幼馴染っていう関係取ったら何も残らない
「しっかし、うちの男子って結構レベル高いよね」
「連城はかなり残念だけどね」
「それは確かに」
まあ、実際和馬も真琴もイケメンだし、性格も悪くない。連城は別に不細工ってわけじゃないけど、性格で損してる感じかな。末広先輩はあれでかなりかわいい系で、さっきも私たちよりスタイルのいい人たちに逆ナンされてた。慣れているのかあしらっていたけど。
今元気そうに泳いでいるのが和馬と深雪と連城。後真琴と柚樹は2人だけで仲良くしていた。私と麻希と末広先輩は砂浜でぼうっとしている。
しかし、一番露出度が高いのが連城なのはいいとして、低いのが男子の末広先輩というのはどういうことなのだろう。普通女子の方が面積広くなるんじゃないのかなあ。和馬も真琴も上にTシャツ着てるし。
「利哉の肌の白さが羨ましい」
「それな」
「僕は肌あんまり強くないから焼くわけにはいかないんだ」
手首から足首まで覆った格好で末広先輩が言う。肌白い所とかすごく女子力高いよね。女装させたら似合うんじゃないかという思考を一瞬で消し去る。
「しかし、皆さん元気ですなあ爺さんや」
「そうですなあ婆さんや」
麻希がふざけて来たのでふざけ返す。まあでも、私そこまで体力ないからね。あ、ちょっと喉乾いたかも。
「おーい、お前ら―! なんか飲み物買ってくるが希望あるか―!」
「俺と柚樹はスポドリで!」
遠くで遊んでいる5人に向かって叫ぶ。真琴が叫び返してきた。和馬の方は、特に反応なしか。まあ聞こえてないのかもしれないけどそこまで泳ぎに行くのめんどくさいや。
「麻希と末広先輩はどうする?」
「ありがとう。ビールで」
「お茶で」
「わかった。麻希は麦茶な」
泡立てたらちょっとはビールっぽく見えるかもしれない。私も麦茶にするかな。
砂浜が熱かったのでビーチサンダルを履く。海に入ってないと体は冷えるけど濡れてないから足の裏が熱くなる。
「咲、俺も行く。1人じゃ大変だろう?」
「あ、ありがとう」
追いついてきた和馬が水を滴らせながら言う。ひょっとして深雪と連城の希望を聞いて来てくれたのかな。そんなことを考えていると、名前も知らない女性が私の方を指さしていた。
自分が彼氏持ちで胸が大きいからって人を笑わないで欲しいものだよね。
ふと思う。私と和馬って恋人同士に見えているのかと。前にも考えたことはあったけど。
年頃の男女。水着、海水浴場。仲睦ましげ。腕を組んでいるわけじゃないけど。自分で言うのもアレだけど美男美女。幼馴染。見られる要素はそろっている。
私は、うれしいのかな。和馬とそんな風に見られるのが。
答えはたぶん嬉しい。和馬のことは好きではあるし、実際は違ってもそんな風に見られているのはうれしいって思う。
だけど、同時にそんな風に見ないでとも思ってしまう。たぶん、誰から見られてもそういう風に認識されてしまったら、きっと引き返せないから。うれしいなんて思いを楽しみつつも、私はただの幼馴染としか思ってませんよなんて言うポーズを取り続けなきゃならない。
本当に何やってるんだろうな。
和馬のことが好きだ。一緒にいたいし恋人になりたいしめちゃくちゃにされてもいい。そんな気持ちもある。だけど、和馬といつまでもこの関係を壊さないためには、近寄っちゃならない。これ以上、和馬のことを好きになっちゃいけない。好きなのに。本当に私、バカだなあ。
そんなことをおくびにも出さないけどね。ずっとこのままでいたいんだ。こんなところで壊して溜まるか。つい最近、思い直したんだから。
「和馬、深雪と連城は何がいいか聞いてる?」
「ん。ああ。レモンソーダ2つ、あと俺はスポドリで」
「了解」
自販機に千円札を吸い込ませる。1枚じゃ足りないので小銭も。そう思ったところで和馬が500円玉を自販機に入れていた。
そういう何気ない優しさが私の心を縛り付けるんだ。心地いいと思ってしまうんだ。
自販機からペットボトルを取り出す。暑いなんて言いながら麦茶で頬を冷やしてみた。顔の赤みを隠したくて。
気づいちゃいけない。気づかないことにしないといけない。でもそれでいいじゃないか。ずっとこのままでいられるのなら、これ以上を求める必要はないじゃないか。そんなことを自分に言い聞かせて。
「ぬるくならないうちに渡さないと」
「だな」
なんてね。そんなマイナス思考ばっかりでいるわけじゃない。
「おーい、買ってきたぞ!」
「お熱いカップルだことグヘッ」
連城の顔にレモンソーダをぶん投げる。ああ、当たったのは足だったか。まあ炭酸だしそれでよし。
*****
「それじゃあ、また明日」
「ちゃんと家に帰れよ。それじゃあ」
疲れた麻希に声をかけて別れる。
「よし帰ろっか」
「楽しかったな」
「そうだね」
ここから先は和馬と2人きりの旅路。正直言って私も体力の限界である。まあでも、家に入ってしまえば安全地帯のはずだし、たぶん。ここさえ乗り切ればいいのだからあとひと踏ん張りだ。
会話の主導権を握ってしまえばこっちのものだ。話しかけさせなければいい。
「もう夏も終わりだねー。かなり速かった気がする」
「夏が終わったら文化祭だぞ」
「その次はハロウィンライブ、クリスマスってことかあ。ちょっと前まで小学生だった気がするのになあ」
「中学生飛んでる」
でも、実際に中学時代の思い出ってあんまりないんだよね。スイ部大変だったとか、一応元カレがいた程度で。高校に入ってからその何倍も濃い生活を送ってる気がする。
「また行きたいね」
「ああ。来年もいけるといいな。再来年になると利哉先輩卒業しちゃってるし」
「それに私らも受験生だから。あ、でも新しい後輩は言ってくるから8人じゃないかもしれないよ」
「それは楽しみだな」
来年かあ。みんなどうなってるんだろう。まあたぶんバンドは解散してないだろうから、きっとまた集まれるよね。問題は、和馬との関係がどうなっているかだ。
正直なところ、こんな中途半端な関係がそんなに長く続くなんて思えない。いつまでも綱の上にはいられない。だけど、もう少し、もう少しだけこのままでいて欲しい。そう思ってしまう。それが1年なのか2年なのか、それとも1週間なのかは自分にすらわからないけど。出来る限り。もっと遠くへ。
「それで? 私の水着はどうだったのかな? 詳しく聞かせてもらってないけど」
「か、かわいかったと思うぞ」
あーあ。なんでよりによってそんな危険な話題を振るかなあ。もうすぐ分かれ道だけどさ。
「そうじゃなくて、どこがよかったかを聞いてるの」
「その、白い肌に合ってて。それに、胸も気にならな……」
「フン!」
拳を振りぬこうとして、寸止めにした。まあ、私から話題振ったし。聞いちゃダメだって思っても褒められたいなんて思いは止められない。
「それと、ちょっとあの晩のこと思い出し……」
「フン!」
「ゴフッ」
「忘れろって言ったでしょ!」
今度は寸止めに失敗した。
「お互い酔ってたんだし、そんなことでぎくしゃくするのもあれでしょ? だから貸し1つでなかったことにしようって言ったのに」
「ごめんなさい。心に刻み付けます」
「よろしい」
でもまあ、少しだけ遠回しに本音を言えたから、結果オーライかな。
「私たちから幼馴染っていう関係取ったら何も残らないじゃん。なら、ギクシャクしない方がいいでしょ。そういうこと。それじゃあ、また明日ね」
「ああ、また」
少しだけ、本音を話して和馬と別れる。大事な思いは隠して。
ねえ、和馬。それとも和馬はこの関係が壊れた方がいいの? 壊してまで、そんなに大事なことなの? 私和馬のこと嫌いになりたくないよ。
それは、和馬も一緒だよね?
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