第3話 自己紹介でも眠りたい

「すみませーん、ねむり……小清水さんが起きたので連れてきましたー」

「お、丁度英雄の凱旋だな」


 英雄?

 なんで私を指して英雄なんて……。


「校長の長話をやめさせた英雄!」

「スリーピングクイーン!」


 いやなにそれ……。


「静かにしなさいよ……この子はただ不摂生で寝不足だっただけなんじゃないの?」


 先頭の席に座っているメガネが印象的な女の子だけ、私に対して半分正解。

 うーん、クラスでの私の評価が自己紹介の前になんか変なことになってるし、なんとか軌道修正していきたいところではある。


「それじゃあ……小清水さんから自己紹介をお願いできるかな」

「あ、はい……それで担任の先生のお名前はなんでしたでしょうか?」

「式の前に私の名前は言いましたよね……?」

「すいませんウトウトしていましたので」


 ここで教室に笑いが起きる。

 いや本当私どういう感じに思われているのか……。


「仕方ないですね、私はクラス担任の笹原一哉です」

「これはご丁寧に。小清水ネムです」

「私だけでなくクラスの皆に自己紹介をしましょうね」


 ここでも笑いが起きる。

 そんなに笑えるのだろうか。


「えっと……小清水ネムです。趣味は睡眠……特技も睡眠です」


 やっぱり。と教室のどこかから聞こえてくる。

 何がやっぱりなのだろう。


「趣味と特技が同じでしかも睡眠って……」

「あ、ねむりんは勉強できる人だよ」

「ねむりんって……あなたは誰よ」

「私はねむりん……小清水さんの親友の猿渡桃!」


 実のところモモちゃんとは幼馴染で、親友というか姉妹という感情のほうが強いのだけれど……黙っておこう。


「そう……で、どの程度できるのかしら。入学式の今日だけでも寝ていただけの人が」

「あー東、小清水は全国小学校テストで全国上位に入る成績だぞ」


 笹原先生が事実を口にすると、クラスの中からどよめきの声があがる。


「い、いや先生?勉強時間を全部睡眠に当てているようなこの人が、全国上位?冗談にもほどがありますよ」

「気持ちよく寝るためにはそのへんの勉強とかで煩わされたくないもの……それに授業内容だけでも十分じゃない?」


 なんだろう、どよめきが更に大きくなったような気がする。

 あぁでもモモちゃんはそうじゃない方が普通だって言ってたような気がする……でも私は授業だけでテストは基本的に大丈夫だしなぁ。


「ともあれ自己紹介をしたので、寝ても良いでしょうか?」


 教室中が笑いに包まれた。

 いや、なんで……?


 ―――――――――――――――――――――――――――――――


「なんなのよ……」


 出席番号1番、東京子あずまきょうこは呟いた。

 自分の中学入学に合わせて両親が出張していた名古屋に来たのはいいがクラスのノリに馴染める気がしない。

 不安を感じることとなった初日に深くため息をついたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る