第7話 ふぁーすとこんたくと
「雨宮玲奈です。宜しくお願い致します」
そう彼女は深々と頭を下げていた。
背中には一弥を軽々と背負っている事以外にはとても清楚な女性に見えた。
「あら、あらあら雨宮家のお嬢さんね。たしか、おふたりみえたと思ったけれど……」
「次女の玲奈です」
「あの玲奈ちゃん。大きくなったわね。静柰ちゃんは元気かしら?」
「ええ、姉は元気すぎて正直手に負えませんけどね」
「なるほど。元気そうで何よりだわ。でもウチの一弥を倒せるなんて、あなたも中々のモノじゃない。どう、お嫁に来ない? もしくは一弥を養子に出しましょうか? うふふッ」
母親の時子は内心喜んでいた。
今まで浮いた話、ひとつでない一弥に同い年の女の子がやってきたからだ。
話の内容を聞いても親密さがわかるというものである。
実際は命の遣り取りをした間柄だが、鬼祓い師の家系というものは戦いもコミュニケーションのひとつのようだった。
玲奈は電話を借りると、着替えを取り寄せる為に実家に連絡し、居候を決め込んだ。
基経と一ヶ月の間は一弥の『まもりと』をすると約束したからである。
時子は喜んで離れにある客間の仕度をした。
面白くないのは妹の藤倉彩加である。
事情を聞きつけて客間に飛んでいくと、布団に寝かされている一弥を見て更に激高した。
「あんた誰? なにしてるの。それで、一体全体一弥になにしたの? あんた、なんとか言いなさいよ」
一弥の枕元に駆け寄りながら非難の声を上げる。
「そんな一度に幾つも聞かれても答えられないよ。私は聖徳太子じゃないよ」
そう冷静に呟く。
その澄ました態度が、ますます彩加の頭に血を登らせていく。
「なによ。あんた一弥をこんな風にしておいて、なに冷静に言ってんの? 少しは申し訳ないと思わないのか?」
「戦いに関しては、双方同意の上の事だ。文句など彼にも無いだろう。だが、私は本来用いて成らぬ業を使ってしまった。その事については謝らなければならない。だが、それはこの一弥の技量があってからこそ起きてしまったこと。あなたは自分の兄上を誇りに思って良い。あと私はあんたではない。雨宮玲奈という名前があるんだ」
「なに勝手に名乗っているのよ。自分の兄貴を病院送りにされて、病院送りにした相手に讃えられても意味がわからないわよ。どうせ不意を突いただけでしょ。そうよ、そうしなければ一弥をこんな風に出来ないわよ。それに一弥の『まもりと』をするなんて許さないわよ。あんたがするぐらいなら、あたしがするんだから!」
「お前には無理だね。一弥の『まもりと』は私にしかできない」
「なんですって! あんた喧嘩売ってるの!今すぐ表に出なさいよ」
不意に襖が開くと時子が御盆にジュースをのせてやってきた。
「あらあら、彩ちゃんご機嫌斜めね。怒ると身体に悪いわよ。それに今の彩ちゃんでは絶対に勝てないわ。今時、こんな技量をもった娘さんなんて滅多にいないわよ。それに器量も抜群。見てこの流れ落ちるような黒髪――羨ましいわ。本当に一弥のお嫁さんにしたいくらいだわね。それか雨宮の方に一弥を養子に出しても良いわね」
「ええ、当家の養子殿に一弥さんならば技量的に申し分ないです」
「なにか技量的にですって、あ、あんた勝手なことを言ってるの! 大事な一人息子を誰が好きこのんで養子なんかに出すモンですか。お母さんも何いってんのよ。見た目は綺麗かも知れないけど中身は人斬りの殺人鬼なのよ。それを一弥の嫁にとか正気なの?」
「彩ちゃん。そんなことばかり言っていると終いに小姑って呼ばれちゃうわよ。それに、うちは鬼祓いを生業にしているのよ。それくらい出来なきゃ。鬼とは戦えないわよ。不意打ちなんかは基礎の基礎。そんなの――やられるのが悪いのよ」
時子は頬に手を当てて微笑んでいる。
「もう良いわ、お母さんの馬鹿! あんぽんたん!」
その言葉を聞いて彩加は家を飛び出していった。
「彩ちゃんってば、まだまだ青いわね……」
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