TRUE END

●TRUE END



 パークから、セルリアンの危機は去り、ビーストの問題も事なきを得ました。

 しかし、一人悲しみにくれるフレンズがいました。

 崩れ去ったジャパリホテルの前にひざまずく彼女は、オオミミギツネちゃんです。


「うう……私のホテルが……」

「きれいに無くなっちゃいましたね……」


 ブタちゃんがオオミミギツネちゃんに同情しています。

 最初はみんな、一連の事件が解決したことを喜んでいました。

 しかし、そんな彼女の様子を見て、みんな心配しました。


「私の夢が……」


 そんなオオミミギツネちゃんの肩に、誰かがぽんっと手を載せました。


「君の夢とはなんだい?」


 アムールトラちゃんが、オオミミギツネちゃんに尋ねました。


「それは、私のホテルにお客様がたくさん来て、その中にペパプが全員いて、ホールでディナーショーをしてもらってですね……!」


 夢を語るオオミミギツネちゃんはとても楽しそうです。

 しかし、話の途中でずずーんと落ち込んで、


「けれど、もうホテルが……」


 と泣きそうな声でいいました。

 アムールトラちゃんは、よし、といって、全員に呼びかけました。


「今から、マジックショーを始めよう!」


 それを聞いたフレンズ達は、何が始まるんだろう? と不思議そうな表情をしながら集まります。

 アムールトラちゃんは、その中にいた、カンザシちゃんとカタカケちゃんに手伝いを頼みました。


「いつもどおり、手伝ってくれるかい?」

「もちろん構わない」

「我らの力を見せてやろう」


 全員集まったのを確認したアムールトラちゃんは、高らかにマジックショーの開始を宣言します。


「レディースアンドジェントルメン!

 これより、アムールトラ、一世一代の大魔術をお披露目するよ!」


 アムールトラは、いつの間にか持っていた杖を崩れたホテルに向けました。


「夢が詰まった大切なホテル……それが、志半ばで崩れ去った悲しみ……

 しかし! オオミミギツネの語ってくれた思いによって、奇跡を起こる!」


 そして、カンザシちゃんのポンチョとカタカケちゃんのマントが、大きく広がり、暗幕のようにして、観客達から崩れたホテルを隠しました。

 アムールトラちゃんは、カウントを取りました。


「三、二、一……」


 暗幕が開きました。


「ゼロ!」


 すると、そこにあったのは、すべてが元通りになったホテルでした。


「「……」」


 一瞬の静寂の後……


「「すっごーおおおおおおい!!!!!」」

「何が起きたの!!」

「これがマジック……!」

「信じられへん……」


 フレンズ達はとても驚きました。キュルルちゃんなんて、口がぽっかり空いています。そして、みんな手品とアムールトラちゃんの凄さをたたえていました。


「よかった! 私のホテルが元に戻った!

 アムールトラさん、ありがとうございます!」


 オオミミギツネちゃんは、涙を浮かべてアムールトラちゃんに感謝を述べました。

 それらを見ていた、かばんさんと博士と助手は、手品のたねを察しました。


「あれは……」

「もしや……」

「セルリアンの力を――」


 かばんさん達の話が聞こえたのか、アムールトラちゃんは、人差し指を口に当てて、内緒だよ、のジェスチャーをしました。

 それをみた三人は、確かに手品のネタばらしは野暮だと思い、これ以上は何も言いませんでした。

 そして、オオミミギツネちゃんは、みんなに呼びかけました。


「皆さん! 当ホテルも元通りになりましたので、宴会を開きたいと思います!」


 その言葉に、フレンズ達は、賛成! と言いました。

 しかし――


「待って!」


 その言葉を発したのは、キュルルちゃんでした。


「宴会を開くのは構わないけど、僕のおうちで開催してほしいんだ」


 その言葉を聞いたフレンズ達は、驚きました。


「キュルルちゃん、おうち見つかったの?!」


 サーバルちゃんが、キュルルちゃんに尋ねました。


「うん、見つかったよ。みんなのおかげで、大切なおうちが」

「それって、どこなの?」


 カラカルちゃんが尋ねました。


「場所はね……」



~~~~~~~~~~~~~~~~

かばんさん視点

~~~~~~~~~~~~~~~~



 宴会の準備が完了次第、キュルルちゃんのおうちに向かってバスを走らせることになりました。

 かばんさんはいろいろと行っていた作業も完了して、浜辺から海を眺めているサーバルちゃんのところへ近づきました。


「あ、かばんちゃん!」

「やあ」


 かばんさんは、サーバルちゃんに話しかけました。


「キュルル、あの子すごいよね」

「キュルルちゃん、大活躍だったもんね!」

「実はね、あの後バンドウイルカとカリフォルニアアシカに、海底火山の調査を依頼したんだ」


 かばんさんは、尊敬の念を込めて、話し続けました。


「驚いたことに、海底火山のセルリウムが全てサンドスターになっていたんだ。

 キュルルの思いが海底にまで伝播して、セルリアンがフレンズになったのと同じ現象が起きたんだ。

 誰かを思う気持ちが、とてつもない強い力になるって、心底思い知らされたよ」


 サーバルちゃんは、かばんさんに言いました。


「すごいんだよ、キュルルちゃんは!

 キュルルちゃんは、みんなと心をつないで、仲良くなりたいって言ってたんだ。

 そしたら、セルリアンとも、ビーストだったアムールトラちゃんとも友達になるんだもの!

 おうち探しも諦めなかった……そしてちゃんと見つけた」

「それを本人に言ったら、二人のおかげって言うかもね」


 ――キュルルは本当に成長した

 ――研究所から別れたときのような危うさは無い

 ――だから……


「サーバルちゃん」

「ん?」

「キュルルがおうちに帰ったら、一緒にお話しよ」

「……うん! かばんちゃん!」


 二人はもうすぐ、本当の意味で出会うことができそうです。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

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 出発の準備が整いました。

 キュルルちゃんを含む、騒動に駆けつけたすべてのフレンズ達は、バスへと移動しました。

 すると、バスの前には、ラッキービーストが立っています。

 すると、かばんさんはキュルルちゃんに向かって、話しかけました。


「バスの運転はこのラッキーさんがしてくれるよ。それでね、キュルル……」

「はい?」

「二千年前に改ざんされた、このラッキーさんの記録データを復元したんだ」


 かばんさんの発した言葉に、キュルルちゃんは目を見開きました。

 キュルルちゃんはラッキーさんに尋ねました。


「君は、あの時のラッキーさん……?」

「僕が不甲斐ないばかりに、君には取り返しのつかない目に合わせてしまった……

 本当に済まないと思っているよ」


 ラッキーさんの言葉に、キュルルちゃんは首を横に振りました。


「ラッキーさんは何も悪くないよ。

 あの時、ラッキーさんの言葉があったから、僕は本当のおうちを見つけることができたんだ。ありがとう、ラッキーさん」


【「パークのフレンズ達と、触れ合って、心を結ぶんだ。

 そうすれば、必ずフレンズたちは、君を迎え入れてくれるよ」】


 記憶を取り戻した今、この言葉は、キュルルちゃんにとって、何より大切な言葉の一つです。

 キュルルちゃんの感謝の言葉を聞いたラッキーさんは、バスの運転席へと乗りました。


「さあ、今度こそちゃんと、目的地へ送り届けるよ」

「うん!」


 そうして、みんなを載せたバスは走り出しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

キュルルちゃん視点

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 ああ、ついに、僕はおうちに帰ることが出来るんだ

 とても長い旅だった

 このジャパリパークに来て、いろいろなことがこの身に降り注いだ

 その中で、二千年間、眠っていたという事実を知った僕は、周りのすべてが地獄に見えるようになった

 何度も挫けた

 何度も諦めた

 けれど、みんなが僕に優しくしてくれた

 僕は、自分のことしか見えてなかったのに、みんなはこんな自分を想ってくれている……

 とても嬉しかった!

 これまでの恐怖は、みんなの気持ちを知ってから、どんどん無くなっていった

 そして、今度は自分がみんなの力になりたいって思ったんだ!

 だから、リョコウバトの寂しさを癒やすために、絵を書いた

 だから、アムールトラの笑顔が見たいって、絵の中のみんなに願った


「ついたよ」


 ラッキーさんがバスを止めて、そう言いました。

 目の前にあるのは、犬の形をした丸い家です。

 あの日、君が僕に語ってくれたおうちのこと――

 

 ――明るくて

 ――優しくて

 ――温かい


 その全てが本当の事だった

 優しい君が大切に守り続けた、帰れる場所――

 それが今、僕の目の前にある

 だから、僕は君に伝えたいんだ

 君が居たから、僕はおうちに帰れるんだって

 ずっとずっと、おうちを守り続けてくれて、ありがとうって!


 僕は、ドアに手をかけて、開けました。


「ただいま」



~~~~~~~~~~~~~~~~

イエイヌちゃん視点 二千年前

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 あの子と出会った日、私は飼育員のおねえさんに連れ添っていただいて、セントラルに行きました。


「たくさんヒトがいるでしょ」

「はい……」

「パークのフレンズ達は来てくれたお客さんに話しかけて、友達になるんだよ」

 

 いつも私は、寝泊まりしている私の家の周辺でしか出歩いたことがありませんでした。

 だから、これだけたくさんのヒトが居ることにとってもびっくりしました。

 私と遊んでくれるヒトは、飼育員さんと、私のおうちに来てくれた数人のお客さんだけでした。

 私は、飼育員さんの影に隠れて様子を伺っていました。

 すると、少し離れたところに、少女とラッキーさんがいました。


「……」


 不思議と私は、初めて見たあの子に心が惹かれたのか、じっと見ました。

 それに少女達もそれに気がついたのか、視線が合いました。

 そして、飼育員さんが私に、


「ほーら、勇気を出して言ってごらん」


 と言ったので、私は勇気を出して、あの子に伝えました。


「私は、イエイヌ。あの、もしよかったら、私と、友達になりませんか」



~~~~~~~~~~~~~~~~

朝 キャンプ地

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 あの子との出会いも、旅も、すべてが楽しかった。

 あの子は、おうちを探していました。

 もし、あの子が私の家に住んでくれて、家族になってくれるのなら、これ以上の喜びはありませんでした。

 しかし――


「あれ、あれ?! どこですか?!」


 キャンプであの子と一緒に寝ていたはずなのに、起きたらあの子とラッキーさんはいませんでした。

 あの子とラッキーさんの匂いから、二人は外に出ていることに気が付きました。

 私はその匂いをたどって、木々が生えているあたりまで来ました。

 すると、そこにはあのラッキーさんがいました。


「ラッキーさん!」

「……」


 ラッキーさんは、普段フレンズの私達とはお話しません。

 けれども、私は尋ねました。


「あの子はどこにいるんですか?」

「……」

「お願いします! 答えてください!」


 どうしても、そのことが知りたかった。

 その気持ちが通じたのか、ラッキーさんが答えてくれたのです。


「アノ子ハモウ、家族ト一緒ニ、オ家二帰ッタヨ」


 ラッキーさんの口から信じられない言葉が出てきました。


「嘘です!!

 あの子は言ってくれました! 私のおうちに行きたいって! 何もいわないで私をおいていくはずがありません!」


 私の感情がごちゃ混ぜになった、悲痛な声でラッキーさんを問い詰めました。

 何も答えてはくれませんでした。


「いいです! 私が探しに行きます!」


 匂いがまだ残っています。

 その先を追っていきさえすれば、あの子の元へつくはずでした。

 しかし――


「あれ……匂いが……?」


 これまで、残っていたあの子の匂いが、突然消えてしまっていたのです。

 周囲を見渡したり、歩いたり、探してみるのですが、そこには何もありませんでした。


 ――なんで、なんで、なんで……!


 悔しくて、悲しい気持ちでいっぱいでした。

 目から涙がボロボロこぼれました。

 あの子は、私にどれだけ楽しい思い出をくれたか今でも鮮明に思い出せます。

 それなのに、あの子はそれを忘れて、本当に私を置いて帰ったのか?

 いいやそんなはずは無い

 だって、あの子が私を抱きしめたときのぬくもりがまだ――


どかーーん


「……え?」


 セントラルの方から、何かが破壊された音が聞こえてきました。

 一回だけではありません。次々と、その音が聞こえてきました。

 そして、その中に、悲鳴が入り混じっていることに気が付きました。


 ――誰か、ヒトに、身の危険が……!


 頭で、状況を理解した瞬間、本能に従って駆け出しました。

 私は、無我夢中で、自分に出来ることを、ただただ行いました。

 

 その日、パークでは、セルリアンの襲撃事件が起きたのです。

 フレンズと職員達が力を合わせて、事件を沈静化させました。

 私は、急いでここに戻りましたが、もうあの子の匂いは残っていませんでした。

 あの子は、もう見つかりませんでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

職員退去日

~~~~~~~~~~~~~~~~



 これまでの間で、私はヒトと共に、様々なお手伝いをしてきました。

 セルリアンと戦ったり、パーク復興のお手伝いをしたり……

 けれど、職員たち、ヒトはパークから去ることが決まりました。

 それを聞いた私は、むしろホッとしてました。

 なぜなら、ここはヒトが住むには、とても危険だってことを私は理解していました。

 遠い日に会ったあの子も、パークの悲惨な状況を見ずに、おうちに帰れて幸せだったと思います。


 最後まで残った職員たちが、私のもとに来ました。

 そして、その中で私の目の前にいたのはずっと私の面倒を見てくれた飼育員さんでした。


「イエイヌちゃん、最後の最後まで、私達の為に働いてくれてありがとう」


 飼育員さんは、私に、たくさんのお手紙を渡しました。


「これは、パークのみんながイエイヌちゃんへの思いを書いてるんですよ」

「わあ……嬉しいです!」


 私のしっぽがふりふりしています。


「イエイヌちゃんが、遊びに来てくれたお客さんのお手紙を毎日こっそり読んでる事、みんな知ってたよ」

「ええー!」


 なんかちょっぴり恥ずかしい気分です……

 飼育員さんは、少し神妙な表情で言いました。


「イエイヌちゃんとは、もう長い付き合いだよね」

「私が生まれてきてからの付き合いですからね」

「……イエイヌちゃんはもう、自由に生きていいんだよ。

 もうずっとずっと、私達の為に頑張ってきたの、みんな知ってるよ。

 だから、これからは、私達のことなんて忘れて、自分の好きなように……」


 私は、首を横に振りました。


「私は、これからもおうちを守っていきます。

 だれかここに戻ってきたときに、おうちが無くなってたら困るじゃないですか。

 それに――」


 私は飼育員さんを安心させるため、にこりと微笑みました。


「みんなの為に生きる事が、私の一番の喜びです。

 これからも、ずっとです」


 飼育員さんが泣いていました。

 そして、私を抱きしめていました。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 」


 その言葉を聞いた私は、これほどにも、私は大切にされて、想われていたことを知り、不覚にも嬉しく思いました。


「いいんですよ……いいんです……

 一人でも、お留守番は出来ますよ……」


 飼育員さんの涙が収まるまで、私は飼育員さんを抱きしめました。

 そして、この日、パークからヒトがいなくなりました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

最後の日

~~~~~~~~~~~~~~~~



 私は、どれだけの時間を過ごしてきただろうか?

 短い時間ではありませんでした。

 けど、私は決して孤独ではなかったのですよ。


 例えば、あの時のラッキーさんが、私の側に、一日中いてくれたことがあったんですよ。何も言ってはくれませんでしたが、とても嬉しかったです。


 他にも、夜中に、ただただ、どうしても泣き叫びたくなる時があって、ワオーンと泣きました。すると、近くにいたフレンズさんがやってきて、どうしたの? 何かあったの? って私を心配してくれました。


 遊びに来てくれたフレンズさんもいたのですよ。

 その時は大好きなフリスビーで一緒に遊んでくれました。


 みんな、私のことを愛してくれました。

 私は幸せでした。


 私が、子供のときに会ったあの子は、おうちに帰れて、幸せに暮らせたのでしょうか?

 それならば、私も安心します。


 私は、蟻塚の美しい光に照らされて、あの子の優しい両腕に包まれて、最後に言ってくれた言葉を今でも夢に見ます。


 私の最後の未練です。

 私の最後のわがままです。


 もう一度、私を抱きしめて――







 「あったかい」って――










~~~~~~~~~~~~~~~~

時が流れていきました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 私は、小さな子犬だった時のおぼろげな記憶でしかヒトを知りませんでした。

 私はフレンズになってから、一人でこの家に暮らしていました。

 そして私はこのおうちを守るという使命に燃えていました。

 けれど、ヒトってどんな生き物なのでしょうか? とも思ってました。

 だから、私はヒトが暮らしていた痕跡を見つけては、ヒトとの暮らしはどんなものなのだろうと、想像ばかりしていました。

 しかし、ある日すごいものを見つけてしまいました!

 それは、金庫に大切に保管されていた、ヒトのお手紙です!

 頑張って、文字を勉強して、やっとお手紙を読むことが出来ました。

 そして、私はこう思いました。


 ――ヒトとの暮らしは、どれだけ素晴らしいことなのでしょうか!


 その時から、私はヒトに喜んでもらうべく、お茶のことなど、本から得た知識をもとに、いろんなことを学びました。

 そして、ある日――


「……この匂いは」


 私は、ヒトの匂いを知りませんでしたが、なぜか、本当にかすかな匂いの中に、ヒトを感じたのです。

 おうちから、動くわけには行かなかったので、探偵を雇って探してもらうことにしました。

 そして――


「会 い た か っ た---------------------!」


 それは、紛れもなくヒトでした。

 天にも昇る気持ちで、私はヒトを抱きしめました。


 キュルルさん――そのヒトの名前でした。

 キュルルさんはおうちを探して旅をしていました。

 私は、キュルルさんのおうちはここしかありえないと信じていました。

 私は、キュルルさんに遊んでもらって、すっかりその気になっていました。

 しかし――


「……おうちにお帰り」


 私は、この言葉を最後に、キュルルさんと決別することにしました。

 私では、ビーストに何一つ歯が立ちませんでした。

 ヒトの役に立たない弱い私に、キュルルさんのおうちでもなんでもない場所に引き止める権利なんてありません。

 そして何より、私の行動が、結果的にあの三人の仲を引き裂こうとしてしまいました。

 もし、大切な誰かと、離れ離れになることがあったなら、胸が焼かれる思いを味わったに違いありません。

 私にとっての、大切な誰かとは、キュルルさんのことでした。

 けど、キュルルさんは、とっても苦しんでいました。

 おうちも見つけられなくて、友達とも離れ離れになってしまって……

 だから、私は彼女たちを見送ることにしたのです。


 おうちに帰った私は、水で体を洗って、キュルルさんが一口も飲んでくれなかったお茶を片付けて、いつものように、大事な手紙を読み直しました。

 何度も何度も読み直しました。

 初めてのヒトのふれあいは、とても幸せだった!

 本の知識より! お手紙の想像より!

 この幸せがずっと続いてほしいと思いました。

 私は少しわがままだったのでしょうか……。


「……?」


 お手紙の中から、紙が一枚はらりと落ちました。

 どうして、今まで気づかなかったのでしょうか?

 それを広げると、書いてあるのは、絵でした。


「……素敵な絵」


 絵の真ん中には、楽しそうな女の子とフレンズが、そして、私が横の方で女の人にしがみついていていました。

 微笑ましい気持ちがある反面、少しぷっ、て吹き出しそうになりました。


 ――私は、お留守番を続けていきます

 ――なぜならば

 ――たとえ、どれだけの時間が経ったとしても

 ――逢いたいって気持ちは絶対に変わらないのだから!


 おうちの外が物々しいことに気が付きました。

 私は、いつの間にか朝日が差し込んでいることに気が付きました。


 ――誰でしょうか……?


 すると、ドアが開かれました。

 出てきたのは、あの子でした。


「ただいま」


 ――ああ……ああ!

 ――あの子のおうちは!


 私は、一心不乱に、あの子の元へと駆け寄って、抱きしめて、


「おかえりなさい!」


 と言いました。

 

 こうして、私達はおうちへと帰ることが出来ました。



●おしまい

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