第12話

●第12話



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海底にて

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 ある日から、ジャパリパーク近郊の海にて、海底火山が活発化していました。

 そして、その海底火山から、大量のセルリウムが放出されることで、強力なセルリアンが生まれ、ジャパリパークに上陸する事件が頻発していました。

 現在、それら強力なセルリアンよりも、大きく、恐ろしいセルリアンが現れました。

 地中で沈んでいた巨大戦艦を模したそれは、まさに海底の支配者でした。

 海にすむフレンズたちは、荒れ狂う海の様子を感じ取り、「海のご機嫌が悪い」と表現していました。


 ――みつけた


 戦艦型セルリアンは、ヒトの思いが込められた、ある物を感じ取り、ジャパリホテルの元へ近づいたのです。


キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン


 戦艦型セルリアンは、戦艦に元から備わっていたソナー(音波を用いた海中探索用のレーダー)を使いました。

 しかし、探索のために使ったのではありません。

 超高音波をホテルにぶつけることで、ホテルそのものを振動させて攻撃したのです。

 そして、ホテルの窓ガラスの一部が割れ、浸水を引き起こしました。


 ――あれだ


 戦艦型セルリアンは、割れた窓ガラスの隙間から、自身の体を変形させて中に入っていきました。

 そこはキュルルちゃんがリョコウバトさんの為に書いた絵が置いてある部屋でした。

 セルリアンがその絵に触れた瞬間、まるで吸い込まれるかの如く、あれだけ大きかったセルリアンの体ごとすべて、絵の中に入って行きました。

 そして、その絵から出てきたのは、輪郭だけフレンズの形をした、濁った黒い体を持っています。そして、顔にはお面をかぶったかのような、黒いおおきな目玉があるのみです。

 思い出を取り込むセルリアンは、キュルルちゃんの絵を取り込むことで、その絵に描かれたフレンズたちの形を手に入れました。

 その結果、その絵に書かれたフレンズすべてが、強力なセルリアンとして現れたのです。



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地上にて

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「博士! 助手!」

「はいなのです」

「わかったのです」


 雄叫びを上げたビーストがこちら目掛けて襲いかかった来ました。

 それに対して、博士と助手はビーストの足を止める為、用意していた煙玉を使いました。


「バンドウイルカとカリフォルニアアシカは、海の様子を見て状況を伝えて!」

「あいあいさー!」

「ええ。分かりました」


バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんは、海の中に潜りました。


「残りのフレンズたちは、全速力でホテルに向かって!」


 そのかばんさんの言葉を聞いたゴリラさんは、先頭に立って、みんなに吠えました。

「みんな突撃だ! なんとしてでも、中の四人を救出するぞ!」

「「うおおおおおおお!!」」


 ビーストがひるんでいるスキに、博士と助手、かばんさんとキュルルちゃん以外のフレンズたちは、それぞれの行動に移りました。


「それじゃあ僕たちは、ビーストの足を止めて、安全な場所へ誘導を――」


 態勢を整えたビーストは、こちらに目掛けて突進してきました。

 それを迎え撃とうと、博士と助手が野生解放を行い、博士が攻撃しようとした瞬間――


「!博士っ」


 ビーストとは全くの別方向から、博士に対してフレンズが体当たりしてきたのです。

 それを察知した助手は、そのフレンズの攻撃から、博士をかばうように、体で受け止めました。

 更に――


「危ないキュルル!」

「え……!」


 かばんさんは、キュルルちゃんを手で押しました。

 それのおかげで、キュルルちゃんを狙った鳥の鉤爪が、空を切りました。

 キュルルちゃんは、攻撃してきたフレンズ達を見て、その名前をつぶやきました。


「カンザシフウチョウ……カタカケフウチョウ……」


 攻撃を躱されたカンザシちゃんとカタカケちゃんは、宙に浮きながら、キュルルたちの方を見て、言いました。


「お前たちヒトが、あの哀れなビーストを生み出した」

「これ以上、あの子を傷つけさせないために、ここに来た」


 ビーストは、今でも暴れ続けています。

 それを博士と助手が交互に、相手をしながら、注意を引いています。

 かばんさんは、カンザシちゃん、カタカケちゃんの見て言いました。


「君たちは、奴らが使用した冬眠カプセルによって、キュルルやビーストと、同じ時間を過ごしてきた二千年前のフレンズだね。

 そして、さっきの言葉で、君たちのことがやっとわかったよ」

「「……」」


 二人はかばんさんをキッと睨みつけました。


「君たちは、アムールトラの友達だね」



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二千年前

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「さあて、準備よしっと」


 アムールトラちゃんはせっせと、荷物をまとめていました。

 それを見ていたカンザシちゃん、カタカケちゃんは話しかけました。


「本当に旅に出るのか?」

「孤高の一匹狼にでもなるつもりか?」

「そんなつもりじゃないさ」


 アムールトラちゃんは、一人旅に出ることにしたのです。

 本日の入場客に手品を楽しんでもらうことを最後に、パークの管理から一時的に開放されることが約束されていました。


「私の手品で、入場客を笑顔にする暮らしも悪くない。

 けれど、それ以上にやりたいことがあるのさ。

 一つ目は、世界は広い! っていう話が本当かどうか確かめること。

 二つ目は、私の手品をもっとたくさんのフレンズたちに見せて、楽しませることさ」


 アムールトラのリュックには、たくさんの手品道具が詰まっています。

 ぱんぱん気味だが、難なく背負っています。


「かっこいいな……」

「イケてるな……」

「だろ? 我ながらそう思うよ」


 そうして、準備を整えたアムールトラちゃんは、旅立ちました。


「それじゃ、お前たち、またな」

「時が満ちたらまた会おう」

「我らとの約束を忘れるなよ」


 そうして、アムールトラちゃんの背中が見えなくなった後……


「行ってしまったな……」

「ああ、行ってしまった……」

「あまり面白くないな」

「次向かう先に、先回りしようではないか」

「我らを仲間外れにしたことを後悔させてやろう」

「光すら吸い込む本物の黒から、逃れられえぬことを思い知らせてやろう」


 二人は、アムールトラの向かう先に飛び立ちました。

 けれど、アムールトラちゃん、カンザシちゃん、カタカケちゃんの旅は始まりませんでした。

 フレンズを操る研究の為の実験体として、アムールトラちゃんは捕獲され、ビーストにされました。そして、カンザシちゃん、カタカケちゃんの二人もまた、目撃者として捕獲されてしまいました。

 しかし、彼女たちはパークの職員達の誰にも見つけてもらうことはありませんでした。なぜなら、彼女たちの誘拐の直後に、セルリアンが大量発生する事件が起きたからです。

 その結果、彼女たちはセルリアンに食べられたと判断されてしまったのです。



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現在

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「目覚めた私達が、アムールトラの姿を見て、どれほど絶望したか……」

「どれほど声をかけても、私達のことを何も思い出してくれない……」

「アムールトラは、奴らに対して、怒ることも出来ない……」

「アムールトラが抱いた夢を、見ることも、叶えることも出来ない……」


 彼女たちが、目覚めてから、今に至るまでの苦しみは、推し量ることすら出来ません。


「私達は、これまでずっとアムールトラを見守ってきた」

「そして、アムールトラの行先で、お前たちヒトの姿を見たときは、許せないと思った」

「だから、もし、お前たちヒトが、アムールトラを傷つけた時」

「私達はお前たちを襲うつもりだった」

「な……!」


 キュルルちゃんは、ゾクリと冷や汗が垂れました。


 ――もし、ゴリラさんたちの森で、かばんさんの紙飛行機が無かったら……

 ――もし、イエイヌと僕を助けに来たサーバルとカラカルが、ビーストに攻撃していたら……


 カンザシちゃんとカタカケちゃんは、アムールトラを守るため、キュルルちゃん達に牙を向けたことでしょう。


「だから、私達は……」

「お前たちヒトを……」

「待って!」


 かばんさんは、彼女たちの言葉を止めました。

 そして、続けてこう言いました。


「アムールトラをビーストから元に戻すための、手がかりが見つかったんだ」



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ホテル内 リョコウバトさん視点

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 ホテルがガタガタと、揺れ始めて、リョコウバトさんは目覚めました。


「これは、何なんでしょうか……?」


 そう思った瞬間、「キャーーー!」とおおきな叫び声が聞こえました。

 危機を察したリョコウバトさんは、鳥類用の寝室から、廊下に出ました。


「どうしましたか! 何が起きてるのですか!」


 その返事に答えるフレンズはいませんでした。

 しかし、ふと見た廊下の先に、フレンズが部屋の中に入っていくのが見えました。


「……あの方は?」


 リョコウバトさんは、あのフレンズを追いかけて、その部屋の中に入りました。

 部屋の中で、先程部屋に入ったフレンズが立っていました。


「今危険なことが起こっているのかもしれません。

 私と一緒に行動を……」


 その姿を見たリョコウバトさんは、驚きました。


「あなたは、私の……?」


 その姿形が、リョコウバトさん自身と全く同じでした。

 しかし、体はドス黒く、顔はセルリアンと同じ、おおきな黒い目玉だけです。


「違うようですね……あなたは、セルリアンなのですね……」


 ――ああ、それでも……


 リョコウバトさんの形をしたセルリアンは、ピクリとも動きません。

 しかし、部屋の中で、ペタリ、ペタリ、と足音が聞こえました。


「え……?」


 部屋を見回したリョコウバトさんの目に映ったのは、部屋中に潜んでいた、大量のフレンズ型セルリアンでした。



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ホテル内 オオミミギツネちゃん、ハブちゃん、ブタちゃん視点

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「くそっ! 早く上に上がるぞ!」


 彼女たちは、一番下の階層から、上へと登っていきました。

 下の階はすでに、海水がなだれ込み、海に沈んでいました。


「何! なんて言ったの?! 耳がキーンってして、何も聞こえないのよ!」


 オオミミギツネちゃんは、そう叫びました。

 戦艦型セルリアンの、超音波によって、耳が使えない状態になっていました。


「少し我慢して、オオミミギツネさん! 私がおぶっていきますからね!」


 オオミミギツネちゃんの負担を減らすべく、ブタちゃんが、オオミミギツネちゃんをおんぶしました。

 そうして、上へと上がっていくと――


「な……!」


 なんと、フレンズ型のセルリアンが階段の先と、そのフロア中に大量に存在していました。

 それを見た、オオミミギツネちゃんは、


「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 と叫びました。

 その叫び声を聞いた、セルリアンが、一斉にこっちを見て、襲いかかってきました。


「に、逃げなきゃ……」


 ブタちゃんは下の方に行こうとしましたが、ハブちゃんがそれを止めました。


「下はもう海だろうが!

 敵のど真ん中に逃げるしか無いんだよ!!」

「う、うん……そうだね」


 覚悟を決めた二人は、セルリアンの中に突撃していきました。

 ハブちゃんは、とにかく噛み付いて、噛み付いて、噛み付きました。

 ブタちゃんは、オオミミギツネちゃんを背負いながら、いつも掃除に使っていたモップを振り回して、ギリギリ退けていきました。

 それでも、階段の上を進むことが出来ず、近くのホテルの一室に逃げ込むしかありませんでした。


「はあ、はあ……」

「ヤバすぎだろ……」


 中で、鍵を締めているものの、セルリアン達は、ガンガンと、ドアを蹴破ろうとしています。

 そんな中、ハブちゃんはドアを背に押し付けながら、あることを言いました。


「オイラ、とんでもない事実に気がついたわ」

「な、なんですか?」

「今の状況よりも、お前が振り回してたモップの方が怖いわ」

「がくっ」


 ブタちゃんはずるっと滑りました。

 ハブちゃんは棒を振り回されるのが、大の苦手でした。

 それを聞いたオオミミギツネちゃんはいいました。


「何いってるのよあんたは……

 やっと耳が聞こえてくるようになったわ」


 オオミミギツネちゃんは、心配事をつぶやきました。


「ホテルに泊まっているお客様が心配だわ……」

「今の状況じゃあ、助けには行けねえよ。

 こっちだって生きるか死ぬかの瀬戸際だし……」

「そうだけれども……」


 そうして、話しをしていたところ、ドアにとてつもなく、大きな衝撃が走りました。


「ぎゃっ!」


 ドアは破られ、ハブちゃんは、ドアごと前に転がりました。

 外にいるのは、ゴリラさんの姿をしたセルリアンでした。


「くっ……」


 万事休すです。

 しかし――


「喰らえ!」


 ゴリラさんの姿のセルリアンが、パッカーンと弾け飛びました。


「待たせたな。大丈夫だったか?」


 そうして、現れたのは、ゴリラさん本人です。

 オオミミギツネちゃん、ハブちゃん、ブタちゃんは、助けが来たことで、緊張が、一気に解けました。


「た、助かった……」

「よし、三人共無事のようだな」


 人数を確認したゴリラさんは、みんなに呼びかけました。


「よし! 早く外に出るぞ!」


 しかし、オオミミギツネちゃんはゴリラさんに、待ってと言いました。


「まだ、お客様がホテルの中にいるかも知れません!

 早く助けないと!」

「大丈夫です」


 救出メンバーの一人、センちゃんが言いました。


「もう助けに向かっています。

 私は鼻がいいので、要救助者の居場所はすでに把握出来てます」

「さすがセンちゃん!」


 アルマーちゃんが、センちゃんを褒めました。

 それを聞いたオオミミギツネちゃんは、ほっとしました。


「でももう、ウチらがセルリアンみな倒してしもうたし、後は出るだけとちゃうんか?」

「案外楽勝やったな」


 ヒョウちゃんとクロヒョウちゃんは、言う通り、通りがかりのセルリアンはすべて倒していました。

 しかし――


「待ちな……まだ終わってないようだ」

「これは……再生?」


 目の前の光景を見て、イリエワニちゃんとメガネカイマンちゃんは、そう言いました。

 なんと、倒したはずのセルリアンが再生しているのです。

 そして、廊下全体に、フレンズ型セルリアンが以前にもまして増えています。

 それを見たゴリラさんは、くっ、と言いながらも、指示を出します。


「ペパプとマーゲイ、ジャイアントパンダとレッサーパンダは、救出した三人を守れ!」

「よし行くわよ!」

「「「「「ファンを守るのは、アイドルの使命!」」」」」

「ペパプはやっぱり最高です!まさにアイドルの鑑!」

「私も頑張らないと……くかー」

「ここで寝ないで、ジャイアントパンダちゃん!」


 ペパプの姿を見たオオミミギツネちゃんは、「あ、憧れのペパプだ……本物だ……」と、顔を火照らせています。

 ゴリラさんは続けて指示を出しました。


「残りは全力で道を切り開くぞ!」

「ほな行くで―!」

「ウチらの力、見せんとな!」

「負ける気はしないな」

「相手に不足なしです」


 そして、ゴリラさん、ヒョウちゃん、クロヒョウちゃん、イリエワニちゃん、メガネカイマンちゃんは、全員の力を合わせて、一つの大きな輝きを放ちました。

 これはハーモニーと呼ばれる、フレンズたちが力を合わせた時に発揮できる、最強の力です。


「「うおおおおおお!」」


 そうして、全員で、セルリアンの群れに突っ込んでいきました――


「まあ、あんまり強くない私達は」

「こそこそ隠れながら進みましょう」


 ――探偵コンビ以外



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ホテル内 サーバルちゃん達視点

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 ゴリラさん達とは別に、リョコウバトさんの救出に向かった、サーバルちゃん達は、並み居るセルリアンたちを押し込んで、ついに、リョコウバトさんの居場所にたどり着きました。

 ホテルの一室の中に、リョコウバトさんと、大量のフレンズ型セルリアンがいました。

 もうセルリアン達は、リョコウバトさんを触れて、取り込む瞬間でした。

 それを見たサーバルちゃんは、叫びました。


「私の全力の、全力で!」


 その声を聞いたセルリアン達は、声を聞いた方向を向きました。

 しかし、そのさきにサーバルちゃんはいません。

 斜めに飛び上がったサーバルちゃんは、体をくるりと回して、部屋の天井に両手足をつけて、地面へ向かって全力で飛びました。

 リョコウバトさんに近づいてたセルリアンはすべて、パッカーンと弾け飛びました。

 サーバルちゃんは、リョコウバトさんの襟首を加えて、出口の方向へ爪を一閃させ、その場にいたセルリアンをすべて蹴散らした後、部屋から脱出しました。


「リョコウバト、大丈夫?」

「……はい、おかげさまで。ありがとうございます、サーバルさん」

「「…………」」


 そのあまりの神技に、カラカルちゃん以外の全員が唖然としました。


「ま、サーバルなら当然よね」

「ふみゃ~本気出しすぎて動けないよ~運んでカラカルぅー」

「はいはい」


 全力を使い切ったサーバルちゃんは、当分は動くことが出来ません。

 カラカルちゃんにおぶってもらいました。


「ちょっとサーバル! 私必要なかったんじゃない?」

「まあチーター、ホテルから出るまでが競争だぞ」

「意味分かんないわよ」


 チーターちゃんと、プロングホーンちゃんが言い合ってます。

 そんな中、ロードランナーちゃんが叫びました。


「プロングホーン様! セルリアンの奴ら、なんか復活しています!」


 倒したはずのセルリアン達は、再生をはじめました。

 それを見たカラカルちゃんは、指示を出しました。


「とりあえず、出口まで登るわよ。」


 それを聞いた、プロングホーンちゃんは言いました。


「それじゃあ、誰が先に出口に着くか競争しようじゃないか」

「アライさんは負けないのだ!」

「アライさん、ノリノリだね~」


 プロングホーンちゃんの言葉に、アライさんとフェネックちゃんが、案外ノリノリでした。


「は、こんなときにまで競争なんて、何言ってるのよ?」

「おいおい、セルリアンなんかにビビってんのか?」

「あとでしばくわよ! 覚えてなさい!」


 ロードランナーちゃんは、チーターちゃんを挑発しました。


「まあ、チーター。いつも言ってることだが、私は競争が好きなんじゃない。

 みんなで走るのが好きなだけさ」

「……ふん。まあ私は勝手にするだけよ」


 そうして、チーターちゃん、プロングホーンちゃん、G・ロードランナーちゃん、アライさん、フェネックちゃんのハーモニーが完成して、出口へ進撃して行きました。

 カラカルちゃんは更に指示を出します。


「彼女たちに前を任せるとして、残りは、念の為に力を温存する。

 いいね?」


「「はい」」


 ロバちゃん、カルガモちゃん、アードウルフちゃん、アリツカゲラちゃんは返事をしました。


「……リョコウバト?どうしたの?」


 サーバルちゃんは、リョコウバトさんの様子が少し暗いことに気づきました。

 リョコウバトさんは、少し言いづらそうにしていましたが、口を開きました。


「私、あのセルリアン達に囲まれた時、仲間のことを思い出してしまったのです。

 姿かたちだけの、偽物のはずなのに……おかしいですよね」


 それを聞いたサーバルちゃんは、優しい声でいいました。


「リョコウバトは、とっても仲間思いで、優しいフレンズなんだね」


 それを聞いたリョコウバトさんから、暗い表情が消えて、優しい笑顔が浮かびました。


「仲間思いなんて、とても嬉しい褒め言葉ですわ」


 そうして、みんなで出口へと向かいました。



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ホテル内 入り口前

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 救出に向かったフレンズ達は、出入り口のあるチェックインフロアで合流しました。

 しかし、誰一人として、外には出ませんでした。

 なぜなら、全員が今戦っているセルリアンの異常さに気づいたからです。


「なんで? こんなに攻撃しとんのに、ちっとも効いとらへん」


 入り口に向かうまでの間に、向かってくるセルリアンすべてを蹴散らし続けました。

 しかし、勢いは衰えるどころか、だんだんと激しさを増しているのです。

 アリツカゲラちゃんは、階段から、こちらのフロアまで上がってきた後、いいました。


「ひとつ下の階で、なんとか足止めはしているのですが、正直時間の問題です……」


 建物に詳しいアリツカゲラちゃんは、オオミミギツネちゃんと情報を共有して、足止め用に、防火シャッターをおろしたり、ロバちゃん、カルガモちゃん、アードウルフちゃんが協力して、囮となって、なんとか時間を稼いでいます。

 ゴリラさんは言いました。


「万が一、あのセルリアンを、パークに出したら大変なことになる」


 実は、今戦っている、フレンズ型セルリアンは、通常のセルリアンと異なる個体へと変質していました。

 記録として、火山に貼られた、セルリウムをサンドスターに変換するフィルターが壊れた影響で、最強のセルリアンが誕生しました。そのセルリアンは、火山から放出されたセルリウムを吸収することで、巨大化し続けて、なおかつ自己修復が出来たのです。

 そして、このフレンズ型セルリアンは、ヒトの思いという強力なエネルギー源を手に入れたことにより、海中にいなくても、海底火山のセルリウムを吸収する力を手に入れたのです。

 つまり、ゴリラさんが危惧する通り、もしパークの外に出してしまえば、その無尽蔵のセルリウム供給によって無敵になったセルリアンが大暴れして、フレンズが全滅する事態になりえるのです。


「みんな大丈夫?!」

「状況を教えてください」


 すると、ホテルの窓辺に、バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんが来てくれました。


「ああ、わかった」


 すぐさま、ゴリラさんは状況を二人に伝えました。

 それを聞いた二人は、すぐさまかばんさんのところに戻りました。


「頼むかばんさん、キュルル……逆転の策をひらめいてくれ……」

(うう……緊張の連続で、お腹の調子が……)


 ゴリラさんは我慢しながらも、全員をまとめて、セルリアンの足止めを行いました。



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キュルル視点

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「ビーストを元に戻すだと……」

「本当にそんなことができるのか」


 カンザシちゃんとカタカケちゃんは、かばんさんに問いかけました。


「奴らの研究資料を調べてわかったんだ。

 セルリウムには、暴走したフレンズの因子を抑制する効果があるんだ!」


 それを聞いた二人は激昂しました。


「あのセルリウムだと!」

「セルリアンはフレンズからサンドスターを奪う怪物のはずだ」

「そうして、アムールトラをセルリアンに喰わすつもりか!」

「ヒトはそうやって他者を欺く」

「違う!」


 かばんさんは二人の言葉を否定した後言いました。


「セルリアンのように、サンドスターを奪わずに、抑制効果だけ得られればいいんだ!

 頼む、その方法を見つけるまでの時間が必要なんだ!

 必ず見つけ出す! だから僕を信じて……!」


 カンザシちゃんとカタカケちゃんは少しの間、沈黙しました。

 しかし、かばんさんへの返答は、その思いを完全に否定する言葉でした。


「時間が必要だと……」

「時間なんて、あるはず無いだろう……」


 カンザシちゃんとカタカケちゃんは泣きそうな声で言いました。


「ビーストの寿命は、普通のフレンズよりも遥かに短命だ」

「お前の研究は、アムールトラが消えるまでに間に合ってくれるのか?」


 ビーストの寿命は、通常のフレンズの十分の一と言われています。

 しかし、それは自然発生したビーストの場合です。

 アムールトラは、人工的にビーストにされたため、もはやいつその寿命が訪れても不思議ではありませんでした。

 あのかばんさんですら、表情に、迷いと焦りが出ていました。

 カンザシちゃんとカタカケちゃんから、サンドスターの輝きを放たれました。

 そして――


「私達は、友の為ならば」

「たとえ、ビーストに成り果てても」

「「アムールトラのそばにいる」」


 自らがビーストになる――

 アムールトラと共に――

 それが彼女たちの選択でした。

 カンザシちゃんとカタカケちゃんを包む光が濃ゆくなっていきます。

 しかし、ビーストのアムールトラちゃんは、そんな彼女たちの思いにすら、目を向けること無く、獣の咆哮を繰り返すのみでした。

 しかし、ある言葉が、カンザシちゃんとカタカケちゃんの行いをやめさせたのです。


「ビーストを元に戻す方法がわかったよ」


 その言葉を発したのは、キュルルちゃんでした。

 かばんさん、カンザシちゃん、カタカケちゃん共に、キュルルの方を見ました。

 かばんさんがキュルルに尋ねました。


「教えて! どうすればビーストを元に戻せるの?!」


 キュルルちゃんは答えました。


「今、暴れているセルリアン……あれは元々、僕の絵なんでしょ」

「……まさか」


 キュルルちゃんのその一言で、かばんさんは答えにたどり着きました。

 しかし、それを実行するのはあまりにも危険が伴いました。

 かばんさんは、それは出来ない、というつもりでした。しかし、表情から、キュルルちゃんの覚悟が見て取れました。


「……わかった。お膳立ては任せて」

「ありがとう! かばんさん!」


 これまで、押し黙っていた、カンザシちゃんと、カタカケちゃんは言いました。


「……お前は一体何をしようとしている」

「……まさかアムールトラをホテルのセルリアン共と戦わせる気か?」

「厄介払いと言うわけ――」

「僕は! アムールトラの笑顔を知っている!」


 キュルルちゃんは、叫びました。


「アムールトラの手品が! 心遣いが! 大切な友達に出会わせてくれた!

 だから、僕の友達全員をアムールトラに会わせてあげたいんだ!」

「「……」」


 カンザシちゃんと、カタカケちゃんはじっと、キュルルちゃんを見つめました。

 すると、水辺の方で、ザッパーンと波の音がしました。

 バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんが戻ってきたのです。


「ホテルの全員、救出が完了したよ!」

「けど、今戦っているセルリアンが、倒しても元に戻っちゃうから、パークに出ないように入り口を死守してるようです。そして……」


 カリフォルニアアシカちゃんの口から、重大な言葉が告げられました。


「ホテルがもうすぐ倒壊しそうです」


 それを聞いたかばんさんは、すぐさま腕時計のラッキーさんに尋ねました。


「ホテルの倒壊まで後どれくらいか分かる?」

「おおよそ、十分ぐらいだよ」


 かばんさんは、すぐさま指示を出しました。


「バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんはゴリラさんたちに伝えて。

 セルリアンを引き連れて、屋上まで来てくれって」

「はい!」

「わかりました!」


 バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんはすぐに移動しました。


「博士! 助手! 聞こえてる?」

「何なのですか?」

「こっちはもう限界が近いのですよ」


 アムールトラちゃんの相手をしていた、博士、助手は、かなり疲労しているようです。


「ホテルの屋上に、脱出路を用意して!」

「「わかったのです」」


 博士と助手は、ビーストから離れて、ホテルの屋上に向かいました。

 かばんさんは、カンザシちゃんとカタカケちゃんに尋ねました。


「二人は、協力してくるかな?」


 二人は、ほんの少しだけ考えて、言いました。


「……その言葉に、あえて踊らされるとしよう」

「……失敗したら、今度こそは、その命無いと思え」


 獲物を失ったビーストは、こちらの方を向きました。

 かばんさんは、カンザシちゃんとカタカケちゃんに指示を送りました。


「二人は、キュルルとアムールトラを屋上まで運んで」


 カンザシちゃんは暴れるアムールトラちゃんを、カタカケちゃんはキュルルちゃんを抱いて、飛びました。


「キュルル、後は任せたよ」



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ホテル 屋上

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 ホテルいたフレンズ全員は、屋上にたどり着きました。

 その後ろから、セルリアンが上がってきています。

 屋上では、博士と助手がいました。


「ついたのですね」

「さあ準備は整ってるのです。すぐにこの滑り台で降りてください」


 屋上から、地上の岸まで、非常時用の滑り台が取り付けてありました。

 カルガモちゃんは、小さな旗を振って、言いました。


「さあ順番ですよ。みんな並んでくださーい!」


 言う通り、みんな一列に並んで、滑っていきました。

 みんな面白そうに、わーい! だとか 楽しい! と言っています。

 サーバルちゃんの番が来た時、空から声が聞こえてきました。


「おーい! サーバル、カラカル!」

「キュルルちゃん?!」

「キュルル?!」


 二人は驚きました。


「こっちは危険よ!

 セルリアンがいっぱいなんだから!」


 それに対して、キュルルちゃんは言いました。


「後は、僕に任せて」


 サーバルちゃんとカラカルちゃんは、その表情を見て、キュルルちゃんにすべてを任せることにしました。


「「信じてる」」「から」「わ」


 そして、カンザシちゃんとカタカケちゃんは、キュルルちゃんとアムールトラちゃんを屋上におろしました。

 今、屋上には、キュルルちゃんとアムールトラちゃん、そして、大量のフレンズ型セルリアンがいました。

 キュルルちゃんは、フレンズ型セルリアンに、語りかけました。


「僕はみんながいてくれたから、本当のおうちを見つけることができたんだ。

 僕が苦しかったときも、みんな僕を受け入れて、側にいてくれた。

 僕は、みんなが大好きだ!

 だから――」


 キュルルちゃんは全身全霊の思いを込めて叫びました。


「アムールトラの笑顔が、見たいんだ!!」


 そして、奇跡が起こりました――

 

 ――どす黒から、透き通った緑へ

 ――真っ黒い一つ目から、フレンズたちの表情へ

 ――獲物を狙う本能から、他者を見据える眼差しへ


 フレンズ型のセルリアンは全て、キュルルちゃんが思い描いたフレンズそのままの姿に変わったのです。

 いつの間にか登っていた朝日が、アムールトラちゃんとキュルルちゃんと、フレンズに変わったセルリアンたちを照らしていました。


「がああああああああああああああああああああああああああああ」


 襲いかかってくるアムールトラちゃんを、サーバルちゃん型セルリアンと、カラカルちゃん型セルリアンが、右へ左へと移動して翻弄します。

 そうして、アムールトラちゃんの意識が向いているスキに、他のフレンズ型セルリアンが、アムールトラちゃんの体に触れました。

 それは、セルリアンのように取り込むのでは無く、アムールトラと一つになっているのです。


 ――熱い!


 アムールトラの脳裏に熱い言葉が浮かんできます。


【アムールトラと友達になりたい】


 ――体が熱い!


 これまで、聞こえてきたはずの言葉が浮かんできます。


【アムールトラ! 目を覚ませ!】

【私達の声を聞いて!】


 ――胸が熱い!


 抱いていたはずの夢が浮かんできます。


【「私の手品で、入場客を笑顔にする暮らしも悪くない。

 けれど、それ以上にやりたいことがあるのさ。

 一つ目は、世界は広い! っていう話が本当かどうか確かめること。

 二つ目は、私の手品をもっとたくさんのフレンズたちに見せて、楽しませることさ」】


 ――心が熱い!


 私を求める願いが浮かんできます。


【「アムールトラの笑顔が、見たいんだ!!」】


 そうして、次々とアムールトラちゃんの中に、セルリアンのみんな溶け込んでいきました。

 サーバルちゃん、カラカルちゃん型セルリアンも、その中に入りました。


「……」


 あれだけ暴れていたアムールトラちゃんが、おとなしくなっていました。

 そして、最後に残った、カンザシちゃんとカタカケちゃんのセルリアンが、それぞれ手を差し伸べたのです。

 それを見た、アムールトラちゃんは――


「カンザシ……カタカケ……」


 そう言って、差し伸べられた手を取って、全てのセルリアンと一つになりました。

 もう暴れて動く様子はありませんでした。


「あっ、あの絵!」


 セルリアンがいなくなった後、キュルルちゃんの絵が宙から出てきたのです。

 キュルルちゃんはその絵に駆け寄りました。

 そして、絵を取ったその瞬間――


「あ――」


 ついに、ホテルが崩壊したのです。

 地面が崩れて、キュルルちゃんは海に落ちようとした時、バッと何者かに抱きかかえられました。そして、キュルルちゃんを抱えたまま、岸に向かって飛び上がったのです。

 その顔を見た瞬間、キュルルちゃんは喜びました。


「あ……アムールトラ!」

「おや、あの時のお嬢さんじゃないか。

 素敵な友達は出来たかい?」


 その言葉を聞いて、キュルルちゃんは目に涙を浮かべて言いました。


「うん! いーっぱい出来たよ! 最高の友達が!」


 そうして、みんなが待っている地上に、アムールトラとキュルルちゃんは降りました。


「「アムールトラ!」」


 アムールトラちゃんの元へと、カンザシちゃんとカタカケちゃんが駆け寄って、抱き締めました。


「すべて思い出した……本当に心配をかけたな」

「ばかばか!」

「心配ばかりさせて!」


 そうして、二人はアムールトラちゃんをぽかぽか叩いていました。

 もうこの三人のことは、心配なさそうです。

 そして、絵を持ったキュルルちゃんは、リョコウバトさんを見つけて、いいました。


「はい、リョコウバトさんがもう寂しくないように、孤独じゃないように、みんなの絵を書いたんだ!」


 その絵を渡されたリョコウバトさんは、絵をじっと見ました。

 どのフレンズもいきいきとしていて、温かい気持ちにさせてくれました。

 どれほどの思いを込めたのか、どれだけ私のことを考えてくれたのか、それを考えるだけで、リョコウバトさんの胸が熱くなります


 ――ああ、誰かを思う気持ちが、これ程温かいだなんて……


 喜びの涙を浮かべたリョコウバトさんは、キュルルちゃんに、心からの感謝を述べました。


「こんな素敵な絵を、これまで見たことがありません。

 ありがとうございます、本当に、ありがとうございます」


 その言葉を聞いたキュルルちゃんの心も、とても救われた気持ちでした。



●第12話 完

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