バレた
「理彩、実萌奈も久しぶり!」
「おひさー」
「実萌奈ちょっと焼けた?」
夏休みが終わった。今年は宿題も終わってるし、文化祭の方の準備も順調だし、調子がいいね。ってこれはフラグにならないよね?
「うん、お盆当たり母親の実家に帰省してて、一日日焼け止め塗り忘れた」
「うわ、それ大変じゃん」
「というか、咲肌白すぎ」
「まあこれでもロシア人の血が流れてるからね」
「何かロシア語喋ってみてよ」
「えー、イッヒリーベディッヒ」
「それはドイツ語」
くだらない会話をしながら鞄から宿題を取り出す。
「麻希ー、数学写させてくれ」
「実萌奈は相変わらずやってないのかい。まあ、いいけど。ほら、咲も」
「私やってあるよ?」
自慢げに数学のノートを見せびらかす。毎年のように宿題を残しているわけではないのだよ、麻希君。
「あの咲がやってくるとは、天変地異の前触れか!?」
「それは酷くない!?」
「咲も実萌奈と同じで宿題やってこないタイプ?」
「そそ」
おいこら麻希。理彩に嘘を吹き込むんじゃない。少なくとも今年はやって来た。
「今年は違うよ。というか徹夜で和馬にやらされた」
「なるほど。それなら納得」
「というかうちもできる幼馴染欲しい!」
女三人寄れば姦しいとは言うけれど、4人集まると壮観だな。
「というか、今年の軽音部は豊作だよね。まあルックスだけなら新野先輩のところも悪くはないけど」
「そう言えば、真琴と柚樹がつきあいだしたんだよね」
そんな、何ともない話だけれど、やっぱり楽しいなって思ってしまう。私の大事な親友たちだもんね。
「お前ら―、見てないで助けてくれ!」
「ふっ、今日の私は勝者の特権が許されているのさ」
実萌奈がそんなことを言うが、今年は余裕を持っていた。つもりだった。
だけど、そんな自信を教室に入って来た七菜子先生の一言でバキバキに砕かれた。
「みなさんおはようございます。さて、夏休み明けということで今日はテストを行います」
……まったく対策していない。
*****
「……ないわー」
「咲お疲れ」
結局先生に怒られた。いやまあ、宿題忘れた私が悪いんですが。
「家庭科の宿題あったのとか忘れてたし」
「まあ、それはどんまい。でも私なんて味噌汁作っただけだよ?」
理彩にそう励まされる。理彩は料理苦手だったか。
「まあ、料理の写真はあるから思い出して書くだけなんだけど、そんなのあるなんて覚えてないよー」
「記憶喪失なってたって言ってたもんね」
「それは関係ないけど」
全部やり切ったと安心していたところにこの仕打ち。酷いと思う。まあ自分が悪いんですが。
「というか、私はテストが惨敗だった」
「それな」
「いや、あれくらいは勉強してなくても解けるでしょ」
「これだから天才は」
理彩も麻希と一緒で頭がいい。麻希よりは落ちるけど。逆に実萌奈は私と同じくテストの点が悪い。
「現国がやばいよ、七菜子ちゃんに怒られる」
「というか、現国は重点的にやらないとだめなところでしょうが」
現国は私でさえ真面目にやってる。
「じゃあ咲はわかったの!? 大問4の問1!」
「えっと、ああうん。確かウ、だよね」
「たぶんあってるよ」
麻希に言われて安心する。ここはちょっと自信があったんだけど言われると急に自信を無くしてくるものだ。
「でも、咲よくわかったね。それって、ちょうど記憶喪失になった時にやってたんじゃなかった?」
「え、あれ、そうだっけ!?」
麻希に指摘されてギクッとした。ヤバイ、私は忘れているはずなのに。大丈夫、落ち着けって。
「だとしたら、家で復習するときに覚えたとか、そんなんじゃないかな? 和馬に叩き込まれたし」
「ふーん、そうなんだ」
理彩がちょっと疑わしそうな目を向ける。大丈夫だって、落ち着け。別にそれくらいのこと覚えていても普通じゃないか。私は記憶喪失になっているはずなんだ。怪しまれるような行動をとるな。
「まあ、そういうこともあるって。知識と経験って別のところに記憶されることもあるらしいし」
「それより、2人ともライブすごかったよね」
麻希も実萌奈もありがとう。さて、話題戻されないうちに乗らなくっちゃ。
「ありがとー。七菜子先生も来てたんだよね」
「そそ。入口でばったり出会って。驚いた」
「というか、席足りなかったし」
そうなんだ。私たちは客席の方に行ってないからそっちの様子はよく知らなかった。
「七菜子ちゃん放送部じゃなければ軽音部入ってたって言ってたし」
「そんなこと言ってたんだ」
「ちなみに、文化祭で咲ボーカルやります?」
「マジで!?」
「まじまじ」
理彩が驚く。一応私作曲やるし、ベースもギターもコントラバスも弾けるんだよ。コントラバス持ってないけど。でも私は結構すごいんだよ。
「いや、咲は結構抜けてるから」
「酷い言い草だな」
「ごめんごめんって、でも楽しみにしてるのは本当だから」
まあ、許す。文化祭のライブも頑張らないとね。
「というか、麻希も咲もどんどん遠く行ってるような気がするよ。うちら2次で負けてるのに」
「メジャーデビューしたらチケット送ってよ?」
「アハハ、ないって」
笑って否定する。というか、そうなったらバンド再構成されそう。男子のところと混ざってベースには末広先輩が入りそうだ。
「何歌うの?」
「ツンデレ少女のラブソング」
「咲ツンデレだもんね」
「誰がだ!」
理彩と実萌奈がどっと笑う。つられて麻希も笑った。いやまあ、ツンデレなのかもしれないけど。そうやって明言されるのはなあ。
「楽しみにしてるよ」
「あとライブだと和馬のいじられ方が面白かった」
「ああ、あれね」
ちょっと前に和馬がシスコンだっていう噂が流れたから、というか私が流したから、結構悪ノリしちゃったんだよね。
「『妹賛歌』は笑った」
「いやー、渾身のネタを込めたかいがあったってものよ」
「シスコンボーカルここに健在ってね」
「あれ?」
口走った台詞に理彩が顔を変える。何かがおかしいとでもいうみたいに。
「咲、ちょっといい?」
「理彩、どうかしたの?」
「ちょっと聞きたいんだけど、無理やり新野先輩が割り込んできたんだよね?」
まあ、実際はそうだけど、対外的には2組だけで抜け駆けってのは悪いから別のことにしてるんだよね。
「違うよ、和馬のとこと企画して、時間も余るしせっかくだからどうですかって持っていったの。言わなかったっけ?」
「そう言えばそんなこと言ってた」
実萌奈も言う。まあ、実際は理彩の方が正解なんだけど一応先輩だから顔を立てないといけないし。
「咲、やっぱり、本当は記憶喪失になんてないんでしょ」
「うん。ってええ!?」
驚いて固まる。
麻希と実萌奈もびっくりしたのか口を半分開けて止まっていた。
「やっぱり、そうなんだ」
何か言わなきゃ。適当に相槌返しちゃっただけで記憶ないとか。よく聞いてなかったとか。訂正しなくちゃ。早く、早く。出てくれ。
だけど、突然喉がからからになってしまって。
「咲、サイテー」
ヤバイ。本当は記憶喪失になってないことがバレた。
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