友達以上恋人未満の関係に意地汚くしがみついてしまう

 テストが終わり、軽音部の8人で遊園地に遊びに行くことになった。

 いや、した。


 これには、ある作戦があるのだ。その名も『え、なんだって作戦』。

 うん、ネーミングセンスについては聞くな。私だって、曲のタイトルはいいのがつけられるんだよ! 緑一色リューイーソーの名付け親は私だしね。だけど、猫の名前とかぬいぐるみの名前とかはすごく、ものすごく苦手なんだ。あと読書感想文。馬鹿だから、っていうのもあるけど。

 それはともかく、作戦の概要だけど、これはすごく簡単だ。遊園地はうるさい。万が一、和馬と2人きりになったとして、まあ麻希がいるしたぶん2人きりにはさせられるんだろうけど。でも、うるさくて、聞こえなければいいのだ。ジェットコースターの近くに行くとか。あるいは、実際に聞こえても聞こえないふりをする。それでいい。間違っても2人きりでお化け屋敷にはいかない。

 変に律儀な和馬のことだ。真琴の馬鹿に載せられて告白しようとするのは間違いない。それに、タイミングを探してる感じはピリピリしている。だから、そのタイミングを潰せばいい。


 ……そう、思っていたのだけれど。



 *****



「雨だね」

「雨ですね」


 雨が降っていた。


「梅雨明けまだだからね」

「だねー」


 待ち合わせのターミナル駅のホームは地下だったから気づかなかったけど、目的地の最寄り駅は思いっきり雨でした。止みそうにない。

 というか、家出たときから雨だったから嫌な予感はしてたんだよね。私何やってるんだろう。

 だって、和馬からの告白をどう受け流すか考えてなかったんだもん。


「どうしてくれるのよ! ジェットコースター止まっちゃうよ!」


 バラバラと傘に雨がぶち当たる。麻希の一言が無情にも私の心を切り裂いた。この雨じゃあアトラクション中止になりそうなのも多いし、楽しめるやつが少なくなっちゃう。


「これじゃあ、末広先輩と2人乗りできない」

「いや、僕絶叫系は無理だから」


 麻希、ちょっと黙ってくれ。今算段を考えているから。


「というか、遊園地にしようって言いだしたの誰だよ」

「私だよ反省してるよ悪かったよ!」


 真琴、私だって反省してるんだからこれ以上言わないでくれ。というか、どうしよう。雨だから人は少ないけど、今から別のところ行く?


「まあ、せっかくだし屋内でも遊べるところあるからさ。そうしよ?」

「柚樹ありがとう!」


 流石我が親友。ありがとう、今日は柚樹の恋路を応援するよ! いけずな麻希と違って柚樹は優しいし、真琴とピッタリだと思うな。


「まあ、天候ばっかりは仕方ないか。近くにボウリング場もあるみたいだし早めに切り上げてそっち行く?」

「そうしよっか」

「麻希もありがとう! 素敵、愛してる!」


 流石、さりげなくフォロー入れてくれるところとか、かっこいいと思います。末広先輩頑張れー。連城は知らん。もう、勝手にしやがれ。未来のことは未来の自分が考える。というわけで今日ははっちゃけて遊ぶぞ。


「あんまり人いないからすいてるみたいだね」


 屋内のジェットコースター的なものに最初に乗ることになった。全員シングルライダーで並んでるけど、これなら団体で並んでもよかったかも。あんまり人がいないアトラクションならすぐだろうし。あとは、待つ場所が外じゃない方がうれしい。


「末広先輩、大丈夫ですか?」

「たぶん、大丈夫。人に酔っちゃって」

「あー、確かに末広先輩って貧弱そうなイメージあります。よかったら使います?」


 コンビニでお茶を狩った時の袋を渡しながら言う。流石に吐かれたら困るし。少ないと言っても並んでるわけで。


「流石に大丈夫だって。一応もらっとくけど」


 やっぱり、8人で来たんだし、楽しみたいからね。真琴と柚樹の関係とか、麻希と末広先輩がどうなるかとかも気になるけど。え、連城? あいつは知らん。


「誰から行く?」

「僕ちょっと最後で」

「私も利哉が心配だし、後でいいよ」


 お、早速下の名前で呼びますか。別に恋人ってわけじゃないのに。というか、麻希は誰でもいいから付き合いたいって言ってなかったっけ。


「じゃあ、俺行きます! 柚樹もどう?」

「俺も俺も!」


 いや、連城そこは空気読もうよ。そんなんだからいつまでたっても独り身なんだぞ。私のことは棚に上げるとして。


「じゃあ、柚樹、真琴、連城、和馬、私、深雪、末広先輩、麻希の順番でいいかな?」


 末広先輩をラストにするのは心配だから、最後にはあれでいて責任感の強い麻希を。何となく連城を男子で挟む。カップルが隣に来るように配置、と。

 別に、和馬と一緒ってのが嫌なわけじゃない。気の置けない仲だから、一緒にいてすごく楽しいって思える。とても頼もしいし、頭がいいし、イケメンだし、私の話も聞いてくれるし。本当に私にはもったいないくらいだって。だから、幻滅させてしまうんじゃないかって思って、友達以上恋人未満の関係に意地汚くしがみついてしまうんだ。

 ダメだね、今はとりあえず、楽しまなきゃ。


「それじゃあ、お先に行ってくるね」

「あ、アイス買っといて―。蒸し暑いから」

「5000円のでいい?」

「安いやつ!」


 深雪が柚樹に頼み事。あ、私も欲しいかも。オレンジアンドショコラにしようかな。というか、考えている間に先行っちゃった。どうやらシングルライダーって言いながら真琴と2人きりらしい。頑張れ真琴。


「咲、私の分のアイスも頼んでいい? ラズベリーチーズケーキで。利哉もどう?」

「えっと、どうしよう」

「じゃあ、クッキーアンドクリームお願い」

「了解」


 というか、了解しちゃったけど末広先輩はそれでいいのか。まあ、いいか。クッキーアンドクリームはみんな好きだろ。チョコミントじゃないし。チョコミントはあんまり得意じゃない。


「それじゃあ、俺のもお願い!」

「お前は私より早いだろ。自分で買え」

「俺だけ扱い酷くね!?」

「というか、咲に4つも持たせる気かって。大変だろうし、末広先輩の分は俺が持つよ」

「さっすが和馬様! よっ男前!」


 というか完全に想定してませんでした。私の馬鹿。私は阿修羅あしゅらじゃないんだぞ?


 ちなみに和馬と一緒には乗れなかった。ちょっと残念。



 *****



「さて、これ4人乗りだけど、どう別れる?」

「はいはいはい! 俺咲と乗りたいです」

「ごめんねー、私和馬と乗る約束なの」


 いやそんな約束ないけど。でも、この8人で音頭を取るとなると、私か和馬か麻希、時点で真琴って感じになる。うわ、私以外全員頭いいじゃん。仕方ない、連城を下に見て優越感を保とう。


「末広先輩と麻希は決定でしょ。あと、柚樹は真琴がいいんだっけ?」

「え、そんなこと言ってな……」

「いいからいいから」


 そういうわけなので、私の言ったことが結構通ることも多い。まあ、こういう時はふざけないし、人間関係に関しては和馬以外しっかりしてるという自負がある。それに、なんだかんだ上手くいくことも多いしね。性格きついと思われていることもあるけど。


「あとは組み合わせをどうするかだけど、私末広先輩に苦手意識持たれちゃってるみたいなんだよね。というわけで、4人で行ってきなよ」

「いや、別に僕は」

「まあ、気にしてないからいいって」


 面と向かって苦手意識持ってることを指摘されるのはちょっと辛かったか。しかも後輩に。ごめんなさいと心の中で謝る。でも、気にしてないのも本当だよ。というか、だからといって態度変えたりしないって。8人で仲良くやりたいもんね。


「それから連城、変なことやったらアイアンクロー柚樹にしてもらうから」

「ちょっと、それは勘弁」

「冗談だって、たぶん」


 握力は風花雪月のなかで柚樹が1番強いのだ。なんでキーボードが強いのかは知らない。


「それじゃあ、先行ってくるね」


 さて、実はこのアトラクション、あんまり人気はないけど私はすごく好きなのです。4人組でくるくる回るのがすごく楽しい。なので、廃止にならないといいなーと思っていたりするのだ。



 *****



「遅いって、どこ行ってたのさ」

「ごめんごめん、ちょっと道に迷っちゃって係員さんにつかまった」

「マジかー」


 それから、麻希たちが迷子になったり。


「柚樹、見えてる?」

「ちらほらだけど、大丈夫」

「俺も見えないんですけど!」

「連城は頑張れ」

「俺の扱い酷くね!?」


 パレードで騒いでみたり。


「先輩、本当に大丈夫ですか? 速めに退散します?」


 末広先輩と麻希がパレードを見れなかったり。


「ちょっと早いけど雨強くなってきたしボウリング場行こうか」

「そうしますか、ってあれ、2人何かあった?」

「いや、ちょっと気まずいっていうかなんというか」


 真琴の歯切れが悪くなったり。それを聞いて深雪と邪推したり、麻希が嫉妬したりしながら、ボウリング場までたどり着いたのだった。


 ……未だ、和馬からのアタックは受けていない。勝負はこれからだ。

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