第32話 ふたり
「恐かった。私が私で無くなってしまったから――私変じゃない」
「玲奈はかわってないよ。いつもと同じだ」
「ほんとう一弥」
玲奈は信じられないほど僕の胸で泣いた。
いつまでも泣いたあの二人が流した涙の分まで――。
その時――僕はやっぱり玲奈は女の子なんだと思った。
僕たちは玲奈の借りた部屋に戻って眠りについた。静柰さんはいつの間にかいなくなっていた。
僕は薄暗い天井を見ながら本当に良かったと思った。隣で眠る玲奈の顔は涙で紅くなっていたけど僕には玲奈がいるだけで幸せだった。少しでも運命が変わっていたら僕たちがあの二人のようになっていた気がした。
「おやすみ――玲奈」
僕は呟くと背を向けて眠りについた。
「一弥。ほら早く起きないか――良い朝だぞ」
「玲奈――今日ぐらいは、ゆっくりさせてよ」
朝焼けに日射しが窓から差し込んで清々しい朝の匂いがしている。
寝ぼけ眼で部屋を見渡すともう玲奈は着替えていた。
「いいや。今日は思いっきり遊ぶ――だから連れて行ってくれ。一弥の事だからこの村のことは、調査してわかっているんだろ」
「――いいけど、玲奈。君は女の子なんだから少しぐらいお淑やかにしてよ。布団の上でマウントポジションなんて取ったら駄目だよ。噂されるよ」
「べつにいいじゃん。誰にも見られてないし――あたしは一弥の許嫁なんだぜ。だから一弥の前では何も取り繕わなくても良いんだから――さあ行こう」
僕は起こされると光の射す世界に吸い込まれていった。
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