第3話 王家の事とか色々と
前世は平凡な男から今世では美幼女へと劇的性転換転生を果たした自分は、健やかに公爵令嬢として過ごしている。
本日の家庭教師達との授業が終わって、夕食までの空いた時間にちょっとしたティータイムとしゃれこんでいたらジェシカと共に私付きとなっているメイド【ジャクリーン・リンベル】が入って来る、ジャクリーンは赤みがかった髪をセミロングの長さで整えて少し切れ長の目が少々冷たい印象を他者に与える少女で、ジェシカと同い年の同僚である。
ダークブラウンの髪を腰まで届く位の長さにして、先端部分をリボンで結んでいるジェシカとの良い対比となっていて、ジャクリーンとは違って柔らかい目元に優しげな印象を与えるジェシカとは凸凹コンビと言って良い二人だ。
一応ジャクリーンは我が家に代々仕えてきた家の出身ではなく、寄子の家から行儀見習いに出された子爵令嬢であり、家の事は長男と長女が何とかするので自分は気楽だと何時か言っていたのを思い出していた。
彼女が持って来た用件はジェシカが私の傍を離れている事に関係しているのかな、と思って聞く体勢にはいる。
「お嬢様、本日のご夕食をレオン様とライル様がご一緒したいと言付けを預かっております」
「ん? 兄様達が揃うのは珍しいね、何時もならライル兄様は王都にいらっしゃるのに」
「恐らくは3カ月後に王城で行われる、第3王子のお披露目を兼ねたパーティーについての打ち合わせがあるのだと思います」
「やっぱりか……」
持って来た事を聞いて、納得という感情が出て来たが普段はお父様と一緒に王都にいるライル兄様が戻って来るというのも珍しいと思っていたが、聞かされた第3王子のお披露目パーティーの準備についてとかが夕食の後に話し合われるんだろうなぁ、と思っていた。
この国では王族の子供が9歳を迎えた時に、将来の伴侶及び側近の候補となる子供達を集めてのパーティーが開かれるという特徴があった。
年齢の幅としては同い年から3歳ほどの間であり、幾ら伯爵以上の爵位を持つ貴族だけを集めたからといえども数十人規模になるので、王子や王女が産まれてから9年後の日に備えて上位貴族は動いて万全に備えなくてはならないのだ。
だけど、集められた子供たちや貴族の中から選ばれると言っても、中には側近や伴侶として選んではいけない子どもというのがいる。
「まあ私が伴侶や側近に選ばれる事はないだろうけどね」
「はい、旦那様の奥様であられたアンジェリカ様は現国王の妹様、王妹殿下であらせられますからね」
「うん、だから少しだけ気楽ではあるね」
そう親、若しくは祖父母の代に臣籍降嫁で王族を結婚相手に迎え入れた貴族家の子供を選んではいけないのだ。
私が物心ついた頃に儚くなった母は現国王の妹様だ、その為に王族は血が濃くなり過ぎない様にするのと同時に、国内の貴族間の政治的なバランス調整の為に定められた代を経るまで王族は該当する家を避けないといけないという決まりがある。
「お嬢様にブルーローズをお付け出来る日が来たのだと思うと、私共も胸が躍りますわ」
「そう言えばお兄様達も着けてる奴なんだっけ……」
「はい、当日にわたくし達の手でお嬢様に飾らせていただきたいと思います」
「うん当日はよろしくね、ジャクリーン」
だが、その避けないといけない家があると言っても分かりやすい目印を付けていれば対外的にも示しとなるし我が家の誇りともなる、なので【ブルーローズ】と呼ばれる王家から下賜されたサファイアで作られた目も覚めるほどの見事な青い色をしたバラのアクセサリーを右胸に着用して、色んな茶会や舞踏会等に参加する事が義務付けられている。
なので王族はこのアクセサリーを目印にして、彼らを避けながら将来において自分に仕えてくれる側近や伴侶を選んでいくという建前だが、既にお披露目会が開始する前には婚約者と側近は国の重鎮たちによって決められている為に、この会は上級貴族家の子供達とその親の顔合わせと社交の場という意味合いが強い。
幾ら鉄道や船が発達していて交通の便が良くなったと言っても、各貴族領を気軽に行き来できる訳ではないので、王家がこう言った大きな会を用意して色々な取引とか後は自分の子供達の顔繋ぎの場にしてねという意味がある。
一応は魔法にも飛行などが可能なものはあるが、移動に関わる魔法は使い手が限られている事とか前世でのゲームやアニメみたいな作品みたいに便利じゃないので、結局は前世日本などの先進国のように気軽に行き来できることはないのがもどかしい。
「ただ、第3王子のユージオ殿下は、あんまり……」
「確かに、良くない噂がございましょうが、所詮は噂という事もございますよお嬢様」
「そうであることを祈るしかないわね……」
こう言っては不敬になるのかもしれないが、第3王子の【ユージオ・ルベス・ルーディアン・フォール・リンガイア】御歳9歳は、領地で過ごしている私の耳にも聞こえて来るほどの所謂バカ王子という噂が聞こえてくるのだ。
周辺にいるメイド達への横柄な態度とかは可愛いもので、今のままでは戦争になったらリンガイア王国は負けるから自分を軍の総司令にしろと言い出したり、後は王族としての教育から逃げ出しては全く意味のない変な箱を作っては自慢するといった具合だ。
まだ9歳という年齢であるし、上の2人の王子達が優秀なので彼らによって噂は上級貴族達の間で止められていると前に兄様達から聞いたけど、実際に第3王子と会った事のあるお二人がバカ王子である事を否定しなかった為に噂の程度はあれど事実なのだろうとは思う。
そんな会話をしながら夕日に照らされた庭を眺めてお茶を楽しんでいると、ジェシカが晩餐の準備とお兄様達も既に向かっていると言われたので、食堂へと向かって行くのだった。
質が良くて靴越しに心地良い感触を伝えてくれる絨毯の上を、トコトコと歩きながら食堂へと歩いて行く。
何時もはレオンお兄様こと【レオン・ユーリオ・ロニ・バルデシオ】と2人で食事を食べるだけなので、そこまで広くはないが狭くもないという部屋で食事をとるのだけど、本日はもう一人のお兄様である【ライル・ユージオ・レニ・バルデシオ】も一緒なので、何時もは使われない広めな食堂が使われるのだ。
ちなみにレオン兄様とライル兄様の容姿を説明して置くが、レオン兄様は私と同じくプラチナブロンドの髪を持っていて切れ長の目と合わせて前世で言う少女漫画や小説に出てくるような、一見すれば冷徹な麗しの王子様というべき美しい容姿をしている。
ライル兄様はゴールデンブロンドと呼べる金色の髪を持っていて、彼の方はレオン兄様とは逆に一見すれば穏やかな印象を他者に与えて安心させる様な容姿をしているのだが、共通しているのは二人ともメッチャキラキラしたイケメンってことが上げられるだろう。
ジェシカやジャクリーンが二人のお兄様は社交界の少女達には容姿や家柄も含めて、大人気と言って差し支えなく彼らの噂で持ちきりだそうなのだ。
なお、この噂の中には未だに一度も他の貴族の前に姿を見せた事のない私の事も存在していて、バルデシオ公爵家の皆が溺愛し、可愛がる美しき妖精姫なんていうのもあるらしいが、精神衛生的に気にしない方が良いだろう。
「レオン様、シンシア様をお連れしました、入室してもよろしいでしょうか?」
「ああ、入ってくれ」
「失礼いたします…… シンシア様、どうぞ」
「ありがとう、ジャクリーン」
そんな事を考えていたら、お兄様達が待っている食堂に到着したようでジャクリーンが扉をノックして入室の許可を聞けば、室内から返事が聞こえたので扉を彼女が開けてくれた上で傍に控える位置に動いたので、レオン兄様の許可に従って動いていく。
この辺が前世での日常を過ごして来た人間としての部分と、今の貴族としての自分が感じている面倒な所ではあるけれど、貴族というものは家族に対しても最低限の面子は保たなくてはならないし、体裁という面においても考えなくてはならない地位にいるということを理解させられていく。
こういったのが前世の日本という国の貴族は居なかった時代で過ごしていた自分が、違和感を感じているのだけど、今の自分が生きている世界のルールに従わないという理由にはならないので、お兄様達に見える位置に来たと思ったのと同時に貴族の令嬢が行うカーテシーをして彼らに挨拶をしていた。
「久しぶりだな!シンシア!!」
「うひゃぁぁっ!? ライル兄様っ!なにを!?」
「ライル、シンシアを驚かせるんじゃない」
「たまには良いではないですか兄上、私は何時も王都にいるので妹を愛でられない寂しさを感じているのです!」
「ハァ…… 全くお前は……」
令嬢が行う挨拶を行った瞬間に、横からいきなり私はヒョイッと抱えられてライル兄様に抱きかかえられてしまう。
そのままスポッという効果音が付きそうな位に、私はライル兄様の胸元に収まっていて相変わらずの過剰なスキンシップを取っている彼の姿には呆れという感情が浮かんでくるが、苦笑いを浮かべて窘めているレオン兄様も心の中では呆れの感情が強いのだろうか声にも感情が乗っているものの、私を抱き抱えて髪を撫でているライル兄様は気にしていないのかニコニコ笑顔で運んでいた。
ちなみにレオン兄様は呆れ果てた表情を浮かべてから、とても深い溜息を吐いていたりする。
この世界に生まれて、前世では一人っ子だった為に兄や姉という上の兄妹がいるという環境に憧れてから、彼らに対して末っ子という立場を利用して不快にならない程度に甘えまくったのが、今の状況を呼んだのかと思う。
「恥ずかしいです、ライル兄様……」
「久しぶりにシンシアと戯れる時間だからね、許して欲しいな」
「……」
「可愛いよ、シンシア」
ライル兄様の膝の上に載せらると彼は頬ずりをせんとばかりに私の頭を撫でていく、流石に恥ずかしいし暑苦しいのでレオン兄様に助けを求めれば苦笑いと共に首を横に振られたので、諦めろんって事ですか? そうですか…… という微妙な気分になっていた。
こんな感じにバルデシオ公爵家次男であるライル兄様は、私への愛情というか溺愛が少々処かかなり行き過ぎているのがたまに疵といったお人である。
王都に普段は住んでいて王宮内にある陸軍の司令部に勤めているという彼は、たまにしか帰って来られない事も溺愛に拍車をかけているのかと思うけど、にしたってこれはやり過ぎでは? と言いたくはなる。
まあこれから待つ会話の内容もちょっと面倒そうと思うのは、これから待つ王宮での事が原因だろうというのは間違いなかった。
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