第9話 お母様と私ってそんなに似てるんだ……
お父様に軍港の見学が了承されてから1週間後、私は再び王宮をお父様にレオンお兄様と一緒に訪れていた。
ライル兄様は本日はどうしても外せない用事があるという事でご一緒出来ないが、色々と張り切っている二人によってエスコートとか少々溜息を吐きたい事があったのはご愛嬌ではある。
「やっぱり、近代化されてるんだなぁ……」
「この城は築2百年には達するからね、補修と改修は徹底されてるんだよ」
「そうなのですね…… 参考になります」
(…… 参考?)
改めて入ったお城の中は、廊下であっても近代化されている事が分かるシャンデリアの灯りや、心地良い風が動いている通風かエアコンによる空調設備を感じ取れるのでぽつりとつぶやくように言ったら、お父様が律儀に答えてくれるが聞こえていたのねとつい思ってしまったが気にしないようにしよう。
それに科学と魔法が合体していると言ってもエアコンは前世の様に室外機がある訳ではなく、更には通風に関しても目立つ所にファンは見えず良く耳を澄ませば各種機器の作動音が聞こえてくるくらいなので、20世紀初頭辺りの世界観に魔法が加わるとこんなにも設備に違いが出て来るのかと変な形で納得や理解をしてしまうのは当然だった。
こりゃ艦艇の姿も楽しみじゃなんて心の中でだけ、のじゃロリ風に考えていたら先導していた近衛騎士の人が立ち止まる。
「このお部屋に国王陛下ご夫妻と王太子殿下がお待ちであります」
「ああ、御苦労だった、ライルにもよろしく言って置いてくれ」
「ハッ!」
案内をしてくれていた近衛騎士の言葉を聞いて思ったのは、意外と扉が小さいんだな、という事だったけど考えてみれば正式な謁見の場ではなく国王陛下の私的な部屋に呼ばれると、お父様が一昨日の夜に言っていた事からも、ここは公的な場面で使われる部屋ではなく私的な親しい人間を呼び寄せる際に使用される部屋なのだという事は分かった。
それから案内の近衛騎士は私達に一礼をして、扉を守っている近衛騎士たちに引き継ぐと彼らが入室の許可を取った後に扉が開かれる。
「失礼する」
扉が開かれて国王陛下の重々しい声が入室して来るようにと聞こえてくると、お父様は勝手知ったると言わんばかりの様子で入室し、お兄様と私はその陰に隠れるように入室のご挨拶をしながら入って行く。
この辺もレディン達によって徹底的に仕込まれました…… いやー 国王陛下の私的なお部屋に入るとはいえ、入室にもマナーがあり令息や令嬢が取らないといけない入室の挨拶があるというのは中々に大変だと思うが、考えてみれば前世も目上の人の部屋に入る時にはマナーがあったし似たようなもんだね。
「待っていたぞフィリップ、して、そちらが……」
「ああ、末の娘になる、シンシア」
国王陛下は1週間前の時に着ていた服とは違い、簡素だけど仕立てや造りが立派な服を着ているのだけど動きやすさも追求してあると思われる拘りのお洋服をお召しであった。
まあ、それは置いておくとして1週間前の式典の時の様な威厳に満ちた瞳ではなく、極めて親しい者達に向ける優しさと親しみやすさに満ちた瞳で私達を見た陛下は、お父様に声をかけるのと同時に私を懐かしさを含んだ表情を浮かべて見つめて来るが、未だに自己紹介もまだであるのでお父様に促された私は一歩前に出て挨拶をしていく。
「お目にかかり光栄です国王陛下、わたくしはシンシア・ヒューリエ・ユニ・バルデシオと申します」
「9歳で立派な挨拶が出来ているな、感心だ、あのバカ息子に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ」
「そんな事をしたら俺はお前の自慢の剣を叩き折ってやるからな?」
「物の例えだ!本気に取るなよ!?」
あの時は
ただお父様のお怒りの一言を聞いたのと同時に慌てた様子で否定を開始するんだけど、かなり気安い言葉で二人がやり取りをしているのを見て少し目を丸くしてしまう。
仲は良い方と聞いてはいたけど、私的な場になるとここまで言葉が崩れる程の仲だとは思っていなかったからだ。
これはお兄様も気持ちが分かるのか私の頭を撫でながら苦笑いをしている事から、彼も最初は私と同じような反応をしていた事が窺えるけど、まるで親友の様なやり取りをする彼らの姿は本当に仲がいいのだという事を理解もさせられた。
そうして国王陛下ご夫妻と王太子殿下の紹介を終えた私達は、室内にある椅子を勧められたので座って女中の方々が用意してくれたお茶に舌鼓を打っていた。
お父様と国王陛下達はかなり盛り上がっていらっしゃるご様子で会話をしているし、お兄様と王太子殿下も顔見知りというか王位継承権を持っている為か、親しげな感じで会話をしているのだがお父様とお兄様達に挟まれた私は頭を撫でられたりしているので、ちょっと暑苦しいと思うのは仕方のないことだと思って欲しい。
「だが、こうして見るとシンシア嬢は本当にそっくりだな……」
「ええ、そうでございますね…… あの娘に、アンジェリカにそっくりですわ」
「お母様、ですか?」
「ああ、瞳こそフィリップの物が遺伝したようだが、他はアンジェリカと瓜二つだからな、あの時は本当に驚いたよ」
お父様とお兄様に可愛がられている私を見ている国王陛下と王妃様の表情は微笑ましくなるのと同時に、懐かしさを含んだ非常に優しいものに変わっていた。
そんな彼らから語られるのは私がお母様に似ているという事なのだが、幼い頃のお母様の写真や絵姿を見た事がないので、自分が似ていると言われてもピンとこないのだがお父様だけじゃなくてレディンも私がお母様の幼い頃にそっくりだと言う事があるので、似ているのだろうとは考えていた。
だけど、お母様のお兄様である国王陛下だけでなく王妃様までご一緒に言って来るという事は、似ているというのは多少と言う訳ではなくお母様の幼い頃を知っている人が見れば、驚くほどにそっくりだと分かった。
「シンシア嬢をこのまま城に留めて我々とせいかt「ほぅ?」じ、冗談だ、フィリップ、本気になるなと言ってるだろう!?」
「本当にそっくりだし、あの娘の忘れ形見の貴女をこうして見る事も出来た、この点だけはあの愚息に感謝かしらね」
「アレがやらかさなかったら私達は既に公爵領に旅立っていたからな、こうして個別に会談を設ける事もなかったろうな」
私の方をデレデレと初孫を見るお爺ちゃんの様に顔を崩して見て来る国王陛下の顔は、正直に言ってイメージが総崩れでキモいですと言いたくなる位だが、王妃様の言葉と目は本当に嬉しさを噛み締めながら言っているのが良く分かって、お母様の人徳と言う奴の凄まじさを感じ取るには十分な会話だったのは当然だった。
まあお父様の言う通りに
なので、この辺が良く分かってしまう為にかなり複雑な心境ではあるのだ。
「デビュー前の令嬢を正式な理由もなく呼びつける事は幾ら王族といっても許されないからな、良かったというべきか何なのか……」
「本当にごめんなさいねシンシア、親友の娘にあんなことを言い出すなんて思いもよらなかった私達の落ち度だわ……」
「私に実害があった訳ではないですし、王妃様が気にやまれる事ではございませんよ」
お兄様が席を立たれてから私の隣をからにすると、王妃様は立ちあがって私に近づいて来くると彼女の胸元に抱きしめるが豊満で柔らかく温かいおっぱいに包まれるのと同時に、良い匂いもしてきて何だか安心する匂いだと思った。
私を抱きしめながら頭を撫でてくれて彼女は謝罪の言葉を言っていくのだけど、こんなに良い母親を
「それでも、謝らせてね、後、私の事はセシリアって呼んで欲しいな」
「…… はい、セシリア様」
「ふふっ、一人くらい娘が欲しかったんだけどねぇ、息子も良いけどやっぱり女の子もほしかったわ」
王妃様から直接お名前を呼んでもよいと言われたので応えたら、セシリア様は私を抱きしめてから猫なで声を出して可愛がり始めてくれた。
お父様とお兄様の前というのもあって恥ずかしいと思うのだけど、純粋な善意でしてくれる事に否を言える筈もないままにお茶会は和やかに進んでいって私は従兄となる王太子殿下ともお話したりするなど、充実していると言える場が過ぎて行った。
ちなみに第2王子殿下だけど、本日はどうしても外せない国防関係の用事があって同席できなかったと聞いたけど、王太子殿下が第2王子殿下も私に会って謝罪をしたいと言っていたと聞いて、責任感を持っているお人なのだと思ったのも収穫の一つだ。
それに第2王子殿下はどうやら海軍の設計関係に携わっているようなので、いずれは接触したいという野心を少々持っていたりするが、この辺は別のお話になるだろう。
更には夕食まで国王陛下ご夫妻に王太使殿下方と御一緒したので、緊張も一入といった感じだったけど、最後までライル兄様と第2王子殿下は姿を見せなかったのが残念ではあった。
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