第2話 幼女ライフ満喫中でござい



 本日は魔法学の授業が公爵邸の一室で行われている。

 この部屋はお兄様達も昔は家庭教師の授業で使っていた部屋なので、色々と古い教本があったりしてたまに入り込んで歴史書何かを読み耽ったりしてたりする。


 基本的に私と家庭教師の先生のマンツーマンで行われる授業だけど、私の先生はどうしてか分からないが全員が女性で、目の前にいる腰まで届く長さのピンクブロンドの髪をハーフアップにして優しさを感じさせるタレ目と言える目元を持ち、口元等にも穏やかな笑みを常に浮かべ続ける女性【レティ・ジュディム・エリスルード】伯爵令嬢が魔法と歴史関係の教師だ。

 この国では働いている女性は多く、何気に軍内部にも士官や将校に女性が結構いるという状態でもあるけど、何故女性が普通に男性と同じように働いているのかは、リンガイア王国の成り立ちにも関係有るので今は置いておこう



「魔法の属性は地・水・火・風これら4つの属性が基本となりますが、数自体は少ないものの光と闇という属性もございます」


「その中から自分にあった属性を調べて、魔法を覚えて行くんですよね?」


「そうなりますね、お嬢様は9歳ですので来年に10歳となられた時に属性を確かめる儀式が行われて適性が分かるでしょう」



 この世界の魔法はRPGの基本と言える4つの属性を基盤として、残り2つも光と闇という定番のものだ。

 それに初級魔法や中級魔法といったランク付けもされており、得意な属性の魔法に応じて使いこなして行く為の訓練の度合いは適性に応じて色々と変わって行ったりする。


 魔法があると思って心が躍り6歳で前世の記憶が戻った時には、すぐに使えるものと思い込んでお父様達にねだってしまい困らせたもので、使えないと知った時には落ち込んだものだった。



「お嬢様、この前にお教えした所ですが、どうして10歳で適正確認の儀が行われるか、覚えておられますか?」


「10歳になれば体の魔力が安定するから、その時の魔力の波動で分かるんですよね?」


「その通りです、10歳の誕生日から10日の時を経たら、適正確認が行われますから、この時に色々と判明しますね」



 10歳の誕生日から10日後に、平民や貴族を問わずに属性の適正確認儀式が行われる。

 下級貴族や平民は国教となっている宗教の神殿で行われるのに対して、中級から上の貴族は自宅で行うという違いはあるものの、この時に各人の属性が判明して将来において就くべき仕事についての事が話し合われるというのは前に聞いていた。


 この10歳の誕生日から10日後という単語に疑問を覚えたのだけど、今は流しておくべきと考えて特に考えは巡らせてはいないが、なんで10歳の誕生日から10日後なのかという疑問は何となく抱いてはいる。



「でも、全ての属性に該当する人が出るって言うのは本当なの?」


「本当ですよ、全ての属性に適性を持つ人は無属性と呼ばれています、ですが……」


「ですが?」


「現実は甘くない、それが彼らには待っています」



 そうRPGをやっていた時のロマンと言える全属性に適性を持ち使いこなす!というのは考えるのだけど、この世界においては全ての属性を使えるというのはあまり良いものではない。

 魔法があると知って真っ先に私が調べない筈が無かったが、目の前にいるレティ先生が穏やかな微笑みを曇らせているから、全ての属性が使えるというのは碌でもない状況しか呼ばないという事が分かってしまうし、知識としては知っている部類になる。



「全ての属性を使える代わりに、初級の魔法しか扱えないからなのです」


「一つの属性に特化した人よりも、結果的に劣ってしまうから、ですよね?」


「そうですね…… 必死で勉強し猛訓練すれば中級魔法の一部を扱えるかどうかというになるので、一つの属性に特化した人には叶いません」



 無属性という全ての属性魔法を操れるという、一見すれば最高なものだけど実際には良いものではないというのが、今の自分が生きている場所が現実であるという事を理解させてくれる。

 その無属性という適性を得るのは平民に多く、貴族にはそれぞれが特化した適性を得て色々と活躍の場を求めて行く形になるので、この辺でも貴族と平民の差が開く要因にはなっているけれど無属性と言える人々にも需要はあるので、ちゃんとした訓練を積んでいれば食にあぶれる事はないらしい。


 それからは、この世界の魔法の事を色々と教えて貰うのだけど、やはりというべきか私以外の現代日本を含めた世界からの転生者がいたんじゃないか? と思わされる歴史書の記述や魔法書の記録があるので個人的に調べてみる他に無いだろうと考えてはいた。

 いつものように授業が終わった先生を見送ってから、私は昼食を食べて午後の授業に臨むのだった。

 寝そうになる度に、先生からの愛の鞭が飛んで来たけどね。






 そんな授業の日々を過ごしてからの本日は、素敵な事に丸一日がオフな休日である。

 他の貴族家では分からないけれど我が家では週に1度は完全な休日を子供達に入れて、気分転換等が出来る様にお父様が気を遣ってくれているのだ。


 これは他のお兄様やお姉さまも同じで、お兄様達の休日は狩りに出かけたりとか後はチェスに似た盤上ゲームやカードゲームに興じていたし、お姉さまは街に出かけたりとかご友人のご令嬢達とのちょっとしたお茶会をやるか、ロマンス小説を読んで過ごしていたのを思い出す。

 そんな状況で自分がなにをしているのかと言えば。



「えっと、この結び目で返して……」



 編みぐるみを作っていたりする。

 実は前世の自分はアニメ好きのミリオタと言える人種であったけど、編みぐるみを作るという魅力を理解してからは立派な趣味の一つとなっていたりするのだ、前世の姿が厳ついというか筋肉質で一見すればおっかない姿であったので、編みぐるみの趣味だけは隠していたという事実があった。


 だけど今の可愛い幼女ならやりたい放題だ!なんて考えて今世のお父様に対して、前世の大人の男であったプライドを全て捨てて可愛らしく道具の類を色々とおねだりしたのは忘れたいと思うが、何気に色々とお願いをする時の動作というか、少女を演じる事に忌避感が無くなっている事に気が付いて愕然とする事はある。

 まあ、そんなプライドとか愕然とする事とかはまとめてポイッして、編みぐるみを心おきなくやっても引かれない状況があるのが純粋に凄く嬉しかったりした。



「お嬢様、お茶をお入れしましょうか?」


「うん、お願いね、ジェシカ」


「はい」



 鼻歌を歌いながら作っているのは編みぐるみのウサギちゃんで、網目などを考えながら編んでいたら部屋にいてくれるジェシカが優しい微笑みを浮かべながら飲みほしたお茶のお代わりを言ってくれたので、有難く彼女に頼んで続きを作っていく。



「…… この世界の艦艇の技術が分かればなぁ……」



 前世の趣味というのはもう一つあって、艦艇、それも前世の第二次世界大戦時の戦艦や重巡洋艦といった艦の図面を引いたり計算したりすることが趣味だったという妙なのがある。

 実は今も図面を引きたくてウズウズとしているけれど、この世界の艦艇建造技術がどの位置にいるのか分からないという事もあるし、常にメイドであるジェシカが傍にいるから令嬢らしくないと言われてレディンやお兄様にお父様達から怒られるのではないか? と、考えて行動が出来なかった。



「愛情を持って接してくれる人の期待を裏切りたくないし……」



 編んでいる途中のウサギちゃんを目の前のテーブルに置くと、ソファーの上で体育座りになる要領で足を組んでぽしょぽしょと言ってしまう。

 前世の両親もそうだけど今のお父様や兄妹と言える人達だけでなく、使用人の皆も私に対して愛情を持って接しくれる事が彼らの期待とか色んな物を裏切りたくないという思いに満ちていく。


 これで貴族らしい冷淡な態度で来られていたら色々と混乱する様な事もしていたのだけど、皆が温かく私を見守ってくれて尚且つ優しく導いてくれるから、それに応えないと人として終わると思って日常を過ごしていた。



「…… この辺は後で考えましょ……」



 まあ、今の恰好はメイドさんの誰かが居れば青筋を立てて注意をして来るくらいにはしたないというか、破廉恥と言える体勢になっているのは理解している。

 なにしろ対面の椅子に誰かが座っていたら今日来ているドレスのスカートの中が丸見えになって、ピンクの下着が露わになっていただろうし、こういう姿は一人の時にしか出来ないしやりたくないとは思うが、男の時では分からなかったスカートというものの楽しさというか涼しさとか色んなのが分かって今の生活は楽しさに満ち溢れてはいた。


 ひらひらとしたお洋服やスカートを身に纏っても特に嫌悪感みたいなのが無いから、前世の段階で心の奥底では女装に対しての憧れかみたいなのがあったのか? と思ってちょっと凹むけど、今を何とかして全力で楽しんでいかないと損するばかりだよね、なんて考えてもいたりする。



「お嬢様、本日のお茶はリンガイア王国東部が産地の茶葉で淹れた物です、先日にレオン様付きの執事がお淹れした時も好評だったと聞きましたから用意してみました」


「ほうほう、綺麗な色してるわねぇ、お茶菓子も美味しそうだし」


「はい、料理長が腕を振るってくれたマカロンです、このお茶と一緒に食べれば最高だと彼が言っていましたのでお持ちしました」


「ありがとっ、ジェシカ!」


「はぅっ、そんな恐れ多いです、お嬢様ぁ……!!」



 ティーポットと一緒にカラフルなマカロンを持って来たジェシカが色んな説明をしてくれる。

 リンガイア王国の東部を治める公爵家が販売しているのは前世で言う所の紅茶や緑茶といった茶葉やコーヒー豆であり、その品質が非常に良く貴族の間での良質な嗜好品としての取り引きが盛んなのだけど、北部に位置するバルデシオ公爵家でも茶葉自体は生産されているけど東部と比べたら、どうしても品質の差というものを理解させられる程の物だ。


 東部を治めている公爵はエルネシアという家名であり、今年8歳になった可愛いご令嬢がいるという話は耳にしている家であり、噂のご令嬢に会いたいなって考えてもいたりする。



「お茶もお菓子も美味しい…… ジェシカ、料理長のランゼルにマカロンが美味しかったって伝えてくれる?」


「はい、お伝えしておきます」


「う~ん、本当に美味しい♪」



 流石は準王家と言えて財力もあり勢いのある公爵家だからか、ちょっとしたティータイムに出されるお茶や菓子も最高級品が出されているのが良く分かる。

 前世の日本で過ごしていた自分の舌でも高級品だと分かる味に舌触りを感じながら、午後の穏やかな時間を過ごして行く。


 社交界に出たら、こんな穏やかで和やかな時間なんて滅多に過ごせないんだろうなぁ、と、考えて余計に今の時間を噛み締める様に過ごしていた。

 だけど、本当にジェシカの妖しい視線と行動にはちょっとだけ警戒してしまうのはたまに疵という奴だろうが、私が美味しくお茶やお菓子を楽しんでいたら、鼻血を出して拭き取っている時あるのはちょっと恐怖を感じるから止めてと言いたくはなる。

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