私は和馬のことが好きだ
和馬との出会いは、幼稚園の時だった。確か、4歳の時で、幼稚園に空きができて、そこに滑り込んだ。はず。そこにいたのが和馬だった。最初はなんだこの生意気なやつは、と思ったものだった。よくは覚えていないけれど、当時の私はバイオリンが上手に引けて自分が特別な人間だと思い込んでいたのかもしれない。反発したから、第一印象は別によくなかったはずなのに。
冷静に分析するなら、幼い時の反骨心を、ほのかな恋心とそれにまつわる悪戯してやりたいという男子心と勘違いしたのではないだろうか。ないか。
そして、私がバイオリンを弾く姿がかっこいいと思ったのか、和馬もバイオリンを習い始めた。私の母親がバイオリンの先生で自宅で教室を開いていて、幼い時からバイオリンを習っていたのだ。まあ、ギターと違って、和馬にそっちの才能はなかったみたいだけど。それに、私は当時は天才少女って呼ばれてたから、調子に乗ってたし。今思うと恥ずかしいかも。
ただ、幼稚園にいた子の中でバイオリンを習ってたのは私と和馬だけだったから、小学校に上がった時は、一番親しかったのは和馬だった。他にも仲がいい女の子はいたけど、高校で別れちゃった。小学校からずっと仲がいいのは和馬くらい。
女子と仲良くしてるなんて、お前は女子か、なんて言われてたこともあった。もちろん和馬が。その時はちょっと学校では話しづらくなったけど、家に行って一緒に遊んだりもした。女の子とも遊んでたけどね。
でも、その時は和馬をかっこいいとは思わなかったんだよなあ。本当のことを言うと、運動神経も私と同じくらいだったし、女子と同じなんてどんくさいよねって思ってた。まだ、イケメンっていう感じじゃなかったし。だから、和馬が私が好きだっていう噂が流れたときも、ハイハイって感じだったんだよね。
それが変わったのは中学の時。
勉強ができなかった私は、大多数と共に地元の中学に進んだ。そこで私は
そこで麻希と出会った。歌い手さんだったり、あるいはボカロPさんとかと出会ったのも麻希の影響で、そのおかげでどっぷりとはまった。はまり過ぎちゃったけどね。
ただ、スイ部は私や麻希の肌に合わなかったのか、高校でやめちゃった。麻希に誘われて、今は軽音部でガールズバンドを組んでいる。
それからもう一つ、中学の時に、初めて彼氏ができた。告白は彼から、同じスイ部のテューバ担当の男子で、低音仲間ということで親しくなったんだったはず。結構仲が良くて、休みの度にではなかったけど、というかそもそも休み自体部活で少なかったけど、でもよくデートに行ったし、趣味も似通っていた。処女もあげた。
だけど、別れた。
特別な何かがあったわけじゃない。喧嘩したとか、浮気とか、そういったわけじゃない。だけど、何かが違った。たぶん、そういうことなんだと思う。はまったはずのパズルピースに些事な違和感を感じた。テューバの男子は別に顔も性格も悪くなかったけど、これじゃないっていう思いが日に日に強くなっていって、受験勉強が本格的になる前に別れを切り出した。処女をあげるくらい好きだったはずなのに。おかしいよね。
結局その後は疎遠なまま。卒業して、チューバの彼は私より頭2ついい高校に進んで。それっきり、連絡は取ってないや。まだ、高1の6月じゃ、同窓会なんて話も出ないし。
それに、会いたくないのも本心なのだ。会ってしまえば何を話せばいいかわからなくなる。いやそれより、どんな顔をして会えばいいというのだろう。とても気まずい。どうしてだろう、スイ部ですごく仲が良かったはずなのに、元恋人という関係になってしまったからか、友人には戻れない。
少女漫画みたいな恋を望んでいたのかもしれない。だけど、私の王子様ではなくて。きっと、何かが足りなかった。でもそれは、たぶん私の方だ。
それに、大変だった時、何もかも逃げ出したかった時、私に寄り添ってくれていたのは、テューバの彼じゃなくて和馬だった。和馬が、私を支えてくれていた。
大切だから、家族みたいに大切だから、疎遠になりたくない。元恋人なんていう、あやふやな関係になって、なし崩しにずっと遠くなっていくような、そんな関係になんて、絶対嫌だ。仲のいい男子ならいっぱいいて、元恋人なら変えがきいても、和馬は変えがきかないのに。
でも、だからと言って、告白されて断るっていうのも、何かがおかしい気がする。きっと、それはなかったことになんてならない。意識してしまって、ぎこちなくなってしまう。それも嫌だ。だから、私は告白を避け続けるしかない。される前に、予防線を張って潰す。ヘタレって吹聴して、意識してませんよってアピールする。
私、絶対馬鹿だ。意識してるのは、私の方なのに。
だからといって、誰か別の人と付き合うというのも違う気がした。そうすれば、和馬が避けてくれるとわかってはいても、好きになれない男の人と付き合うのも違う。何かが違っただけで、元カレのことも好きだったのは確かだから。
ああ、認めてしまおう。私は和馬のことが好きだ。どうしようもないくらい、異性として好きだ。だけど、それと同じくらい、失いたくないという気持ちも大きいんだ。今だけ恋人という立場に甘えて、その後は知らんぷりなんて出来なくて。だから、私は、和馬の恋人にはなれないしならない。
告白を受けることなんてできないんだ。
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