第六話 絡んできた女

   

「広く大衆に相談する……?」

 野菜売りのレグ・ミナが反応したのを見て、ニュース屋の女――ディウルナ・ルモラ――が、顔をニンマリとさせた。

「そうです。この話を大衆紙で広めたら、きっと、みなさん色々と思うところが出てくるでしょう。中には、呪いを打破するための有効な手段を知っている人も、いるかもしれません」

「やめときなよ、レグ」

 ディウルナの言葉を、ゲルエイ・ドゥが遮った。自分の占い屋の前で、レグが怪しげな女に勧誘されそうなのを、ゲルエイは放っておけなかったのだ。

 ゲルエイには、レグに親切にする義理はない。だが、同じ露天商の仲間として、彼がトラブルに巻き込まれるのを止めたいという人情くらいはあった。

「相手はニュース屋だよ。他人の醜聞や噂話を面白おかしく書き立てて、小さなネタも大きく膨らませるのが商売だ。あんたの息子さんの話も、どんなふうに捻じ曲げられて書かれるか、わかったもんじゃない」

「あれまあ、ずいぶんな言い草ですねえ」

 ディウルナが顔をしかめる。彼女の職業に対する攻撃的な言葉だったのだから、当然の反応だろう。

「あっしを、そこらの三流ニュース屋と一緒にして欲しくはないですね。あっしの発行する大衆紙は、きちんと取材した上で載せる記事ばかりです。事実無根の内容など、一切ございません」

「謳い文句は立派だがねえ……。あんた、わかってるのかい?」

 このディウルナが、レグの話をどこから聞いていたのか。それはゲルエイにはわからないので、ゲルエイは、噛んで含めるように、ポイントを告げることにした。

「この『魔女』の呪いの話は、レグの息子だけでなく、彼の騎士学院の友人たちが関わってる。つまり、お偉い騎士様の息子さんたちの問題だ。迂闊に大衆紙のネタにしていい話じゃないんだよ」

 ゲルエイは本来『お偉い騎士様』なんて思っていないのだが、話の都合で、そう強調するのだった。


「ええ、わかっておりますとも。ですから、こちらで話を聞いた後は、他の息子さんたちの親御さんのところにも、取材に行くつもりですよ」

「何を言ってるんだい。あんたみたいなニュース屋ごときが顔を出したところで、騎士様は、取材なんて受けやしないさ」

「それは大丈夫です」

 ディウルナは、自信満々の顔で、ポンと胸を叩いた。

「こう見えても、あっしは、少し前まで行政府で働いていましたからね。当時のツテを使えば、騎士様に取材するくらい、簡単ですよ。むしろ人脈がある分、市井の人々よりも取材を受けてくれる可能性は高いかも……」

「行政府で働いてた、って? ということは、あんた……」

 どういう理由で辞めたのか知らないが、そこから街のニュース屋に転身したということは、行政府でも広報関係の仕事をしていたのだろう。そう思ったゲルエイは、さらに一歩、考えを推し進めて、推測を口にした。

「……もしかして、魔法が使えるのかい? 書写魔法スクリバムの使い手かい?」


 街で配られる民間の大衆紙にせよ、行政府が発行する公的な広報紙にせよ。

 そうした刊行物は、魔法式印刷機で刷られるのが一般的だ。この世界には、電動の印刷機なんて存在しないからだ。一応、初歩的な活版印刷の技術もあるのだが、扱いが面倒なので、魔法式の印刷機が発明されてからは廃れてしまっている。

 さて、この魔法式印刷機。魔力を――人々が潜在的に持つ魔力を――流し込むことで、発した言葉が紙に記載されるという、便利な機械だ。だが『魔法式』である以上、当然、その基盤となった魔法が存在する。それが書写魔法スクリバムだった。

 魔法使いが激減したと言われる現代、呪文を詠唱することで書写魔法スクリバムを発動できる人間も、けして多くはない。だから行政府でも普通に魔法式印刷機を活用しているわけだが、広報関係の部署で働く者の中には、貴重な『書写魔法スクリバムの使い手』が多いと聞く。

 それに、その仕事を辞めてすぐに、街でニュース屋を開業するのであれば……。高価な魔法式印刷機を個人で用意しなければならないが、最初のうちは、それを購入することも不可能だろう。比較的安価だったはずの活版印刷機だって、今では懐古趣味者レトロマニアの御用達となってしまい、それほど手に入れやすい代物シロモノではなくなっている。

 だから、少なくとも最初だけでも、印刷機なしで大衆紙を発行しなければならない。つまり、本人が書写魔法スクリバムを使えないと、民間ニュース屋に転身して独立するのは難しいのだ。

 そうした事情を考慮して、ゲルエイは、ディウルナを『書写魔法スクリバムの使い手』と推測したのだった。


「へえ。さすがは占い師ですね。当て推量にしては、的確に事実を言い当てましたね」

 ゲルエイとしては、当て推量ではなく、せめて洞察力と言って欲しかったところだ。だが、それを口にするわけにもいかない。それでは「日頃の占いも、洞察力で見抜いているだけであり、本当に『占い』が出来るわけではない」と認めているようなものだから。

 一方、レグは、

「魔法が使えるのですか。凄いですねえ」

 ゲルエイの言葉を聞いて、ディウルナの評価を上げてしまったらしい。

 そんなレグの態度を見てディウルナも、今が好機と思ったのだろう。自分を売り込み始めた。

「あっしのこと、見直したでしょう? いい加減な三流ニュース屋なんかじゃないって、わかっていただけたようですね。ならば……」

 この話の流れは良くない。レグはディウルナに説得されて、その結果、呪いの話が大衆紙を飾ることになりそうだ。

 そう思ったゲルエイは、別方面からレグの説得を試みる。

「やめときなよ、レグ。本当に『魔女』の呪いなのかどうか、まだ確定したわけじゃないんだから。今の段階で話を広めたら、それこそ、他の親御さんたちを――お偉い騎士様たちを――怒らせることになるよ」

「……え?」

 ゲルエイに言われて、きょとんとするレグ。呪い肯定派のはずなのに、そのゲルエイが「『魔女』の呪いとは限らない」などと言い出せば、意見がブレているようにも聞こえるのだろう。

 その点に注意して、ゲルエイは言葉を補足する。

「そもそも、呪いが実在するという話と、あんたの息子が呪われたという話は、イコールじゃないだろう? 呪いが実在するからと言って、あんたの息子の件も呪いとは、言い切れない」


 こんな抽象的な言い方では、通じないかもしれない。だからゲルエイは、具体例を出すことにした。

「例えば、あんたが目を閉じた状態で、酸味の強い果実を口にしたとする。あんたの中で『酸っぱい果物』と言えばレモンだから、あんたは、それをレモンだと思った。でも目を開けて見たら、レモンではなくオレンジだった……」

「まあ、なんとなく言いたいことはわかりますが……。ちょっと例え話としては、ピントがずれていますね」

 軽く笑うレグ。ディウルナも、横から茶々を入れる。

「レモンとオレンジの味を間違える人なんて、あっしの知り合いには、一人もいませんなあ」

「まあ、今の例えが少しずれているのは、あたしも認めるよ。咄嗟に考えた例題だから、そこは勘弁しておくれ。だけど……」

 一緒になって苦笑していたゲルエイは、真面目な顔に戻して告げる。

「……あたしの言い分を理解してもらえたなら、それでいいさ。とにかく、まだ『魔女』の呪いとは決まっちゃいない。だから、今は話を大事おおごとにしない方がいいよ」

「でも……。息子のファバは、幽霊らしき人影を見た、って言っていますから、やはり『魔女』に呪われたんじゃないかと……」

「ああ、それだ。そんなの、ただの思い込みだよ」

 ゲルエイは、笑い飛ばすような口調で、レグに告げる。

「ファバは呪われたと思い込んでいたから、何でも幽霊に見えたんだろう。それこそ『幽霊の正体見たり枯れ尾花』だ。山登りの途中なら、木の枝とか葉っぱとか、人の形っぽくて、風で動くものも多いだろうしねえ」

「じゃあ、白い人影が迫ってきた、という話は……」

「おおかた、風で飛んできた葉っぱか何かじゃないかねえ? あるいは、落ちていたゴミとか。紙や袋状のゴミなら、ちょうど、ふんわり近づいてきそうだよ」

「なるほど……」

 ゲルエイの話を聞いて、レグは、考え込むような表情を見せた。

 あと一歩だな、と思ったゲルエイは、今さらながらに尋ねてみる。

「なあ、レグ。あんた自身は、幽霊らしき人影を見たのかい?」


「……え?」

「秋キャンプまで追っかけるほどの幽霊なら……。本当にファバが、そんなものにつきまとわれてるなら、おそらく自宅の周りでも出没してるはずだ。ファバと一緒に生活してるあんただって、その幽霊とやらを目撃してないとおかしい」

「言われてみれば……。いや、私は全く見ていませんよ。ということは……」

 レグはゲルエイの話に納得したようだが、しかし、このアプローチは、ゲルエイとしては失敗だった。ディウルナが介入する余地を作ってしまったからだ。

「その理屈は、変じゃないですかねえ? あっしには、筋が通っていないように思えますが……」

「どういう意味だい?」

 顔をしかめながらゲルエイが尋ねると、ディウルナは平然とした顔で返す。

「だって、そうでしょう。呪われたのは息子さんであって、こちらのレグさんではない。そういう悪霊のたぐいは、普通、呪われた当人にしか見えないものなのではありませんか?」

「そんなの、その『呪い』の種類によるんじゃないかねえ」

 一応ゲルエイは反論するが、心の中では「ディウルナの解釈の方が、筋が通っている」と思ってしまう。レグに目を向ければ、彼もディウルナの言葉に対して「それもそうだ」という顔になっていた。

「ともかく……」

 この議論には勝った。そう言わんばかりの態度で、ディウルナが、強引に話をまとめようとする。

「この場で三人だけで話していても、何も決まらないでしょう? ちゃんと関係者の証言を集めて、もっと広く大衆の意見を求めるべきですよ。だから……」

「おいおい、勝手に話を進めないでおくれ。あたしは、それが問題になるって言ってるんだよ。お偉い騎士様も関わるのだから、不確かな話を大事おおごとにするのは危険なんだよ」

「いえいえ、大衆紙に載せるのを危険扱いするのは、それこそ勝手な言い分であって……」

「まあまあ、二人とも。ここは冷静に……」

 女二人がヒートアップするところで、レグが一人で何とかしようと口を挟んだ、ちょうどその時。

「おい、何を揉めているのだ?」

 その場に、さらに別の声が飛び込んできた。


――――――――――――


「ピペタ隊長! あの占い屋、今日は繁盛してるようですね」

 タイガが話しかけてきた時。

 いつものようにピペタ・ピペトは、三人の部下――ラヴィとウイングとタイガ――を連れて見回りをしており、担当区域の一つである南中央広場に入ったところだった。

 ゲルエイの店を指し示すタイガの言葉で、ピペタも、そちらに目を向ける。

「ほう……」

 いつもはゲルエイが一人でポツンと客待ちをしている占い屋なのに、今日は珍しく、客らしき者が二人もいる。男と女が一人ずつだ。

 しかし。

「本当に客なのでしょうか」

 ウイングが、無慈悲な指摘を口にする。

「少なくとも男の方は、野菜売りのレグではないですか? ならば、同じ広場の露天商が立ち寄って話をしているだけ、という感じに見えますが……」

「言われてみれば、そのようね。もう一人の女の方は、見たことない人みたいだけど……」

 ラヴィも、ウイングの意見に賛同する。

 レグという男は、この広場でゲルエイが占い屋を始めるずっと前から、露店で野菜を売っている商人だ。ピペタや部下の三人にとっては、顔見知りの一人だった。

「しかし、レグだって、自分の店があるはずだろう? それを放り出して占い屋へ行くとは……」

 ピペタの呟きを聞いて、ラヴィが少し意見を変える。

「では、きちんとした用件があって、客として占ってもらっているのかもしれませんね。あの占い師って、結構よく当たる人みたいですから」


 ラヴィは、ピペタが知るだけでも、ゲルエイに二回も占ってもらっている。その内一回は、ピペタも立ち会っていたのだが、ゲルエイは適当に当たり障りのない言葉を並べていただけだ。それを「よく当たる人」と評価してしまうとは……。

 どちらかといえば聡明な女性騎士であるラヴィも、占い師ゲルエイの前では、ある意味、騙されているのかもしれない。ただし、特に害はないようなので、あえてピペタは指摘しようとも思わないし、そんなラヴィをむしろ「可愛い女だ」と感じてしまうのだった。

「まあ、客であれ、冷やかしであれ……。店が賑わうのは、良いことではないかな」

 ピペタが、総括するような口調で言うと、

「そうですね。世の中には『サクラ』という言葉もあるくらいですし」

 ウイングも頷き、これでゲルエイの店に関する会話は、とりあえず終わりとなった。

 さすがに偽客サクラ扱いは酷いだろう……。ピペタは内心で苦笑しながら、最後にもう一度、ゲルエイの占い屋を一瞥する。

 占い師ゲルエイと、野菜売りのレグと、見知らぬ女性の三人。彼らは、一見したところ、仲良く談笑しているような感じだった。だが、よくよく見れば、あまり『仲良く』という雰囲気でもない。議論が白熱しているようでもあるが、少し見方を変えれば、二人の女がレグを挟んで口論しているようにも見える。

「あれれ? なんだか揉めているようにも見えますね……」

 ピペタがそちらを見ていたので、ラヴィやウイングとは違って、まだタイガはゲルエイの店に注目していたらしい。占い屋での揉め事を、四人の中で真っ先に指摘したのは、タイガだった。

「そのようだな。ならば、私たちの仕事だろう」

「はい、ピペタ隊長!」

 都市警備騎士として、喧嘩の仲裁をするために、四人はゲルエイの店へと向かった。


「おい、何を揉めているのだ?」

 ピペタが声をかけると、ゲルエイたち三人は、ビクッと驚いてから、ピペタの方に振り向いた。三人とも話に夢中になっていて、ピペタたち四人の接近が見えていなかったらしい。

「あれまあ、騎士様。いつもご苦労様です」

 広場で開業している一人の占い師として、ピペタたちに接するゲルエイ。

 彼女に続いて、

「騎士様、いつもの見回りですか? ならば私は、自分の店に戻ります」

 レグも挨拶して、その場から離れようとするが……。

「いや、ちょっと待て。帰る前に、ここでの事情を説明して欲しい。お前たち、何を揉めていたのだ?」

 ピペタが、レグを引き止めた。おそらくレグも当事者の一人なのだろうから、彼がいる間に、話を聞いておきたいのだ。

「いえいえ、揉めてなんていませんよ。あたしが占い屋としてレグの相談に乗っていたら、余所者よそものが一人、勝手に話に入ってきただけです」

 三人を代表する形で、ゲルエイが説明を始める。ただ単に「相談に乗って」と言うのではなく、一言「占い屋として」と加えることで、彼女は「商売の邪魔をされた」というニュアンスを含ませていた。

余所者よそものとは酷いですねえ。あっしも、この街の人間なのに……」

 邪魔者扱いされた女は、口では憤慨した様子を示しながら、態度や表情は平然としている。

「確かに、ここ南中央広場は、あっしのテリトリーではありませんが……。一見いちげんさんは余所者よそもの扱いというのが広場のルールだというなら、あっしも今後は、足繁く通うとしましょうかねえ。『一見いちげんさん』から、一人前の立派な市民になるためにも」

 そんなルールなどあるわけないと知りつつ、彼女は飄々と語った。


 確かに彼女は、ピペタたちにとって見慣れない人間だ。二十代半ばくらいの若い女性であり、スーツの上下で身を固めた感じからして、きちんとした職業の人間に見えるが……。

 そう思ったピペタは、彼女に尋ねる。

「それで、お前は何者だ?」

「ああ、申し遅れました。あっしはディウルナ・ルモラという名前の、しがないニュース屋です。今もネタ探しの途中で、こちらのレグさんから話を聞こうとしていたのですが……」

 ディウルナは、ここでゲルエイに対して迷惑そうな視線を向けて、

「この占い師さんが、あっしの取材の邪魔をしましてねえ」

 つまり、ディウルナとしては「自分の方こそ商売の邪魔をされた」と言いたいらしい。

 そうピペタが理解したところで、ディウルナが、奇妙な言葉を口にする。

「せっかく、騎士学院の方々も関わる『魔女』の呪いについて、話を聞いていたのに……」

 騎士が四人も来たので彼らの興味を引こうというのが、ディウルナの魂胆だったのだろう。そして彼女の目論見通り、ウイングとラヴィが、ディウルナの発言に反応を示した。

「騎士学院が関わる話なのですか……?」

「『魔女』の呪いですって?」

 ニンマリとした顔で、ディウルナが大げさに頷く。

「そうです、そうです。騎士学院の学生さんたちが『魔女の遺跡』で肝試しをしたら、呪われてしまって、秋キャンプで怪我をしたそうで……。あっしは、その話を、こちらのレグさんから詳しく聞くところだったのです」


「『魔女の遺跡』ならば、立ち入り禁止とされていたはずですが……」

 彼女の言葉に、さらに反応するウイング。

 彼に続いて、

「禁止区域に足を踏み入れたから、バチが当たって呪われたのかなあ?」

 タイガも話に引き込まれたかのように、意見を口にしていた。

 そんな騎士たちの様子を見て、ゲルエイが顔をしかめている。あえて口を挟もうとしないのは、もう「この話の流れは止められない」とでも考えているのだろうか。

 視界の隅でゲルエイを捉えて、ピペタは、そんなことを想像する。とりあえずピペタは、少し話の展開を見守るつもりだったが、ウイングがピペタに話しかけてきた。

「ピペタ隊長。偶然とは思えませんね」

「……ん? 何の話だ?」

 ピペタは、ウイングの頭の回転には時々、ついていけなくなることがある。いや『頭の回転』という言葉は、良いニュアンスの意味に聞こえるかもしれないが、ウイングの場合は両方だ。突拍子もない、妄想のような方向性の場合もあるのだから。

「ほら、私たちも今朝『騎士学院の生徒が立ち入り禁止の場所へ出向いた』という話を、聞いたばかりではないですか。アリカム隊長から」

「あっ」

 思わず叫んだのは、ピペタではなく、野菜売りのレグだった。

 その場の全員の視線が、一斉に彼の方を向く。

 皆に注目されて、少し気まずそうな態度を見せながら、レグが口を開いた。

「いや、その……。もしかして『アリカム隊長』というのは、アリカム・ラテス様のことでしょうか?」


「そうだが……。アリカム隊長を知っているのか?」

「はい、騎士様」

 ピペタに頷くレグ。彼がそれ以上説明するより早く、事情を察したゲルエイが、レグに話しかける。

「なあ、レグ。ひょっとして、そのアリカムって騎士様が、あんたの息子を突き飛ばしたと思われている学生の、親御さんかい?」

「そうです。先ほどの話に出てきた、フィリウスさんの父親で……」

 その『先ほどの話』を聞いていないピペタは、さっぱり事情がわからない。それでも言葉の端々から、少なくとも一つの事実だけは理解できた。レグの息子とアリカムの息子が『魔女の遺跡』で肝試しをしてトラブルに巻き込まれた、ということだ。

 そうやってピペタが考えている間に、ディウルナは、満足そうに頷いていた。

「なるほど、なるほど。もう一人の中心人物……。その親御さんは、アリカム・ラテスという名前の騎士なのですね」

 次の取材のターゲットは決まった。彼女は、そう思ったのだろう。

「では、これ以上ここで、みなさんをお騒がせするのも、あっしの本意ではありませんから……。あっしは、この辺で、おいとますると致しましょう」

 そう言い捨てるとディウルナは、ピペタたちが止める間もなく、風のように立ち去ってしまうのだった。

   

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