第12話 ミリオタとしての血が騒ぐ!



 船を見学させてもらった翌日には、博物館も見学しただけでなくて、今就役している戦艦が搭載している主砲からは1世代前の物といえる31cm砲の図面を、アデレイドさんの独断で見せて貰えた事が最大の収穫と言えて更には主砲の動力関係をみる事が出来たのは、本当に良い事と言えた。

 これらを見た私の中で燃え上がるものがあったのは事実だったしね。



「お嬢様、言われた通りの紙を用意しましたが、これで何をされるおつもりでしょうか?」


「ちょっと図面を書こうと思ってね」


「ああ、編みぐるみに使うおつもりなのですね」



 今までの生活でも大きい編みぐるみを作る際には、図面を引いてから作っていたという事もあってメイドは、私の行動に疑問を持っていないというのが助かると言える事もあった。

 今もジャクリーンが図面を引いている私を見守りながら部屋の扉の辺りで待機している事もあって、前世での知識を生かしてバリバリ描いたるでぇ!なんて阿呆な事を考えながら順調に図面を引いて行く。



「お嬢様、今回は軍艦のあみぐるみを作るおつもりなのですか?」


「うーん、ちょっと図面だけ引いてみようって思ってさ」


「そうでございますか」



 さて、今から描く図面というのが【自分の考えたちょーすげー戦艦】だ!

 なんか突っ込みを受けたとしてもだ、幼女が妄想の赴くままに適当な図面を書いた。そう思われるだろうしハッキリ言ってあみぐるみのためと言い訳しておけば良い。

 実在の軍艦を見たからリアリティを追求したかったの!とお父様やお兄様達に言えば、特に何も言われないだろうしね。


 はっきり言って前世のミリタリー知識を利用してNAISEIをしよう、とか、そんなことを考えてはいない。

 けれど、もしかしたら技術者たちにちょっとした刺激になってくれるかも? なんていう甘い考えでシコシコと図面を引いていく。



「見たことがない艦ですね……」


「この前に海軍の艦を見学させてもらったじゃない? その時にこんなの良いなって感じにビビッて来たのがあってね」


「なるほど……」



 今の私が描いているのは31cm3連装の主砲を艦の前に背負式で2基、後部には1基の合計9門の砲身を持つ基準排水量で2万5千トンになる大型戦艦だ。

艦体のラインは高速を発揮しやすくするために、艦首先端から第1砲塔までにシーアと呼ばれる傾斜が描かれて艦首にも波切を良くするためのフレアが設けられている。さらに水線下も現時点でのリンガイア王国戦艦とは全く違い衝角を持たず球状のバルバス・バウと呼ばれる形になっている。

 更には副砲も12cm砲を連装砲等にまとめて片舷に3基ずつ艦の中央にピラミッド型に配置し合計で6基12門を持つ、この配置を例えるなら前世のイギリスという国に存在していたネルソン級戦艦の副砲配置を思い出しながら描いていた。

 艦橋に関してはイギリスのネルソン級やKGV(キング・ジョージ・5世)級に範をとった塔型艦橋とし、その内部に主砲用の射撃指揮を行うためのスペースや航海に加えて様々な戦闘情報を包括的に指揮する戦闘指揮所、これらの空間も合わせて設計していく。


 エンジンに関しては火の魔石を使って真水を沸騰させて蒸気を得るという、王都へ行く際に乗った機関車にも採用されていた形式と似ていた。

 この辺も前世で図面を見ることが出来ていた日本海軍の艦本式ボイラーを参考に、常備状態では3万トンを超える巨艦を27ノットという高速で走らせる為にも減速機を持つ蒸気タービンを搭載しつつ、艦体の内部というか上部構造物に王族が過ごすための居住設備も設けていき、


 私が描いている艦の姿、これに見覚えがない処か完全に新規というべき軍艦の詳細な図面を描いている私の姿を、驚いた表情で見つめているジャクリーンに気が付かずに、詳細な防御形式の図面も描いていく。



「この図面は旦那様方にはお見せするのでしょうか?」


「しないよ、だって私が遊びで考えた図面だし」


「そうですか……」



 防御形式に関しては傾斜式装甲をもつ前世の日本戦艦である大和型や、アメリカのノースカロライナ級のような防御形式を採用しつつ、水中弾に対応するために舷側装甲を水線下まで伸ばしている方式にしている。

 射撃用の光学観測機器に関しては、日本の大和型や戦艦比叡が行ったように方位盤の下に測距儀を搭載するという方式にしていて、前世で己が生きていた国々が建造した戦艦群の良い所取りなキメラ戦艦を設計していくけど、私は誰にも図面を見せないと言っていることに、ジャクリーンが何かを考えている様子なのに気が付かなかったことは痛恨だと思う。


 そのくらいに今の私は戦艦の図面を引くことに夢中になっていた。

 お父様から女の設計技師もいると聞いていたし、この国では女が軍事に関わっても特に差別されることはないと聞いて調子に乗っていたのだろう。

 この後に自分に待ち受けるゴタゴタなど想像することもなく、呑気な私は大喜びで自の考えた戦艦の設計作業に夢中となっているのだけど、久しぶりにミリオタとしての本能が騒いでいる私に、周辺へと気を配るなんていう余裕とか、そんな器用なことなんて出来るはずもなく食い入るように私が描く図面を見つめているジャクリーンに気が付くことはなかった。





 最終的に私が書き上げた図面の戦艦の要目は




基準排水量:26,000トン

満載排水量:30,200トン

全長:224m

全幅:28m

速力:27ノット


兵装

31cm45口径3連装砲3基9門

12cm連装砲6基12門


各種装甲厚

舷側最大装甲厚:305mm

甲板最大装甲厚:45mm


主砲

前盾:300mm

側面:120mm

上面:50mm


副砲

前面:20mm

側面:10mm

上面:10mm



司令塔:330mm



 であり、これに機関がボイラーとタービンの組み合わせで約10万馬力というものだ。

 ここにきて、ようやくすっきりと言うか満足できた私は、改めて編みぐるみの図面を簡単に引いていくけど、いつの間にかジェシカが私の傍にきていて、ジャクリーンはどこに行ったのか? と思うが、私が作業に集中していたら彼女たちは静かに入れ替わることが多かったので特に気にすることはなかった。



 その後は晩御飯の時間になって、何時ものように料理長が腕を振るってくれた美味しい料理を楽しんだ後に図面を仕上げたんだけど、翌日の朝に図面が少々動いたというか私が机に置いた位置とはちょっとズレているのが気にはなった。

 まあ適当に置いたからずれたんでしょ、そう思うと特に気になることはなく、翌日からは編みぐるみを作りながら令嬢としての教養を学ぶ日々を過ごしていくのだった。



「これは……」

「お嬢様が先日にお描きになられていた図面だそうです」

「…… レディン、今すぐにこの図面を第2王子であるアルベルト殿下に送付しろ」

「よろしいのですか?」

「苦渋の決断だが、殿下が提唱されている新世代艦隊の計画と、ガイスト帝国の状況を考えればシンシアの身を守る為でもある」

「承知いたしました」



 こんなやり取りが屋敷の一室で夜中に行われてることなど、当の私は知る由もなくぐーすかと寝ていたけどね。


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