第10話 静柰からの依頼

「なあ、一弥君。ちょっと良いかい」

「静柰さん何でしょう」

「うん。ちょっと逢って来て欲しい奴がいるんだ。此奴が少しばかり苦手な相手でな……」

「つまり代理というわけですか?」

「うん。本来としては私が相手をすべきなんだが、用件を聞くまで忍耐力がもつ自信がない。よって、用件だけで良いから聞いてきて欲しいんだ――頼めるかな」

「静柰さんがそこまでいうのは珍しいですが、その人の何が、そこまで苦手なんですか? 理由だけでも教えてください」

「ああ、それは奴が自分の事をわかっていないからだろうね。それが頭に来る。忠告してやりたいが、実際に忠告もしていたが、それらは、まったくの無意味なんだよ――その行為すべてが。だから会うと必ず口論になる。平行線なんだ。だから会いたくはない。それなら会う必要もないだろうと君は思うだろうが、奴の技術そのものは困った事にぼんくらじゃない。だから無視も出来ないって寸法さ。詳しくは話せないが、ある場所で私は一時的とはいえ、兄妹弟子の間がらだった事もある。それも行かざるに終えない理由のひとつだ。まあ、知ってのとおりこの家業では正式な依頼は基本的に手紙を通して行っているが、直接呼ばれれば必ず出向かなければならない」

「わかりました。用件だけを聞いてきます」

「すまない。たぶん電話で済むような、まったくの子供の使いになってしまうだろうが……」

「承知しました。明日にでも出かけてみます」

「申し訳ないが宜しく頼む」

 一弥が部屋を出ると、既に夜のとばりが降りていた。

 窓には大きな朱い月が出ていた。

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