きっといつか作るから
本当なら、ボウリング場に来るはずはなかった。梅雨のくせに雨なんて考えてなかったので。なので、ここまでに必死に案を練った。そして導き出した結論がある。それは、常に別の誰かと一緒に行動していれば、和馬は告白を
でも、誰かに見られている中で告白ってすごく難しいと思うんだ。私だったら、校舎裏でとか、屋上でとか2人きりになった状態でしたいって思うし。あ、あくまでも仮定の話だよ! 別に、私がするとかじゃないから。からかわれるのも嫌だし。というか、麻希がいたら絶対茶化すと思う。私が第三者だったとしても、からかっちゃいそうだ。だって、その空気がすごい居辛いと思うし。
「よし、それじゃあとりあえず男子と女子に分かれて2レーンでいいよね。というか、咲聞いてた?」
「あ、ごめん、聞いてなかった」
ぼうっとしてて麻希の説明聞き逃してた。というか、いつの間にボウリング場ついたんだっけ。
話を聞くに、男女で別れて試合をするらしい。あと、負けた人は1位の人の靴代おごりだそうだ。まあ、200円だから、アイスと同じくらいだ。あ、お茶買ってこよう。それと、トイレも。
「あれ、先輩9ポンドなの? 軽くない?」
「あんまり力強くないしね。それに、これでもアベレージ120あるから」
「かなりやばい、俺100越えたことないし」
「俺、実は初挑戦」
あれ、和馬そうだったっけ? 前うちの家族と和馬と神楽ちゃんで遊びに行ってボウリングしたような気がするんだけど。って、こっち見て笑いやがった。嘘ついたのか。性格悪いやつめ。
ちなみに、勝負は男女別だ。流石に男子の力にはかなわない、ような気がする。
「こんなことなら、マイボウル持ってくればよかった。13ポンドのやつ」
「柚樹そんなの持ってるの?」
「マイシューズも持ってるよ。と言っても、おじいちゃんからのもらい物だけど」
それは知らなかった。だから握力が強いのか。
さて、私は実は結構重いのが好みなんだよね。16は、ちょっと辛いか。15ポンドにしよう。
「咲それ重くない?」
「私、あんまり回転かけないから。コントロール重視で威力を出そうかなって」
「私は6ポンドで」
「それ子ども用だよ?」
麻希のボケにツッコむ。ちゃっかり9ポンドを確保してるし。後半疲れてきたら14に変えるとしよう。さて、和馬、負けないからね。私の個人的なライバルは和馬だ。150くらい出したら勝てるんじゃないかな。ハイスコアなら余裕で越えているからね。
*****
「なぜ……、だ」
「いや、絶対玉が重すぎるんだって」
5フレーム目の2投目、ピンに当たらない。というか、まだストライクもスペアも1回も取れてない。
「でも、前回13使ってたから、2ポンドくらいあげてもいいかなって思ったんだよ!」
「いや、上げちゃダメだろ」
ちなみに現在のところ柚樹が一歩リード。麻希が2位で私と深雪が最下位争いをしている現状だ。というか現状私が最下位だ。大丈夫、これくらい、これくらいすぐ逆転できるはずだし。
「というか、13ポンドにしなって。玉に振られてるよ?」
「うう、そうします」
ありがたく柚樹からのアドバイスを受けることにする。背後でガコンとピンを弾き飛ばす音が響いた。ストライクとかすごいなー。恐らく柚樹の圧勝だろうななんて、ボケッと思う。
「あ、ちょっとトイレ」
「それじゃあ私も」
誰かと一緒にトイレに行けば、和馬と2人きりになることはない。なら、逃げ切れる。そう踏んだんだけど。
「いや、もうすぐ回ってくるから、投げ終わったらにしたら」
「ガーン」
ええ、それじゃあ和馬と一緒になるかもしれないじゃん。というか、それを避けたかったから柚樹と一緒に行こうと思ったのに。
「ほら、13ポンドの玉取ってくるんでしょ。行った行った」
もう、仕方ない。きっと真琴と2人きりになりたいんだな。素直に祝福してやるからとりあえず行ってこい。そしてそのまま帰ってこなくていいぞ。そしたら最下位は免れることができる。我ながら酷い思考をしてるなあ。
13ポンドの玉を取りに行く。結構使用頻度多いはずなのになんでちょっと遠い所にしかないんだろう。あと、15ポンド返しに行くのがすんごい大変だった。
「ほら、咲順番だよ」
「任せろ。俺に本気を出させるとはやるな、お前たち」
「いや、咲今最下位だけど」
クッ、いつの間にか深雪もスペアを取っていた。だが、私はまだ本気を出してないだけだ。本気を出せば、こんなもの、コンナモノ。
「すぐにターキーを取ってやる」
コントロール重視で放り投げたボールは上手くヘッドピンに吸い込まれ、ストライクの文字が掲示板に踊った。
*****
「咲が強いのはわかってたけどこれほどとはね」
「むしろ和馬こそ頑張ってるんじゃない?」
2回戦、成績の良かった上位2名ずつのチャンピオンシップマッチだ。
ちなみに女子からは1位の柚樹と途中から急激に成績を伸ばした私がランクイン。男子は和馬と末広先輩だ。前和馬とやった時は私が余裕で勝ったのに。悔しい。だが、今のところ和馬にギリギリ得点で勝っている。このままなら2位にランクインできそうだ。さっきもストライク取ったしね。
「さっすが、咲。貧乳は運動神経がいいね」
「麻希と大差ないだろうが! というか、1位の柚樹は胸大きいし、今それ言うなよ!」
麻希のバカ! なんでこんな時に限ってそんなことを言うんだよ! 緊張の糸が切れそうになるんだけど。なんとしても和馬に勝ちたいんだって。私の精神安定的に。今そういうことを言われると疲労で倒れそうなんだけど。
「あ、そうだ。それじゃあ1位の人は4位の人に、2位の人は3位の人に言うことを一つ聞かせられるってのはどう? 面白そうじゃない?」
「私はまったく面白くない!」
「え、面白そうじゃん。ね、柚樹」
「俺も賛成!」
ちょっと、参加せずに喧嘩してる人は黙っててくれないかなあ。というか、それ私にまったくメリットないじゃん。今のところ和馬に言うこと聞かせられそうだけど、やることなんてないし。というか、和馬と2位争いをしているわけで、負けたら言うこと聞かされるんじゃないですか。そんなノーリスクハイリターンな勝負受けるわけないでしょ。違った、ハイリスクノーリターンだ。
傍から見てる麻希とか真琴とかには面白いかもしれないけど、こっちはこれからの学校生活の安寧がかかってるんだぞ。負けられるか。というか受けられるか。
「よし、それじゃあ末広先輩に言うこと聞かしちゃうぞ」
「え!? 僕!?」
「よし決定!」
ちょっと柚樹!? 自分が今1位だからって何調子乗ってんのさ?
「なしなし! 今のなし!」
「はいはい、咲の出番だよ、ほら行ってこいって」
「ええええ!?」
麻希に押し出される。うわ、ヤバイ緊張してきた。というか、ここにきてどっと疲労が出てきたんですけど。あんまり体力ないし、ちょっとやばいかも。でも、和馬に勝たないと。あ。
ガコーン
「ガータだね」
「ちょっと、麻希が余計なこと言うからこんなことに!」
「関係ないもん。ほら、2投目2投目」
「麻希のバカ!」
*****
「勝った」
「負けた……」
膝をついて転がり込む。くそう、途中から12ポンドに玉替えたのに。麻希が余計なことを言ったせいで一気にストライクが出なくなっちゃったじゃないか。あのまま行けば、あのまま行けばひょっとしたら柚樹に良い所まで迫れたと思うのに。ちなみに柚樹は168点で余裕の1位だった。私は138点でギリギリ3位。4位に近いという意味でギリギリ。あ、4位になればよかったんじゃんチクショウ。
「よーし、それじゃあ末広先輩に何をお願いしようかな?」
「え、ちょっと何か怖いんだけど」
すまん、末広先輩。私フォローに回る余裕ないや。麻希あたりが適当に頑張るはずだから。というか、和馬になんていう顔をしたらいいんだ。とりあえず床に顔向けてるけど。あ、やばい涙出そう。
「それじゃあ、末広先輩のおごりでエアホッケーしましょう」
「はふ、よかった」
「次、和馬ね」
「もう、煮るなり焼くなり好きにしろ!」
手をバタンと投げ出して横になる。もういい、さよなら、私の学園生活。このまま和馬と気まずい関係になってバンドもバラバラになるんだわ。というか、まじで涙出てきた。
「あれ、咲大丈夫? いや、別にそんなひどいことを……」
「酷いことするつもりだったの!? もう食べるなりなんなり好きにしなさい!」
「いや、別にそんなつもりじゃ」
狼みたいに食べるつもりなんでしょ。もういいもん、諦めたもん。
麻希が何か楽しそうに言ってるけど、知らないもん。さあ、さっさとギロチンを落としやがれ。ほら、早く。
「えっと、それじゃあ、その、俺にも歌を作って欲しいかな? えっと、俺専用の」
「ええええ!? いや、あの、その」
そ、それは完全に予想外の方向にボールを投げたな! というか、え、ナニソレ? あ、でもちょっと助かったかも。って何赤らめてるの? 俺頑張って恥ずかしいこと言ったみたいになってるの? というか、麻希もちょっと面白そうな顔をしてるし。
「あ、その、出来ないことはないけど、他にも採譜とかバンド用の作曲とかあるし、その……」
「ああ、ごめん。そりゃそうだよね。作曲って大変だもんね」
「そうじゃなくて!」
あれ、反射的に叫んだんだっけ? というか、私何を言いたかったんだろう。っていうか。
「その、大変だからいつになるかはわからないけど、その、それでもよかったら、作るから。別に、和馬のこと曲にするのが嫌だってわけじゃないから!」
「ホント咲ってめんどくさい」
「うるさいなあ!」
めんどくさいのは自分でもわかってるから! それに、言うこと聞いたんだからそれでいいでしょ! 時間があるときにするから。
「柚樹、ちょっとトイレ」
「ってええ!?」
柚樹を引っ張り込む。もう、ちょっと恥ずかしすぎる。逃げよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます