第11話

●第11話



 少女は、一枚の画用紙に、絵を書いていました。

 どこにでもあるような、ただただ平凡な、家を描いていました。


「よし、出来た」


 その少女は、普通のおうちに憧れていました。

 なぜなら、この少女が住んでいるところは、孤児院だったからです。

 物心ついたときから、孤児院にいました。

 その暮らしは、とても大変で、小さい子どもの面倒を見たり、家事、炊事、洗濯を手伝ったり、かろうじて残った時間で宿題したりしなければいけませんでした。

 特に、子どもの面倒を見るのが大変で、騒がしくする子や、いたずらや、やんちゃばかりする子がいて、わーわーギャーギャーと言うことを聞かせないといけませんでした。

 だから、その少女は自然と、男の子のような振る舞いをするようになりました。

 「あたし」を使わずに、「ぼく」を使うようになり、少しだけ長かった髪の毛も、短く切るようにしました。

 しかし、これだけ頑張っても、時間に余裕が生まれることは、滅多にありませんでした。

 大好きだったお絵かきも、少ししか出来ません。

 学校の友達のところへ遊びに行くことも出来ません。

 ただひたすらに孤児院の手伝いをする毎日です。

 だから、ただただ平凡なおうちにあこがれていたのです。


「僕だけのおうち……」


 でも、その少女は、平凡なおうちとは何か、知りませんでした。


 ――お父さんとお母さんがいるのかな?

 ――テストで百点とったら褒めてくれるのかな?

 ――いっぱいお絵かきしても平気かな?


 あれやこれや想像するけれど、その問に答えは出ません。

 しかし、自分だけのおうちは、きっと素晴らしいに違いありません!


「ああ、ほしいな。僕だけのおうち」


 孤児院の保護者にもお願いして、流れ星にもお願いして、神様にもお願いしました。

 しかし、その少女の願いは、叶ってくれません。

 だから、自分で見つけに行くことにしました。

 決行の日、これまで、貯め続けた泣けなしの全財産を手に、置き手紙を書き残して、朝日が登る前に、孤児院から抜け出したのでした。


「さあ! おうちを探しに行こう」


 あてなんて特には考えていませんでした。

 直感的に感じたら、それを信じるのみです。

 そして、あるチラシがその少女の目の前まで飛んできました。

 それを手にとってみると……


「……ジャパリパーク?」


 チラシに書いてあるジャパリパークは、少女の胸に響きました。


 ――ここに行ってみよう!


 そして、チラシを頼りに、ジャパリパーク行きの船がある港まで来ました。

 けれど、ジャパリパークへ行くためのお金なんてとても足りません。

 だから……


「こっそり乗っても、バレないでしょ」


 うまく荷物に紛れ込んで、タダ乗りしました。

 こうして少女は、おうちを目指して、新天地へ向かったのでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

そして、船は目的地へ

~~~~~~~~~~~~~~~~



「ここが、ジャパリパーク」


 おおきなアーチ状の入門口があり、そこに「JAPARI PARK」と書いてあります。

 少女はこっそり船から降りて、さり気なく入場客の列に入ります。

 そして、入門口を通ると、一人の女性と、一人の動物の耳を持っていて、虎柄の髪の毛に女子高生のような制服を身に着けた少女です。


「ようこそ! ジャパリパークへ! ご来園ありがとうございます!

 私はパークガイドを務めます、ミライと申します」


 ミライさんがパークについて、説明しました。

 ジャパリパークについて、フレンズについて、そして……


「そして、私の隣にいるこの子、アムールトラのフレンズさんです」


 アムールトラちゃんが、腕を振って挨拶しました。


「みなさん! はじめまして。アムールトラだ」


 トラ、と聞いた入場客の中に、「ええ!」と驚く人がいました。

 少女もその一人です。


「大丈夫、大丈夫! 人を食べたりしないさ!

 それじゃ、ご挨拶として、俺のマジックを見てってくれ!」


 チャラララララン、と口ずさみながら、アムールトラは、何も無いところから、ステッキと帽子を取り出して、「ワン、ツー、スリー!」の合図で、帽子の中から動物の鳩が出てきました!

 「おおー」と歓声の上がる中、つかさず、持ったステッキの両端に手のひらをあてて、力を込めて、押しつぶしました!

 アムールトラちゃんが手と手を合わせた状態から、手を広げると、バラの花が出てきました。

 バラの花を手にしたアムールトラちゃんは、少女に近づきました。

 バラの花を手で覆い隠すと、バラの花が一枚のチケットになりました。


「ペパプライブ、フレンズとペア二人組の特別優待券だ

 お嬢さん、素敵な友達ができることを祈ってるぜ」

「あ、ありがとう!」


 アムールトラちゃんは、にこっ、と笑った後、帽子から、次々とお菓子を入場客に渡し始めました。


「みんな見てくれてありがとう! お礼に、飴ちゃんもらっとけ!」


 そうして、飴をみんなに渡し終えたアムールトラちゃんは、


「それじゃあ、みんな! 縁があったらまた会おう!」


 そう言って、どこかに行きました。


(アムールトラ、明るくてすごく楽しそうな子だったな)


 あまりに突然去ったので、少女は、アムールトラと一緒に見に行きたいって言えずに誘いそこねてしまいました。

 ミライさんも、あらら、と言って、


「このように、フレンズたちはみんな自由に暮らしています。

 皆さんも彼女たちと心を通わせて、友達になれることを願っています。

 そして、パークガイド随伴の見学ツアーはニ時にここへ集合することを忘れないようお願いします。

 説明は以上となりますので、後は自由に園内をご覧になってください」


 その場にいた入場客達は、そのままパークの奥へと入っていきました。

 よく見ると、入場客達はみな、家族連れなどが多いみたいで、みんな談笑しながら中に入っていきました。

 少女のように、子供一人で来ている人たちはいませんでした。

 何気なしに佇んでいると、先程のパークガイドのミライさんが少女に話しかけてきました。


「君は一人? 大人の方はどこにいるのかな?」

「……一人じゃないよ。先に遊んでいてって言われた」


 もちろん少女の嘘です。予め考えていました。


「そうなんだ。その大人の人はいつ来るのか分かるかな?」

「……少し時間が掛かりそうだって言ってた」


 ミライさんがうんうんと頷いて、言いました。


「少し時間があるから、おねえさんと待ってようか」

「うん!」


 そうして、ミライさんと少女は、座ってお話していると、二匹のフレンズが近づいてきました。


「ミライさーん!」

「ふたりともちょうど良かったわ」


 このフレンズは、サーバルちゃんとカラカルちゃんだと、ミライさんから紹介されました。

 ミライさんは少女に、尋ねます。


「まだ時間があるなら、少しパークセントラルを見て回りますか?」

「うん! お願い! おねえさん」


 少女の返事を聞いたサーバルちゃんはみんなに提案しました。


「わーい! じゃあさ、お店がいっぱいあるところ行こ!」

「そうね。ジャパリまんを食べたい気分だわ」


 そうして、少女、ミライさん、サーバルちゃん、カラカルちゃんの四人はいろんなお店があるところに入って行きました。

 コンビニから、お土産屋さん、食堂など、様々なお店がありました。

 そして、入りはしませんでしたが、遊園地があり、とてもおおきな観覧車が見えました。

 四人は、ジャパリまんを食べ終わり、道を歩いているとある店の商品に、目が止まりました。


「あの帽子、おねえさんのと同じだ」

「ええそうね。あれは、パーク特製の帽子よ」

「あのお店に入ろ!」

「ええ、いいわよ」


 そうして、お店の中に入りました。


 ――あの帽子の値段は……


 帽子の値段を確認した後、それ以外に買うものも確認します。

 ショルダーバック、スケッチブック、クレヨン、そして帽子すべての値段を計算しました。


 ――ちょうど僕の持ってるお金と同じくらいか


 少女は、孤児院から、自分が着てる服とお金以外に、物を持ち出すことはしませんでした。

 なぜなら、あの孤児院に、少女だけの物なんてなかったからです。

 すべてが使い古しのもので、年上の子が使ってたものを、年下の子が使います。

 たとえ新しく買ったものでも、その子が使えなくなれば、必ず次の子が使うようになります。

 少女は、孤児院の負担を減らすべく、本当に必要な物だけ持ち出すことにしたのです。

 お金を払った後、少女は帽子とショルダーバックを身に着けて、ミライさんに言いました。


「これでお揃いだね!」

「ええ! とても似合っているわ!」

「わーミライさんみたいだね!」

「その帽子と、これなに買ったの?」


 みんな褒める中、カラカルちゃんは尋ねました。


「スケッチブック、僕はこれでパーク中のいろんな絵を書こうかなって思ってるんだ」

「それは素敵だわ!」


 そうして、四人で楽しい時間を過ごしました。しかし、ミライさんが少女に言いました。


「もうそろそろ時間だわ……

 ごめんなさい。私、仕事に戻らなくちゃいけないの」

「……そうなんだ」


 少女は寂しそうです。


「結局まだ親御さんが来られてませんね。

 勝手にパークガイドに連れて行っても問題になりますし……

 サーバルとカラカルもガイドに連れて行かなきゃいけないし……」


 そうして、ミライさんは、おーいと少し離れたところに呼びかけました。

 すると、体は小さくて、動物の耳と、うさぎの足がついているマスコットのようなのが近づいて来ました。


「この子はラッキービースト。私達はラッキーさんって呼んでるわ。

 パークを案内するためのロボットよ」

「よろしく」


 ラッキーさんがあいさつしました。

 ミライさんは、ラッキーさんに少女の事情を告げました。


「それじゃあ、私は行くわね。また会いましょう!」

「それじゃあまたね!」

「絵、書けたら見せてね!」

「うん。またね」



 そうして、ミライさん、サーバルちゃん、カラカルちゃんは少女の元から去っていきました。

 少女とラッキーさんが残りました。

 少女は、ラッキーさんにつぶやきました。


「おねえさん達、とっても仲良さそうだった」

「君も必ず、ミライたちのように、フレンズと仲良くなれるよ。

 ほら、あの飼育員の方をみてごらん」


 飼育員?

 ラッキーさんに言われて、前方を見ると、飼育員の格好をした、ミライさんとは別のおねえさんがいました。

 そして、あるフレンズが、その飼育員さんの影に隠れるように背中にいました。

 飼育員さんは、そのフレンズに、


「ほーら、勇気を出して言ってごらん」


 と言いました。

 すると、そのフレンズは少女の方に近づいて来ました。


「私は、イエイヌ。あの、もしよかったら、私と、友達になりませんか」


 イエイヌちゃんは緊張してるのか、話し方は少したじたじでした。

 けれど、その一言は少女にとって、とても嬉しい言葉でした。


「うん! 友達になろう!」

「は、はい! 嬉しいです!」


 少女は、友達という言葉を聞いて、アムールトラからもらったチケットのことを思い出しました。


「じゃあさ、ペパプのライブっての、見に行かない?」

「ぜひ! 一緒に見ましょ!」


 その言葉に、ラッキーさんは、


「待って、親御さんとの待ち合わせはどうするんだい?」


 と注意したが、


「まだこないから大丈夫!

 ね?いいでしょ?」


 少女はそう言って、ラッキーさんを説得しました。


「……わかった。小型のバスを用意するからそれでライブ会場まで行こう」


 そうして、少女とイエイヌちゃんとラッキーさんはライブ会場へ向かうのでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 彼女たちは、ライブ会場へ向かうまでの間に、たくさんの出会いが待っていました。

 水族館で、イルカやアシカのショーを見ました。

 イエイヌちゃんと竹やぶにある遊具で遊びました。

 広いおおきな湖で泳ぎました。

 偶然とても足の早いフレンズのかけっこを目撃しました。

 少女にとって、どれもこれもが新鮮で、楽しくてしょうがありませんでした。

 そして今、ペパプのライブが終わりました。

 とても熱狂できる素晴らしいライブでした。


「それじゃあ、セントラルに戻ろうか」


 ラッキーさんはそう言いました。


「やだ。まだパークでイエイヌちゃんと遊びたい」


 しかし、少女は反抗しました。


「けれど、戻らないと家族みんな心配するよ」


 ラッキーさんは少女を諭そうとしました。

 けれど、少女は戻ろうとは思いません。

 そもそもここへ、おうちを探しに着たのですから!


 ――僕のおうちかぁ……

 ――ジャパリパークはとっても楽しいし、やさしいおねえさんもいるし、イエイヌちゃんとも遊べる……


 イエイヌちゃんは、考え事をしてる少女に言いました。


「私もあなたとずっと遊びたいです!」


 その言葉を聞いて、少女は決心しました。

 少女はラッキーさんにあることを尋ねました。


「ジャパリパークって、いくらするの?」

「……お金の話かい?」


 機械のラッキーさんも、少し困惑気味です。

 少女は高らかに宣言しました。


「このジャパリパーク、ぜーんぶ僕の物にして、僕のおうちにしたい!」


 少女の言葉を聞いた後、ラッキーさんは少女のことを察しました。


「もしかして、君の家族は……」

「ごめんなさい。嘘をついてたんだ。家族は来ないよ。孤児院から一人で来たんだ。」


 ボスは少し黙った後、言いました。


「君の提案はとても素敵だと思うよ。

 けれど、お金ではその願いは叶えられないよ」

「え……」

「パークのフレンズ達と、触れ合って、心を結ぶんだ。

 そうすれば、必ずフレンズたちは、君を迎え入れてくれるよ」


 ――心を結ぶ……


 少女は、イエイヌちゃんの方を見ました。

 イエイヌちゃんも、少女を見て言いました。


「だったら、私のおうちに来てください!」

「イエイヌのおうち……」

「そうです。とってもいいところなんですよ。明るくて、優しくて、温かいって感じです」

「明るくて、優しくて、温かい……」


 ――おうちって……

 ――明るくて、優しくて、温かいところなんだ……


 少女のぼやけていたおうちのイメージに、輪郭のようなものがはっきりと見えてきました。


「行きたい! イエイヌのおうちに!」


 その少女の言葉を聞いたラッキーさんは、


「わかった。」


 と言いました。


「イエイヌのおうちは、今から行くと夜遅くになるので、キャンプ地で一夜を過ごすよ。

 それで問題ないかい?」

「うん!」

「はい! 楽しみです!」


 そして、彼女たちは、バスに乗り込んで、移動しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



「さあ、ついたよ」

「わあ……きれい」

「とてもすごいです」


 ついた場所にあったのは、光輝く、きれいな砂の山でした。


「これは蟻塚だよ。アリが作ったおおきな巣なんだ。

 その中に住んでいる、ヒカリコメツキムシの幼虫が光を放っているんだ」


 ふたりとも、言葉に言い表せない光景に、見とれています。

 その間に、ラッキーさんは食事とキャンプの用意を済ませました。


「さあ、準備ができたよ」


 そして、三人で、蟻塚を見ながら、食事を済ませてテントの中に入りました。

 その中で、少女はイエイヌちゃんと絵を書きました。


「あれ? なんでペパプを五人で書いてるんですか?」

「なんとなく。なんか五人って方がヒーローみたいじゃん」

「へえ」


 そうして、これまでの思い出の場所すべてをスケッチブックに書きました。

 そして、そのうちの一枚をスケッチブックから破いて、イエイヌちゃんに渡しました。


「はいこれ。飼育員にしがみついてるイエイヌを書いてみたんだ」

「わあー、ありがとう!」


 イエイヌちゃんはとても喜びました。


「けど、この時の私は、少し恥ずかしいですね……」

「ぷっ、ははは」

「ははは」


 そうして、二人は笑いあった後、二人で横になりました。

 一枚のブランケットを二人で使っています。

 ランプの明かりを消した後でも、テントに蟻塚の光が照らされてるため、内側も少し明るくなっています。

 少女は安らぎを感じています。


「ねえイエイヌ」

「はい、何でしょう」

「おうちってこんな感じのところかもしれないね。

 明るくて、優しくて、何より……」

「わっ」

「こんなにあったかい!」


 少女はイエイヌちゃんに、ギュッと抱きしめました。

 イエイヌちゃんもとてもうれしそうです。


「おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」


 二人は眠りに着きました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 ふと、少女は目を覚ましました。

 横にいるイエイヌちゃんも、ぐっすり眠ったままです。

 そして、まだ外も暗いままでした。

 しかし、二度寝をしようにも、なぜだかそんな気分になれませんでした。

 仕方ないので、トイレついでに、外に出ることにしました。

 その際、少女は気が付きませんでしたが、少女が外に出る際に、ラッキーさんも後ろからついてきました。

 そして……


 ――あれは?


 よく見ると、アムールトラちゃんの背中がチラリと見えたのです。

 そして、その体が少しだけ、輝いているようでした。


「おーい! アムールトラ!」


 そう少女が呼びかけると、アムールトラは振り向きました。

 しかし、その表情は、ただただ無機質で、少女と会ったときとは、まるで別人でした。


「アムールトラ?」


 少女は近付こうとすると、アムールトラの横に、大人の男の人影が出てきました。

 そして、男が手に持っていた何かで……


パァン


 ――え……?


 そこで、少女の意識は途絶えました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

???

~~~~~~~~~~~~~~~~



「まさか実験中に、入場客に見られるとは誤算でした」

「まあいい」


 一人はパークガイドと同じ格好をして、もうひとりは、白衣を身に着けています。


「君の手際は悪くなかった。

 対フレンズ用のショックガンで、即座に客と連れ添いのラッキービーストを眠らせたんだ。ラッキービーストに警報を出されていたらすべてがご破産だった。」


 実は彼らこそ、フレンズを操る研究をしている首謀者たちです。

 彼らがいる研究所だが、廃棄処分されたはずだった建物を転用しています。

 そして、対フレンズ避けの迷彩と臭い消しを行い、パークのシステムを書き換えることで、ラッキービーストには、ここの研究所を無いものと認識させています。

 そうすることで、パーク運営者達にバレることなく着々と研究してきたのです。


「これまで実証実験を行い、重要なデータは揃えられた。

 これ以上の実験は無理だ。

 予定にないフレンズ二匹に加えて、入場客まで捉えたとあっては、見つかるのは時間の問題だろう。ずらかるぞ」

「はっ」

「捉えた三匹と一人は冬眠カプセルに入れておけ。

 機密資料B以下はすべて破棄。A以上だけ持ち帰る。

 ラッキービーストの記録改ざんは忘れるなよ」


 そうして、着々と準備する中、パークガイドの格好の男が叫びました。


「大変です!」

「どうした? もう見つかったのか?」

「違います! これまで見たことがない化物に襲われています!」

「何だと」


 後に、セルリアンと名付けられた怪物に、研究所は破壊されました。

 男たちの行方はわかっていません。

 しかし、この研究所が破壊された後も、少女達も、アムールトラも見つけられることはありませんでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

二千年経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 キュルルちゃんは目を覚ましました。

 目の前には、サーバルちゃんとカラカルちゃんがいます。


「キュルルちゃん! キュルルちゃん! 良かった! 起きてくれて!」

「私達のこと、覚えてる?!」


 彼女たちが、必死にキュルルちゃんに語りかけました。


「サーバル、カラカル。うん覚えてるよ」

「良かった……」


 二人は安堵しました。


「あの二人が助けてくれたんだよ」


 そうして、指さした先に、バンドウイルカちゃんとカリフォルニアアシカちゃんがいます。


「やっほー久しぶり!」

「次からは気をつけてくださいね」


 いつもと変わらない二人に懐かしさを感じました。

 すると、突然、キュルルちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。


「おーい! キュルル!」


 そこにいたのは、かばんさんと、これまで出会ったフレンズたちがいました。


 ――センちゃん、アルマーちゃん、ロバちゃん、カルガモちゃん、ジャイアントパンダちゃん、レッサーパンダちゃん、アードウルフちゃん、アリツカゲラちゃん、ゴリラさん、イリエワニちゃん、メガネカイマンちゃん、ヒョウちゃん、クロヒョウちゃん、アフリカオオコノハズクちゃん、ワシミミズクちゃん、チーターちゃん、プロングホーンちゃん、G・ロードランナーちゃん、マーゲイちゃん、プリンセスちゃん、コウテイちゃん、ジェーンちゃん、イワビーちゃん、フルルーちゃん


 彼女たちを見た瞬間、キュルルちゃんは、ある言葉を思い出しました。


【「パークのフレンズ達と、触れ合って、心を結ぶんだ。

 そうすれば、必ずフレンズたちは、君を迎え入れてくれるよ」】


 ――見つけた。僕の……


 キュルルちゃんはゆっくりと立ち上がると、ロードランナーちゃんのところに近づきました。


「ごめんなさい!

 あの時、どうしても、苦しくて、自分のことしか考えられなくて、ロードランナーにひどいことをしてしまった。

 本当にごめんなさい」

「……まあ許してやるよ。ふん! 感謝しな!」


 その言葉を聞いたキュルルちゃんは、ポロポロと涙を流しました。


「あ゛り゛か゛と゛う゛! 許 し て く れ て、本 当 に あ り が と う!!」


 キュルルちゃんはロードランナーの胸に顔を埋めました。


「わー! 許すから! 許すからはなせ!」


 ロードランナーちゃんはたじろぎましたが、なんだか嬉しそうです。


「よかったな、ロードランナー。キュルルと仲良くなれて」


 プロングホーンちゃんもなんだか嬉しそうです。

 そして、キュルルちゃんが少し落ち着いたのを見計らって、話しかけました。


「キュルル、よく聞いて。

 実は君の絵を取り込んだセルリアンが、フレンズ型のセルリアンとなって、各地で暴れていたんだ」

「え?!」


 キュルルちゃんは、自分の絵でそんなことが起きていることに驚きました。


「各地にあった君の絵は回収できた。だから、君が書いた他の絵がどこにあるのか知りたいんだ」


 かばんさんの回収出来た分の絵を見せてもらって、


「ほかだと、ホテルの部屋においてきた分だけだよ」

「じゃあ、そこにあんな――」

「きゃーーーーーーーーー」


 突然、ホテルからおおきな悲鳴が聞こえてきました。

 そして、ホテルが少しグラグラと振動しています。

 すぐにかばんさんはキュルルちゃんにいいました。


「ホテルにフレンズは何人いる?」

「ええと、オオミミギツネ、ハブ、ブタ、リョコウバトさんの四人」

「みんな! すぐに行くよ!」


 おおー! とフレンズたちが雄叫びを上げて、ホテルに乗り込もうとした瞬間、あるフレンズが突然立ちはだかったのです。


「……アムールトラ……!」


 アムールトラだったビーストは、フレンズ達を睨みつけました。

 そして――


「うがああああああああああああああああああ!!」


 その声を聞いたキュルルちゃんは、胸を貫かれるような苦しさを感じました。

 そして、強く唇を噛み締めました。


 ――アムールトラ……

 ――絶対に助ける!


●第11話 完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る