第10話

●第10話


 キュルルは木々の中、スケッチブックを探して歩いていると、だんだんあたりが薄暗くなりました。

 太陽が沈んで、夜になろうとしています。

 それでも、諦めずに、スケッチブックを諦めずに探しています。


「「お前はヒトだな」」

「!」


 突然後ろから何者かがキュルルに話しかけてきました。

 ビクッと後ろを振り向くと、とても黒い二人のフレンズが話しかけてきました。


「私はカンザシフウチョウ」

「私はカタカケフウチョウだ」


 ふたりとも、全身が黒ずくめで、すごくミステリアスな印象を受けます。

 カンザシフウチョウと名乗った方は、真っ黒いポンチョ、黒いタイツを身に着けていて、唯一黒くない、青と黄色のグラデーションの胸のリボンがキラキラ輝いています。

 カタカケフウチョウと名乗った方は、黒いマントを羽織り、その中に来ているセーターズボンも真っ黒いものを着用して、胸には青い飾りがついています。


「カンザシと、カタカケ……」

「お前が探しているのはこれか?」


 そうして、カンザシちゃんとカタカケちゃんはキュルルのスケッチブックを取り出したのです。


「それだ! ありがとう……大事なものだったんだ……」


 そうして、安堵するキュルルに、カンザシちゃんは問いかけました。


「なぜそれが大事なのだ」

「それは……おうちを探す手がかりだから……」


 その答えに対して、カタカケちゃんが更に問いかけます。


「おうちを探して何になる?」

「それは……僕はどうしてもおうちに帰りたいんだ!」

「「フフ……フフ……」」


 その言葉を聞いたカンザシちゃんとカタカケちゃんは蔑むように笑いました。


「何なのさ! 君たちは!」


 その態度にキュルルは怒りをぶつけました。


「ここはジャパリパーク。フレンズのみが暮らす世界」

「ヒトの居場所なんて無い」

「な……」


 カンザシちゃん、カタカケちゃんはキュルルに語りかけます。


「ヒトは私達のことを、友達(フレンズ)と名前をつけた。」

「けれどそれは、言葉の飾りに過ぎまい。」

「ヒトの住処を広げるために動物の住処を破壊して」

「ヒトの快楽のために殺されて」

「ヒトの食事のために飼いならされて」

「ヒトの研究のために苦しみを与えられる」

「それをヒトは、動物との共存だと考えてるみたいだが」

「ヒトが動物を支配しているだけだ」


 キュルルはギュっと拳を握りました。


「そんなことは……」


 無いと言いたかったが、キュルルはなぜかその言葉が出せません。


「私達の言葉を否定していいのだぞ。」

「その傲慢さが、ヒトの長所でもあり、短所でもあるのだから。」


 その言葉をつげる表情には、静かな殺気を放っています。


「最後言っておこう」

「私達は、ヒトであるお前と」

「「分かり合うことは無い」」


 そうして、闇の中にカンザシちゃんとカタカケちゃんが消えていきました。

 キュルルは足の力が消え、尻もちをつきました。

 ビーストの時とは、全く違った恐ろしさに、キュルルは冷や汗をかきました。


(あのフレンズたちは……ヒトを恨んでいる……?

 僕の居場所は……無い?)


 彼女たちの言葉を飲み込みきれずにいるキュルルに、サーバルちゃんとカラカルちゃんがやってきました。


「キュルルちゃん、みっけ!」


 明るいいつもどおりの声で、サーバルちゃんは言いました。

 イエイヌちゃんとの最後の会話の後、キュルルは自分の抱えてた心の闇を二人にぶつけてしまいました。

 それでも、いつもどおりの口調で話しかけてくれています。


「もう夜だから、キュルルちゃんを探しに来ちゃった。あ、スケッチブック見つかったんだね!」

「う、うん」


 キュルルはどうしてもサーバルちゃん、カラカルちゃんと目を合わしづらいと感じました。そして、あのカンザシちゃんとカタカケちゃんの言葉が思い出されます。


【「最後言っておこう」

「私達は、ヒトであるお前と」

「「分かり合うことは無い」」】


(結局、僕は一人なのかな……。これから先、ずっと……ずっと……)


 ――もう一生孤独のままだ。

 ――苦しくて辛いだけだ。

 ――終わってしまえこんな僕なんか。

 ――それだったら最初からおうちなんて無ければいい。

 ――嫌だ、嫌だ、嫌だ。ただただ何も考えたくない。


 キュルルの目の前が真っ黒になりそうでした。

 しかし、突然カラカルちゃんが、キュルルの目の前にきて、キュルルの肩を両手で力強く掴みました。


「え……!」

「キュルル。私があなたに言いたいことを言うわ。」


 静かではっきりとした口調でカラカルちゃんは言いました。


「この先、おうちが見つかっても、見つからなくても、ずっとあなたは私の友達だから」

「……っ」

「正直いって、あんたがおうちに帰ったら、この旅が終わって、私と離れてしまうかもしれないのが嫌だったの。それで、自分の気持を勝手にあなたにぶつけて、傷つけた……。

 だからね、もう一度だけ言わせて。あなたはずっと、私の友達だから!」

「……カラカル」

「もちろん私も。何があってもずっと友達だよ!

 だって、キュルルちゃんのいいところいっぱい知ってるんだよ。

 面倒見が良くて、賢くて、私達が楽しそうにすることを誰よりも楽しんでくれるのが、キュルルちゃんだよ!

 私、キュルルちゃんのことが大好きだよ!」

「……サーバル」


 キュルルの胸がどんどん熱くなりました。


「サーバルは元気すぎて、少し変なことするけど、みんなを励ましてくれるし、カラカルはおてんばで、心配性だけど、みんなを引っ張ってくれる」

「変!?」

「それは褒めてるのかしら!」

「……こんなにすごい二人が、僕みたいな自分勝手なやつと、友達でいてくれるの?」


 二人はお互い顔を合わせた後、ニコリと笑ってキュルルに言いました。


「「当たり前」」「だよ」「じゃない」


 キュルルの目に涙が溢れました。

 たとえ居場所がなくたって、こんなにも自分に思いを寄せてくれる友達がいるのですから。


「う、うわああああああん」


 キュルルは声を上げて泣きました。

 何もかもを涙に乗せて、すべてを流しました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました。

~~~~~~~~~~~~~~~~



 あれから少し時間が経ち、泣き止んだキュルルはあることをみんなに提案します。


「僕のおうち探しの前に、イエイヌのところに行きたい。」

「そうだね!」


 キュルルは、もうイエイヌちゃんを孤独にしてはおけません。意地でも連れて行く気です。

 しかし、突然腕時計のボスが話し始めました。


「まって。まだ周辺にビーストがいるよ。イエイヌのおうちを目指すと、また遭遇する危険性があるよ」


 どうやら、朝が来るのを待たないといけないみたいです。

 すると、キュルル、サーバルちゃん、カラカルちゃんの三人の前に、おおきなキャリーケースをからからと引いているフレンズが歩いてきました。

 ツアーバスや、キャビンアテンダントの添乗員のような格好をしています。


「こんにちは。あなた達もご旅行ですか?」

「あなたは……?」

「申し遅れました。私はリョコウバトと申します。」

「僕はキュルル」

「私はサーバル!」

「カラカルよ」


 お互いに自己紹介をしました。

 キュルルはリョコウバトさんに話しかけます。


「リョコウバトさんは旅行しているの?」

「ええそうです。パーク中のあらゆるところを旅してきましたのよ」


 キュルル達もいろいろ歩き回っていましたが、それよりも遥かにリョコウバトさんは色んな所を旅しているようです。


「これから私はこの先にあるジャパリホテルに向かうのですが、あなた達は?」

「僕たちは……」


 そこでボスがキュルルに話しかけます。


「キュルル、今夜はジャパリホテルで一泊しよう」

「……わかった」

「旅は道連れ、よろしくてよ」

「お願いします。リョコウバトさん」


 三人はリョコウバトさんと一緒にジャパリホテルへと向かいました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

かばんさん視点

~~~~~~~~~~~~~~~~



 かばんさん、博士、助手は、キュルルが目覚めた場所を訪れました。

 それによって、この施設は何なのか?キュルルは何者なのか?そして、ビーストについて、様々な情報を入手することができました。


「情報は出揃ったのです」

「早く研究所に戻って対策を立てましょう」

「うん。そうしよう」


(これらの手がかりを元にすれば、きっと……!)


 そして、【ジャパリバス】に乗り込むと、突然、二人のフレンズが声を上げながら近づいてきました。


「かばん! たいへんなのだ!」

「かばんさん、久しぶりー」


 彼女たちは、アライグマのアライさんと、フェネックです。

 かばんさんとは、深い顔なじみのフレンズです。


「どうしたの?」

「パークの危機なのだ!」

「今、フレンズ型のセルリアンがパークの各地で暴れているんだよ」

「何だって?!」


(フレンズ型のセルリアンが、パーク中で……?

 記録として存在はしてたみたいだけど、そんなに大量に……?)


「どうやら、キュルルってヒトが書いた絵から出てきたって、ゴリラさんが言ってたよ」

「絵から……」


 その話を聞いて、かばんさんはある情報に思い当たりました。

 以前、かばんさんが所持していた【ジャパリバス】に、セルリアンの元になる物質、セルリウムと同化して、セルリアン化したことがありました。

 それを元に、原因を調査したところ、そのセルリアンはあるものを取り込んでいることが分かりました。


「思い出を取り込むセルリアン……おそらく、そのタイプのセルリアンが原因だ。だとすると……」

「キュルルの絵の回収と、キュルル本人の確保が先決です。博士。」

「そして、彼女がフレンズ達をどれだけ書いたのかわからない以上、戦力の確保が必須です。助手。」

「ボス、絵の回収ができるルートを案内して。」

「わかった。以前キュルルと話した内容と、フレンズ型セルリアンの発生地域からルートを割り出すよ」


(待ってて、キュルル!)


 そうして、アライさん、フェネックちゃんも【ジャパリバス】に搭乗して、絵の回収を始めました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

ジャパリホテルに着きました

~~~~~~~~~~~~~~~~



「さあ、この建物になります。」

「え……」


 キュルルは困惑しました。

 なぜなら、キュルルが考えていたホテルとは全く違うホテルがそこにあったからです。

 なんと、ホテルが海の水面から伸びていたからです。

 実際に飛び出た部分は建物のニ階分ほどで、どれだけの部分が海に沈んでいるのか検討がつきません。


「これがホテル? すごーい!」

「これに入るの? なんか心配だわ?」


 キュルルもカラカルに同意です。

 すると、このジャパリホテルについて、ボスが説明してくれました。


「このジャパリホテルは、普通のホテルとは少し違っているよ。

 地盤沈下と海面の水位上昇に伴って、ホテルの三分のニほど海に沈んでいるんだよ」

「……危険性は?」

「計算だと、三百年以上先まで問題ないよ。」


 ボスから、安全のお墨付きをもらったので、チェックインすることにしました。

 岸から入り口まで、木の橋が立てかけてあり、窓だったところを入り口として入れるようにしてあります。

 そうして中に入ると、チェックイン用のカウンターがある小さな広間に出ました。どうやら休憩用のフロアを改造したようです。


「アテンションプリーズ!」


 リョコウバトさんは呼び鈴をチリンと鳴らしました。


「なにこれ!」


 サーバルちゃんはその呼び鈴を手にとって、チリンチリンチリンチリンと連続で鳴らしました。


「私にも貸して!」


 カラカルちゃんもチリンチリンと鳴らしたところで、従業員のフレンズさんが来て、呼び鈴を止めました。

 すると突然、一人のフレンズが急いで、駆け寄り、カラカルちゃんが呼び鈴を鳴らすのを手で塞いで止めました。


「お、おまたせしました。ようこそジャパリホテルへ。

 支配人のオオミミギツネです。」


 灰色の制服に、おおきな耳が特徴的です。

 リョコウバトさんが、オオミミギツネちゃんにチェックインの手続きをお願いしました。


「眺めのいい部屋をお願いしますわ」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 そうして、オオミミギツネちゃんは部屋の用意をするために、一人ホテルの階段を降りていきました。


「どんな部屋なのかな! わくわくするね」


 サーバルちゃんが期待してる中、突然ガラガラ! と、シャッターが開く音が聞こえてきました。


「らっしゃい!」

「ひゃあ!」


 出てきたのは、緑色のヘビ柄のパーカーを着ているフレンズが出てきました。

 そして、その奥には、様々なものがずらりと並んでいます。

 キュルル達が驚いたのを見て、きししと笑っています。


「まさに藪蛇ってな。

 ここはおみやげコーナーだぜ!」


 棚に並んだ商品は様々で、特に目を引いたのは、正面の棚に並んでいるフレンズたちのぬいぐるみです。

 なんと、そのモチーフ担っているのはサーバルちゃんとカラカルちゃんです。


「なにそれ! カラカルがいるよ!」

「これ私? あ、こっちはサーバルじゃない?」


 もの珍しそうに、サーバルちゃんとカラカルちゃんは眺めていました。


「私のは! 私のものはございませんの?」


 ぬいぐるみに、特に食いついたのは、なんとリョコウバトさんでした。

 店員さんは、棚と在庫を確認しました。


「あんたのは、見つからないなあ。」

「そうですか……」


 そのことを聞いて、リョコウバトさんはとても寂しそうな顔をしました。


「俺のぬいぐるみならいっぱいあるけど、お一つどうだい?」


 店員さんが持ってるのは、店員さんそっくりのぬいぐるみです。


「まあ可愛らしいわ! ではそれをお一つください。」

「毎度!」


 そうして、店員さんはぬいぐるみをリョコウバトさんに渡しました。


「あんた見る目あるな! 俺はハブってんだ。よろしくな」


 店員のハブちゃんとても喜んでいるようです。

 こちらも自己紹介をした後、後ろから、オオミミギツネちゃんの声が聞こえます。


「お部屋の準備が整いました。スイートルームへご案内します。」

「びっくりした。このぬいぐるみしゃべるの?」

「かわいいー!」


 サーバルちゃんとカラカルちゃんにからかわれたオオミミギツネさんは、恥ずかしそうな表情で、


「違います! 私はぬいぐるみではありません!」


といいました。

 そうして、オオミミギツネさんに案内されて、スイートルームへ案内され、階段を降りると、窓から深海の風景が見えました。

 なんと、遊園地がそのまま海に沈んでいたのです。

 青く透き通った水に、ジェットコースターの線路、メリーゴーランド、そして、更にその奥に、観覧車が見えます。


「すごい……」


 キュルルはその幻想的な風景に息を飲みました。

 その風景について、オオミミギツネちゃんが説明してくれました。


「これが当ホテルの目玉になります。とてもきれいでしょ?」

「ええ! そうですわね」


 サーバルちゃん、カラカルちゃん、リョコウバトさんもその光景に見とれています。

そして、腕時計のボスも補足で説明してくれました。


「あの遊園地もジャパリホテル同様の理由で沈んでいるよ。

 そして、ここよりも、更に深いところで沈んでいるんだよ」


 その風景を見ていると、キュルルはあることに気づきました。


「あれ? これって……」


 キュルルはスケッチブックを取り出して、一枚の絵を開きました。


「キュルルちゃん、これは?」

「間違いないよ……沈む前の遊園地が書いてあるんだ……」


 その絵は海に沈んでいない観覧車が書いてあります。

 そう、ニ千年前の遊園地の絵です。

 けれど、おうちの手がかりはもうすでに海の中です。


「あれ?」


 キュルルはスケッチブックをよく見ると、これが最後の一枚だということに気が付きました。


「じゃあこれが……最後の手がかり……」


 キュルルの胸の中には、あっけからんとした空虚感がうずまきました。

 ここに来るまでの間、おうちへの手がかりも、記憶も戻ることなく、旅の最後を迎えてしまったのです。


「キュルル……」

「キュルルちゃん……」

「サーバル、カラカル、僕は大丈夫だよ。早く部屋にいこ」


 おうちへの手がかりが失われても、キュルルには大切な友だちがいるので、恐怖で押しつぶされることはありません。しかし、じゃあ本当に大丈夫か? と言われれば、そうでもないのですが……。

 そうして、みんなでスイートルームへ向かうのでした。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 部屋についてからは、みんな大はしゃぎしました。

 広くて、きれいな部屋に、大きくてふかふかなベッドに、深海の美しい眺めを見ることができます。

 みんなで、ホテルのアミューズメントエリアや、屋内プールで遊んだり、


「待てー!」

「はわわ! だめですー!」


 ホテルの清掃員をやっているブタちゃんと狩りごっこをして遊んだりしました。

 そうして時間が過ぎて、サーバルちゃんもカラカルちゃんもベッドで寝ています。

 リョコウバトさんはキュルルに、話しかけました。


「キュルルさんは、少し無理をされておりませんか?」

「え……」

「少し様子を伺っていたのですが、どこか心あらずのご様子でしたので」


 どうやら、リョコウバトさんはキュルルの様子に気がついているようです。

 意を決したキュルルはリョコウバトさんに尋ねます。


「リョコウバトさんって、パークの色んな所を旅してきたんだよね?」

「ええ。そうです。」

「ヒトが住んでいるところってあった?」

「ヒトですか……ごめんなさい。ヒトが住んでいるところなんて見たことも聞いたこともありません。もちろん、私が行ったことが無いだけかもしれませんが……」

「そう……」


 リョコウバトさんには何の心当たりも無いようです。

 これで、本当の本当に手がかりがなくなりました。

 リョコウバトさんはキュルルに優しく語りかけました。


「私は、その昔、大勢いた私の仲間たちとともに、世界中の様々なところへ旅をしてきました。美しい山や木々をどこまでも見てきましたの。」

「へぇ……」

「今ではこうして、フレンズの姿になって、今度はパーク中を旅してきました。

 一人は少しさびしいな、と思ったこともあるのですが、それでも出会ったフレンズや様々な彩りあふれる景色があったおかげで、私は孤独ではなかったのですよ」


 そのリョコウバトさんの言葉に、キュルルはあるものを感じました。


「じゃあ、リョコウバトさんに、おうち――自分の居場所というのは無いの?」

「そうですね。私には特定の縄張りみたいなのはありません。気の赴くまま、風の赴くままですね。」

「……」


 ――リョコウバトさんは、僕と同じだ


 キュルルにとって、居場所がないリョコウバトさんは、自分と同じ境遇を持つ唯一の理解者でした。

 それどころか、サーバルちゃん、カラカルちゃんがいる自分と比べて、リョコウバトさんは旅をする仲間がいません。

 その苦しみをキュルルは痛いほど分かります。


 ――リョコウバトさんの力になりたい!

 ――サーバルとカラカルが僕にしてくれたように!


「リョコウバトさん。僕が、リョコウバトさんの絵を書いてあげる」

「え……」

「リョコウバトさんがもう寂しくならないように、仲間の絵をプレゼントするよ!」


 リョコウバトさんの顔が、ぱあ……と明るくなりました。


「うれしい! お願いいたしますわ!」

「うん、まかせて!」


 そうして、キュルルは、寝室とは別にある部屋に行き、早速白紙のページを開いて、絵を書き始めました。


 ――リョコウバトさんの周りに、僕がこれまで出会ったすべてのフレンズたちを書こう


 そうして、一人一人、フレンズの絵を書いていきました。

 サーバルちゃん、カラカルちゃん、イエイヌちゃん、センちゃん、アルマーちゃん、かばんさん、ロバちゃん、カルガモちゃん、ジャイアントパンダちゃん、レッサーパンダちゃん、バンドウイルカちゃん、カリフォルニアアシカちゃん、アードウルフちゃん、アリツカゲラちゃん、ナミチスイコウモリちゃん、ゴリラさん、イリエワニちゃん、メガネカイマンちゃん、ヒョウちゃん、クロヒョウちゃん、アフリカオオコノハズクちゃん、ワシミミズクちゃん、チーターちゃん、プロングホーンちゃん、G・ロードランナーちゃん、マーゲイちゃん、プリンセス、コウテイ、ジェーン、イワビー、フルルー、カタカケフウチョウちゃん、カンザシフウチョウちゃん、ハブちゃん、ブタちゃん、オオミミギツネちゃん、そして、ビーストのアムールトラちゃん


 ――僕は……


 キュルルは、この絵を書きながら、これまで、フレンズ達とどんな話しをして、どう心を通じあわせてきたのか、これまでの旅と出会いについて考えていました。

 自分の絵を心から喜んでくれたフレンズがいました。

 自分の旅を心から応援してくれるフレンズがいました。

 自分の存在を心から認めてくれるフレンズがいました。

 自分の心を慰めてくれるフレンズがいました。

 自分の苦しみを癒やしてくれるフレンズがいました。

 そして――


【「ばかーーー! アホ! もうお前なんて知らない!」】


【「そうだ! 最後に言ってくれませんか?」

 「……」

 「おうちにお帰りって……」

 「……おうちにお帰り」】


【「最後言っておこう」

「私達は、ヒトであるお前と」

「「分かり合うことは無い」」】


【「その昔、人間がこの島で、フレンズを操るための研究をしていたみたいなんだ。そして、その実験体として、アムールトラはビーストにさせられてしまった。」】


 キュルルは、この旅で、どれほど多くのものが見えてこなかったのかを思い知りました。


 ――これだけたくさんのものをもらってきたのに、不安と恐ろしさにばかり囚われて……


 後悔で泣きそうでした。それでも、手を止めずに書き続けました。

 今、自分の中に溢れている思いを込めて書きました。そして、


「出来た……」


 その絵は、リョコウバトさんを先頭に、自分を含めたすべてのフレンズが書いてありました。


 ――これなら、リョコウバトさんを寂しい思いになんてさせない!


 もう夜も遅い時間です。キュルルは絵は机においたまま、サーバルちゃんとカラカルちゃんが寝ているベッドに入らず、ソファーで横になりました。


「……」


 二時間ぐらい目をつぶりました。しかし、どうしても寝付くことが出来ませんでした。

 自分の頭の中に、どうしても拭い去れない思いがありました。

 キュルルはソファーから起き上がって、ホテルの外に出ました。



~~~~~~~~~~~~~~~~

少し時間が経ちました

~~~~~~~~~~~~~~~~



 キュルルは、崖になっているところで、一人座って、物思いにふけっていました。

 もう少しで夜明けが見れそうです。

 そしたら、なんと、後ろからサーバルちゃんが来ました。


「キュルルちゃん。こんなところでどうしてるの?」

「サーバル……」


 キュルルは自分の胸の内を吐露しました。


「僕は決めたんだ。

 みんなの役に立ちたい。たくさんのフレンズが僕に大切なものをくれたんだ。だから、その恩返しがしたい。そうして、僕は、たくさんのフレンズと心をつなげたいんだ。

 これまで、僕が自分のことで頭がいっぱいだったせいで、仲良く出来なかったフレンズもいた……。そのフレンズとも、僕はいろんな話しをしたいんだ!」

「それはとてもいい考えだね!」

「……けど」


 キュルルのその決意とは裏腹に、どうしても拭い去れない思いがありました。


「何度も考えたんだ。おうち探しを諦めるってこと……

 どうして帰りたいのかわからないのに、おうちの手がかりも、もう無いのに……

 みんなと、こんなにも仲良くなれたのに……

 もうどう考えても、僕のおうちなんて無いはずなのに!

 それを受け入れて、諦めることが出来ないんだ!」


 キュルルは何度も考えました。

 諦めてしまえば気持ちは楽になる。そうすれば、この旅は、ただただ素敵な旅になることでしょう。それこそ、先程の決意どおりのことが出来ます。

 しかし、キュルルには、それが何故か出来ません。

 そんなキュルルに、サーバルちゃんは言いました。


「キュルルちゃん。

 絶対に見つからないって気持ちで探してたら、絶対に見つからないよ。」

「……」

「キュルルちゃんは、諦めて無いんだよね。だったら、絶対に見つかるよ!

 今までみたいに、キュルルちゃん一人で探してたら、見つからなかったかもしれないね。けれど、私と、カラカルと、パーク中のフレンズみーんなで探せば、見つからないはず無いよ!

 私は諦めたりしないよ、キュルルちゃんのおうち。」

「サーバル……」


 ――辛かった、本当に何度もくじけた

 ――けど今は違う

 ――みんなが僕に、諦めない強さをくれる

 ――本当の勇気をくれる

 ――みんなとだったら、見つかるかもしれない


 キュルルは立ち上がって、サーバルちゃんのところへ、駆け寄ろうとしました。

 ありがとう、と伝えようとしました。

 しかし――


「あっ」

「キュルルちゃん!!」


 キュルルは足を踏み外してしまいました。

 サーバルちゃんは手を差し出しましたが、間に合いません。

 そして、キュルルは崖から、海へ落ちていきました。



●第10話 完

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