第十七話 集会

   

 ニュース屋ディウルナ・ルモラが帰った後。

 ゲルエイ・ドゥは、みやこケンを元の世界へと送り返し、自分自身は、南中央広場へ向かった。今日一日休むのではなく、午前中だけ休みということにして、午後からは、いつも通りに占い屋を開くつもりになったのだ。

 いざ広場に着くと、

「やあ、おはよう」

「今日は遅いですね。もう『おはよう』って時間じゃないですよ、ゲルエイさん」

 顔なじみの露天商と挨拶を交わして、所定の位置で開業。客も来ないまま、しばらく、じっと座っていたが……。

「そろそろ、いいかねえ」

 ふと呟いたゲルエイは、立ち上がり、店を離れる素振りを見せた。

「あれ? ゲルエイさん、もう帰るのですか?」

 隣の店の商人が誤解して声をかけてきたが、そうではない。大事な商売道具の水晶玉を――裏の仕事でも使う水晶玉を――置いたまま、ゲルエイが帰るはずもなかった。

「いや、違うよ。ちょっとレグの顔を見てこようと思ってね」

「ああ、なるほど。今ならば、レグさんのところも、いてるでしょうからね」

 そう、野菜売りレグ・ミナの露店に客が来なくなる時間帯を、ゲルエイは待っていたのだ。昼下がりの今頃は、レグの一日の中で、最も忙しくない時間のはずだった。


 レグの店に行ってみると、案の定、ちょうど一人も客は来ていない状態だった。

 ゲルエイが挨拶するより先に、暇にしていたレグの方が、ゲルエイに気づく。

「ああ、ゲルエイさん! こんにちは!」

「やあ、レグ」

 レグは、妙に嬉しそうな顔をする。

「ゲルエイさん、今日は来ないのかと思いましたよ。昼前に立ち寄ったら、休業状態でしたから……」

「ああ、すまないね。今日は午後からの開業だったんだよ。どうせあたしの店は、一日中ずっと開けておくほど客も来ないからね」

 適当なことを言うゲルエイ。むしろ客が少ないからこそ、なるべく長く営業して、少しでも稼がなければならないのだが。

「そうだったんですね。それで、わざわざゲルエイさんの方から来てくれたのは……。やはり昨日の話ですか?」

 レグは、最後の部分だけ声のボリュームを落として、体もゲルエイに近づけた。周りから見たら、いかにも「他人に聞かれたくない話をしています」と丸わかりになるような有様だ。

 内緒話に慣れていないのだろう。心の中で苦笑しながら、ゲルエイは彼に応じる。

「ああ、その件もあるが……。むしろ、これのことを聞きたくて、来たんだよ」

 ゲルエイは、持参してきたものをレグに見せる。ディウルナが発行した大衆紙であり、『魔女の呪い? 友人に殺された少年!』という衝撃的な見出しが、一目でわかるように大きく記されていた。

「一体全体どういうつもりだい、レグ?」

「ああ、それですか」

 レグは、少し表情を暗くしてから、

「どうも何も……。そこに書かれている通りですよ、ゲルエイさん」


 この南中央広場で初めて会った時、ディウルナは「ちゃんと相手側にも取材した上で記事にする」と言っていた。だが実際に発行された大衆紙を読む限り、どこまで取材したのか怪しいものだ。少なくとも、今回の内容は、ほとんどレグの立場から、レグの訴えを載せる形になっていた。

 まず『魔女の遺跡』での肝試しから始まって、騎士学院の秋キャンプで起きた転落事故、そして最後はカモン川で水死したこと……。起こった出来事自体は、かなり客観的に書かれている。だが、最後の身投げの記述だけは曖昧になっており、はっきりと自殺とは断定していなかった。

 まるで「見えない誰かに突き落とされた」とも読めるような書き方になっている。『魔女の遺跡』の説明として『魔女』の呪いに関しても長々と――くどいくらいに――書かれているので、それが頭に刷り込まれた読者は「『呪い』が迫ってきて、それで川に落ちてしまったのではないか?」と思ってしまうに違いない。

 しかも、犠牲者ファバが呪われたのは、ファバ自身の意思で『魔女の遺跡』に出かけたからではなく、友人に誘われて出向いた結果だ、という点も強調して書かれていた。本当は行きたくなかったのに、半ば無理矢理、肝試しに参加させられた、という論調になっていたのだ。

 庶民の息子であるファバは、騎士学院では弱い立場にあり、騎士の息子たちから誘われたら、断りたくても断れない。そんな事情まで、丁寧に詳しく記されていた。

 だから、ファバが死んだ理由を騎士の息子たちに押し付ける形で、見出しも『友人に殺された少年!』となったのだろう。


「以前にディウルナさんが言ってくれましたよね、『広く大衆に相談しよう』って。実際、私の言いたいことを、こうして上手く記事にまとめてくれたのです。これで人々が私に賛同してくれるのであれば、やはり私が正しい……。つまり、息子は例の三人組に殺されたようなものだ、ということになります」

 レグの『まとめてくれた』という言い方には、彼がディウルナに感謝しているという気持ちが、よく表れていた。彼にとっては、ディウルナは、親切な好人物なのだろう。

 しかし、別にディウルナは、親切心から大衆紙を発行しているわけではないはずだ。ゲルエイが思うに、ディウルナがこうした論調に――レグ寄りの立場に――したのは、その方がセンセーショナルだからだ。民衆が飛びつきやすいからだ。

 この記事を出した後でゲルエイのところに取材に来たことからもわかるように、ディウルナは、今後も第二報、第三報と、このネタを続けていくに違いない。

 しかも、昨日ディウルナは、ゲルエイのことを「被害者でも加害者でもない、専門家寄りの立場」と評している。ディウルナは、それぞれの『立場』を意識した上で、記事を書いているのだ。

 ならば、これから続報の度に別の『立場』を示すこととなり、記事の論調も変わるのだろう。最後にはどのような主張になるのか、わかったものではない。

 だが、今その点を敢えてレグに指摘する必要もなかろう。ゲルエイは、自分の考えは隠したまま、レグに聞いてみる。

「みんなにファバの話を知ってもらって、みんなに同じ気持ちになってもらったら……。それで、あんたの気も少しは晴れるかい?」

 それならば、大衆紙のネタにされたことも意味がある、と思えるのだ。

 しかし。

「まさか。そんなわけないでしょう」

 レグの答えは、ゲルエイの期待とは正反対だった。

「広く大衆に支持されるのであれば……。それこそ、あの三人の罪が確定したようなものです。ますます『彼らは罰を受けるべき』という気持ちになります」

「そうかい。それが、あんたの気持ちかい……」

「私がディウルナさんに詳しい話をしたのは、息子の墓の前でのことでした。昨日、ゲルエイさんが帰った後でしたが……」

 では、あの後だったのか。やはり、レグを一人にするべきではなかった……。レグの言葉を聞いて、ゲルエイは少し後悔する。

「……ゲルエイさんに呪術者を探して欲しいという気持ちは、今も変わっていません。昨日の言葉通り、ほら、前金も用意してきましたよ」

 そう言ってレグは、後ろに隠しておいた革袋を――ずっしりと金貨や銀貨の詰まった袋を――ゲルエイに渡すのだった。


――――――――――――


「それで、お前は、それを素直に受け取ってきたのか」

 ゲルエイから話を聞き終わったピペタは、まず、そうコメントした。

 今、彼らは『幽霊教会』に集まっていた。街外れにある、打ち壊された教会跡地だ。完全な更地ではなく、建物は半壊した状態で残っているが、もう屋根は屋根として機能していない。

 すでに、時間は夜になっていた。だから、すっかり空も暗くなっているが、月明かりのおかげで、互いの顔は判別できる状態だった。

 ゲルエイ・ドゥは、かろうじて使えそうな長椅子に座っており、ピペタ・ピペトは、瓦礫の上に無造作に腰を下ろしている。みやこケンは、服が汚れるのも気にしないという顔で、埃だらけの赤絨毯の上に座り込んでおり、モノク・ローは、腕を組んだ格好で、壁にもたれて立っていた。

 ちなみに、今のモノクは、昼間に市内で見かけるような私服姿ではなく、夜の闇に紛れる黒装束――暗殺者スタイル――になっている。この集まりを「裏の仕事の一部」と認識しているからなのだろう。


「そうだよ。ただし、あたしが自分で仕事を引き受ける前金としてではなく、あくまでも『呪術者を探す』って建前でね」

 ゲルエイは、長々と事情を語りながら、レグから預かった金を、仲間たちの前に広げていた。ある意味、今すぐそれを分配して『仕事』に取り掛かることも可能な状況だ。

「ところで……」

 一通り話は終わり、今は、それぞれが考えるタイミングだ。そう判断したゲルエイは、ここで軽い疑問を提示する。

「今さらの質問かもしれないが、あんたは、何しに来たんだい? あたしは、仲間を集めたつもりだったんだけどねえ」

 ゲルエイの視線は、モノクに向けられていた。

 当のモノクが口を開く前に、険悪な空気になりそうなのを察して、横からケンが言葉を挟む。

「モノクお姉さんも、仲間って扱いでいいんじゃないですか? ほら、前に一度、一緒に仕事をしているわけですし……」

 しかし、むしろ逆効果だったらしい。

「あの時、俺は『今回限り』と言い切ったはずだがな」

「あたしも、そのつもりだったけどねえ」

 モノクとゲルエイが、二人して「仲間ではない」という宣言をする。

 女二人がそうした態度を見せる中、間に入るのは、男の役割だった。ケンに続いて、今度はピペタが口を挟む。

「まあ、待て待て。殺し屋を連れてきたのは、私だから……」

「ピペタがそう言うなら、ここは、あんたの顔を立てることにしようかねえ? はっきり指示しなかったから、あたしも少しは悪いような気がするし……」

 今回の集会は、ゲルエイが言い出したものだ。

 ケンは、いつものように彼女が召喚魔法で呼び出しており、ピペタに関しては、昼間の南中央広場で連絡を取る形だった。ピペタが見回りに来るのを利用するのだが、周りの目もあるため、あまり具体的な話は出来ない時もある。

 例えば、今日の場合、ピペタはゲルエイの占い屋に近寄らなかったので、ゲルエイは、遠くから目配せするだけだった。一応、ピペタが小さく頷くような仕草を見せたので、意図が伝わったことはわかったのだが……。

「おい、殺し屋。私に弁解させるのではなく、お前も、自分で説明しろ。お前はお前で、この集まりに参加した理由があるのだろう?」

 ピペタが水を向けると、モノクは、小さく頷いてみせた。

「俺は、もちろん仲間ではないが……。今日のところは、アドバイザーとでも思ってくれ」


「アドバイザーだって? 何を生意気な……」

 不満そうな顔をするゲルエイ。

 彼女は、内心で思っている以上に大げさに「殺し屋モノクを復讐屋の仲間として認めることは出来ない」という態度を示していたが、もちろん、モノクの裏稼業としての技量云々が問題なのではない。むしろ、それに関しては、一流の暗殺者だと承知している。問題は、主義主張が『復讐屋』とは合わないことだった。

 そして、今から「これは復讐屋の案件として相応しいかどうか」を話し合おうというのに、復讐屋の理念を理解できない人間が、的確な助言など出来るはずもない。ゲルエイは、そう思ってしまうのだが……。

「生意気ではない。俺は、俺の立場から、俺の意見を述べるだけだ。……そもそも、今回の話に、少しは俺も関わっているようだからな」

「どういう意味だい?」

 意外そうに聞き返すゲルエイに対して、モノクは説明する。

「貴様たちも会ったのだろう? あのニュース屋の女……」

 ニュース屋のディウルナ・ルモラが、少し前からモノクにつきまとっていたこと。モノクが取材を拒否し続けると「ならば代わりのネタはないか」と言ってきたこと。当たり前のようにモノクは「ネタは自分で探せ」と、はねのけたこと……。

 全て、ゲルエイには初耳だった。

「以前のニュース屋は、毎日のように俺のところに顔を出していた。それが、ここ三日くらいは、全く姿を見かけなくなっていた。俺としては、すっきりしていたのだが……」

 ここでモノクは、少しだけ、すまなそうな顔をする。

「……俺が追いやった結果、今度は貴様たちに迷惑をかけていたようだな」

「なんだい、その程度かい。それじゃ『関わっている』というほどじゃないし、あんたが気にするような問題とも違うね」

 ゲルエイは、即座にそう言いながらも、頭の中では、少し違うことを考えていた。

 きちんとモノクがディウルナの相手をしていれば――「他所よそでネタを探せ」なんて言わなければ――、ディウルナが南中央広場に来ることはなかったのだろう。その意味では、確かにモノクは、今回の話にディウルナが介入してきた遠因と言えるかもしれない。

 もちろん、ディウルナが関わろうが関わるまいが、ファバが呪われて――あるいは「呪われた」と思い込んで――死んでしまったことに変わりはない。だが、ディウルナがいなければ関係者だけで収束するはずだった話が、大衆紙で大きく取り上げられたことにより、広く衆目にさらされることになった。

 これから、さらに話が大事おおごとになるのは間違いない。特に、レグの「息子が死んだ責任は、三人の友人にある」という考えも記された以上、それに対する大衆の反応次第で、レグの気持ちも大きく揺り動かされることだろう。

 ゲルエイたちにとっては、三人組に対するレグの『恨み』が重要なのだから、その点に影響しそうなディウルナは、厄介な存在になるのだった。


「とりあえず、今回の一件における殺し屋の立場は理解したよ」

 本当は十分に理解なんてしていないが、話を先に進めるために、ゲルエイは、そう言っておく。そろそろ前置きは終わらせて、本題に入ろうと思ったのだ。

「それで、みんなは……。どう思う? 今回のレグの頼み、復讐屋の仕事として引き受けるべきかねえ?」

 ゲルエイの問いかけに対して、真っ先にケンが、挙手すると同時に意見を表明する。

「午前中に召喚された時に、ゲルエイさんには先に言ってありますが……。僕は、引き受けてもいいと思います。ただし、相手を殺さない程度の復讐にとどめる、という条件付きで」

 あらかじめ聞いた話なので、ゲルエイとしては、意外性はない。むしろ彼女がここで知りたいのは、ピペタの意見だった。ついでに、復讐屋の理念とは別の観点からはどう思うのか、殺し屋モノクの考えを聞いてみたい気持ちもある。

 だが、あくまでもモノクは『ついで』に過ぎない。だからゲルエイは、今夜の本命であるピペタに顔を向けた。

「それで、あんたはどう思う?」

 ゲルエイだけでなく、全員の視線がピペタに集中する。

 それを受けて、彼は、ゆっくりと口を開いた。

「話を聞く限り……。形式としては、引き受けやすい案件と言えるだろう。依頼人に対して、こちらの正体を明かさずに済むからな」

 依頼人レグは、三人を呪いたいということで、呪術者を探している。だから、復讐屋ではなく呪術者がやったということにすればいい。形としては「呪いによる罰がくだった」と見えるようにして、復讐を実行すればいいのだ。

「最初に『引き受けやすい』という言葉が出るということは……。ピペタおじさんも、この話を復讐屋の仕事にしよう、という方向性ですか?」

 確認の意味でケンが尋ねると、ピペタは、首を横に振った。

「いや、そういう意味ではない。引き受けるかどうか、に関しては……。安易に結論を出すべきではない、という意見だな」

「ほう? ピペタは、何を迷っているんだい?」

「私が問題にしたいのは、依頼人の気持ちだ」

 ゲルエイの質問に対して、即答するピペタ。

「どういう意味だい? レグが三人組を恨んでいるのは確実だよ」

「ああ、それは私も理解している。しかし、依頼人が標的の三人をどこまで恨んでいるのか。それがはっきりしない限り、どの程度の『復讐』をするべきか、どの程度で依頼人の気持ちに応えたことになるのか、わからないだろう?」

 ゲルエイが思った以上に、ピペタは、具体的なポイントを考えているようだった。それも、きちんと復讐屋として「大切なのは依頼人の『恨み』の気持ち」という前提に則している。


「ちょっと意見していいか?」

 ここで、殺し屋モノクが話に割って入った。

「ああ、もちろんだよ。あんたは自称『アドバイザー』だからね。ぜひ的確な助言をいただきたいものだよ」

 承諾したゲルエイは、やや慇懃無礼な言い方になっていたが、特にモノクは気にした様子もなく、話し始めた。

「この事件……。貴様たち三人は、立場が三者三様になっていないか? そこの少年は中立としても、ゲルエイは依頼側、ピペタは標的側になっていないか? それぞれ、個人的に親しいのだろう?」

 モノクが指摘したのは、依頼人レグとゲルエイが露天商仲間であること、そしてピペタがアリカム・ラテス――標的の一人であるフィリウスの父親――と知り合いであることだった。だから二人は判断に私情を挟んでしまうのではないか、と言いたいらしい。

「そんなことはないね。それならば、あたしは真っ先に『この仕事を受けよう!』と言ってるさ。こんなに悩むこともなくてね」

 まずはゲルエイが否定し、続いてピペタも、モノクの言葉を却下する。

「私も、個人的な感情は抜きで意見を述べたぞ。そもそも私は、アリカム隊長だけではなく、野菜売りのレグとも顔見知りだからな。どちらかに肩入れするなんて、ありえない」

 ゲルエイから見て、ピペタとレグは、あくまでも『顔見知り』に過ぎない。それよりは同僚であるアリカムの方が、ピペタには近い存在のはずだが……。いや、ピペタは人付き合いが苦手という部分もあるから、同僚の騎士アリカムとも、それほど親しくないのかもしれない。

 そう考えたところで、

「一度だけ、アリカム隊長の屋敷に招かれて夕食をご馳走になったことはあるが……。アリカム隊長との付き合いは、それくらいだな」

「おや、あんたにしては珍しいねえ」

 ゲルエイは、ピペタの言葉に軽く驚かされる。同僚の家で一緒に食事だなんて、普通の者ならいざ知らず、ピペタとしては『親しい』部類に入りそうだ、とゲルエイは思ったからだ。

「いや、安心してくれ。もしも復讐屋としてアリカム隊長やその息子を始末しなければならないとしても、私は、躊躇なく仕事を遂行できる自信があるくらいだ」


「話を飛躍させるんじゃないよ。標的は、そのアリカムって騎士じゃなくて、息子のフィリウスとその仲間たちだ。それに『殺すほどの話じゃない』っていうのが、あんたやケン坊の意見だろう?」

 物騒なことを言うピペタを、やんわりと諭すゲルエイ。

「少し違うぞ、ゲルエイ。私が言ったのは、それ以前の段階だ。どの程度か不明ということだから、まだ『殺すほどの話じゃない』とも言いきれない。『今はもう少し様子を見よう』ということだな」

 要するに、現段階では「答えは保留」ということなのだろう。一応ピペタもレグと知り合いなのだから、この件を意識した上で、あらためて観察することも可能だ。ピペタ自身の目で色々と見極めてから、態度をはっきりさせたいらしい。

「ああ、わかってる。あたしも似たようなものだからねえ。だからこそ、どうするべきか答えが決まらず、こうして相談を持ちかけてるんだよ」

 あらためてピペタとゲルエイが意見を示したことで、ケンが、話をまとめようとする。

「では『依頼を受けよう』派は僕だけですか。それも、条件付きで……。ならば、ゲルエイさんやピペタおじさんの言う通り『もうしばらく様子を見よう』という方針で決まりですね」

「そういうことになるねえ」

 ゲルエイも、ケンの総括に賛成する。

 結局、モノクの「引き受けるべきか否か」という考えは聞けなかったが、それはそれで構わないだろう。

 ゲルエイがそう考えていると、

「話の本題が終わったのであれば、この機会に、この案件と関連して、少し三人に聞いてみたいことがあるのですが……」

 ケンが、別の話題を持ち出したい様子を示した。

「なんだい? 言ってみな」

「ああ、構わないぞ。別に私は、急いで帰るべき用事もないからな」

 ゲルエイとピペタに続いて、モノクは無言で頷いてみせる。

 それを見て、ケンは口を開いた。

「では……。今回の案件、発端となったのは『魔女の遺跡』で肝試しをしたら呪われた、という話ですが……」

 ケンは、話の大前提が気になっているようだ。

「そもそも、この世界に『呪い』って実在するのですか? 誰かが『呪われた』と言い出したら、それは笑い飛ばすような話ではなく、真剣に対処しなきゃいけないような厄介事やっかいごとになるのですか?」

   

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