、東方のカルマハーン王国などより広範囲の傾向なのか、より広範囲で情報を集めるべきと判断する。ギルド本部による調査を依頼する》
迷宮は地域によって出現する魔物も異なり、またその深さも違う。だがこれ程に強さに違いが出たことは無かった。アウグストは暗い予感を感じていた。これは、何か不吉な事態の始まりではないかと思った。首を振って、書簡を封蝋した。
人類最古の商売は「売買春」であると言われている。帝都は無論、公国の首都リューンベルクにおいても「春を売る店=娼館」は複数、存在している。その中でも最高級の娼館「黄金の鐙屋」で、ヴァイスは寛いでいた。安い売春宿では銀貨三枚、三百帝国マルク程度が相場であるが、黄金の鐙屋は青天井だ。様々な事情によって娼婦となった女性たちの中でも特に美しく、それでいて幼すぎない女性を取り揃えている。その「黄金の鐙屋」の中でも最高級の娼婦「ミリアーヌ」との一夜を終え、ヴァイスは清々しい気分で館を出た。金貨十枚という最高級の娼婦だが、その価値は十分にあった。身請けをして自分専用にしたいとすら思ったほどである。
「よくよく考えてみたら、俺なら相当な金持ちになれるな。DOD金貨は四千万枚以上あるし、素材回収のメドがつけば、ダンジョンでも普通に稼げるしな」
DODではPlayerKillerという明確な敵が存在していた。「PKやるのは自由だろ」という台詞に対し「ならば俺もやろう。お前を
「冒険者の仕事は街道に出没する魔物や山賊の討伐、迷宮での素材収集ならびに迷宮討伐と言われているが、その本質は『まだ知られていない世界を拓くこと』だと私は思う」
窓口にミリアがいたので、進路相談を持ち掛ける。すると顔を青くして上司に報告した。その結果、本来休みのはずのギルドマスターがわざわざやってきて、ヴァイスの相談に乗るということになったのである。アウグストは苦笑いをしながら事情を説明した。
「進路相談というのは、簡単に言えば『冒険者を辞める』か『活動拠点を移す』かのどちらかなんだ。この一月ちょっとで目覚ましい活躍をしている冒険者から進路相談なんて言われたら、そりゃ慌てるだろ」
「そこまで深刻では無いんだがな。これから冒険者として何を目標としようかと、ちょっと思った程度なんだが……」
ヴァイスのふとした相談への回答が「未知を既知にすること」というものであった。アウグストは机の上に地図を広げた。
「例えばこのリューンベルクから北東に行くとアガスティア大山脈がある。一部は鉱山開発などもされているが、山脈全体を見れば全くの未踏の地と言えるだろう。強力な魔物が数多く出現することから、複数のダンジョンが存在しているはずだ。帝国の南は海だが、その向こう側は広大な大陸が広がっている。船を使って一週間ほどで、港町「ワーガスト」に到着するが、そこから先は荒涼とした砂漠地帯で、古代遺跡などがあるそうだ。これも殆ど調査されていない。帝国の南東は聖ファミリア教国領、西はルストハンザ王国がある。北方にはエルフ族の森「ルーン=メイル」があるが、更に北は所謂「蛮族地帯」と言われており、良く解っていない。帝国から交易路を東に進むと、香辛料栽培で栄える「カルマハーン王国」がある。だがその更に東には何がある? 幾つかの国々があるそうだが、これも不明だ。ゴールドシュタイン帝国が建国されてから八百年、生活圏を徐々に広げては来たが、それでも知らない世界に溢れている。強力な魔物や厳しい自然環境が、行く手を阻んでいるのだ。そうした世界に足を踏み入れる先駆者が、冒険者じゃないのか?」
ヴァイスは顎を撫でた。確かに「冒険者」という仕事を考えればそうだろう。だが自分はそもそも冒険者のつもりでDODをやっていたわけではない。自分は勇者や英雄という言葉に憧れ、最強を目指していた。襲われている無課金者を助けながら、ゲーム内でやりたい放題をやっていたPK者たちと数え切れないほどに戦った。幾つものダンジョンを攻略して経験値を積み、素材を集めて武器やアイテムを作り、更に課金ガチャの強化素材によって強力な装備を生み出した。総合戦闘力第一位「Grand Brave」、PKK回数一万回というのは、この世界に来る直前まで破られたことはない。全ては自分の「英雄願望」を満たすためにやったことだ。
「冒険か…… 俺は冒険がしたいのかな?」
悩むヴァイスに、アウグストが一つの提案を出した。
「ヴァイス。実はちょっと気になることがあるんだ。トマスから聞いているかもしれないが、ダンジョンに出現する魔物が強くなっている。何か理由があるはずなんだ。それを調べるというのはどうだ?」
「あぁ、確かに強くなっているようだな。そうだな。別のダンジョンを調べてみるのも良いか。アウグストには、原因について何か心当たりはあるのか?」
「想像もできん。ダンジョンは別名『大地の胃袋』と呼ばれている。手頃な魔物を出現させることで人を呼び込み、それを殺すことで糧を得ていると考えられている。あまりに強い魔物を出現させれば、誰も入らなくなってしまうだろう。現在、帝都のギルド本部に調査を依頼しているところだが、俺の知る限り、こんな事態は起きたことがない」
「魔物を出現させる仕組みが良くわからん。魔物は魔石によって出現する。強力な魔物を出現させたければ、それだけ大きな魔石が必要になる。何らかの原因で、魔石が出来やすくなっているのか……」
「いずれにしても、現時点では憶測の域を出ない。もし調べるのであれば、最近出現した北西のダンジョンを探ってくれないか?あそこはウィンターデンとの中間地点で公国の領外だが、街道にも近いため両都市で共同討伐隊を結成するという話が持ち上がっている。その先見を兼ねて調べてくれるのなら、ありがたい」
その後、ヴァイスとアウグストは世間話をし、それで別れた。この時点では、事態の深刻さについて理解をしていた者は、誰もいなかった。
ゴールドシュタイン帝国帝都レオグラードは、八十万人以上の人口を持つ大都市である。アガスティア大山脈から流れるテオ河の豊富な水源と豊かな土壌は、古来より農牧業を栄えさせていた。南の港町ラクールまで伸びる道路は南方物産と塩を運ぶ交易路であり、東方からはリューンベルクを経由して多種多様なスパイスが運ばれてくる。この巨大都市に拠点を構えるのが、冒険者パーティー「紅の騎士団」である。六色聖剣と同じ「オリハルコンクラス」の冒険者パーティーだが、その成り立ちは全く異なる。六色聖剣が多様な個性が集まった少数精鋭の「集団」であるならば、紅の騎士団は、皇立騎士学校を卒業した貴族の三男以下で構成された「組織」という色合いが強い。構成員も多く、資金力も豊富である。その組織を束ねるリーダーこそ、帝国内で最大の派閥を持つ「リヒテンラーデ公爵家」を出自とするアルフレッド・シュナイダーである。他のメンバーたちが皆「フォン(F)」が付く貴族なのに対し、アルフレッドは身分としては平民である。だがその父親は帝国最大の大貴族リヒテンラーデ家の現当主オットー・F・リヒテンラーデ公爵である。愛人との間に生まれた非嫡出子ではあるが、騎士学校を首席で卒業したこともあり、紅の騎士団のリーダーに抜擢された。まだ二十五歳の若き冒険者である。
「お久しぶりです。父上…… 一年ぶりですね」
リヒテンラーデ公爵家の別邸で、アルフレッドは父親と対面していた。父親であるリヒテンラーデ公爵は、白髪交じりの厳つい顔をした男ではあるが、決して情に薄い男ではない。何人かの愛人を囲い、婚外子もそれなりにいるが、生活に困らない程度の支援はしている。アルフレッドのように優秀な才能を取り立てる度量もあった。十年前に流行り病で母親を失ってから、年に一度の命日にこうして対面をしている。
「ヨハンナが死んでから、もう十年か。早いものだ。騎士団長の椅子の座り心地はどうだ?」
父親に促され、アルフレッドは対面して腰掛けた。別邸での非公式の面会である。父親譲りの灰色の髪を掻き上げ、アルフレッドは頷いた。
「騎士団といっても帝国騎士団ではなく、あくまでも冒険者集団ですよ。ですが座り心地は悪くありません。父上をはじめとして貴族の方々が支援をしてくださっているので、助かっています」
「お前が三代目の団長となってから、既に三ヶ所のダンジョンを討伐したそうだな。さすがは騎士学校を首席で卒業しただけはある。活躍を聞いたのか『紅の騎士団』に息子を入れてくれという要望が、儂のところに幾つか来ている」
「迷宮攻略は命賭けです。お引き受けする以上は、それなりの装備を整える必要があります」
「そうだろうな。取りあえず、入団にあたっては支度金を準備させよう。金貨千枚で良いか?」
「感謝致します。それだけあれば、高い効果付与が付いた装備も揃えられるでしょう」
「ウィンターデンの
「彼らのやり方は無駄が多すぎます。迷宮攻略に重要なことは徹底した情報収集と事前準備、そして組織的な戦い方です。数と資金力で勝る我が騎士団が、負けるはずがありません」
紅の騎士団はその豊富な資金力を活かし、他の冒険者たちに先にダンジョンに潜らせ、出没する魔物の情報などを収集していた。生活のために冒険者になったのではなく、名誉・名声のために冒険者となったのが紅の騎士団たちである。圧倒的な資金力によって高価な装備を取り揃え、領民を駆り出して補給路を確立し、必要ならダンジョン近隣から物資徴収までしていた。
シュナイダーには野心があった。アダマンタインクラスとなれば、いずれ貴族にもなれるだろう。母親の性である「シュナイダー」の前に
「帝都から東に数日のところに、新しいダンジョンが形成されたという情報が入っています。我が騎士団の名声を高めるための肥しとなってもらいましょう」
才能と、それに見合う野心に溢れる息子に、オットーは眼を細くした。
迷宮調査は、本来はシルバーからゴールドランクあたりの冒険者が引き受ける仕事である。素材採取や討伐が目的ではなく、出現する魔物や休憩ポイントの下調べの仕事だからだ。だが六色聖剣のリーダー、レイナ・ブレーヘンは調査依頼を引き受けた。その理由は「共同討伐隊」という話が持ち上がったからである。リューンベルクの
「そうよねぇ。『
アリシア・ワイズバーンが妖艶な笑みを浮かべながら冗談を言う。六色聖剣はこれまで、男と一緒にダンジョンに潜ったことはない。そんな必要も無かった。リーダーと副リーダー以外は
下調べはしていないが、全員が幾度も迷宮討伐を経験している。それなりの準備は出来ていた。だが階層を下がるにつれ、皆の顔が険しくなった。副リーダーのグラディスがレイナに問い掛けた。
「レイナ。気づいていると思うが、何か様子がおかしいぞ? 魔物が異常に強い」
「えぇ。妙だわ。さっき出たインプだって悪魔の中では最弱のはずなのに、私に斬り返してきた。一旦止まって、情報共有をしましょう」
地下五層でキャンプを張る。ミレーユが精霊魔法を使って警戒線を張っているため、魔物に急襲される恐れはない。ランタンを囲んで全員が情報を出し合う。最初に口を開いたのはルナ=エクレアであった。
「迷宮の魔素が濃くなっています。これ程の濃度は、見たことがありません。恐らく下層に何らかの原因があると思われます」
斥候役であるミレーユも頷く。
「精霊たちの様子も可怪しい。魔素が濃くなれば、それだけ魔物が活動的になる。きっと、そのせい」
全員の情報を共有し、レイナが決断した。
「戻りましょう。魔素が濃くなる原因が下層にあるのだとしたら、これ以上降りるのは危険だわ。ギルドに報告して、対策を練りましょう」
立ち上がろうとした時、ミレーユが震えた。
「何かが下から来る。危険、ものすごく危険……」
「……冗談、では無さそうだな」
グラディスが顔を引き締めた。ミレーユが真っ青になって身震いをしている。それは全員もすぐに察した。凄まじい気配が第五層に出現した。殺気と邪気が入り混じったような、これまでにない気配であった。
「な、何なのコレ……」
アリシアがガクガクと震える。レイナが怒鳴った。
「撤収っ! 急いで上がるのよ! 早く!」
全力でダンジョン内を駆ける。だが階段前の広い空間に出た時に、ソレと鉢合わせをすることになった。真紅の光が二つ、宙に浮いていた。やがてそれは形を現した。太く巨大な剣を持ち、二本の角を生やし、前身が体毛に覆われた牛のような顔をした魔獣が、そこに立っていた。グラディスが呟いた。
「オーク? ミノタウロスか? いや、違う! コイツは未知の魔物だ。全員構えろ! コイツは、とんでもなく強いぞ!」
「オォォォォォンッ!」
魔獣の咆哮が六名の美女を震え上がらせた。
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