第9話 夢知夢能《むのうなしょうねん》
「悪夢だ。これは本当に悪夢だ」
『エンジェル』騒動の次の日、オレは武戦前にいつも隠れている学校の倉庫にいた。
なぜ、武戦前にいるはずの倉庫にいるかというとこれから武戦だからだ。
「いやね。武戦を再試合にしてくれるのはありがたいですよ。でも次に日はねーだろ!」
瀬尾の逮捕をもって『エンジェル』事件は終わりを迎えた。
なぜか、ホントなぜか、瀬尾の罪にテレビ局ジャックなどの罪が追加されていた。
その回線ジャックを止めに入ろうとしたことで武戦に間に合わなかったことを公務として認めてもらったのと、理事長、玄さんの計らいで武戦が再試合となった。
「はぁ~。昨日の今日で体バキバキだし、頭は痛いし、昨日の戦いで携帯を落とすは、いい夢が見れると思ったのにありえないはずの悪夢は見るし散々だ」
はっきり言って心身ともにコンディションは最悪。
あ~あ、寝よ寝よ。少しでも体力を回復しなければ。
まったく、それもこれもあんな弟子なんか取るから────
「真矢いる!」
「うわぁ⁉ ビックリしたッ!」
噂をすれば。いきなり愛梨が倉庫に入ってきた。
「ビックリしたなもう。なんだよ。人がせっかく気持ちよく寝てたっていうのによ」
「ビックリしたのはこっちよ! なんでこんなとこで寝てんのよ」
「ここ、お気に入りの場所なんだよ。ほとんど人が来ないし、なにより昔閉じこもってた部屋に似てるんだよな───あれ? なんか昔こんなことあったな」
オレの言葉を聞いて、愛梨はなぜかニヤニヤしていた。なんだ変なやつ。
「何しに来たんだお前?」
「何って師匠の激励に来たに決まってるじゃない」
当たり前のように言っているが、こいつは何を言ってるんだ?
「あのな。事件が解決した今、オレがお前を弟子にするメリットなんか一つもないんだ。つまりクビです」
「あんたってバカなの? 昨日は私を認めるみたいな発言をしてたじゃない? 昨日の今日でもう忘れちゃったの? それともツンデレ?」
「ツンデレはお前だろうが」
愛梨を認めるような発言?
ああ、『いずれオレを超える女』ってやつ?
いや、あの時こいつ寝てただろ?
「言ってません。仮に言ったとしていつどこで何時何分何秒にいったんですか~。子供じゃないんだしちゃんと証明できになきゃお話になりませんね」
「じゃあ、証明できたら見込みありってことで弟子は継続でいいのね?」
「はぁ? できるわけないだろ。もしできたら弟子でも嫁でもなんでも取ってやるよ」
「ホントッ! やった!」
何喜んでの? こいつ?
証明なんてできるわけ────
『いずれオレを超える女か。冗談で言ったんだけど本当になっちまいそうだ』
「オ、オレの声? お前それ! 手に持ってるのオレの携帯か!」
「五月十六日、十時三十六分十六秒 はい。あんたが言った時刻ね」
「……え? なに? どういうこと?」
思考が追いつかない。めずらしいぞ。オレの思考が停止するの。
「ふふ。こんなことがあろうとあんたの携帯を掏って会話を録音してたのよ!」
「掏ったッ⁉ オレからッ⁉ いつ? あっ! 律さんに膝枕して揉めた時か!」
警戒してなかったとはいえオレから掏るほどの掏りの技術はどこで?
あっ! 愛梨と初めてあった時に不良から生徒手帳を掏ったの見せてる!
じゃあ、オレのスリの技術を? なんて才能の無駄使いを。
「いや待て! それ以前にオレの携帯を取る意味って何? こうなることを予測して? これじゃまるでオレの夢知夢能じゃ────」
いくら才能があるからってスリの技術と違って、愛梨が夢知夢能を使うのは不可能だろ。
「えっ? 夢知夢能なんかじゃないわよ」
「じゃあ、どうやって?」
オレの問に愛梨は自信満々に宣言した。
「勘よ! なんか後で役立つって女の勘が言ってたの!」
勘? 勘って直感てこと?
そうわかった途端、我慢できなくなって噴出してしまった。
「ぷ、ぷはっはっは。オレの『夢知夢能』を勘で真似るとか化け物かよお前。いや、勘だけじゃねーな。オレを嵌めるなんて将来有望だぞ、お前が嫌いなペテン師として」
「ふんっ。師匠が師匠ですかね。それと前にあんたが言ってたあたしの目標決まったから」
愛梨に初めて修業を付けてやった時に言っていた成長したきゃ目標をもてってあれか?
「あんたを───神崎真矢を越える。それが私の目標よ!」
「はぁ?」
「律に聞いたわよ。あんたの戦い方そうとう体に負担がかかってるって」
「あの人は勝手に。で、それがお前がオレを超えるのになんの関係があるんだ?」
「私を強くしてくれたら、あんたを止めてあげるわ。たぶん、これは私じゃなきゃできない。ううん。私がやらなきゃいけないあんたへの恩返し」
愛梨はオレの目から目を離さない。
どこまでも真剣な目でオレを見つめている。
「面白いな。でもそれは簡単じゃねーぞ。今だ嘗てオレを倒せたやつはいないんだから」
「あら? 一人いるじゃない」
「はぁ? 誰だそれ?」
「神崎真矢。つまりあんたよ。あんたはいつも自分に負けずに戦ってるんでしょ? ならならあんたの力を借りて私はあんたを超えるわ」
他の誰に負けても自分には負けない。
この倉庫に似ている部屋で昔誓ったっけな。
「つまりあれか? オレは自分の夢を脅かす存在を自分で育てろってことか?」
「嫌って言っても無駄よ。だから───私をあんたの弟子にしなさい!」
「悪夢だな」
神崎真矢。
お前の進む道は破滅の道だ。
それはオレが一番よくわかってる。
でも、もう誰にも───自分ですら止められないんだよな?
なら、今から作ってやるよ。
オレはオレの夢を全力で邪魔してやる。
「いいだろう。オレはお前をオレを超えられるように全力で鍛えてやるよ。ただし、生半可な覚悟じゃ無理だぞ」
「舐めないでよ。私はいずれあんたを────神崎真矢を越える女よ」
愛梨が宣言すると丁度チャイムが鳴った。
『キーコーンカーンコーン』
武戦五分前を告げるチャイムが鳴り響く。
「じゃあ、私は行くわ。私が倒す前に負けたら承知しないからね」
「オレを誰だと思ってる。神崎真矢。誠心高校最強の男だぞ」
それを聞いて安心したのか、愛梨は去ろうとするが、最後にオレは愛梨に一言いった。
「愛梨。負けないぜ」
「私も負けないわ。真矢」
そう言うと愛梨は去っていった。
ああ、そうか。今日見た悪夢はこれを暗示していたのか。
今日見た悪夢───愛梨との武戦を行っている夢。
先ほどまでは決して不可能な、でも今では可能かも知れない夢。
母さんからは受け継げなかったが、予知能力だがこれは予知だといいな。
いや、何を甘いことを言っている?
この夢は叶えてやる。何てたってオレは『夢知夢能』。
夢を知り夢を能とする者だ。
それに夢は語るものでも見るものでもなく叶えるものだろ?
「さて、行くか」
『さあ! 始まります! 誠心高校武戦! 今日はどんな戦いが繰り広げられるのでしょう! 挑戦者が見つめる先からは入場してくるのはこの男! 数々の強敵を屠り、不敗神話を継続中! 『深い夜』の二つ名で知られ、影では『悪夢』と呼ばれ恐れられる『』(ノー)ランクキング! この男の名は!』
オレは進む自分が無知無能───夢知夢能で産まれてきた意味を探す夢の道を。
『武戦高校序列一位 神崎真矢ッ!』
「さあ、始めようか────悪夢を」
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