第17話 朱い月

 ――時間だ。

 闇夜に朱い月が見える。

 あたしはもたれ掛かった肌さわりの良いクラシカルな安楽椅子から身を起こすと確かめるように頭から爪先まで身体を震わせる。

 ――身体が軽い。

 頭に澱みもなく透明だっだ。

 随分と眠った気がした。

 思えば昨日からまともに眠っていない。

 眠れた時間は実際には少ないのだろうが実感的には十分だった――今回の眠りは質の良い眠りだったようだ。

 あたしは宿を出て闇の中を駆けていった。

 ――屋敷に着くと灯りはなく蒼白い月明かりに仄暗く全体を占められて幻のようにボンヤリと見えるままに無言のまま聳え立つ。

 ――まるで中世の王城だな。

 血なまぐさい。

 鼻が曲がりそうだ。

 全体が血に染められて溢れるばかりに血溜まりが見えるようだ。

 ――いる。

 確実に――。

 奴が戻ってきている。

 昼間感じた薄っぺらな残り香ではない。

 ――気配が数百倍の濃度で存在を誇示するように自己を解き放っている。

 もう隠そうとはしていない。

 城門は開け放たれて入り口は猛禽類の顎との如き様相を示していた。

 ――良いだろう。

 これは死合いだ。

 もう準備は出来ている。

 あたしは微笑みながら顎の中に駆け込んでいった。

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