「巨乳は養殖物もあるけど貧乳は天然ものだけなんだぞ」

「しっかし晴れてよかったねー」

「前みんなで遊びに行ったときは思いっきり雨降ってたからね」

「梅雨なのに何も考えてなかった誰かさんのせいでね」

「その節は本当にごめんなさい」


 麻希、その件については本当に反省しているからもう言わないでくれると嬉しい。


 今日は軽音部の8人で海に行く。その途中で麻希と合流した。和馬とは家を出てすぐに一緒になったし。


「まあでも、楽しみだよね」

「これが終わったら夏休みもほぼ終わりだし、そうなると次は文化祭だな。宿題はちゃんとやってるか?」

「ちゃんと終わらせたよ!」


 まるで毎年のように残してるみたいな言い草じゃないですか和馬君。実際毎年のように残してるんだけど。


「ところで、文化祭、そっちは何やるか決まってるのか?」

「えっと、1曲はsqollさんので、もう1曲は私がボーカルをやる曲なんだけど……」

「もう1曲がまだ決まってないんだよね」

「咲ボーカルやるの?」

「まあ、ね。作詞もしたし、これは私の曲だって思ったからさ」


 これだけは私の声で歌いたいって、そう思ったから。まさか文化祭でやる羽目になるとは思ってなかったけど。それに和馬に直接は無理にしても歌でなら伝えられるような気がしたから。なんてね。本当はそうでもして気持ちを吐き出さないと溜まり過ぎてしまいそうなだけだ。


「それじゃあ、3曲目は俺がボーカルやろうか? ほら、『5つの果実』みたいな感じで」

「いいね。よしそれに決まり」

「ええ!?」


 和馬がボーカルやるの? ってことは私がバイオリンで麻希がベースでってことになるから。というか、それ用の曲は『5つの果実』以外ないんだけど。


「あれ、咲ダメだった?」

「ダメってわけじゃないんだけど」

「そういうわけだから咲に作曲頼めるか? いろいろ注文つけたいんだけど」

「いいじゃんいいじゃん。3曲ともボーカル違うってのも面白そうだし」

「というか私が作曲するの? 今から? あと1か月くらいしかないけど」

「よし、そういうことで決定!」


 麻希が言う。まあ、別にいいけど。でもそれは大変だなあ。


「それで、どういう曲調にするの?」

「バラードで」


 即答される。これ絶対考えてたんじゃないか。まあバラード作るのは苦手じゃないんだけど。


「いろいろ注文つけたいんだけどいいかな?」

「まあ、いいけど。それで、どういう歌詞にするつもりなの? 決まってる?」

「それは秘密で」

「ええ!?」


 雰囲気がわからないと作り辛いんだけど。だから注文つけたいっていうこと?


「それじゃあ頑張っってね。咲」

「麻希が作曲やってくれたら楽なのに」

「だって私馬鹿だからそんなことできないし」

「私より成績いいくせに!」


 自分を馬鹿だと抜かすその減らず口はどこのどいつだ。引っ張ってやる。


「ほら、電車来たぞ。いいから乗るぞ」


 チェッ、まあ仕方ない。



 *****



 海水浴場も天気は晴れだった。こっちだけ雨とかだったらどうしようと思ってたんだけど晴れでよかった。雨だったら麻希に雨女認定されてしまう。私雨女じゃないよね?


「それにしてもさあ」

「麻希、どうかした?」

「いやあ、柚樹って本当にいいスタイルしてるなあって思って。ちょっとよこせ」


 ああ、確かに。というか私も羨ましいし。ちょっとよこせとは確かに思うがこの後の現象が予想できるのでやらない。怖い。


「お・ま・え・は! アイアンクローを食らいたいか!」

「だが断る。私は何としてもかいくぐってその不埒なものをもんでやる!」

「お前は親父か」


 そうして麻希が柚樹の腕をかいくぐろうとして、実際ちょっとかいくぐった後で肘鉄を食らって倒れた。そのままアイアンクローを施される。この未来が見えたから私は参加しなかったんだ。


「ほら、お前ら。もう男子たちが待ってるから行くぞ」

「はーい」


 不承不承と言った感じで柚樹が麻希を離す。しかし、親父でも麻希でもないけど柚樹のスタイルっていいよねと思ってしまう。白いワンピースタイプなのに胸が大きいのわかるし、眼鏡と会うね。逆に麻希はスラッとしてて黄色のビキニがよく似合ってることにしておく。まあ実際似合っているところは本当だし。深雪はと言えば、ラインの隠れる大きなやつを。肩幅とアンダーがあるから太って見えるのを気にしているみたいだ。


「それじゃあ行きますか!」

「そだね」


 麻希が大手を振って更衣室から出ていく。男子がどんな反応をするか楽しみだね。


「待たせたー?」

「いや、待ってない」


 真琴がそう言う。まあ、待たせた自覚はあるんだけどね。麻希も口を開く。


「どう、似合ってる?」

「まあ、似合ってると思うよ。咲も、すごくかわいい」


 麻希は末広先輩狙いじゃなかったのかと思いながら和馬の感想を聞く。というか、和馬さん、あなた水着を買った時に一緒にいましたよね。それで試着した姿も見ましたよね。まあかわいいって言葉は2度目でもうれしくないわけじゃないんだけどさ。


「どう? 真琴、似合ってる?」

「ああ、とっても似合ってる、ぞ?」


 それと、とりあえずバカップルは置いておこう。あれは見るだけ毒だ。な、麻希?


「それじゃあ、場所取りに行こうか」

「それなら末広先輩と康太が取ってくれてる。末広先輩は寝てるかも」

「昨日夜更かししたって言ってたもんね」


 お姉さんに何かやらされたんだっけか。せっかくだから麻希膝枕してやれ。そんな視線を向けてみる。


「おーい、来たぞー」

「おお、待ってた、ぞ!?」


 連城の視線がある一点で固まる。より具体的に言うならば私の左側にいた柚樹の、私とは違ってある膨らみで。麻希が柚樹を庇い、真琴の手が連城の顔を覆う。


「お前が見ていいものじゃない」

「なんでだよ!」

「柚樹は俺の彼女だ。俺には柚樹を守る義務がある」


 柚樹、うれしいのはわかるけどここは別の人もいるんだからさ。


「柚樹の胸を見てもいいのは俺だけだ」

「なんでだよ、巨乳は男のロマンだろ! 見て何が悪い! それに女子とは言え麻希や咲のまな板なんて!」


 ピキッ

 麻希の足が落ちていた枝を踏む。麻希と目を合わせ頷いた。


「やっておしまい!」


 柚樹が言う。この瞬間柚樹巨乳私たち貧乳の目的は一致した。すなわち、連城を懲らしめるという1点において。その後何があるかは後になって見ればわかる。


「うわやめろ! そんな貧乳になんか群がられても何も痛い痛い痛い!」


 柚樹の次にボーリングの強い私のアイアンクローだ。かなり痛いはず。ついでに麻希が関節技をかけている。胸に当たってるけど何も感じてない様子なのがさらに拍車をかけているみたいだ。


「バカだなあ康太は。そんなこと言ったらこうなることくらい分かってただろうに」

「うう、痛い」


 和馬がそんな声をかけたところで連城を離す。くたっと敷いてあったレジャーシートの中に倒れこんだ。そこへ和馬が教え諭すように言う。


「大体何が巨乳は男のロマンなんだ。いいかよく聞け。まな板? ペチャパイ? 上等じゃないか。むしろそちらこそが魅力だと言ってもいい」


 我慢だ我慢。一応和馬は擁護ようごしてる。それに、私のことも言ってないから。麻希を押し留める。

 というか、男子というやつはどいつもこいつも。


煩悩ぼんのうに迷わされたお前に至言をくれてやる。巨乳は養殖物もあるけど貧乳は天然ものだけなんだぞ。そうやって慎ましやかな胸を気にして恥じらうところとか、めちゃくちゃ萌えるだろうが! しかもスレンダーで男装もできるしかっこよくもなれるんだぞ!」


 麻希を留めていた腕が下りる。男装カフェにスカウトされたことがあるんだよ私は!


「麻希や咲を見てみろ! そうやって慎ましやかな胸を誤魔化そうといろいろ……」

「煩悩に迷わされてるのはお前だろうが!」


 許すまじ。アイアンクローを食らわせてやる。それと麻希手伝って。


「ぎゃああああ!」

「そうだ、麻希変わって」

「え、あ、うん分かった」


 お前が魅力的だと言った胸がどれだけ悲しいものかわからせてやる。


「え、がは!?」

「咲、それは……?」


 どうだ和馬、痛いだろう。お前の後頭部が今当たったのが褒めたところだ。どれだけ悲しいか。


「咲の胸、最高です……」

「咲、それ傍から見てると恋人に胸押し当てたようにしか見えない……」

「ふぇぇ!?」


 え、いや、あの、そんなつもりじゃ。なかったんだけど。


「とりあえず、お前ら乳繰り合うのはいいがせっかく海に来たんだ。ビーチバレーでもしようぜ」

「そうだね、麻希組もう!」


 深雪の一言で麻希の手を取る。和馬はふらふらしているみたい。別に、そんなつもりでやったんじゃないから!



 この後、私と麻希で連城と和馬のペアをビーチバレーでぼこぼこにした。

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