第13話 夜

「やはり一弥は帰って来なかったな――」

 静柰は一弥の部屋までやってくるとそんな無責任な言葉を吐いた。

「そもそも一弥が帰ってこない原因を作ったのは静奈のせいだろ」

「ふん。私は一弥には再三、言っておいたはずだ。危険は冒すなとな」

「それはズルイ答えだよ……静柰。もしそんな事――そこに伸びている彩加が聞いたら、いくら師匠でも殺されるぞ」

「ああ――それは理解っている。その上で話しているんだから。文句は無いだろう」

「確かに幸い一番危険な奴には聞こえてはないれけど――でも初めから計算尽くか? 静柰?」

「いや――実際、何も起きないとは思ってはいなかった。だが――思ったよりも事が早く起きたようだ。これは根が深いかもしれん。ただ、おかしいのは玲奈――お前だよ。私が本当に一番聞かれたくない相手って、実際お前なんだけどね――私が来てからどうも落ち着かないみたいじゃないか。それにしても調べてみたら一弥は変なモノに巻き込まれるな――いいや、自分から厄介事を手繰り寄せる性質なのか?」

「ふん――確かに当たっているのかもな。あいつはいつも渦の中心だ。此処最近一緒にいて感じていた。あいつはむやみに優しすぎるんだ。だからいろんなモノを引き寄せちまう」

「玲奈、お前も引き寄せられた口か?」

「否定はしないさ」

 そう目を細めて、あたしは静かに笑った。

 結局――あたしも彩加と同じだ……これじゃ奴を笑えやしない。

 どうも今日は殺気が抑えられそうに無い。

 ――妙なモノに好かれる奇妙な男。

 ――あいつの傍にいれば退屈は無く。

 ――あいつは望むと望まざるに関係なく異

界に魅入られてしまう――でも残念だがあいつは、もうあたしのモノだ。

「少し出る。静柰」

 部屋から出ようとするあたしを静柰が制する。

「良いか玲奈、いくらお前でも場所を知らねばどうしようもない。――ほら一弥が向かった先の住所だ。私は準備してから行く。少し調べることが出来た」

 ささやかなキッチンの上に放られたメモ帳の切れ端とまだ湯立つ狐色のカキフライを乱暴に掴むと、あたしは闇に中にとけこんでいった――。

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