勝負に勝って、賭けには
私ってすっごく馬鹿だ。
テスト一週間後に迫ってるのにのんきにカラオケとか、何考えてたんだ。
でも、仕方ないじゃん! 頭の中和馬の告白をどう受け流すかだけだったんだよ! 勉強なんてことよりそっちの方が気になっちゃったんだから……。
受験の時の苦しみをまるで反省していないよね、私。
もともと、勉強は苦手だ。やればできる子と言われて15年と数か月。すなわち生まれてからずっと。だってだって、勉強って楽しくないじゃん。音楽みたいに学んだことすぐ使えないじゃん。何の役にも立たないじゃん。
はい、言い訳ですわかってます。そもそもやればできる子っていうのはやらない子っていう意味で。だって勉強が嫌いなんだもん仕方ないじゃん、なんてぶーたれてみる。
仕方ない、昼休みにでも同じクラスの麻希からノートを借りよう。柚樹も深雪も違うクラスだしね。和馬は、甘えすぎるとその、距離が近すぎになってしまいそうだから。
「麻希ー、数学のノート見せて―」
「またかよ。というか、数学はどうせ赤点だろ?」
「あ、赤点。それはまじでやばいって!」
さっと顔が青くなる。赤点なのに。
「前回のテスト数学赤点だったから、2回連続で取ったら部活停止食らっちゃう……」
「ちょっ、まじで、それはやばいって! 咲いなかったら部活回らないから!」
麻希が慌てる。同じように授業中寝てるのに麻希は勉強がそこそこできるのだ。なぜだ神様。
私が努力を
「ちなみにだけど、まさか他に赤点取った科目はないよね?」
「え、いや、あはは、そんなまさか?」
ねえ、そんなまさか。あ、あんなところで和馬の席に隣のクラスの真琴が遊びに来てる。
「こーたーえーろー」
「ごめんなさい! 化学と生物取ってます!」
あの、麻希? その、黙ってたのは謝るから、無言にならないで。その、もうだめだこいつは、みたいな顔されると、流石に傷つく。
「あ、でもね。生物はたぶん大丈夫。その、和馬が休んでたぶんのノート取ってくれて、すごくわかりやすかったから」
「ほかのベーシスト……」
「ごめんなさい、必死で勉強するから見捨てないで!」
「わかってる、わかってるって。とりあえず、今日から放課後自習室な。マンツーマンでみっちり叩き込んでやる」
怖いです。とっても怖いです。まあ、高校受験の時も麻希に泣きついたのは私だし。5回目だから大丈夫なはず。
「まあ、それはともかく、ご飯にしない。あと卵焼き頂戴」
「オッケー。そういうだろうと思って、お母さんに卵焼き多めに焼いてもらったんだ」
とりあえず、先生は確保しました。あとは、集中力が乱されないよう気をつけるだけ。なんだかんだ言いつつ、軽音部はかなり居心地がいいのだ。それと、こうやって麻希と馬鹿なことをやるのも。流石に他のベーシストの話題を出された時は焦ったけど。
「いただきます。はい、卵焼き」
「ありがと」
それに、麻希も和馬に負けず劣らず頭がいい。美人で、器用で、性格も悪くなくて頭もいい。なんでモテないのかな。え、それ以外に大事な
「でも、麻希がいてくれるなら大丈夫だよ。なんだかんだ言ってここ入れたし。それに、よほど集中力乱すことでもなければ」
「その代わり私の成績が少し下がるんだけど、まあいっか」
そう、例えば前みたいに和馬が告白すると言い出すとか。
……一応念のために聞き耳立てとこ。そこにいるし。
「……だからな、そのためにもお前の力を貸してくれってことなんだよ」
「だからといって俺を巻き込むなよ。お前ひとりで十分じゃないか」
「無理なんだよ! 俺の実力じゃ30位がせいぜいだ! でもそんなんじゃ目立たない! 15位以内じゃないと!」
真琴が小声で叫ぶ。なかなか器用な芸当だ。15位以上は掲示板に名前が載るからね。ちなみに和馬と麻希は常連だったりする。常連と言っても中間テスト1回だけだけど。
「それくらいの気持ちを持たないと俺は無理だ。和馬だって告白したいだろ!」
「はっるぷ!?」
危ない危ない声をあげるところだった。盗み聞きなんてほめられたもんじゃないのだ。
「そういうわけで、俺は15位以上に入ったら告白する。だから、お前も協力してくれ」
「いや、でも俺も5位以内維持したいし」
「なら、お前も告白すればいいじゃん。教えながらって難しいんじゃないのか」
「まあ、確かに」
「よし決まり」
まーこーとー! なんてことを言ってくれたんだ。悩み事の種を増やしやがって。ただでさえ赤点回避しないといけないのに。
「あとで真琴しめる」
「咲どうしたの? 険しい顔して」
「あいつ、15位以内に入ったら柚樹にコクるって言ってた」
「よし、しめよう」
麻希が乗り気になる。自分には相手がいないのに
「ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃーい」
遠くからなんで柚樹なのとかそのために遊びに行くんじゃないんでしょうねとか、あとはごめんなさいだとか聞こえてきた。とりあえず意趣返ししてやったぜ。少し気が晴れた。
ただ、私としては別に真琴と柚樹がつきあってもいいかなとは思ってるんだよね。とりあえず和馬とのことでうるさくならなければ。たぶん無理だろうけど。だから、真琴は振られて落ち込めば一番いいのか。私最低だ。
それはともかく、問題は真琴にたきつけられた和馬の方だ。余計なことしやがってとは思うがそれより私の頭痛の種が増えたことの方が問題なんだよ。というか、赤点回避だけでも大変なのに。
なんてね。私は天才なんじゃないだろうか。一石二鳥の打開策が思い浮かんでしまった。勉強をすると同時に、和馬の足を合法的に引っ張る方法が。
「和馬、ちょっとお願いがあるんだけど!」
「あ、咲」
「テスト勉強教えて! 赤点取ったら部活停止になっちゃう!」
「え、ちょっと待って!? てことは前回赤点だったの!?」
そう言えば、中間テストは恥ずかしがって見せなかったんだよな。
「それが、お恥ずかしながら、その」
「はあ、で、何で取ったの?」
ため息を吐きながらも、相談に乗ってくれる和馬はすごく優しいと思う。そればっかりに私の胸がキュウと痛んだ。
そう、これが私の作戦。私の赤点回避の勉強を和馬に見てもらい、勉強時間を奪おうという作戦だ。我ながら酷い考え。
「数学と日本史と化学と生物です」
「日本史増えてない!?」
どうやら互いに盗み聞きしてたみたい。
「ごめん、麻希には見栄張りました……。本当は4教科赤点かかってます」
日本史は暗記だけだから根性見せればいけると思ったんだよ。決してさぼろうとしたとか、そういうわけじゃないから。
「それでなんだけど、和馬の家に行っていい?
「まあ、いいけど。その代わりしっかりやるんだぞ」
「はい!」
ちなみに神楽ちゃんというのは和馬の4つ下の妹だ。主観がだいぶ混じるがかわいい。同世代だったら風花雪月のボーカルになって欲しかったところだ。お姉ちゃんお姉ちゃんって呼んでくれるのだ。私も年下の兄弟が欲しかったなあ。
「それじゃあ、早速今日から行くね。もう部活停止期間だし」
「まあ、いいけど。で、授業は聞いていたのか?」
「それが、その、どうせ理解できないし、睡眠時間たりないし、和馬に教えてもらおうって、あいた!」
「まじめに勉強しろよ……」
せ、せめて叩くんだったら教科書にして。お弁当は手加減されてても角があって痛い。
「お願いします、神様仏様和馬様!」
「まあ、いいけど。部活停止は困るし。その代わり、赤点回避と言わず上位50位以内を目指すからな」
「ちょっ、それは! 私はほどほどでいいかなー、なんて」
「みっちり行くから」
「はい」
和馬の威圧に負けました。でも、まじめに勉強はするよ! バイオリンとベースの練習は欠かせないけど、それと、和馬に隙を見せないように気をつけるけど、勉強はちゃんとやるから! 赤点は取れないわけだし、それに、一応今の高校に合格したくらいだからね。あ、でも神楽ちゃんに遊ぼうと言われたら。
「今余計なこと考えただろ」
「考えてません」
勘鋭い。
*****
和馬の教え方は丁寧だった。よそ見をすると厳しかったけど、どこがわからないポイントなのか丁寧に教えてくれて、教師よりもよっぽど上手かもしれない。あとちょっとSでわざとひっかけ問題を出してくるけど、問題が解けたらほめて伸ばしてくれて。神楽ちゃんとは遊べなかったけど。そのくせ、わたしがうんうんうなりながら解いている横で問題集をすらすらやっているし。あ、でも英語は私の方が得意なんだよ。英語だったら立場が逆転できる。教えようかと言ったらいいから勉強しろと言われた。
あ、それから友達と勉強会もしたよ。風花雪月で一回、それからクラスの友達と一回。
そんなわけで激動のテストが終わったわけですが、私は英語で92点と好成績を取りました。
それから、数学はぎりぎりだったけど、見事全教科赤点回避に成功しました!
あ、いや全教科じゃないや。古文赤点だった。だけど、部活停止にならずにすんで、順位は64位だったけど気兼ねなく部活ができるね。
順位と言えば麻希は7位で、なんと真琴が14位タイに身を収めていた。やればできるとか聞いてないぞ、
そして、肝心の和馬はと言えば、本人曰くちょっとミスった、らしい。
ええ、そうですとも。ちょっとミスった挙句4位にランクインしましたとも。
ミッションコンプリートならず。
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