第21話 夢

 まただ――。

 このところ同じ夢を見る。

 あれが、本当に僕の記憶なのだろうかと思えて成らない――かろうじて動くのは手足のほんの少しだけの部分だけだ。

 わかるのは他にはない。

 昏睡から目覚めたら意識と感覚器官の触覚以外は五感のすべてを外界と遮断されている。

 目覚めたと言ったが、それも本当はあたっていない――眠りから覚めたというのに仰向けに成っているという感覚器官に基づく状況だけが天と地の方向を僕に示している。

 ――話をもどそう。

 そもそも、記憶などという曖昧で不確かなモノに左右される事など不毛でしかない。

 けれどもその不毛な記憶を拠り所に人が生きているのも真実だった。

 昨日生まれたばかりの人間に、昨日までの君はこんな風だったと聞かされても、それを拠り所に生きていけるほど人は強くない。

 されど記憶は語り――確かに思い返せばそうだったかも知れないと……曖昧に僕に呟いていく。

 真実は誰にも解らない。

 その本当とはどうだったのか?

 それはどういうモノだったのか?

 例えわかったとしても、それはひとつの真実に過ぎず、また誰かの瞳には違って映るだろう。

 答えは人の数だけ在るのが本当だと思う。

 けれど、僕は忘れない。

 あれだけは真実だったことを……。

 深い闇に放られた、この世のすべてに見放された僕に唯一届いたのはあのぬくもり。

 そのぬくもりは僕にとって何物にも代えがたい拠り所だった――それは決められた時間の間、僕をあたため続けた。

 それは深い闇に浮かぶ僅かな光。

 唯一残されたこの世界とのささやかな邂逅――そのぬくもりで日が過ぎるのを知り、まだ世界が存続していることを知った。

 たぶん、僕は初めてそのぬくもりを知ったとき逃げ場のない絶望の中でその蜘蛛の糸のように細い光を知ったとき、うれしくて、うれしくて泣いたと思う――その時はわからなかった、けど今ならわかる、こんな気持ちだったから――僕は今ぬくもりに包まれて泣いている。

 頬をあついものが流れてゆく。

 額に当てられた暖かいやわらかな手。

 うれしくて、たまらなくて泣いている。

 それは止まることなく満たされるまで流れ落ちてゆく――僕がまだ、見捨てられてはいないのだとわかったから……。

 だから――このぬくもりを奪うものを僕は許せない。これすら奪うのなら僕はこの世界ですら殺してみせよう。

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