第5話 純白の帝~最強VS最弱~
まだ、日も昇りきっていない、朝開けの時間。道場内は活気に満ちていた。
「はぁ、はぁ。朝からこの組み手はきつい」
「情けないぞ。真矢。朝の鍛錬こそが一日の体調を決めるのだ」
「とは言ってもですよ師匠。武戦の疲れも取れてないのに、師匠との組み手は辛いですよ」
「何時いかなる時も万事備えておけ。男子家を出れば七人の敵ありと言うしな」
「じゃあ、オレは家から出ませんよ」
天道善───律さんの父親であり、オレの武術の師。
日本全国に門下生一万人を超える天道流の師範で、二十五年ほど前に誠心高校を序列二位で卒業した武術の達人だ。
そんな師匠とどうしてオレが朝から組み手をやっているかというと、昨日の律さんとの約束(無理やりさせられた)を守るため、律さんの家へお邪魔した所、運悪く師匠に捕まってしまい、朝の汗を流そうと道場に連れ込まれてしまった。
「お父さんは勝手なんですから。私が真矢さんに稽古を付ける約束をしてたんですよ」
道場の端で組み手を見学している律さんがそんなことをぼやいている。
……律さんあなたも十分勝手ですよ。律さんとの約束がなければこんなことには。
「セイッ!」
「グウぇ⁉」
オレの腹に激痛が走った。
「よそ見とは余裕だな真矢」
「げほっ。げほっ。いやー。律さんが魅力的すぎてついつい見蕩れてしまってましたよ」
「ぬかせ。わざとよそ見して、カウンターを合わせようとしたやつがよく言う」
「わかってるなら寸止めにして下さいよ。朝食べた物が出たらもったいないでしょ?」
「痛み無くして成長なし。さぁ、続けよう」
そういい終わると同時に、師匠の拳が顔めがけて飛んでくる。それを首を捻ってかわし、捻った首に合わせる様に体をさばき、回転ドアの要領で蹴りのカウンターを仕掛けけるも、片腕で簡単に掴まれてしまった。
「やはり疲れているようだな。力が全然足りない」
「……けっこう思いっきり蹴ったんですけどね。じゃあ、こうゆうのはどうですかッ!」
掴まれている足に力を込め、地面に両手を付き逆立ちをし、もう片方の足で蹴りを放つ。
それを師匠はさっと手を放し、後方に下がることで難なくかわす。
「ほぅ。足を掴んでいる私の腕と両手を地面に付けることで軸を作ったか。しかし、力はましになったがスピードがな」
「はぁはぁはぁ。だからこっちは疲れが取れてないって言ってるでしょうが!」
それから幾度となく攻めてみても、簡単に受け止められるか、避けられてしまう。
しかも、師匠の攻撃はオレに難なく当たる。
そろそろ、体力が限界に近づいた頃、最初の攻撃同様、師匠の攻撃がオレの顔面に迫ってきた。それを今度もギリギリで首を捻ってかわし、最初同様、首を捻った勢いで体を戻し、蹴りのカウンターを狙う。
「芸がないな。それは先ほど力不足と言って────」
今度も足を掴んで蹴りを止めようとする師匠。
しかし、今回は足を掴むことができなかった。
オレの蹴りを掴もうとした腕が、先ほどよりも数段威力が増した蹴りに弾き飛ばされる。
「ぬっ⁉」
「すいませんね。師匠。嘘つきな弟子で」
師匠が怯んで油断した隙に、地面に両手をついて軸を作り、これまた先ほどかわされた蹴りより数段早い蹴りを放つ。
その蹴りは見事、師匠のわき腹を捕らえた。
「よっしゃ! 師匠から初めて一本取ったぞ!」
「おめでとうございます! 真矢さん!」
律さんがオレの元に駆け寄り、共に喜んでくれる。
そんな喜んでいるオレ達を師匠だけがジト目で睨んでいた。
「真矢お前、疲れているんじゃなかったのか? 最後の動き明らかに今までと違ったぞ」
「あれ? 言ってませんでしたっけ? 一昨日の武戦では、お蔭様で一撃もくらうことなく三分程で相手を倒しまいたよ」
「……なるほど。最後の一撃のための虚実か。最初から疲労困憊のフリをして、オレを慣れさせたな。手加減をしているつもりはなかったんだが。……いや、今回は手加減をさせられたと言うべきか」
「こうでもしないと師匠に一撃当てられないんでね。まあ、一本は一本です」
「うぬぅ」
まだ、納得がいかないような師匠に、律さんから激が飛ぶ。
「お父さん! 何が納得できないですか! 真矢さんはお父さんとの試合に応じ、見事一本を取って見せたんですよ!」
「し、しかしだな律。これは正式な試合ではないしな」
「正式な試合であろうとなかろうと約束は約束です!」
「う、うぬぅ~」
約束? 約束ってなんだ?
なんかオレのいない所で賭けでもしてたのかな?
「お父さんが出した条件は、最低でもお父さんに一撃を当てられる様な男性でしたよね!」
「た、確かにそうだが、いくらなんでも早すぎる!」
「私はもう十七歳です! 式も挙げられます!」
「真矢は十六歳で、挙げられないだろうが!」
条件? 式? ああ、免許皆伝式的なやつ? 免許皆伝に年齢制限とかあるのかな?
しかし流石、律さんだ。こんなにオレを応援してくれるなんて。
「師匠! 大丈夫です! 律さんも応援してくれてるで、オレ式挙げたいです!」
「真矢さん!」
律さんが自分のことの様に涙を流して喜んでくれている。
オレの宣言を聞いて師匠はまじめな顔でオレに聞いてきた。
「真矢本気だな? 私はお前を本当の息子の様に鍛えてきた。だからこそ問うておかなければならない。真矢。お前は律を守れるか?」
守る? 律さんを? はっきり言って律さんオレより全然強いんだけど、律さんを守れるぐらい強くなれってことか? それなら。
「もちろんです師匠! 必ず律さんを守れるぐらい強くなってみせます!」
「……なら、何も言うまい。しかし、式は真矢が十八歳になってからだ。これは法律で決まっていることだからな」
へぇー。免許皆伝って法律で決まっているんだ。初めて知った。
師匠が道場を後にするのを確認すると、律さんが泣きながらオレに抱き付いてきた。
「真矢さん! 私、今日という日を忘れません! 私達の記念日にしましょう!」
「お、大げさですよ律さん」
「大げさなんかじゃないです! 私、真矢さんのプロポーズは一生忘れません!」
「ぷ、プロポーズ?」
「私、必ず! 良いお嫁さんになってみますね!」
なぜ、ここで良いお嫁さんになる宣言? オレの免許皆伝に触発でもされたのかな?
律さんなら誰と結婚してもいいお嫁さんになれると思うけど。
「オレも影ながら応援しますよ」
「はい! 二人で頑張っていきましょう!」
……なぜだろう。なんだかとても取り返しのつかないことになっているような。
「さぁ! じゃあ、稽古を始めましょうか! 父にあれだけ啖呵を切ったんです。もっと強くなってもらわないと。それに───」
「ひっ⁉」
律さんは満面の笑みである。満面の笑みであるだが……目が笑っていなかった。
「……私、浮気は許しません」
「う、浮気? 昨日のことならちゃんと説明したでしょう。あれは事故で」
「言い訳無用! そういった衝動に駆られたなら、なぜ私に言ってくれなかったですか! 私、真矢さんのお願いならどんなプレイでもしますのに!」
「プ、プレイって何⁉ そ、それにほら、師匠との組み手でもう体力が」
「ふふっ。もう父はいないので、演技は大丈夫ですよ? それじゃあ、行きますね!」
「いや、これは演技じゃ────ギャッーーーー!」
それから、オレは登校時間ギリギリまで、満面笑みでそれでいて目が笑っていない律さんに稽古をつけてもらった。────なぜか寝技を中心的に。
◆
「痛ててっ。律さんはいつもやり過ぎなんだよな。間接がありえない方向に曲がったぞ」
律さんはシャワーを浴びてから登校するとのことで、冗談で「一緒に入りますか?」とガチパワーで引っ張ってくる律さんから逃げ出し、学校に向かっていた。
「きつかったな。間接技をかけてる時も終始笑顔だったし、何か良い事でもあったのかな?」
そんなことを言いながら登校していると、携帯が鳴った。
画面を確認してみると、理事長の三葉先生からで、出てみると先生は相当慌てていた。
「真矢ッ! あんた今どこにいるのッ⁉」
「なんですかいきなり? そりゃあこの時間なんで学校に向ってますけど」
「すぐ引き返して!」
「はぁ?」
引き返せ? ついに学校に登校拒否されるまでになったのか?
何かしたっけな? あー、ダメだ心辺りが多すぎる。
「引き返せって言われましても。理由はなんですかね?」
「えっ? 理由? 理由ね。……あっ! 今日は休校になったのよ。あんた友達少ないでしょ? だから連絡いかなくて」
「ああ、なるほど。確かにオレ友達少ないし───っておい! なわけねーだろ! いくらなんでも連絡ぐらいくるわ!」
オレ抜きの連絡網なんてあってたまるか。……無きにしもあらずだけど。
大体、今、『あっ』って言ったぞ『あっ』って。
「休校になったね。で休みの理由は?」
「昨日雨が降ったから?」
「いつから日本はカメハメハ大王に侵略されたんですか。しかも今日は晴れてるし」
「……」
「何を隠してるんです先生」
「な、なにも隠してなんかいないわよ! ともかくいい。今日は家で大人しくしてなさい。休みも公務扱いにしとくから。それじゃ」
一方的なことを言ってきて電話を切られてしまった。
……怪しすぎる。
なんだ今の電話。これで疑うなって方が無理だろう。
それに玄さんから昨日、今日は学校に行くようにって念押しされてたしな。
「学校に来るなね。まあ、何を言われてもう遅いけど」
◆
私、橘愛梨は神崎真矢という男に失望した。
今の私はどうしようもなく弱い。そんなのは言われなくても私が一番よくわかってる。
世界に何人もいないランクSの能力者。
でも、そんなもの使いこなせなきゃランクFとかわらない。
神崎真矢はこの誠心高校で序列一位。つまりこの学園で一番強い。
さぞかし、能力の使い方や神力の使い方がうまいのだろうと思った。だから恥を忍んで弟子入りまで懇願したというのに、蓋を開けたらただのペテン師だった。
弟子入りを希望したのは実力だけじゃないのは確かだけど、あれはない。
そう私には時間がない。
それなのに登校するなり理事長室に連れ込まれこの人に会わされた。
彼女の最初の印象は白。
腰まで伸びた銀髪。北欧出身だからか透き通るような白い肌。瞳は澄んだ青色をしており、着ている白いスーツは、汚れという概念がこの世にないように塵一つ付いていない。
そしてなにより、女性の私でも見蕩れてしまうほどまでの暴力的なまでの美しさ。
私と同じランクSの能力者。そして世界最強の能力者の一人。
セフィリヤ=アルベルンド。
「初めまして。橘愛梨さん。セフィリヤ=アルベルンドと申します」
「は、初めまして。た、た、橘愛梨です」
透き通った声に緊張してしまい、声が裏返ってしまった。
私の緊張を見かねてか、隣に座っていた理事長がフォローしてくれた。
「ようこそ誠心高校へ。アルベルンドさん。本日はどのようなご用件で我が高校へ起こしになったんですか?」
「急な訪問で申し訳ありません。用件というほどのことではないのですが、私と同じランクSの能力者が日本に現れたと聞いて、日本に立ち寄る用事があったので一目見ておきたかったのです」
「いえいえ。アルベルンドさんほどの方に我が校に来て頂き光栄です。……ちょっと害虫の駆除に手間取りましたが」
害虫の駆除? 害虫が出るのこの学校? 入学早々嫌な情報ね。
ジー。
み、見られてる。すごい見られてる。
私を見にきたって言ってたけど、こんなにジロジロ見られるなんて。
顔に変な物とか付いてないでしょうね。
「すごい神力量ですね。量だけでいったら私より上です」
「ほ、本当ですか? 橘にあなた以上の神力の素質があると?」
「ええ。とは言っても神力の流れが不自然です。これでは、能力をうまく使えていないのでは?」
見ただけでそこまでわかるなんて。
いくら、世界最強より神力があっても使えなければ意味がない。
「ど、どうすれば。神力がうまく使えるようになるでしょうか?」
「それは私にもわかりません。人によって感覚が異なることなので。ですが、焦る必要はないでしょう。この学校は優秀だと聞いています。しっかり学びなさい」
アルベルンドさんはにこやかに微笑みながら、私を元気付けるためにそう言ってくれた。
二十歳前半だというのに私より遥か高みにいるのが改めてわかった。
「ところで、そちらにいる学生はお知り合いですか?」
「「えっ?」」
私と理事長がそろって後ろを振り返るとそこに、神崎真矢が立っていた。
「グット~モ~ニング~~!」
「し、真矢ッ⁉ あんたどうしてここにいんのよ!」
理事長が驚きの声を上げ、真矢に詰め寄る。
「いやー、先生に電話を頂いた時に実はもう学校の敷地内にいたんですよねー」
「はぁッ⁉ あんた学校に向かってるって言ったじゃない!」
「オレの信条として質問には虚偽をもって答える様にしてるんで」
「こ、こいつ。大体、どうやってここまで入ってきたのよ」
「どこからって。そこからだけど」
そう言うと、真矢は窓を指差した。
窓を見ると、ガラスの鍵の部分が綺麗に切り取られており、そこから鍵を開けたらしい。
「完全に泥棒の潜入方法じゃない! ってかここ五階なんですけど!」
「何回この部屋から逃げ出してると思ってるんですか? あんまり舐めないでくださいよ」
「そんなことを威張るな!」
先生が怒っているにも関わらず、真矢は相変わらずヘラヘラしていた。
「と・こ・ろ・で。先生、これはどうゆうことでしょう? 休校と聞いていたんですが、他の生徒は普通に登校してるんですが?」
「えっ。えーとそれは」
「それと、オレが校内に入らない様に、校門や裏口に先生達が、見張りに立っていたんですが、それもどうゆうことでしょうか?」
真矢の言葉を聞いて先生の顔から冷や汗が流れていった。
真矢はそれを知ってか知らずか、饒舌に話出す。
「もし、もしですよ。先生がオレを登校させないために全て仕組んだのだとしたら、オレもしかるべき処置をとらさせて頂きます」
「し、処置? 私が仕組んだって証拠はないでしょう?」
「先生との電話を録音しておいたのと、見張りに立たされている先生の中から口を滑らす人がいるかもしれない。信じていた先生に裏切られた精神的ショックによる慰謝料と、学校に登校する当然の権利を剥奪された件を含めて、三千万は搾り取ってみせましょう」
先生の顔色が赤くなったり、青くなったりと信号のようになっている。
「そんなことになれば、理事長もクビになることでしょう。三十路手前で金なし、職なし、彼氏なしの惨めな人生を送りたくなければ、今からオレがやることにはお口にチャック」
「そ、そんなことができるわけ────」
「できるわけない? オレが誰の弟子であるかをお忘れなきように」
先生が反論をしようとしたが、真矢の最後の言葉を聞くと大人しくなった。
真矢の師匠? 先生が黙った所をみると真矢以上の捻くれ者にちがいないわね。
先生を黙らせた真矢は、私の隣に座りアルベルンドさんに話かけた。
「初めまして、アルベルンドさん。私は神崎真矢と申します」
先生との対応と違い、真矢は自己紹介の後にお辞儀までしていた。
「さて、さっきの話を聞いた所、橘のことを見に来たとおっしゃってましたが、困りますね。そういったことはオレを通してもらわないと」
「なぜあなたの許可を取らなければならないのでしょうか? 私は正式な手順に則って、橘愛梨さんにお会いしたのですが」
「こいつはオレの弟子ですからね。師匠に許可を取るのは当然だと思いますが?」
「はぁッ⁉ 何言ってんのあんた!」
昨日、あれだけのことをしておいて、今更師匠気取りってどうゆうことよ!
大体、真矢は最初から私を弟子にするつもりはなかったし、私だって真矢がペテン師だってわかったから、弟子なんてこっちからお断りよ!
「あんたどうゆう神経してんのよ! 私は昨日あんたにもう関わらない───うぅぷ」
「少し黙ってろ弟子一号君。あとで稽古付けてやるから」
私が喋ってるにも関わらず、真矢はいきなり私の口を塞いだ。
「あなたが橘愛梨の師匠? 弟子の間違えじゃないんですか? 失礼ですがあなたからはまったく神力を感じないのですが?」
「いえいえ。私が師匠で合ってますよ。こいつがどうしても弟子にしてくれと頼みこんでくるものですから仕方なくですが」
「ぼでばざじおばべべぼ!」
それは最初だけでしょ! と言いたかったのだけど、真矢に口を塞がれてるからうまく言うことができなった。
いい加減にしないと噛むわよ!
真矢の言葉を聞いたアルベルンドさんは、今度は真矢をジッと見始つめ、首をかしげた。
「やはりわかりません。あたなからは何も感じ取ることができない。素質も神力量も橘愛梨の方が上だと思いますが?」
それを聞いた真矢は怒ると思っていたのだが笑っていた。
「失礼しちゃいますね。こいつとオレが戦ったら───いや、戦いにすらならないですよ。なんならあなたが試してみますか?」
「試す? 私が? どうやってですか?」
「オレと戦って下さい」
……はぁ? 戦う? 真矢とアルベルンドさんが?
真矢がバカなことを言うので私は怒るのを忘れてしまった。
バカじゃないの? さっきの真矢の言葉じゃないけど勝負にすらならないわよ。
アルベルンドさんも呆れた顔をしており、哀れな子を見るような目をしていた。
「はぁー。たまにいるんですよ。あなたのように実力差もわからず私に挑んでくる人が。はっきりいいましょう。あなたと私とじゃ生物としての次元が違う」
「でしょうね。『純白の帝』さん」
「私のことを知っているようですね? ならなぜ挑んでくるのですか?」
その言葉に対し、真矢はアルベルンドさんの目を見て真剣な眼差しで答えた。
「オレの夢のために」
真矢の夢?
「あなたが真剣に私に挑んできているのはわかりました。ですが、私があなたの夢に付き合う筋合はありません。せめてもう少し実力を付けてからきて下さい」
「ほぅ。じゃあどのぐらいの実力を付ければ相手をしてもらえるんですかね?」
「そうですね。では、この学園で最強になったら相手をしてあげましょう。あなたの実力では大変な目標でしょうが、努力すればきっと────」
「ちょっと待って下さい! アルベルンドさんこいつは────」
「理事長シャラップ!」
慌てて、理事長がアルベルンドさんを止めにかかったが、それを真矢が一喝した。
「アルベルンドさん。つまりオレがこの学園で最強になれば相手をしてもいいと?」
「ええ。約束しましょう」
「わかりました。────では行きましょうか」
「行く? どこにですか?」
「演習場ですよ。ここでやったら色々壊れちゃいますしね」
「何を言っているのですか? 私はあなたとは戦わないと言ったばかり────」
「あいさつの続きが遅くなってしまい申し訳ない。セフィリヤ=アルベルンドさんようこそオレの城へ。誠心高校 序列一位の神崎真矢と申します。以後お見知りおきを。そして良き戦いをお願いしますよ」
こうして、真矢とセフィリヤ=アルベルンドは戦うことになった。
因みに、ずっと口を塞がれたままだった私は、話しに置いてきぼりにされた腹いせに、真矢の手をおもいっきり噛んだ。
◆
理事長室にいた全員で演習場に移動し、真矢とアルベルンドさんは戦う準備をするため、演習場の端にあるベンチで準備えを始めていた。
真矢は制服のどこに隠していたのだろうかと、思う程の大量の武器を外していた。
「なんで武器を置いちゃうの? 戦いで不利になちゃわない?」
「少しでも動きやすくするためですよ。一定以上の相手には武器は基本通用しませんから」
「なるほどね。───ってなんであんたがいんのよ!」
私の疑問に答えてくれたのは、昨日真矢の家にやってきた、確か律とかいう女だった。
理事長も律がなぜここにいるのか、疑問だったのかそのことを律に聞いていた。
「律、なんであなたがここにいるの? 来客があることは生徒には伏せてあるんだけど」
「愚問ですね。真矢さんがいる所に天道律ありです。あたなとこうして話すのは始めてですね。橘愛梨さん。私は天道律です。私の真矢さんがお世話になっています」
私の? 何こいつケンカ売ってんの?
私はイライラしながら律とかいう女につかかった。
「いつから真矢はあんたの物になったのよ?」
「いつからと言われると、産まれる前からでしょうか? 私と真矢さんは運命の赤い糸でずっと繋がっていましたから」
「ふん。痛い女ね。今時、運命の赤い糸なんて小学生でも信じないわよ」
「なんとでも言ってなさい。それよりも真矢さんに感謝することです。今朝の出来事がなければ昨日の事を私は許さず、あなたを半殺しにしている所です」
今朝の出来事? 律が嬉しそうにしている所を見るにろくなことじゃないわね。あとで真矢から聞きださないと。
「勘違い女」
「泥棒猫」
私と律の言い争いを聞いて、理事長がぼそりと呟いた。
「若いっていいわね」
◆
真矢とアルベルンが向き合う。
真矢は素手で、アルベルンドの手には1メートルほどの剣が握られていた。
「あなたは素手でいいんですか? 剣でも銃でも好きな物を使って構いませんよ」
「いやいや、アルベルンドさんのスピードには剣も銃も効かないでしょ? それならまだ素手の方がマシですよ」
「なるほど。意外と考えているのですね。あなたが序列一位であることを当初は疑いましたが、まんざら嘘でもないようです。戦い慣れしていますねあなた」
「アルベルンドさんほどではないですよ」
「セフィリヤでいいですよ。約束ですからあなたとは対等の勝負をしましょう」
アルベルンドさんの言葉に真矢は嬉しそうに笑った。
理事長が戦いの合図を始める。
「二人準備はいいわね。それじゃあ、戦闘開────」
「ちょっと待った!」
戦いの合図を止めたのはまさかの真矢だった。
「真矢なによ! あなたがやりたいって言った勝負でしょうが!」
「先生は何早まっているんですか。婚期が近くて一分一秒も無駄にできないのはわかりますが、落ち着いて下さいよ」
「……殺されたいのあんた? アルベルンドさんじゃなく私が変わりに殺るわよ」
理事長の神力が殺気と共に膨れ上がった。
どうやら真矢は地雷を踏んだらしい。
「まったく。ハンデも決めてないのに、勝手に始められたら困るでしょうが」
「「「……え?」」」
私、律、理事長の驚きの声がハモッタ。
聞き間違いだろうか? 今この男ハンデって言った?
あれだけ偉そうなことを言っておいて、手加減を要求してるわけ?
「何驚いているんですか。何? もしかしてオレが勝てるとか思っているわけ? 何、夢見ているんですか。普通にやったらオレなんて一撃で粉々になるわ」
「ふざけないでよあんた! 元より勝負にならないのはわかりきってたことでしょうが!」
私が叫ぶと、真矢は呆れた様に言ってきた。
「だから、勝負になるようにハンデをしてもらうんだろうが」
「……あんたよくそんなことが言えるわね」
私も理事長と律の反応を見て、もしかしてこいつには何かあるんじゃないかって思ってたのよ。見なさいよ。あれだけ啖呵を切った理事長と律が恥ずかしそうにしてるじゃない。
「あっはっはは!」
笑い声のする方向を見てみるとアルベルンドさんからだった。
「うふふ。失礼しました。こんなに笑ったのはいつぶりでしょうか? 勝負を挑まれたことは星の数ほどあれど、勝負を挑まれて手加減を要求されたのは始めての経験です」
「喜んでもらえてなによりですよ」
「いいでしょう。好きに要求してください。可能な限り答えましょう」
なんて懐が深い良い人なんだろう。
それに比べて───。
「マジですか? じゃあ、とりあえず、武戦を控えてる身なんで大怪我させるのはなしな方向でお願いします。ぶっちゃけ攻撃を当てないで下さると助かります。それと、使うのは片手だけにして下さい。両手使われたらもうお終いなんで。それから、パワーとスピードも30%いや20%まで落として下さいね。目に見えないスピードとかマジ無理ですから。えーとそれから───」
真矢は恥も外聞もなく、次々に要求をしていった。
そして最後には、信じられない条件を提示してきた。
「オレの勝利条件ですが、あなたにオレの体の一部でも触れたらオレの勝ちにしてもらいたい。『純白の帝』の二つ名を持つセフィリヤさんならこれぐらいの条件余裕でしょう?」
終には触れるだけで勝ちにして下さいというとんでもルールまで要求する始末であった。
「ふ、ふざけないでよ! そんな要求呑むわけ───」
「いいでしょう」
「えッ⁉ いいのッ⁉」
流石に世界最強でもこのルールだときつくない?
「要するに攻撃を当てずに、片手だけを使い、力と速さを極限まで押さえ、あなたに触れられなけらばいいのでしょう? その上であなたを屈服させて見せましょう」
「そうですね。それでお願いします」
「わかりました。時間も押しているので早速始めて下さい」
納得がいかないが、本人が認めているなら仕方がない。
理事長先生もしぶしぶ、開始の合図を再開させる。
「まあ、アルベルンドさんが納得してればいいんですが。真矢は恥ずかしくないわけ?」
「全然」
「……もういいわよ。それじゃあ試合開始!」
『ゴウッ!』
試合開始の合図と共に轟音が響き、真矢が吹きと飛ばされ、地面に2バウンドしてようよく止まった。
この戦いで私は知った。
世界にはどんな理不尽もどんな不条理も真っ向から捻り潰せる強者がいることを。
「……驚きました。まさか今の攻撃にカウンターを合わせてくるなんて。最初に全部の武器を置いたのも、この毒針の布石だったのですね」
よく見るとアルベルンドさんの指の間に針が握られていた。
「痛たたた。ギリギリでしたよ。予想してたよりスピードが遅くて、うまく合わせられなかった。セフィリヤさんもう少し早くて大丈夫です」
真矢が今の攻撃を受けてなお、立ち上がっていた。
「美しい」
アルベルンドさんが真矢の姿を見て呟いた。
私は素直にそう思った。
真矢は今の攻撃で上半身の服が破けてしまっていた。
破けた服の下からは素人の私から見てもわかるぐらい、無駄のない鍛え方をされた肉体があらわになった。
そしてその体には切り傷や銃創、火傷などが見られた。
その傷たちもあいまって、ギリシャの彫刻のような美しさがそこにあった。
「今の攻撃を受けてよく立てましたね」
「せっかくの戦いを一撃で終わらしちゃもったいないんでね。あなたとの戦い全て血肉にさせてもらいますよ」
私はこの戦いでもう一つ知った。
世界にはどんな強者もどんな王道も真後ろから挑む弱者がいることをそして────
─────神崎真矢という夢知夢能を。
◆
あ、危なかった。
偉そうなことを大見得切って言ったが、軽く意識を失いかけた。
くそっ。制服完全に破けてるじゃねーか。
男の裸なんてどこに需要があんだよ。こうゆうのは女の役目だろうが。
「ってかセフィリヤさん。攻撃は当てない約束じゃなかったでしたっけ?」
「当てていませんよ。当たる直前で止めていました」
当てなくてもトラックに引かれたような衝撃なんですけど!
つーか、怪我させない約束はどこいったんですか!
色々言いたいことは尽きないが、ツッコムのはよそう。たぶんああいう天才は「ああ、そうだったんですか?」と凡人が何に怒っているかもわからないだろうしな。
「よし! ぜってー触れてやる。あんたのその巨大な胸にぜってー触れてやりますよ!」
「真矢さんッ! こんな時に何言ってるんですか! そうゆうことは私に言って下さい!」
「り、り、律さん⁉ なんでここに⁉ い、いやー、今のは物の例えというか、意気込みというか、えーと、と、とにかくすいませんでした!」
意気込みから言い訳へ。言い訳から謝罪に見事にジョブチェンジさせられた。
オレが、必死に律さんに謝っているのをよそに、セフィリヤさんは鞘に入ったままの剣を構え直していた。
「触れられるものなら胸でもどこでも触っていいですよ。触れられればの話ですが」
そうなのだ。まずこの人には触れることすら難しい。
能力者の世界ランキングは一一位までしか存在しない。
一一位から上、つまり十位~一位の者達はもはやランキングすることすらできなかった。
彼らは人間としては扱われず、一つの国あるいは一つの戦争として扱われる。
猿から人間に進化したように、彼らも人間から進化したのだ。
そんな彼らを『超越者』と呼び新たな人類の可能性として畏怖されていた。
そんな『超越者』のセフィリヤさんはこう呼ばれていた。
身に纏う白い服に敵の返り血すら浴びず、戦場を舞う。人間という不浄な存在に触れることすら許さない接触不可の白き帝───『純白の帝』と。
「では、次の攻撃に移ります。用意はいいですか?」
「体のあちこちが痛くて、気を抜くと意識を失いそうになりますが、絶好調ですので遠慮なくどうぞ。……いや、やっぱり多少遠慮していただけると───」
「いきます」
「人の話は最後まで聞きましょうよ!」
◆
セフィリヤさんとの戦いは五分が経過しようとしていた。
オレは、セフィリヤさんの攻撃を紙一重でかわすので精一杯だった。
かわしているといったが、攻撃の余波でダメージは負い一撃一撃に精神をすり減らしながらも、手加減してくれているとはいえ『超越者』相手に五分耐えていた。
「どうやっているのです」
優勢のはずのセフィリヤさんの表情が真剣なものへと変わっていた。
「確かに手加減はしていますが、人間が反応できるスピードではないはずです。それなのにあなたは避けてみせている。……いえ、正確には正しくないですね。あなたは私がどう動くかを知っている。能力を使っている反応もないですし、どうやっているのですか?」
「秘密です。マジックのタネほど知ってがっかりするものはありませんから」
「教える気がないならいいですよ。さて、このままではらちがあきませんのでもう少し力を出しましょう」
そう言ってセフィリヤさんは、今までは鞘に納めていた剣を鞘から抜き出した。
「名前を再度聞いておきましょう」
「神崎真矢。いずれ世界に名を轟かせる男の名ですよ」
「それでは真矢君。あなたを敵として認識しました。真矢君の動きもどんどんよくなってきてることですし、10%でお相手しましょう」
抜き身になった剣が怪しく光る。
鞘から剣を抜いただけだというのに、明らかにさっきと纏う空気が違っていた。
戦いを見ている三人も高ぶるセフィリヤさんの神力を感じたのか、いつしか黙っていた。
────まあ、オレは何も感じないんだけどねッ!
オレがびびってると感じている今がチャンス。
オレはセフィリヤさんめがけて今日一番のスピードで走った。
しかし、セフィリヤさんの手前二メートルまできたところで、急遽後ろに下がった。
体に下がれと命じたわけじゃない。だが頭で考えるより先に体が後ろに下がっていた。
オレの背中に冷や汗が流れているのがわかる。
あのままつっこんでいたら確実に切られていたと直感で理解した。
「よく、今のタイミングで後ろに下がりましたね」
「今のは反則でしょう」
セフィリヤさんは決して動いてはいなかった。
「なに? なにが起こったの?」
「地面を見て下さい」
「な、なにあれどうなってんの? 真矢がさっきまでいた場所がえぐれてる」
「切ったのでしょう。驚くべき速さで」
何が起こったのかわからない橘に、律さんが説明していた。
そう、セフィリヤさんが切ったのだ。
目に見えない速さで切った音さえ置き去りにして。元からそこがそうであったように。
「驚きました。これも避けられるのですね。まさか東洋の島国の学生にこれほどまでの使い手がいるとは」
「褒めてもなにもでませんよ。でもお礼に侍の底力みせてやりますよ」
「今日は本当に驚きが多いです。真矢君もっと私を楽しませてください」
「驚きついでに教えてあげますよ。あなたが久しく感じてない敗北をね!」
言い終わると同時にまたオレはセフィリヤさんに向けて突撃した。
今度はセフィリヤさんを見ない。剣も見ない。
見るのは肩。
セフィリヤさんの肩だけに一点集中する。
人間は体の都合上、腕を動かす際に真っ先に動かすのが肩だ。
肩だけに神経を集中することでなんとか残像だけ捉えることができた。
それでもかわすのが精一杯。
攻撃をしかける暇など微塵もなかった。───それでも。
「さっきよりかは近づきましたよ。残り1.9メートル!」
「面白い」
その後もセフィリヤさんの見えないそして音もない剣戟が続いた。
なんとか捌いているが、このままじゃ体力と精神力が削られいずれ獲られる。
なにかないか。この状況を打破できる決定的ななにかが。
ヒントを求めて考えていると、頭に浮かんだのは今朝の師匠との組み手。
セフィリヤさんとの距離を1.5メートルまで縮めていたその間合いを更に強引に縮める。
案の定、セフィリヤさんの剣戟がきた。
しかし、今回はさっきまでとは違う。
オレは剣戟の軌道に右手を差し出した。
さっきまでは避けられている剣戟をあえて避けなかったらどうなる?
今朝の師匠との戦いでは、前の攻撃と同じ攻撃をした時に力を上乗せして勝った。
今度はその逆。前まで避けられた攻撃をあえて避けなかった。
「なっ⁉」
剣を止めようとしたセフィリヤさんだったが、腕を押し出してくるとは思ってなかったのだろう。表情が今日一番の驚きに染まる。
一瞬だ。セフィリヤさんが驚いたのは00.1秒ほどだろう。
その一瞬を、見逃さない。
右腕が切断され宙を舞う。
「きゃーーーー!」
橘か律さんの悲鳴が聞こえたがかまっている余裕がなかった。
セフィリヤさんとの距離残り30センチ。
オレは全力で残った左腕でセフィリヤさんを殴りつける。
しかし────勝利の女神がオレに微笑むことはなかった。
セフィリヤさんはただ後ろに下がっただけ。たったそれだけで、オレの拳を避けた。
時間が動き出したかのように、傷口から血が蛇口を捻ったように噴出した。
「う、腕を一本犠牲にしても触れることすらできないなんて」
先生が搾り出す声で言うのが薄れいく意識の中でかろうじて聞こえた。
「今のは危なかった。ここ数年で一番の危機だったかもしれませ────」
セフィリヤさんが喋っている途中で、『ドサ』という何か軽い物が当たる音がした。
セフィリヤさんの白いスーツが鮮血に染まる。
ここ数年触れらることが──汚れることさえなかった純白のスーツが最弱の血で染まる。
まるで真っ赤なバラが咲いたかのように。
「は、はぁはぁ。オ、オレの勝ちです」
「喋らないで真矢さん! すぐに止血を」
手当をしようと律さんが駆け寄り、オレの切れた腕を力一杯握りしめた。
「さ、最初に言いましたよね。『あなたにオレの体の一部でも触れたらオレの勝ちにしてもらいたい』って」
「……」
「そ(・)れ(・)が触れたらオレの勝ちですよね?」
オレが残った左腕で指さした場所には右腕があった。
そう、セフィリヤさんに触れたのはオレの切られた右腕だった。
「……そういうことですか。最後の拳は私を腕の落下地点に誘導するためのものだったんですね。まさか、腕を犠牲にしてくるとは」
「世界最強との授業料がオレの右腕一本なら安いものですよ」
「それにしても危険なことをする。たかがこんなゲームみたいな勝負に腕を賭けるなど正気の沙汰ではありませんよ」
その言葉に、オレは激痛で歪んだ笑顔で答えた。
「ゲ、ゲームに真剣に取り組むのは子供の特権ですよ」
「ふふ、そうですね。私も大人になってしまったのですね。ゲームに本気になれないとは。完敗ですよ」
「い、や、いや。ま、だまだ、お、お若いですよ」
「最後に───あなたは何者ですか真矢君?」
その質問に最後の力を振り絞って答えた。
「どこにでもいる最強を夢見る少年ですよ。ちょっとばかし最弱な、ね」
言い終わると同時にオレは意識を失った。
◆
目が覚めると、見知った天井があった。
まだ、右腕の感触がないがなんとか繋がってはいるようだな。
「ふぅー。ひとまずよかった。右腕なしで今後の武戦を戦うとなるとちときついしな」
「何がよかったよ。あれから大変だったんだからね」
「うわぁ⁉ びっくりした⁉ なんだよ。いるならいるって言えよ橘」
ベットで寝ているオレの横に座っていたのは橘だった。
「あんた気は確かなの? 右腕を切断なんて」
「こうでもしないと勝てなかったんだよ。それに繋がったんだから結果オーライだろ」
橘はオレ右腕を見ながら質問する。
「あんたこうなることがわかってたのよね?」
「はぁ? わかってるわけないだろ。わかってたら腕切断なんて結果になってねーよ」
「……だってあんた。保健室の先生に自分がどう怪我をするか伝えてあったんでしょ?」
オレは、セフィリヤさんが学校に来ていると知って真っ先に向ったのは、セフィリヤさんのいる理事長室ではなく保健室だった。
保健室の先生にこれから演習場で戦う旨を説明して、部屋の外で待機してもらっていた。
「わかってたわけじゃねーよ。ただ、最強相手に無傷は無理だろうなと思ってな」
正直、最終手段として考えていた腕切断を使う羽目になるとは思っても見なかった。
甘く見ていたわけじゃないけど、あれで10%とか本気だされたら塵も残らないだろうな。
「でも勝ったじゃない」
「触れただけだよ。実戦じゃあ触れた所でどうもならないしな。ゲームに勝って勝負に負けたって感じかな?」
「それでも! 『純白の帝』に触れるなんてAランクでも不可能よ! ましてやあんた『 』ランクじゃない! ……あんたいったい何者なのよ」
「セフィリヤさんのも言ったが、どこにでもいる最強を夢見る少年だよ」
これ以上聞いても何も教えてくれないとわかったんだろう。橘は諦めた様に言い出した。
「教えてくれないならもういいわ。弟子になればあんたの秘密もわかるだろうし」
「そうそう弟子になれば───はぁ? なんでお前が弟子になる流れになってるの?」
「だって真矢が言ったんじゃない。弟子である私に話す前に師匠にであるオレに話しを通してもらわないとって」
言ったね。あの時はセフィリヤさんと戦うために必死だったからなー。
「お、お前! 昨日あんだけオレのこと嫌いって文句言って断ったくせにいまさら──」
「それにこうも言ってたわね。少し黙ってろ弟子一号君。あとで稽古付けてやるからって」
いくら回りが見えなかったとはいえ、あの時のオレはバカかよ。
橘は早速、師匠譲りにあくどい笑顔で言ってきた。
「よろしくね。師匠」
あれ? これって弟子に取る流れなの?
これじゃあ、玄さんの思う壺じゃ。
……待てよ。セフィリヤさんが学校に来ることも知ってたし、橘を弟子に取るまで玄さんの計画なんじゃ───。
いやいや、流石にそれはない。オレの師匠だからってそれは───なくもないな。
クソ。あのジジイ。今度あったら絶対にしばいてやる。……いや、しばけたらいいな。
「いいだろう。橘。ただし、オレの言うことには絶対服従だ。文句言ったら、即破門してやるから覚悟しろよ」
「橘じゃなくて愛梨よ。そっちこそちゃんと私を強くしてよね」
「……わかったよ。愛梨。お前を強くしてやろうじゃねーか。オレの次ぐらいにな」
こうして愛梨を弟子に取ることになった。
この選択が後にオレの運命を大きく変えることになるとはまだ誰も知らなかった。
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