第5話 戦闘風景

「体術はわかったよ。でも、それだけじゃないだろう。そろそろ本気を見せてくれよ」

 そう女はコキコキと小気味良く頸を鳴らして笑顔を作って見せた――だが目は笑っていない。

「本気とは?」

「術の方があるだろう。それなりの――対鬼神用のとっておきって奴がさ」

「――それは人には使えない」

「だったら、わたしには勝てっこないよ。これから本鬼を出すから……ね」

 最期の言葉が聞こえる前に女は一弥の目の前にいた。

 無拍子。

 縮地。

 ――否、四鬼!

 一弥はそう思う前に自分の四鬼を足元から発動させた。

「逃げ足が速いね。だが、今度は逃げられないよ――こっちも暗鬼を使ったからね」

 一弥は驚いていた。

 ついて来ているのか。

 ――この神脚に。

「いくら逃げても無駄だよ。先には結界を幾重にも貼っているんだ。もう外には出られない」

 一弥の目の前には強固な結界が見える。

「さっさと前を向け。むかなければ背後からでも切るぞ。そら正面を向き掛かって来い。それで、さっさと命を渡せ!」

 そう女が躍りかかる。

 女は一弥を背後から切ったはずだった。

 だが、手応えがない。

 それどころか、一弥の肉体までが薄れてしまう。

「そこだ!」

 振り向きざまに横文字に背後を切る。

 だが、その刃が僅かに届かない。

「ちぃ。こいつ刀速を上回る脚力で移動してやがるのか!」

 一弥は女の腕の可動域を越えると、一転女の懐に入った。

「もらった」

 そう一弥が呟くと女に変化が起きた。

 ――女の懐から蒼白い光が見えた。

 それを神脚で避けると同時に、急所に得物の柄を打ち込むと女は気絶した。

 それは完璧な流れだった。

 だが倒れ込んだのは一弥の方だった。

 刹那に閃光が走ったのが僅かに遅れて見えた。

 暫くして女は意識を取り戻す。

 すると覗き込む顔が見えた。

「よう。お前は玲奈だったけ」

 玲奈と呼ばれた女は立ち上がり戦闘態勢をとろうとした。

 だが、立ち上がった後は、まったく動くことが出来なかった。

 目の前には基経の鋭い眼光があった。

「ああ、ウチの息子にとんでもねぇ事しやがる。これで、こいつ一ヶ月はまったく使いモンにならねぇぜ。まあ、死んでないだけましだが、この教訓でわかった事は、お前さんを追い詰めるなだな。まったく尻に敷かれるぞ――お前はよう」

「あなたは?」

「ああ、俺は基経――藤倉基経だ。また何処かで逢おうぜ」

「ま、まってくれ」

 それだけしか言葉に出せない。

 これが当代一の鬼祓いの気なのか……。

 玲奈が言い終えるまでに基経は闇に消えていった。

「あっと、言い忘れていたが、そいつはお前のせいで一ヶ月はすべての術が使えなくなっちまった。だから、『まもりと』をしてくれ――なんせ最期まで非情になれねぇ、あまちゃんなんでな」

 そうゆっくりとした声が最期まで玲奈の耳元にしっかりと届いていた。

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