第10話 前世だと拝めなかったロマンあふれる艦艇だ!



 国王陛下達とのお茶会から6日後、私とお父様は王都を離れてバルデシオ領に向かう列車の中にいた。

 あれから国王陛下ご夫妻は私ともっとお話をしたかったようで、お茶会の予定をつけようとして来たのだけど、お父様とお兄様達の手腕によって回避する事が出来たのもあって、無事に王都を離れる事が出来たというわけである。


 出発してから既に24時間が経過して、何度か水や食べ物の補給の為に駅で長く停車する事もあるけれど旅は順調で、私は久しぶりとなるお父様との会話を楽しんでいた。



「そういえば、シンシアはどうして軍港を見たいと急に言い出したんだい?」


「えっと、前に読んだ本に載っていた軍艦が気になったので、見たいと思ったんです」


「成程、それじゃあ現地についたら近くには博物館もあるから一緒に見ようか?」


「はい!ありがとうございます!」



 お父様の質問に答えるけれど、普通にこの世界に来てから疑問に思っていたし、見たいと思っていたのでスラスラと口から言葉が出て来ていた。

 ただ、軍港の見学だけで終わると思っていて博物館の方は見られると思わなかったので、ハッキリ言って滅茶苦茶嬉しい誤算と言うかお父様からのプレゼントでもあった。


 ちなみに行きにも私達が乗ったこの列車は前世で言う所の寝台列車と言う奴で、乗っている人々が長距離を寝泊まりしながら目的地へと向かう物なんだけど、やはり貴族社会であるからか上級の貴族用と下級と中級の貴族用の寝台車に加えて、庶民が乗る一般の寝台車と言う感じに別れている。

 その上級貴族用の列車は内装はおしゃれに纏められていて、更にはお世話をする召使いの人々の為の区画も整備されているのだが、一つの車両が丸ごと上級貴族用の物となるので食堂からお茶会を行うサロンに加えて、寝泊まりする寝室もあるという豪華仕様だ。


 その分だけ料金も凄まじく、その額は平民が半年は節制せずとも遊んで暮らせる様な額が飛んでいくとだけは言える料金だけど、一応上級貴族用とか言われてはいるけど貴族の利用予定がないのを確認すれば、料金さえ払うと普通に平民でも利用できるので想いきって奮発しての旅行をするという時に大人気なのだそうな。

 ただし緊急で貴族の利用予定が入ったら、貴族の方が優先されるのでその辺がやはり貴族社会であることを証明しているけれど、キャンセルになった人には返金と同時に、他の補償もあるのでなるべく不満も出て来ない様にシステムは出来あがっていると聞いていたりする。



「でも、お父様……」


「なんだい?」


「あの、令嬢が船に興味を持つっておかしいですか?」


「他の国では分からないが、我が国では特におかしいとは思われないけど、どうしてそう思ったんだい?」



 ただ自分の興味が満たされるからとはしゃいでも居られないと思うのは、前世での貴族令嬢のマナーとか興味を持つべきものといった知識の所為で、この辺を尋ねればお父さんはけげんな表情となって私に問いかけてくる。

 私が今までに学んで来た事でリンガイア王国では、基本的に成人を迎えていない令嬢や令息が何に興味を持ったとしても親は応援して見守るべきと言う風潮があるのだけど、それでも興味を持ってはいけない事とかあるのではないかと思ったのだ。


 もしも令嬢が興味を持ったらいけないことなのに、それに一直線になるとかなれば家の名前に泥を塗ってしまう事になるし、愛情を持って私を育ててくれているお父様やレオン兄様にライル兄様達のご迷惑となってしまう事にもなるのだから、慎重になって損はないことだろう。



「だって、もしも令嬢が興味を持つのが変な事だったらお父様達のお顔に……」


「気にする事はないよシンシア、この国では女性だって兵器の設計に携わっているのだから、今はなんでも良いから興味を持ちなさい」


「お父様……」



 私が色んな書物を読んでいるから他国での令嬢の扱いを知っているのか、問いかけに答えて行く私の言葉を聞いたお父様は優しくて穏やかな微笑みを浮かべると、ゆっくりと優しく私の頭を撫でてくれて安心させるように言葉を掛けてくれた。



「ただ、成人する頃には自分のやりたい事、進みたい道を決めなさい」


「はい」


「レオンやライルだけじゃなく、お前の母のアンジェリカだって幼少期は色んな事に興味を持っていたんだからね、心配はいらないよ」


「分かりました!」



 お父様の言葉は私がどんな事に興味を持っても良い、雑音は排除するという事なのだろう、それに陸軍や海軍の兵器設計だけでなく兵士や将校達にも女性が大勢いるのだ。

 今の私が興味を持ったとしても【どこぞのお嬢様が道楽で興味を持っているだけ】なんて思われるかもしれない、だけど、そんな雑音は無視して興味を持って色々と動いたとしても悪い事じゃないと言われた私の胸の仲は軽くなって行くのが良く分かった。



「さて、それじゃあ明後日には着く現地の事を説明しておこうか」


「はい!ぜひともお願いしますお父様!」


「これはレオン達に嫉妬されるだろうなぁ」


「?」



 それから後は私達が見学させてもらう港の色んな説明とか、博物館にはどういったものが展示されているのか等がお父様によって説明されていく。

 ちなみにレディンとジェシカは一足先に昨日には現地入りして私達父娘おやこが宿泊するホテルの部屋の確保や、他のお付きの侍従達の部屋も確保したり軍港の軍人さん達の調整のために動いてくれていたりするが、ジャクリーンからの報告でつい先ほど全てが終わったと言われたので、彼の有能っぷりが良く分かる事でもあったりする。








 王都から乗った列車に揺られる事4日、私は遂にリンガイア王国でも有数の軍港である【スキャパフロー】へとやって来ていた。

 そこの一番良いホテルのスウィートルームで眼下に広がる港を、自分でも分かる位に目をキラキラとシイタケみたいに輝かせて眺めているのが良く分かる。



「そんなに楽しいかい? シンシア」


「はい!こんなに多種多様な形をしている船が多いのを見るのは楽しいです!」



 そう、我が眼下に広がっている光景はまさに軍港!と言って良い光景であり、港には多数の戦艦や巡洋艦が停泊していて、そのどれもが蒸気機関車の様に煙突を持たない形状をしているのだから興味は尽きる事はないし、全体的な形のイメージは前世での日清戦争や日露戦争辺りの戦艦や巡洋艦と言って良いロマンに溢れる物ばかりなのだ。

 砲塔の形状や砲身の関係等、細かい所が今居る場所からは良く分からないのがもどかしいけれど、前世で生きていた時間では見る事の出来なかった形のロマンあふれる艦艇達に近い物を見れて、ミリオタであった自分がワクワクしているのが良く分かる。


 キラキラとした目で艦艇を見ている私をお父様がニコニコと嬉しそうにしているが、本当に見学を許可してくれたお父様には感謝だらけだ。



「明日には、あそこに停泊している艦艇の一番良い物を見学する予定だから楽しみにしておきなさい」


「え、よろしいんですか?」


「ああ、それに機密に当たる部分は見せられないけど、大丈夫な部分を見学する予定だからね」


「楽しみです!」



 一番良い物と聞いて戦艦を見学させてもらえるのかと思うが、やはり機密に当たる部分は見せてもらえないようだ。

 だけど、それであっても他の部分、たとえば艦内の通風設備を含めた居住区設備関係とか色んな物が窺えるのだから、表面や艦上に立った際において見る部分でも参考になる部分は多過ぎるのだから堪らない。


 異世界の魔法があるファンタジー世界に就役している近代海軍の艦艇を見学出来るって言うのが、本当にミリオタ冥利に尽きるといえるし主砲が使う物が砲弾なのか、魔砲と言えるような前世のアニメで見られたようなビームみたいなのかが一番気になる。

 その上に攻撃魔法には砲撃を含めて自然災害に近い物もあるこの世界で、艦艇群はどうやって優位を確保しているのかとかも、私、気になります!と言いたくなる位に興奮しまくっているのだから、何時もより3割増しで幼い子供になっている私を見てお父様がほっこりとした笑みを浮かべるのも当然なのである。



「艦艇を見学した次の日が、あそこにある博物館を見学するんですよね?」


「そうだよ、あそこには統一戦争から今までのリンガイア王立海軍が歩んできた歴史が展示されているからね」


「ぬっふふふふ……」


「シンシア?」



 特に博物館には今までの艦艇の歴史だけじゃなくて、エンジン関係も展示されている筈だと思うと、ついつい変な笑い声が出てしまう。

 前世の日本で暮らしていた時とは全く違う歴史を辿って来た軍艦の歴史、家の書庫にあった本を読んだ限りだと全く違う変遷を遂げていたのだと分かるが、それでも実物を目にしながら学べるというのは全く違うのだ。


 そんな事を考えていて変な笑い声が出た私の事をお父様は、特に気にしていないようであるのが大物なお人なのだと良く分かる光景でもある。



「旦那様、お食事の用意が整いました」


「分かった、シンシア、夕食に行こう」


「はい」



 周囲が少し暗くなった時間帯だけど、レディンが夕食の席が整ったと言っている事から、今まで列車の旅で疲れているだろう私達を気遣い早めに夕食を済ませる事が出来るようにしてくれたのだと言えた。

 それに列車の中では何気に食事量は酔いを警戒していたのか制限されていたので、正直に言えばお腹ぺこぺこだし、宿泊しているホテルが出してくれる食事がどういう物なのかも楽しみであるので、お父様と一緒に歩きながら、私は鼻歌を歌ってしまい周囲の皆から微笑ましく見られてしまったのは深くのいたす処である。



 漸く見る事の出来た艦艇に心が躍っているが、前世だと前弩級艦と言える戦艦群は石炭を使用していてかなり艦内の通風や煙路に気を使っていたけど、それらの制約がない艦艇の中がどうなっているのかという未知に、無茶苦茶心が揺り動かされていた。

 蒸気機関車の様に魔法技術も使われて艦内は快適なのか、それともその快適さを生みだす空調技術は他の所に行かされる形になっているのかとか、他にもレシプロエンジンはどういう方式なのかとか、後はタービン関係があるのかどうかも、気になって仕方がないと思いながらスキャパフローにあるホテルの一夜は過ぎて行く。



 ただ、この時の見学から後にやらかした事が、私の運命を決定づけるとか今は全く予想だにしていなかったけどね。

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