第27話 嘴
「これは――」
静柰は本を机に置き部屋の扉まで進み出た。
この熾烈な意志と意志との激突は今までに経験したことのない強烈な感覚だった。
私は自分の足が進まないことに気がついていた。これは――この私が恐怖という感情を持っているということか!
――震えている。
静柰は足元を驚愕した表情で見詰めていたが、直ぐに冷静な表情で呟く。
「だがそれも道理だな。相手は新しい宇宙でも創り出す気らしい。それほどの力が少し歩けばあるのだから――誰もが恐怖を抱いても別に驚くべき事じゃない。これに恐怖を抱かないのなら元々、人間ではない」
「玲奈か?」
「お前は――」
振り向くと男がひとり影のように佇んでいた。燈子は不機嫌そうな顔をして侮蔑すると
「不細工な物だな――黒沢。いや、錬金術師ブラック・ノートと言い換えた方が良いのか」
「どちらでも構わん。まあ、確かにこの身体が不細工なのは認めよう――何せ急拵えなのだ。それに私の専門は人形師ではない」
「――で、お前の目的は何だ?」
「私の目的は世界を一変させるほどのエネルギーの抽出と運用の方法だよ」
「それがこの騒ぎか……」
「ああ、私は運用を誤った。御陰で本体の方はあのとおりだ。私は見ての通りサブのサブでね。この事態を収拾するためには私ひとりでは無理だったのだ」
「――それで私を呼んだのか」
「ああ――あの方は来てくれなかったからな」
「ふうん。先にあいつに頼んだのか……」
あの方ーという言葉に龍樹は眼鏡を取るとあからさまに不機嫌な顔になった。
「見事に断られてしまったよ」
「――それなら私の答えもわかるだろう」
「そういうと思って私は念密に計画し、お前を此所まで呼び寄せた」
「それなら――あの場か騒ぎを止める手立ては整っているということか」
「ああ。その通りだ。無限に膨張するあれを止められるのは真逆の概念しかない」
「プラトン立体か?」
「そうだ。あのもっとも単純で美しい正四面体――お前の技量なら容易く封じることが出来るだろう。後は守人を作り千年ごとに更新すれば良い――あれは人類の英知だ。すべて読み解くことができれば世界の悩みなど総てが消えて無くなるのだ」
「ああ、確かに依頼は引き受けよう。だがお前は私を謀った。それで身内を危険にさらさせた。その罪は死んで償って貰う」
「ああ、良いとも私の命はとうの昔に消え失せて……」
「それでも私はお前の存在がうっとうしい。だから消え失せろ」
静柰は最後まで聞かず、虚空から巨大な猛禽の嘴を出すと人形をかみ殺させてしまった。
直ぐに莫迦らしいほどに膨れあがった力場に向かった。
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