第10話 夢知夢能の夢物語

『さあっ! 始まりました! 今学期最後の武戦! 序列二位 三年『重力姫』橘愛梨VS序列一位 三年『夢知夢能』神崎真矢の対戦です!』

 この誠心高校に入学してから本当に色々なことがあった。

『橘選手は二年次より転校してきたのですが、世界に二十人といないランクSの実力もあいまって、先日の武戦で序列二位へ昇格! 最終戦への切符を手に入れました!』

 楽しかったこと。辛かったこと。嬉しかったこと。悲しかったこと。

 この三年間で培ったものは本当に色々ある。

『そして! その橘選手の対戦相手である神崎選手はなんと! 入学してから無敗! 誠心高校の長い歴史でも二人目の快挙です!』

 そして今、その三年間の全てが終わろうとしている。

 ───最後の武戦。

これに勝てば序列一位のまま卒業できる。

 まあ、それも今となってはどうでもいいか。

『しかし! その不敗神話も今日で最後かも知れません! 激戦に次ぐ激戦で満身創痍! 神崎選手は立っているのがやっとです!』

 こうなることは最初からわかっていた。

もたなかった。体に限界がきてしまった。

人間の限界を超える力を無理して使っていた代償。

今では視界もブレ、聴力も落ちひどい頭痛が続き、立っているのやっとだった。

そんなオレの姿を今にも泣きそうな悲しい目で愛梨は見ていた。

「なんでそうまでして戦うの? なんで律と竜と戦ったの? 二人はあんたを助けようとしてたのにッ!」

「二人がオレの夢に邪魔だったからだ。お前も邪魔をするんなら容赦はしない」

「どうしてそん風になっちゃたのよ。どうしてッ⁉」

違うんだ。もう、オレの夢なんてどうだっていい。

 二人がオレのこと想って、オレを止めようとしてくれたのは本当に嬉しかった。

 だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)! ここではまだ止まれない! まだ倒れる訳にはいかない!

こんなオレ認めてくれた皆には感謝の気持ちを言葉なんかでは言い表せない。

 だからこそ命を懸けた精一杯の恩返しを。

 皆のおかげでここまで強くなれたと。

 皆が認めた男はこんな強かったと。

 人生で躓いた時に、あんなバカなやつがいたと思い出してもらえるように。

 今、最後の力で戦うんだ。

 心にもないこと言ったのは愛梨を怒らせるため。

 今のオレとでも本気で戦ってもらうためだ。

 まったく、仲間を傷つけられて周りが見えなくなる所は誰に似たんだか。

 さて、やるか。

 『天衣夢縫』

『おーとッ! 神崎選手! 試合開始前から! 人間の限界を超える『天衣夢縫』の発動だ! ん? しかしなんだか様子がおかしい様な? 何か苦しんでいる様に見えます』

 頭が割れる!

 体が軋む!

 意識が飛びかける!

 体がゆうことをきかない!

 ……頼む。頼むよ。

 最後なんだよ。

 限界なのはわかってるんだ。

 大切に使えば何十年も使える体をたった十八年で使い尽くしてしまった。

ここまでやってくれた体にこれ以上頑張れなんて言えない。

でも頼むよ! 

 戦いの後で、目が見えなくなろうが、寝たきりになろうが、死んでしまってもいいよ。

 だから! 愛梨の敵になれるだけの力をオレにくれ!

「や、止めて! その力はもう使わないで! これ以上使ったら体が───」

「ゲッホゲッホッ。敵の心配とは余裕だな。流石はランクS様。けどな愛梨、本気で来いよ。お前の目の前いる敵は、手を抜いて勝てるほど甘くないぞ」

「ッ!」

 『天衣夢縫』を使った途端焦り始めた愛梨を睨みながら、オレは臨戦体制に入る。

「はぁ~。邪道を貫いていたはずのオレが、最後には王道にのまれるなんてな。師匠がラスボスなんて今時流行らないんだよ」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょッ! 早く『天衣夢縫』を解いてッ!」

 慌てる愛梨を無視してオレは続ける。

「まあ、たまには王道も悪くないか。来いよ最強。最弱のラスボスが相手してやる」

 愛梨はというと黙り込み何かを考えている様だった。

 そして、決心したのか真剣な顔つきなり戦闘体制に入った。

「いいわ。もう何も言わない。あんたを倒してあんた夢をここで終わらせる!」

 ───オレの夢か。

 自分がなんの為に生まれてきたのか。

 なんで、オレが無能力で───『夢知夢能』なんてものを授かったのかを。

 母さんに言われた──

『全てのことには意味があるの。あなたが無能力で産まれてきたのにもきっと意味があることなのよ。だからその意味を探しなさい』

 この言葉を忠実に守ってきただけだった。

 けど、やっとわかった。

 ただ、オレは誰かに認めてほしかっただけなんだ。

 オレが無能で産まれてきたことで、オレを支えてくれたみんなに会えたっていうのなら、オレの『夢知夢能』も捨てたもんじゃないな。

 そんなことを考えていると、試合開始の時刻になった。

 愛梨を見て見ると、そこにはさっきまでの悲しくて泣きそうな顔ではなく、笑顔でワクワクを抑えられない子供の様な顔をしていた。

「そういえば、あんたに勝てたことは一度もなかったわね。こんな形になってしまったけど、私の夢─────あんたを越えさせてもらうわ!」

「超えさせるかよ。こんな状態なんて丁度いいハンデだ。いつもの様に軽く揉んでやるよ」

 実際問題オレは愛梨に負けるだろう。

 今でも、頭痛が酷く、愛梨の姿がぼやけ声もやっと聞き取れるぐらいだ。

 でも、負けることだけは誰にも負けないオレだ。

 ただでは負けない。

 最高にかっこよく負けてやるよ。

今なら漫画やアニメの師匠の気持ちがわかるぜ。

 弟子に超えられるなんて師匠冥利に尽きるよな。

 ────そして、いよいよ決戦の刻。

 試合開始合図の直前、愛梨が聞こえるか聞こえないかの声で言ってきた。

「ねぇ。真矢。────私、真矢に会えて本当によかった」

 その言葉にオレも聞こえるか聞こえないかの声で答えた。

「言葉をもらえた時点で、オレの夢はもう叶ってたんだよ」

 オレは奇跡なんて信じない。

 だけどこの時だけは信じてもいい気になった。

 愛梨に夢を叶えてもらったことで、頭痛が止まり視界が明快になり、耳もちゃんと聞こえる様になった。

 ああ、そうか。

 オレの『夢知夢能』は───

 ────今、この時のために。

『夢知夢能』よ。

 こんなオレに授かってくれてありがとう。そして───さようなら。

『それでは! 一〇一期武戦最終戦! 試合────』


「終わらせてくれ愛梨。お前の手でオレの夢を」

 

『開始!』


さぁ、いくぞ! 神崎真矢!

 これがオレの最後の敗北!


天才と呼ばれる人に聞いてみたいことがある。

天才と呼ばれたあなたは

天才と呼ばれて────人と違っていて───幸せですか?

もし、天才が幸せだと言うのなら、無能は不幸なのだろうか?

いいや、違う。

天才か無能かかなんかで人の幸せは決まらない。

ちなみにオレは、『無知無能』いや『夢知夢能』で───幸せだったよ。


 この物語は天才に無能が敵わなかったという未も蓋もない物語。

 それでもこれは無知無能いや────夢知夢能なオレが見た、夢の様な夢物語。


 さて、次はどんな夢を見ようか?

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夢知夢能の夢物語 上条海輝 @kaiki730

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