第13話 予想外な事が起こり過ぎると固まるんです
リンガイア王国の王都の郊外、市街地からは大きく離れたそこには【海軍技術研究宮】と呼ばれる新技術や艦艇の設計や開発を行うための建物、5階建てのそれの4階にある幹部たちが集まって会議を開く室内には、緊迫感に満ちた空気が漂っており彼ら全員が手元の資料を睨むように見つめていた。
「して、殿下…… これが」
「ああ、バルデシオ公爵家から届いた新世代艦隊の参考として届いた図面だ」
この国の第2王子でありながら海軍の設計技士である【アルベルト・ルギウス・バルディアス・フィン・リンガイア】は、美麗な顔を真剣で険しいものにしつつ室内に集まった人間の一人の声に応える。
そこには以前にシンシアが描いていた図面が彼らの手元には存在しており、更には図面が送られてきてから行われた各種試験や計算の結果が書かれた紙も存在しており、書面にある結果がよほどの物であったのか室内に集まっている人物たちの表情は一様に険しいものになっていた。
「この図面を元に縮尺した模型を使い水槽試験を行った結果がこれだ」
「これは……」
「現状で我々が設計している戦艦と比べても各性能などが8割は向上……」
「その上に重量の計算も完璧であり、現状の我が海軍でも建造が可能と言う結果でしたな」
公爵家から図面が送られて2か月が経過しており、その間に彼らは詳細に描かれた図面を元に船体模型を作り実験を繰り返していた。
この実験が行われる間に図面に描かれている各種の計算に間違いがないか等の確認も行われたが、結果は全てに問題がない上に現状のリンガイア王国が持つ建艦技術でも建造は一応可能であり、更には既存の艦艇を遥かに凌駕する性能を持つ艦艇となることが分かったのだ。
だからこそ彼らの表情は険しく、更にはこの図面が持っている価値に困っている様子であった。
「だが、単純にこの艦だけを建造したところで意味はない」
「ええ、我々の構想では戦艦だけでなく巡洋艦や駆逐艦に輸送艦艇などの更新も含んでおりますからな」
「だからといって、この図面を破棄するなどは以ての外だ、万が一にも多国、それも我々と敵対しているガイスト帝国に渡ろうものならば」
「間違いなく、この図面を描いた者の拉致、そして自国での設計に当たらせるでしょう」
彼らが計画している新世代艦隊構想というのは、何も戦艦という1つの艦種だけを更新する物ではなく、他の補助艦艇の全てを一斉に更新して海軍の世代交代を行おうという壮大なものだった。
そのための予算と資材も各年度に分けて分配されていて、増強著しい敵対している国の海軍に対抗するための計画が完全に始動し、各艦艇の設計と新技術開発も並行して行われていた矢先に届いたのがコレであったために、彼らの頭を悩ませる結果になっていた。
「これを描いたのは公爵家の幼き姫君だというからな、こんなものの存在を他国に知られでもしたら」
「いくらバルデシオ公爵家とは言えども、完全に守り切るのは不可能であろう」
「ああ、だからこそ公爵閣下は我々に見せる決断をなされたのだろうな」
「かの公爵閣下の娘が書いたのではなく、我々が図面を引いたことにするという魂胆か……」
「間違いないだろう」
彼らが頭を悩ませる原因の一つが、バルデシオと言うリンガイア王国において筆頭と言える公爵家の幼きご令嬢が、これほどの艦艇を設計したという事実であり万が一にも敵対国に知られた場合の事を考えると彼らの頭を悩ませるのは必然であった。
「ですが、奇跡の頭脳を持つ子が、こうも都合よく表れたという事は間違いなく」
「ああ、世界を割る動乱の時代となる可能性を示唆しているな」
彼らがなぜ公爵家の幼き姫が引いた図面を信じているのか、それにはちゃんとした理由が存在し、この世界においては数百年に1度、1~3人ほど現在からは考えられないような知識や技術を持つ子供が世代は違うが生まれて、各国は彼らを利用する形で発展してきたという歴史的事実があるからだ。
だからこそ彼らは詳細な物が渡されれば、例え子供が引いた図面であっても真剣に検討し調査も行うという土壌が出来上がっていた。
だが、もう一つの歴史が示すことは軍事に秀でた子が現れた時代と言うのは、大きな戦争が起こるというサインでもあった。
それもあって室内の彼らの表情が険しいものなのは、当然でもあったのだろう。
「ですが、逆にこの艦の設計を応用することで巡洋艦や駆逐艦にも広げることが出来るでしょうし、利用価値は非常に高いでしょう」
「ああ、その辺りの事も諸君と話し合いたかったんだ」
「主兵装の中心線配置に加えて主砲塔の背負式と呼べる配置、今の我々では思いつけない発想ばかりですね……」
「それだけではないぞ、多連装砲塔にすることによって主要区画の重量を軽減し、逆に重要区画の防御を強化までしている」
「今現在において、我々が設計している艦艇とは設計思想そのものが異なる戦艦という事ですか」
だが流石は熟練の設計技師たちと言うべきか、彼らは懸念や不安といった材料を消し去り、今の自分たちが議論していかなくてはならないものに集中していく。
今までの艦艇とは全く違う思想から設計された戦艦、幼き侯爵令嬢が気まぐれに描いたソレが動き出そうとしていた
あの【私が考えたちょーすげー戦艦!】な図面を引いてから半年近くが経つ。
主砲配置は前世での第2次世界大戦を戦った戦艦達の3連奏砲塔を3基装備した艦艇を真似し、更には集中防御配置を採用して軽量化も図りつつ、副砲も砲塔型の多連装式を採用しながら機関出力の強化も図って28ノット近くで走れる戦艦を考えて図面を引いた時は、本当に楽しかったし気持ち良かった。
だけど、こんな予想外なことが起きるとか考えられないでしょうよ、と、ツッコミを入れたくなるのは当然だ。
「や、君がシンシア嬢だね?」
「はい、私がシンシア・ヒューリエ・ユニ・バルデシオですが……」
「初めまして、私はアルベルト・ルギウス・バルディアス・フィン・リンガイア、この国の第2王子だよ」
なんで、ここに第二王子殿下が!? しかもレオン兄さまを訪ねたのではなく私を目的に訪問したという事の理由が分からないので混乱していた。
「距離が近いぞアルベルト」
「噂に違わぬ過保護っぷりだね、レオン」
「可愛い末の妹なのだ、溺愛して何が悪い?」
「いや、悪いとは言わないけどさ…… こっちの末っ子とは大違いってわかるし」
自己紹介をした私の目の前に跪いて、自然に右手をとって私の手の甲にキスをしようとしたら、般若という表情をしたレオン兄さまが阻止してくるのだが未だに混乱する頭の私では情報を処理しきれていないのは当然だった。
えっと、いきなりなんで第二王子殿下が私を目的に訪ねていらしたんでせうか? そう言いたくなるし、いくら王子殿下たちとは従兄妹の間柄と言えど、今までに一度もお会いしたことはない処か予定もなかったので予想外なことが連発しすぎているとしか言えないのだ。
「あれ? シンシア嬢はどうしたのかな?」
「予想外なことが起き過ぎて呆然としているんだろう……」
「そんなにかな? 家の弟と交換してみようと思う位に可愛いけど」
「いくら何でも、第二王子のお前がシンシアを目的に訪ねてくればそうなるだろうよ…… 後、本当にそれをやったら王家が存続できると思うなよ?」
「わかってるって、あのアホと彼女を交換しようってこれ以上は考えないさ」
私の頭の上でお兄様達が会話していることを聞きながら、私は呆然としていたけれど不穏な会話もされていたのは絶対に気のせいじゃない。
ただなんで第二王子が私を目的に訪ねたのかが分からないのは本当だ、何しろ彼には仲が良好な婚約者もいたはずで、こんな形で私の元を訪ねる理由が思い当たらないので怖いというのが私の正直な心境だった。
本当に私を訪ねた理由はどういったものなのだろう? そう考えていたりする。
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