第3話 0.07%の奇跡《ウソ》

集中しろ。

体にある神力を一点に集約し打ち出すイメージ。

両手を合わして後ろに引き、力を貯めろ。

そして、勢いよく手を前に突き出し叫べ。

「か○~はめ~波ッ!」

「……神埼真矢。記録0。総合ランク『 』ランク」

 先生が残酷にも結果を伝えてくる。

 本日はオレが嫌いな学校行事の一つ。身体測定の日だ。

「先生、止めないで下さいよ。なんか今日はいけそうな気がします。なんかこう、信じられない記録を叩き出せそうな感じが」

「もう出てるんだよ。とんでもない結果が。なんだ0って。生きてさえいれば、赤ん坊や老人でもメーターは動くっていうのに」

「じゃあ機械が壊れてるんですね。不良品ですよこれ」

「なわけあるか。ほらちゃんと動くだろ」

 オレがいくらやっても動かなかったメーターが、先生が手をかざすと簡単に動いた。

『見てあれ、0だって』『逆にどうやってやるんだあれ』『一年の時から0らしいわよ』『あれで序列一位なんて絶対おかしいぜ』『試合ではズルしてるんだって』『インチキヤローが』

 皆さん。せめてオレが聞こえない所で言ってもらえませんかね? 

 先生もオレの結果に呆れているみたいだ。

「まったく。神力がなきゃどうやって能力検査していいかわからん。教師やって長いがお前みたいなやつは初めてだよ」

 先生は能力ランク欄を空白にし、オレに測定用紙を渡してきた。

「おかしいな。何がいけないんだろ? 測定してる先生かな」

「おかしいのはお前の頭だ。ドアホウ」

 オレの発言に説教をしようとする先生だが、突然の歓声が先生を止めた。

『すげーぞ! ランクSだってよ!』『ホントにあんな数字出るんだ』『見ろよ。測定器が壊われたぞ!』『すごすぎて測定できないってこと?』『どっかの誰かとは別の意味で測定不能だな』

 人だかりができている方を見ると、少女が測定器を神力量だけで破壊していた。

「おお、アレが噂の転校生か。すごいな」

「ホントスゴイデスネ。……才能のあるやつなんて全員死ねばいいのに」

「俺も近くで見てくるから、さっきの罰として片付け頼んだぞ神崎」

「え? ちょっと!」

 オレの抗議を聞こうとせずに、先生は人だかりの中に消えていった。

「はぁ~。悪夢だ」

 残されたオレは、しぶしぶ片付けを始めた。

「……ランクSか。本当だったんだな。って、なんでそんなエリートがオレに弟子入り志願してくんだ! 嫌味か!」

 このとんでもない怪物少女がなぜだか知らんが、オレに弟子になりたいと言ってきてる。

                   ◆

 いつもの様に、学校の皆から嫌悪の視線を浴びながら登校し、自分の席で一息ついて寝そうになっていると、竜が興奮ぎみに話しかけてきた。

「知ってるか真矢。今日このクラスに転校生がくるらしいぞ! しかも女子だ! 女子!」

「発情期のゴリラかお前は。転校生ねー。で、その転校生の能力は? ランクは高いのか? 苦手なものは? あと、どこの学校出身─────」

「ち、ちょっと待てよ。俺は今日、転校生が来るしか知らないって」

「ちっ、使えないゴリラだ」

 しかし、転校生か。うちの学校に中途入試で入れるってことはかなりの使い手かもな。序列戦に入ってくるようなやつカンベンだぞ。

 オレが転校生のことを考えていると、竜が不満げな顔をしていた。

「たっく人がせっかく教えてやったのに、終いにはキレるぞ」

「はいはい。ゴリラがキレても精々う○こ投げるくらいだろ。……よく考えたらそれすごい嫌だな。やめろよ。そうゆうの」

「誰がやるか!」

 竜と話していると、前方の扉が開き、先生と女子生徒が入ってきた。

 ざわざわと賑わっていたクラスが突如として静かになった。

 男女問わず皆、入ってきた女子生徒に釘付けになっていた。

 ハーフらしい彼女は、長く栗色の髪、左右均一に整った顔。つり目がちの瞳は青く輝いており、制服の上からでもわかる日本人ばなれした抜群のスタイルをして────ん? こいつどこかで。

「はーい注目。今日は転校生がいる。橘さん。自己紹介を」

 先生の紹介で女子生徒が一歩前に出てきた。

 自己紹介をするかと思いきや、いきなり指を突き出した。

 あれ? おかしいな。オレを指さしてる?

 念のため後ろを振り返っててみたが、一番後ろの席のためそこには誰もいなかった。

 オレがあれこれ考えていると、女子生徒は開口一番に言った。

「私の名前は橘愛梨! 神崎真矢! 私をあんたの弟子にしなさい!」

「………………………はぁ?」

 その後はクラスが祭りの様に騒ぎ出したが、詳しくは覚えていない。

                  ◆

 ホームルームが終わり十分休み。オレと竜は橘を人気のない場所に呼び出していた。

 オレは色々言いたいことがあったが、ひとまず一番肝心なことを聞くことにした。

「で、お前はなんなんだ?」

「さっき、自己紹介したでしょ。橘愛梨よ」

「いや名前を聞いてるんじゃない! お前の目的を聞いてるんだよ!」

「それもさっき言ったでしょ。弟子にしなさいって言ったのよ。バカなのあんた」

「こ、このアマ。ブッ飛ばしてやろうか。そうじゃなくてなんでオレの弟子になりたいかって聞いてんだよ!」

「ここ数日偵察して、あなたなら私の力を引き出せるんじゃないかと思ったから」

 え、説明終わり? 嘘でしょ? 

 ここ数日見てた? それならオレが気付かない訳が─────あ。

「昨日会ったオレに付きまとってた女!」

「はぁッ! あんた今の今まで気付いてなかったの!」

「悪い。オレ、興味ない人間はすぐ忘れるから」

「き、興味ないですってッ!」

 オレかっこつけて去り際に、『もう会うことないだろう』とか言っちゃってるよ。

 まあいい、このストーカー女には早めにお引取り願おう。

「えーと、橘さんでしたっけ? あのですね。ボクは弟子とかとってないですし、あまり人と関わりたくないので、今回は採用を見送らせて頂きたく」

「採用面接かッ! なんでもいいから、私を鍛えて強くしなさいって言ってるの」

「な、なんちゅう横暴な」

「それに、人と関わりたくなって言ってるけどその人はどうなのよ」

「ああ、こいつはゴリ・ゴリゴーリ・ゴリーと言う新種のユーマだ。親戚にはビックフットと雪男がいるぞ」

「え? 外人さんなの? ハロー。ゴリ・ゴリゴーリ・ゴリー」

「誰がユーマや外人だ! 純粋な日本人だよ!」

 聞き捨てならなかったのか、呼んでもないのに竜が乱入してきた。

「あら、やっぱり日本人じゃない。かなり怒ってるみたいだけどなんでかしら?」

「気にしないでくれ、発情期で荒っぽくなってるだけだ」

「……おい真矢。終いには本当にう○こ投げつけるぞ」

 怒っている竜を気に止めず、橘は話を続けてきた。

「まあ、なんでもいいわ。その人が人間なら私が一緒にいても問題ないわね」

「いや、そういう問題じゃなくて」

 ダメだ。この手のタイプには何を言っても聞かない。

「仕方がないな。そんなに弟子になりたいなら弟子にしてやろう」

「ほ、ホントッ⁉」

「ただし、テストに合格できたらだ。こう見えても序列一位、鍛えて欲しいと言って来るやつはわんさかいてな。全員は相手にできん」

「て、テストってなによ」

「オレに一撃当ててみな。それでお前の実力をみてやるよ。ただしチャンスは一度だ」

「……わ、わかったわよ」

 ふふっ。我ながらナイスアイデア。これならどんな攻撃でもオレの采配で不合格にできるし、じかに橘の力を計れる。さらに、一度試験したらもう橘と関わらなくて済むぞ。

 オレがしめしめと心の中で思いながら橘を見て見ると、呼吸を整えてる様だった。

 準備ができたのか、ぎこちない素人丸出しの構えで臨戦体制に入った橘の姿を見て、なぜだか、竜が慌てだした。

「おい! 真矢、あいつやばいぞ!」

「大丈夫大丈夫。あんな素人の攻撃当たらないって。それに、オレに弟子入りしてくる様なやつだぞ。低ランクなんだろきっと」

「い、いや! 今まで感じた誰よりも神力の量が多い! ただ者じゃないぞ!」

「……マジ? オレなにも感じないけど。……もしかして大いにビビッた方がいい感じ?」

「ああ。……たぶん、ランクBは硬いぞ」

「タイムッ!」

 竜の助言を聞き、すかさず叫んだ。

 レベルB以上ッ⁉ おいおい、高校生の平均がランクEだぞ。大の大人だってランクC行けば一目置かれるのに。

 ……こ、これは一度確認をとらなきゃ。

「あのー。橘さん」

「なによ。いきなりタイムだなんて」

「つかぬことをお伺いしますが、あなた様のランクはなんでございましょうか?」

「ん? ランク? ランクなら一応Sだけど」

「……ああ。よかった。ランクSか~。BとかAとかだったらどうしようかと思っちゃったよ。……そうかそうか、ランクSか。SねS。────ん? S? Sッ⁉」

「ど、どうしたのよ。いきなり叫んで」

 C.B.A.SのSッ⁉ 最高ランクじゃん! そんなの歴史に名を残すほどの怪物じゃねーかよ!

 オレが驚きに震えていると、橘は何事もなかった様にテストを続けようとしていた。

「ねぇ。もう初めていいの? それと最後の確認だけど本当に攻撃当てていいの?」

「うん! ダメだね!」

「はぁ⁉ あんたがそうしろって言ったんじゃい!」

「こういう野蛮な方法はよくないと思うんだよね。今の世の中話合いで解決しないと」

「じゃあ、テストはどうするのよ! 面接でもするっての!」

 それもいいが、もう一秒もこんな怪物に関わりたくない。

たっく、あの行き遅れ理事長め! とんでもない怪物を入学させやがって。なんかオレに恨みでもあんのか! ────あ。いっぱいあったわ。

「さて、そろそろ休み時間も終わりだし、オレの持病の吐き気、頭痛、腹痛、眠気、冷え性も出てるし、後ろのゴリラを保健所に連れて行かなきゃいけなかったり等の理由で、今回はこの辺で」

「ち、ちょっと待ちなさいよ! テストはどうするのよ?」

「あっ! もう授業が始まる時間だ! 優等生としては先生のありがたい話を聞きながら昼寝しないと! じゃあ、教室で!」

「ま、待ちな────」

 後ろで橘がごちゃごちゃ言っていたが、聞こえぬふりをして教室まで走って逃げた。

橘から逃げた後、次の時間が身体測定だったので、そのまま橘に見つからない様に身体測定に参加。見事、誠心高校最下位を二年連続で奪取した。

Sランクと『 』ランクねー。見ての通り天と地との差。

はぁ~。……半分でいいからオレにくれないかな。

                         ◆

身体測定も無事に終わり、他の授業でも橘と関わらない様に努力した。

しかし、橘は授業中だろうとお構いなしに、『弟子にしろ!』『話しを聞け!』などと押しかけてきた。

オレは寝たふり、無視、死んだふり、先生を呼ぶなどして授業をなんとか切り抜け、無事に放課後へ突入することに成功した。

帰りのホームルーム。先生の挨拶をオレはクラウチングスタートで待機。

先生が『さようなら』というのを合図に、全速力で下校。

学校から走ること五分。ようやく足を止め一息ついた。

「はぁ、はぁ。こ、ここまでくればいいだろう。まったく帰宅部を体育以外で走らせるなよな。はぁ~、明日からどうしよう。ほんと悪夢だよ」

 今日はなんとか切り抜けたが、橘のあの異常なまでの執念は明日になれば忘れる様なものじゃないだろう。

 さてさて、どうしたものか。いっそ、また人気のない所に呼び出してボコるか。いや、逆にボコボコやられそうな感じがするな。

「ふぁ~あ。ねむ。まあ、明日のことは明日考えればいいか。最悪弱みでも握ればなんとかなるだろ。―――ところでお兄さん方はどこのどなた?」

 気が付くと五人の男子高校生に囲まれていた。

 五人の内の一人が前に出て来て、ひとりでに話始めた。

「よお! 昨日ぶりだな! 昨日はよくも恥じかかしてくれたな!」

「ミー?」

「そうだよ! 他に誰がいんだよ!」

 昨日? 誰だっけ? 

「えーと、すいません。中学の同級生だったりします? ああ、あれか。中学の時、不良漫画を読み漁ってた田中君か? やっぱり不良になっちゃったかー。いやー、二年で人ってここまで変われるんだな」

「田中って誰だよ! オレは昨日マッグでお前に追い返された南条だよ!」

「……ああ。昨日の無様に逃げた、武弦高校二年五組出席番号二一番の南条亮君か」

「覚えてるじゃねーかよ! 出席番号までしっかりと!」

 いや、本当に今の今まで忘れてたんだが。今の情けないセリフで思い出したよ。

 しかし、まずいな。昨日のお礼参りってことだろ。

 橘を撒くために人通りが少ない所を通ってきたのが失敗したな。

 ったく、橘といいこいつといい皆オレのこと大好きかよ!

 ……五人か。……あれ? オレやばくない?

「えーと、もしかしてこれ、俗にいうピンチってやつでしょうか?」

「大ピンチってやつだよ! どこまで能天気なんだお前。こっちは仲間四人も連れてきてんだ! 今からお前はボコボコにされるんだよ! まあ、土下座でもすれば許してやらんことも――――」

「え? 土下座すれば許してくれるんですか? ならやります。カメラの準備とかOKですか? シャッターチャンス逃さないで下さいよ」

「軽ッ⁉ プライドとかないのかお前!」

 プライド? はんっ! そんなもん、火曜日の燃えるゴミの日に捨ててきたわ。

 土下座一つで、この場が乗り切れるなら安いもんよ。オレの華麗な土下座見せてやるぜ!

「ま、待て。やっぱり土下座ごときじゃ俺の気が収まらねー。とりあえず、有り金全部と裸で写真でも撮らせてもらおうか。これでお前は一生オレに逆らえないぜ!」

「すいません。裸は事務所に許可取らないとだめなんですよね。ってか裸で写真って。そういうの女子にやろうとして颯爽と現れるヒーローに倒されるフラグだよ。……オレの時はヒーロー来てくれるかな?」

「はっははー。来るわけねーだろ! こっちはお前が人気のない場所に行くのを待ってたんだからな」

 ああ、そうだった。こんな場所じゃあヒーローは来てくれそうもないな。まあ、どんな場所でもオレなんかのためにヒーローが来るとは思わないから別にいいけど。

「ま、待ちなさい!」

 大声の叫び声の方を向いて見ると、そこには橘愛梨の姿があった。

「大勢で一人を囲むなんてサイテーよ! もっと正々堂々と戦いなさいよ!」

「……なんでいんのお前」

 橘が急に現れたことに驚いたが、この騒ぎの中へ入りこんできた方にもっと驚いた。

 オレを見つけても、隠れるか逃げるかするればいいものを。

 まあ、ランクSの怪物様ならこんな不良なんて物の数じゃないんだろうけど。

 しかし、オレは橘の姿を見てそれは間違いであったと気づいた。

 橘はあまり戦ったりする様なやつではないのだろう。

 ―――なぜなら、オレを庇う様に前に出てきた橘の足は震えていた。

 やれやれ、ランクSの怪物様ならこの状況を打破してくれると思ったんだが、不良どもの言葉を聞いて更に怯えちゃってるよ。

 まったく、戦えもしないのに何しに来たんだこいつは。

 状況を悪化させただけの、正義のヒーロー気取りのバカじゃねーかよ。

 まあ、この手のバカは嫌いじゃないけどね。

「おい。橘。後ろに下がってろ」

「はぁ? な、なに言ってんのよ。一緒に戦うわよ」

「いや、その状態じゃどう見ても無理だろ。いいからどいてろよ。腐ってもオレは誠心高校序列一位だぜ。こんな不良ども楽勝だよ」

 たぶんオレ、この中で一番弱いんですけどね。こう言わないと橘は引かなそうだし。

「……わかったわよ。でも危なくなったすぐ助けに入るからね」

「ああ、その時はよろしく頼む」

 愛梨が後ろに下がってくれたので、オレは改めて不良たちの方へ向いた。

 オレが戦う気だとわかったのか、昨日会った南条が忠告してきた。

「な、なんだよ。やる気か? やめとけよ。こっちは四人もいる上に、今日はあの変なじじいもいないからな。遠慮なくテメーを焼けるぜ!」

「……変なじじいねー」

「銃も持ってるみたいだが関係ねー! オレの「発火能力」なら一瞬で――――」

 南条が言い終わる前に、オレは南条との距離を詰め寄り顎にめがけて、フック気味の拳を打ちこんだ。

「ぐごッ!」

 拳をくらった南条は、体の力が抜けていく様な恰好で地面に倒れこんだ。

 人間は脳への攻撃に弱い。今のはわざと脳を揺らす様に攻撃したので、軽い脳震盪により気を失わせた。

「て、テメー! やりやがったな!」

 仲間をやられて、不良たちは臨戦態勢を取り始めた。

「ヒーローじゃなく役立たずが来たから仕方がない。自分でやるよ。……まったく。天然記念物みたいな不良を倒しちゃうのは申し訳ないと思って気を使ってやってたのによ」

「いきがりやがって! 今にその減らず口が叩けなくしてやるよ!」

「酒井さん! 気をつけて下さい! 南条があいつ銃を持ってるって聞いてます!」

 不良たちが話すために一瞬オレから目線が逸れた。

 その一瞬でオレは、五メートルほど離れていた不良たちに近づき、オレが銃を持っていると忠告した不良の肩を叩いた。

「確かに銃は怖いけど戦ってる時は敵から目を離すなよ。こうやって不意を突かれるぞ」

「なッ⁉ どっから出て来やがった!」

 不良は叩かれた手を弾き、オレから再び距離を取った。

「テメー! 瞬間移動の能力者か!」

「慌てんじゃねーよ! こっちは三人もいるんだ! 瞬間移動だろうぶっ潰せる!」

 勝手に誤解してるな。本当は、目線が離れた隙に気配を消して抜き足で相手に近づく『夢足』っていうただの足運び技なんだが。

 最後のリーダー格の言い分に納得したのか、再び不良たちが活気を取り戻した。

「そ、そうですよね! 仮に瞬間移動ができたとしても、三人もいればなんとか―――」

「いやー、それは無理だわ。ランクにもよるが、瞬間移動っていうのは自分を飛ばすだけじゃないんだぜ。相手や物を別時点に飛ばすことだってできるんだ。最初にオレに肩を触られる様なあんたじゃ一発アウトだろうな」

「~~ッ⁉」

「驚いてる所悪いが、もう一個訂正だ。三人じゃなく二人だ。もう終わってるぜ。あんた」

「な、何言ってんだ! 俺はまだ何もされてないだろうが!」

「そらぁ」

「がぁ!」

 オレが腹にパンチを決めると不良は顔色が悪くなり最後には地面に倒れ込んだ。

 倒れた仲間を見て、リーダー格の男は怒り、もう一人のやつは困惑していた。

「心配ないよ。十分もすれば元に戻る。で、どうするまだやる?」

「こっちは二人もやられてるんだ。このまま帰れるわけねーだろ! 宮口下がってろ!」

 どうやら今、前に出てきたやつが今回のグループの中で一番の実力者やつらしい。

 前に出てきた不良は、何を思ったのかオレから十メートルは離れてるというのに、おもむろに誰もいない場所を殴った。

「ん? なにやっ――――ぐッ⁉」

 突如、オレの顔面に叩かれた様な痛みが走った。

 殴られた? この距離で? 打撃ポイントをずらした? いや、直接殴られたって程のダメージはない。――――拳圧? 殴った空気を飛ばす能力かな?

 オレが相手の能力について色々考えていると、不良が能力の説明をし始める。

「どうだ! 驚いたか! これがオレの能力『風圧突破』だ! 俺が起こした風に神力を込めて相手に飛ばす! これで離れた位置にいてもお前に攻撃ができるぜ!」

「説明どうも。でも、敵に能力は教えない方がいいぞ。対策立てられちゃうから」

「関係ねーよ! 要は相手に攻撃の隙を与えなきゃいい話だ」

「へー。すごい自信だな。で、どうやって攻撃させないんだ?」

 オレの質問に不良はニヤリと笑い、背中から木刀を取り出した。

「こうすんだよ!」

 不良は取り出した木刀をめちゃくちゃに振り回して風を複数起こし、起こした風達が一斉にオレの元にやってきた。

 風を見切って腕で防御するが、量が多いので意外ときつい。

 ちっ。乱れ打ちか。しかも木刀って。いつの時代の不良だよ。銃刀法違反で逮捕するぞ。

「神崎! 大丈夫⁉ やっぱり私も一緒に戦うわよ!」

 オレが攻撃されているのを見て助けに入ろうとする橘を、オレは落ち着いた声で止めた。

「くるなよ。お前がくるとややこしくなる」

「で、でもあんた攻撃を沢山くらってるじゃあない」

「攻撃をくらう? オレが? いつ?」

「げ、現に今も攻撃を―――って、あ、あれ?」

 橘が怪訝そうな声を上げて不思議がっている。

 それは攻撃をしている不良も同じ様で、息が上がりながら必死に怒鳴っていた。

「はぁ、はぁ。どうゆうことだ! なんで俺の攻撃が当たんねーんだよ⁉」

 橘や不良が驚いているのは、オレが大量の風の攻撃を一発もくらわなくなったからだ。

 上、上、右下、左、上、右、左上、左―――おっと、左下だった、あぶね。

 最初はわからなかった攻撃だが、今ではどうやって攻撃がくるのか大体、わかる様になってきていた。

「どうしてだ⁉ 最初は当たってたのに!」

「当たったのは威力を確かめるためだよ。お前の力は起こした風に神力を乗せて飛ばす力なんだろ? 確かに拳よりか威力も射程距離も伸びてたけど、木刀を使っても遠距離攻撃とはとても呼べない威力なだな。これじゃあ精々Eランクってとこか?」

「うるせーよ!」

「ん? 当たった? それと一つアドバイスだが、お前が持つ武器は木刀なんかじゃなくて、風を押し出す面積が広い武器がいい。……確か中国で会った似たような能力者は扇子を使ってたぞ」

 話ながらも攻撃を躱しつつ、距離を詰める。

 距離が近くなるにつれて、風の攻撃の速さも威力も上がってきたが難なく躱す。

「くたばりやがれ!」

 オレの拳が届く距離になると、不良は風の攻撃をやめ直接木刀で殴りかかってきた。

「五点。風を出す時と同じモーションだと隙だらけだろうが!」

「グェ⁉」

 大振りな攻撃で、がら空きだった腹に一発打ち込んでやった。

 不良は木刀を手から落とし、腹を押さながらうずくまり、そのまま気を失った。

「えっ⁉ 一発KO? マジかよ。どんだけ鍛えてねーんだ。これだから最近の若者は」

「……あんたも最近の若者でしょうが」

「そんなこと言ったら橘だって、この時代遅れの不良と同世代だぜ。あっ、この木刀は危ないので没収な。もし欲しかったら修学旅行の時にでもまた買ってくれ」

 オレは倒れてる不良の横から木刀を取り、最後の一人になった不良の方を向いた。

「で、どうする? お前もやるか? オレ的にはこいつらの介抱のために一人は残っててもらえると助かるんだが」

「バ、バカにするなよ! 俺だってな───」

「たぶん、お前の能力攻撃系じゃないだろ。いつも三人の後ろにいたし、他のやつらもそれをなんとも言わなかった。思念能力とかの支援系能力なんじゃないか」

 図星だったのか、悔しそうな顔をしながら不良はなにも言わなくなった。

 拾った木刀で肩を叩きながら、再び不良の説得を行う。

「オレだって別に戦いたくて戦っているじゃない。素直に引いてくれるなら問題には──」

「お、俺だってな! やろうと思えばできんだよ! これがあればな!」

「う、嘘でしょ⁉」

 橘が驚いた声を上げた。無理もないだろう。不良が取り出したのは黒く輝く拳銃だった。

 銃を出されて橘は驚いているようだったが、オレは驚きより呆れの方が強かった。

「最近の不良は銃持つのかよ? はぁー。世も末だな。一応聞いとくけど銃険は持ってないよな? まあ、その構えじゃ持ってるはずないけど」

「うるせーよ! う、動くと本当に撃つぞ!」

 どうせあの構えじゃ狙った所に当たらないしオレは別にいいんだが、万が一、橘にでも当たったらオレのせいになってしまう。

 オレはかわしても後ろにいる橘に弾が当たらない場所にそーと移動した。

 気合を入れて不良の出方を待ったが、どうやら銃を撃ったことがないらしく、震えて引き金がうまく引けない様だった。

「おい、無理しなくていいんだぞ。銃さえ渡してくれればオレが内密に処理してやるって」

「ふざけるな! やってやるよ! 撃ち殺しやる!」

「はぁー。じゃあ、肩の力抜いて銃は両手で持て。それと、銃口から逆算するとお前、頭狙ってんだろ。ド素人がこんな小さい的に当たる訳ないだろうが。狙うならここだここ」

 オレは言いながら、胸の真ん中の心臓を指さした。

 なんで、オレが一々レクチャーしてるのかというと、ちゃんとオレを撃たせて、周りの被害を防ぐためだ。

 不良は極度な興奮状態にあるようで、無理に銃を取ろうとすると、怪我人が出る恐れがあるからだ。……主にオレとか。

「よく狙って撃てよ。間違っても他の場所には───」

「うるせッーーーーーー!」

 ちっ! 発狂して、狙いが定まってねー! このままじゃ。

 銃弾が発射される前にオレは動いた。

『バンッ!』

 引き金を引いた時の銃口から弾の弾道を予測。予測した先には橘がいた。

 クソ! あれだけ注意したのに結果がこれかよ!

やばい、間に合わない!

走っても、手を伸ばしても、駆け込んでも、銃弾には届かない。

なのでオレは、手の持っていたも(・)の(・)を───橘と銃弾の軌道上に投げた。

 破壊音が辺り一面に響き渡った。

 橘の方を見てみると、どうやら無傷らしい。

 だが、今の状況に驚いた様で、腰を抜かしてしまったらしく座り込んでいる。

 橘の無事を確認したオレは銃を持つ不良の元に駆け寄り、すぐさま銃を奪い取った。

 不良の方も放心状態で、銃を奪う手間もかからなかった。

「銃の怖さがわかったろ。指一本で人が死ぬんだ」

 不良はなにも言い返してこなかった。

 オレは不良達をどうしようか迷ったが、このまま放置することにした。

 倒れている不良はもちろん、放心状態のこいつもすぐには立ち直れそうにないし、後は本職の警察に任せればいい。

 橘の元に向かう途中で、銃弾の薬莢と投げたものの破片を拾い集めた。

「おい、立てるか?」

「……うん」

「いやー、危なかったな。運が悪けりゃお前死んでたかもな」

「……」

「まあ、これに懲りたらオレに付きまとうのを止め────」

 しばらく、黙っていた橘だが突如、ダムが崩壊したような勢いで喋り始めた。

「どうやってやったのよ! いきなりあいつが私に向かって発砲したと思ったらあんたが銃弾を止めたわよね! それにいきなり消えたり、相手を動かなくさせたり、相手の動きを読んだり、一体あんたはなんなのよ!」

 どうやらこいつも気が動転してるらしい。

 無理もないか、いきなり銃で撃たれればな。

「あー、じゃあ、最初の質問から。オレが投げたのはこれだよ」

 そう言って、オレはバラバラになった木の欠片を橘に見せた。

「こ、これって」

「木刀だよ。木刀。いやー、手元に木刀があってさ、一か八か投げてみたら当たったわ」

「そ、そんな⁉ 木刀って木の棒よ! それを投げて銃弾に当たる確率って───」

「横五センチ、長さ一メートルの木刀が回転しながら、初速376m/sの銃の弾丸に当たる確率は0.07%ぐらいかな?」

「……れ、0.07%ッ⁉」

 橘はオレからもらった気の破片を見つめて動かなかった。

「ねえ。じゃあ、他のことは一体───あれ⁉ どこいったのよ!」

 オレは橘が木の破片を見つめて間に『夢足』で静かにその場を去っていた。

「の、残りの秘密も教えなさいよ!」

 だいぶ、離れたはずなのに橘の叫び声ははっきりと聞こえてきた。

「バカが。当初からお前を撒くのが目的だったんだよ。命を救ってやったんだ。感謝こそすれ恨まれる筋合いは────痛ッ」

 突如、脳に激痛が走る。

 激痛と共に、体への疲労。それと、とんでもない睡魔がオレを襲った。

「ふぁ~~~~~あ。あ~、眠みーし、だりー。久しぶりにやるとすぐこれだよ。早く帰って寝よ寝よ。うげっ! 雨まで降ってきやがった! はぁ~悪夢だ」

 見上げると、空が暗くポツポツと雨が降り始めていた。

「はぁー。今日、降水確率低くなかったけか?」

 天気予報を思い出し、トボトボと雨に濡れながら帰路についていると、ふと橘との会話を思い出した。

「00.7%ね。よく信じるよなあいつ。あんな計算一瞬でできるわけないのに」

 00.7%なんて咄嗟に思いついた嘘だ。

 オレはそんな奇跡なんかには頼らない。

「まあ、信じる者はバカを見るってね。あいつもこれに懲りてもう付き纏うのやめて──」

「ちょっと、いいかな君?」

「はい?」

 振り返ると二人組みのお巡りさんが立っていた。

「君、この辺りで銃を発砲して暴れている不良がいると通報があったんだが知らんかね?」

 あのそれオレです。───とは言える訳もなく、咄嗟の機転でデタラメを言った。

「いえ。見てないですね。銃を発砲? 物騒ですね。早く逮捕してくださいね」

「「……」」

 あれ? おかしいな。お巡りさんと目が合ってないぞ。

 お巡りさん達の視線の先を見るとオレの手があり、そこには折れた木刀が握られていた。

「あ、あの~。これはですね。えーと、さっきそこで拾いまして」

「取り合えず、署まで来てもらおうか」

「だから違いますって! ほら、これ見て誠心高校序列一位の学生書! 僕、お二人の同業者ですって!」

「君みたいな怪しい人物が同業者な訳ないだろう! どうせそれも偽者かなんかだろう? 詳しくは署で聞くから一緒に来るように」

「だから! 本当なんですってば!」

 はぁ~。今日はつくづくついてない日だな。

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