第31話 久遠のうつわ

 私が力の源に辿り着いたときには既に決着はついていた。

 写真にあった璃瀬という娘が若い男に抱きかかえられている。

 どちらが勝ったのか誰が見ても明らかだった。

 あれが世界を飲み込んだ蛇と死神か。

 封印しても輪廻には戻れない。

 かといって殺すことも出来ない。

 それなら元に戻せばいい。

「まって。私は死ななきゃならないわ」

 片腕に抱き抱えられた璃瀬が呟く。

「それはどういう事だ。お前の呪縛は卵であり正体は膨張だ。その真逆の形状に直せば呪縛は無くなるのだぞ」

「たしかに呪縛は消えますが、その時、膨大な力が制御できずに世の中に流れ出ます」

「なんだと」

「千年前も前の話です。同じように私から力を引き離そうとして地が割れ山々は爆発し里は地獄になりました」

「黒沢め。私に引金を引かせようとしたな」

「黒沢は」

「あいつは残り香さえ残さずに殺してやった」

「そうでしたか、でも黒沢には世話になりました」

「そうだったか」

「もう無理です。もう私は自分が制御できないんです。後はみんな死んでしまう。だから那由他、お願い。本当は貴方には私の核が見えているんでしょう。もう良いのよ」

「璃瀬。でも俺は嫌だよ。お前を殺すなんて出来ないよ。そんなの悲しすぎるよ」

「良いの。貴方と触れ合えた時間は永遠に心に残っている。だから最後のお願い。

世界は私を受け入れなかったけれど私はこの世界が好きよ。それが私ひとりで無くなっちゃうなんて悲しいもの。それに私がもし普通の人間として生まれることが出来るならその世界を私は壊すことが出来ない。そうしたら那由他。貴方とも永遠に逢えなくなってしまう。だからお願い、私を――うつわを壊して」

「わかった。これが俺の最後の仕事だ。雨宮玲奈、お前の短刀を貸してくれ」

「わかった」

 玲奈は自分の手にある短刀を渡すと那由他は受け取った。

「璃瀬。いくよ」

「ありがとう。那由他、貴方に逢えるのは何時になるのかな?」

「直ぐに逢えるさ。少し眠るだけだよ。璃瀬、お前のことは必ず見つけるから」

「絶対に見つけてね。約束よ」

「ああ。約束する。絶対に璃瀬を見つける。三千世界どこに居ても必ず探し出す」

 そう呟くと那由他の左手は璃瀬の胸を貫いていた。

 そして自分の首を切り裂くと二人の身体は、白い花びらのように舞い散ると左手にあった短刀は自然と朱色の絨毯に突き刺さった。

 玲奈と一弥は暫く見詰めていたが私は踵を返して屋敷から出て行った。

 おそらくあいつ等は一弥と玲奈の影だ。

 もともと光と影は表裏一体のもの。

 どちらが無くなったとしてもお互い悲しいものだろう。

 ねえ、神さま。

 出来ることなら彼らに御慈悲を。

 少しぐらいの優しさを与えたまえ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る