第7話
●第7話
キュルル、サーバルちゃん、カラカルの三人は、木や植物がほとんどない、砂の大地を歩いていました。太陽は高く登っているが、熱すぎない気持ちの良い天候です。 キュルルはスケッチブックをバックから取り出して、中を見ました。おうちの手がかりがこの近くにないか探しています。
「この絵はなんだろう」
ある一枚の絵が気になりました。
風景はこの道とよく似ていますが、なぜか絵の真ん中は線で塗りつぶされています。
「なんだろうね?」
「これじゃよくわからないわ」
三人で立ち止まり、絵を確認しました。
そこに、突然おおきな声が後ろの方から聞こえてきました。
「どきなさーーーい!!」
えっ、と思って振り向くと、ものすごい速さで近づいてくるなにかでした。
何かは早すぎて、何もわかりません。
ドッカーン!
「「「「うああああああ」」」」
三人と何かは、避けきれずにぶつかってしまいました。そして三人共、そのまま中に飛んでいって、地面に転がりました。
ぶつかってきた何かも、地面に倒れ伏しています。
「んもう。どきなさいって言ったのに!」
いてて、とみんな立ち上がる中、ぶつかってきた何か、いやフレンズさんはぷんすかしながら、文句を言いました。
「そっちが思い切り突っ込んでくるから!」
カラカルちゃんが反論します。
「思い切りですって? あれでも実力の半分しか出してないわ」
そのフレンズは、自信に満ちた表情で、髪をばさっ、と手で払いあげました。
その髪はロングヘアで、生え際から真ん中まできれいな金色で、先端に近づくに連れて、色が黒くなっています。シャツは白ですが、ネクタイとスカートは黄色ベースに黒の斑点が散らばっています。
自分の速さに、自信が満ち溢れているみたいです。
「この私を誰だと思っているの? 私は地上最速の獣、チーター様よ!」
チーターの走る速さは全力で、120km前後と言われているよ、と腕のラッキーさんが説明してくれました。
「すごい速さだね」
「ふん! 当然よ」
キュルルが驚嘆すると、自分にとっては当たり前よ! といった態度ですが、少し喜んでいるように思います。
「私はサーバル。こっちがカラカルで、こっちがキュルルちゃん!」
こちらも自己紹介します。
「こんなところで何をしていたの?」
「私達はね、キュルルちゃんのおうちを探しているんだよ」
「おうち?」
「ヒトが住んでるところだよ」
チーターちゃんはキュルルに目を向けました。
「自分の縄張りってのはね、自分がここだと思った場所を、速さで勝ち取るものよ」
「……ええと」
(これはなんのアドバイスなのかな……)
キュルルにはよくわからない話でした。
続きを聞き直そうとしたとき、おおきな声がここから少し離れた高台から聞こえてきました。
「見つけたぞチーター! 私と勝負しろ!!」
そこにいたのは二人のフレンズでした。
声を上げている方は、白い体操着にブルマ、その上にオレンジ色のジャージを羽織った格好をしており、頭には二本の角が生えているのと、ブルマから伸びた足が健康的な美しさを感じさせるフレンズです。
そしてもうひとりは、Beepとプリントしてある青いTシャツに、運動用のスパッツを履いており、頭から翼が生えています。
「ちっ、見つかったわ」
「今度こそどちらが早いのか決着をつけようじゃないか!」
どうやら、チーターちゃんと足の速さで勝負を挑んでいるようです。しかしチーターちゃんは乗る気ではないようです。
「私は一人で走るのが好きなのよ!」
その言葉を聞いた、もうひとりの羽が生えたフレンズが、勝負を挑もうとしてるフレンズに、みんなが聞こえる声で、耳打ちします。
「プロングホーン様、あいつ負けるのが怖いんですよ」
それを聞いたチーターちゃんは怒ります。
「なんですって!!」
「悔しかったら勝負してみろー」
そのフレンズは、怒ったチーターちゃんに対して、ひょうひょうと挑発しました。 その後、その三人がギャーギャー言い合っているのを見て、キュルルは自分たちが部外者であることを感じました。そして、サーバルちゃんとカラカルちゃんに、小声で話しかけます。
「立ち去ろうよ。こんな厄介事に巻き込まれる前に」
「う……うん」
サーバルちゃんは特に寂しそうな顔をしていましたが、キュルルにとって、自分のおうちを探すことのほうが大切です。
――こんなことにかまってる暇なんてない
――おうちを早く探さないと
こっそり立ち去ろうとすると、「待ちなさい、あなた達」と、チーターちゃんがキュルルたちを引き止めました。
「プロングホーンとかけっこ勝負をすることになったわ。あなた達も立ち会いなさい」
そのお願いをキュルルは断ります。
「悪いけど付き合えないよ。僕たちはおうちを探さなくちゃいけないんだ。」
「ふーん。でも私、通りがかりにあなたのおうちとやらに関係ありそうなのを見つけたわよ」
「えっ!」
思いがけない情報に、キュルルは驚きました。
「けど、教えるのは私と付き合ってからよ」
「……わかったよ」
(情報が手に入るのなら、仕方ないか……)
キュルルとサーバルちゃんとカラカルちゃんとチーターちゃんの四人は、勝負を挑んてきた二人の元へ向かいました。
「待ちわびたぞ、チーター」
そう言ってプロングホーン様と呼ばれていたフレンズは腕を組んで喜びの表情を見せています。
「お前たちは立会人か?
私はプロングホーンだ。足の速さなら誰にも負けない自信がある。」
「ちょっと、その言葉は私に勝ってから行って頂戴!」
チーターちゃんとプロングホーンちゃんはお互い睨み合っています。
もうひとりのフレンズも自己紹介します。
「オイラはG・ロードランナーだ。よろしくな」
「私はサーバル。こっちがカラカルで、こっちがキュルルちゃん!」
そうしてお互いの自己紹介が終わったところで、勝負の説明に入ります。
「あっちの方に、おおきな岩山の真ん中に、溝があるんだ。そこを進んでいくと、おおきな池にでるから、その入り口をゴールとする。」
そう言ってプロングホーンちゃんが指さした先をみんな見ています。
「いいわ。覚悟しておきなさい」
チーターちゃんはルールに同意しました。
始める準備に入る前に、そわそわしていたサーバルちゃんが言いました。
「うー! 私もやりたい!」
「サーバルちゃんもするの?」
サーバルちゃんもかけっこ勝負に興味津々です。
「もちろんいいだろう!」
そうして、勝負の準備が整いました。
キュルルが開始の合図を言いました。
「位置について、よーい、スタート!」
みんな一斉に駆け出します。
するとチーターちゃんが誰よりも早く、飛び抜けて進んでいます。
プロングホーンちゃんも、ものすごい速さですが、距離がどんどん離されていきます。
サーバルちゃんは一番うしろでしたが、負けじと走っています。
「頑張れ! サーバル! チーター!」
「やっちゃってください! プロングホーン様!!」
カラカルちゃん、ロードランナーちゃんはおおきな声援で、応援しています。
みんなが岩山の中に入っていくと、こっちから、見えなくなりました。
「おおきな岩山だからみんな見えないね。あの木の上で、見ようか」
ギャラリーのキュルル、カラカルちゃん、ロードランナーちゃんは木の上に登ります。
そこで、勝負の行方をみんな真剣に見ていました。
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チーターちゃん視点
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「っく……」
まずい。息が切れてきたわ。
このままじゃ、ペースが落ちてしまう……
最初から全力を出して走った!
私に勝負を挑もうとしているプロングホーンに、自分の力を見せつけるためだった!
けど、まだゴールが見えないのに、自分の限界が来てしまっている!
プロングホーンとの距離をあんなに離していたのに、今じゃ、足音と息遣いがだんだんと近づいてくる!
もっと早く走らないと行けないのに、お腹と胸の痛さばかり感じて、足も呼吸も重苦しい……
「はっ、はっ、どうした! ……追いついたぞチーター!」
プロングホーンがもう後ろに近づいている!?
あんなに走ったのにどうしてピンピンしてるの!
このまま負けたくない! 私は地上最速のチーターなのに……
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その頃、ギャラリーでは
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「さすがです! プロングホーン様!!!」
プロングホーンちゃんが、チーターちゃんに追い越した瞬間を見たとき、ロードランナーちゃんが突然、歓声を上げて立ち上がったのです。
その時、腕が、キュルルの体にあたってしまい、よろけました。
「うわっ」
体制を立て直したので、木の上から落ちることはありませんでした。
そのことに、ロードランナーちゃんは気づくことなく、試合の応援を続けていました。
キュルルはどうしようもない怒りを感じました。
――最低!
――早くおうちを見つけたいからこんなことに付き合っているのに!
そう思ったキュルルは、試合の方から、目を離して、スケッチブックの絵を見ました。
例の、線で真ん中が塗りつぶされている絵です。
(もしかして……走っているフレンズを書こうとして、こうなっているのかな?)
そのことに気づいたキュルルは、ロードランナーちゃんへの憤りをわすれるために、二人の絵を書きはじめました。
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その頃、ゴール付近では
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「私の勝ちだ!」
プロングホーンちゃんは、ゴールに到着しました。
目の前にはおおきな湖が広がっていて、とってもきれいです。
そのあと、よろよろ走ってくるチーターちゃんが、ゴールを抜けます。
「よしチーター、いい勝負だったぞ……ってあれ?」
なんだかチーターちゃんの様子がおかしいです。
朦朧としたまま、ゴールを超えても走っています。
そしてその先には湖が……
「危ない!」
プロングホーンちゃんは止めようと走りますが、間に合いそうにありません。
チーターちゃんが、湖に落ちる最後の一歩を出した瞬間――
「うみゃー!」
なんと後ろから来たサーバルちゃんがチーターちゃんの襟を引っ張って、助けたのです。
「はあ、はあ、はあ、ブジ、はあはあまにあっ、はあ、はあ、たね……」
そうして、ばたんとサーバルちゃんも横に転がります。
チーターちゃんと、サーバルちゃんの二人、地面に伏したまま、はあ、はあ、と呼吸しています。
「すまんなあ、チーター、サーバル。ちょっとコースが長すぎたかもなあ……」
そう言って、済まなそうにするプロングホーンちゃんに、サーバルちゃんは親指を立てて、グッドのジェスチャーで返事をしました。
チーターちゃんもサーバルちゃんも口で返事ができそうにありませんでしたが、それでもサーバルちゃんは、大丈夫だよ、と励ましてくれているようです。
「ロードランナーたちが来るまでの間、休憩しよう」
プロングホーンはそう言って、ある提案をしました。
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キュルルたちがゴール近くまで来ました。
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試合に決着がついたところを見たキュルル、カラカルちゃん、ロードランナーちゃんの三人は、サーバルちゃんたちが待っているゴールへ向かいました。
その間、ロードランナーちゃんのプロングホーン様の自慢話が絶えません。
「すげえよプロングホーン様! 地上最速のチーターに勝っちまうなんて!
プロングホーン様の走りはいつ見ても最高だ! 地上最速はプロングホーン様で決まりだぜ」
そうして、ついた先の湖では、なんとサーバルちゃんとプロングホーンちゃんとチーターちゃんが水浴びしていたのです。
三人とも、水で張り付いた服から、体つきが強調されています。
サーバルちゃんから、白シャツから透けた黄色くて、黒い斑点が入ったブラジャーが透けて見えます。そして、普段は気にならない胸の大きさが強調されて特に目立っています。
それと同じように、チーターも白Yシャツから、ヒョウ柄ブラジャーが、薄っすらと透けて見えています。そしてサーバルちゃんと比べて、モデルのような身長の高さと、スレンダーで、しっかり締まった体つきに加えて、きれいな美乳がくっきりと浮き上がっています。
プロングホーンちゃんは、他の二人と違い、白Tシャツから、黒色のスポーツブラがくっきりと浮き上がっています。そして、運動によって、太すぎず細すぎず締まった体つきは、これぞ彼女の自信と力の源というべき美しさを感じさせます。
それをみたロードランナーちゃんは言いました。
「ずるいぞ! 私も混ぜてください!」
そう言って、湖に入りました。
「私も入るわよ」
そう言って、カラカルちゃんも入っていきます。
そうしてみんな水浴びをはじめました。
広い湖ですが、意外と浅く、腰より低い位置までしかありません。
ロードランナーちゃんからは、子供っぽい体つきから、一層の無邪気さを感じさせます。
一方カラカルちゃんは、気の強い性格に、色気のギャップを感じさせられ、キュルルはドキリとしました。
(なんだか急に恥ずかしくなってきたな……)
キュルルはなんだか見てはいけないものを見ているような錯覚を感じます。
普段みんなと過ごしているだけでは感じない、色気に対して戸惑っているのです。 顔に手を当てて、指の間からみんなを覗いています。
そうしたら、向こうからサーバルちゃんの呼び声が聞こえてきました。
「おーい! キュルルちゃん! 一緒に水の中に入ろうよ!」
「う……うん! すぐに行くよ!」
そう言って、みんなと水浴びして過ごしました。
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サーバルちゃん、チーターちゃん、プロングホーンちゃん視点
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「ねえ、サーバル」
「ん? どうしたのチーターちゃん?」
「私を助けてくれたこと、感謝するわ」
チーターちゃんは、レースの最後で、落ちそうになったところをサーバルちゃんが助けてくれたことを感謝してるようです。
「全然OKだよ。チーターちゃんすっごく早かったね!
負けちゃったのは残念だけど、でも最初の方は誰よりも凄かった!」
「……ねえ」
チーターちゃんは気になって仕方がないことを尋ねました。
「同じネコ科なのに、なんであんたはそんなに走れたの?」
同じ距離を走って、チーターちゃんは意識もうろう状態だったのに対して、サーバルちゃんは息はあがりきっていたものの、チーターちゃんを助けるだけの元気を残していました。
「んー、私はただ、無我夢中で走ってただけだよ。チーターちゃんは違うの?」
「無我夢中ね……」
チーターちゃんが、その言葉を聞いて、ふと思いつきそうな瞬間に、プロングホーンちゃんが話に入ってきました。
「サーバルさっきのレースものすごく早かったじゃないか!」
「えへへ~ありがとプロングホーンちゃん!」
そう言ってプロングホーンちゃんはサーバルちゃんの実力を認めています。
サーバルちゃんはふと、プロングホーンちゃんにあることを尋ねました。
「プロングホーンちゃんはどうしてチーターちゃんに勝負を挑んだの?」
「ん、ああそれはだな、チーターが私より早かったからだ」
え? とチーターちゃんとサーバルちゃんが不思議に思います。
「癪だけど、あなたは私に勝ったじゃない」
「ふ……実はチーターが一人で走っているのを見て、もっと早く走れるように練習をしたんだ」
「え……」
意外な言葉にチーターちゃんとサーバルちゃんは驚きました。
「一緒にチーターと走って、そして勝ちたかった! それが理由さ」
「……すごいよプロングホーン! すっごく頑張ったんだね!」
プロングホーンちゃんの努力を聞いた二人はすごいと感じました。
チーターちゃんは、小声で、「一緒に……」とつぶやきました。
「ねえプロングホーン、もう一度私と勝負しなさい」
そう言って、今度はチーターちゃんがプロングホーンちゃんに挑戦しました。
「望むところだぞチーター!」
プロングホーンちゃんも受ける気満々です。
そこで、サーバルちゃんが二人にある提案をしました。
「だったらさ、みんなで走らない? そうしたほうがもっと楽しいと思うよ!」
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キュルル、カラカルちゃん、ロードランナーちゃん視点
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ロードランナーちゃんとカラカルちゃんは、お互いに水を掛け合って、じゃれていました。
「お返しよ!」
そう言ってカラカルちゃんは水をロードランナーちゃんに向かってかけましたが、ロードランナーちゃんが空を飛んで、避けました。
「ああ! 待ちなさい!」
「へっへーんだ。捕まえてみろー」
カラカルちゃんはロードランナーちゃんを捕まえるために飛びますが、足が水に浸かっているため、思うように飛べません。
すでに湖から上がって、二人の様子を見ていたキュルルは、何気なしに二人が遊ぶ様子を書いていました。そして絵を書き終わったあと、カラカルちゃんに話しかけました。
「カラカル、こういうときはね……こんな感じで手の形を作ってね……」
「え? こう?」
「そして手の中に水を入れて……」
そんなやり取りを見たロードランナーちゃんは不思議に思います。
「何やってんだ? お前ら」
「喰らいなさい!」
突然カラカルの手から、水が飛び出て来ました。
キュルルはカラカルちゃんに水鉄砲を教えたのです。
「ぴひゃーーーー」
水はロードランナーちゃんの顔にあたって、目を丸くしています。
「あはは! お返しよ!」
そう言って、水鉄砲を打ちながら、ロードランナーちゃんを追いかけ回しています。
「やめてくれー!」
そう言ってロードランナーちゃんはカラカルちゃんから逃げています。
つかの間ですが、楽しいひと時に、キュルルは笑みを浮かべました。
~~~~~~~~~~~~~~~~
少し時間が立ちました。
~~~~~~~~~~~~~~~~
サーバルちゃんはキュルルに相談してきました。
プロングホーンちゃんの話を聞いて、チーターちゃんがまた勝負を挑んだことを話した上で、今度はみんなで走りたいから何かアイデアはないか? ということです。
「んー」
(本当はチーターにおうちの情報だけ聞いて、おうち探しに戻りたいけど……)
キュルルは少し悩みましたが、サーバルちゃんの頼みを断ろうとは思いません。
「リレーをしたらどうかな?」
「リレーって何?」
みんなを集めて、ルールの説明と、チーム分けをしました。
「相手チームは、チーター、カラカル、サーバルで……
こっちのチームは、ロードランナーにキュルル、そして私だな。
ルールは、この円形のコースで、バトンを持ったやつが入れ替わりで走るか……
いいだろう!」
「私も問題ないわ」
リレー形式で走ることに、みんなから同意が得られました。
そして、円形のコースの三分の一づつのところで、みんな持ち場に付きました。
第一走者はキュルル、サーバルちゃん
第二走者はロードランナーちゃん、カラカルちゃん
第三走者はプロングホーンちゃん、チーターちゃん
腕時計のボスが合図を出します。
「それでは、位置について、よーいどん」
そうしてリレーが始まりました。
サーバルちゃんがキュルルよりも先へと距離を離します。
――サーバルちゃんってすごく早い!
そう考えていたのはつかの間で、サーバルちゃんは疲れてきたのか、だんだん遅くなっています。
それを見たキュルルは安心します。
――これなら思った以上には離されないぞ!
そして、走りきったサーバルちゃんはカラカルちゃんにバトンを渡します。
「じゃ、行くわよ!」
カラカルは走り出しました。
その後キュルルもロードランナーちゃんのところについて、バトンを渡します。
「もう少し本気を出してもいいんだぜ?」
「もう、うるさいなあ!」
ロードランナーちゃんの悪態に、キュルルは少し怒りました。そうしてロードランナーちゃんも走り出します。
カラカルちゃんもサーバルちゃんに負けない速さで駆け抜けています。しかし、あるものが目に付きました。なんとロードランナーちゃんが、走らずに、空を飛んでいるのです。
「なんで飛んでるのよ!」
「飛んじゃいけないなんてルールはなかったぜぇ」
そうしてカラカルちゃんはロードランナーちゃんをはたき落とそうとジャンプしました。
それをひょいひょいと躱していき、
「これで、落ちなさい!」
「あらよっと」
ロードランナーちゃんは、カラカルちゃんの渾身のジャンプすらも躱しました。
そして、急に地面降りて、走り始めました。
「じゃあまたな~」
「あっ!」
すぐにカラカルちゃんも追いかけようとするが、さっきのやり取りで、体力を奪われたため、いつもどおりの速さが出せません。
ロードランナーちゃんのバトンは、プロングホーンちゃんの手に渡りました。
「それでは見せつけてください! プロングホーン様!」
「ありがとう! では行くぞ!」
そうしてプロングホーンちゃんは駆け出していきました。
そこから遅れて、カラカルちゃんもチーターちゃんにバトンを渡します。
「ごめん、遅れちゃって」
「いいわ、あとは地上最速の私に任せなさい!」
その瞬間、疾風怒濤の速さで、駆け抜けていきました。
チーターちゃんの走りには、何ひとつの迷いもありません。
チーターちゃんはずっと一人で走ってきました。
気が向くままに、ただただ自分の全力を出していました。しかし、初めて、プロングホーンちゃんと走ったとき、自分の中で湧き上がった、負けたくないという感情が、焦りを生んで、呼吸を乱して、いつもどおりの走りができなかったのです。
――一人で走ってきた私が、誰かと走っている。
――けど、そんなことを気にする必要なんて無い!
――私は地上最速の走りをすればいいだけ!
そうして、前のかけっこ勝負のとき、速度が下がり始めた地点よりも長く、最高速度が出ています。
先に進んでいたプロングホーンちゃんと並びかけました。
それに気づいたプロングホーンちゃんは、むしろ興奮して、更にスピードがあがります。
それに動じず、チーターちゃんも走り抜けます。
そして、二人が並んで、ゴールテープを切りました。
「結果は?」
キュルルはボスに尋ねました。
「チーター、プロングホーン、同着。この勝負は引き分けです。」
ゴール前に集まったみんなは、あまりにすごい勝負に、拍手をしました。
「すごいよふたりとも!」
「もう私達じゃ完全に追いつけないわね」
サーバルちゃんもカラカルちゃんも、感激しています。
「おいチーター! お前もすげえ早えじゃないか」
「はあ、はあ、あんまり懐かないでよ、やりにくいわ」
ロードランナーちゃんも、チーターちゃんの実力をかなり認めているようです。
走り終わったプロングホーンちゃんとチーターちゃんはお互い、話しをしました。
「……ふん、あんたごときに勝てないなんて、私もまだまだね……」
「そんなことはない。すごいよチーター、私の方こそ、また鍛え直しだ」
そうして、次の勝負は、お互い実力を高めてからになりそうです。
~~~~~~~~~~~~~~~~
少し時間が立ちました。
~~~~~~~~~~~~~~~~
「キュルル、これが約束のものよ」
そうして、チーターちゃんにつれてこられた場所で、キュルルたちが見たものは、なんとトラクターです。
「これ、ヒトが使ってた道具よね。なんかおうちと関係あるんじゃない?」
「うーん、そうじゃないとは思うけど、歩くよりかはマシかなあ」
「ねえ、なんかバスに似てない? これも乗れるの」
「ええ……また変なのに乗るの……」
(仕方ないけど、まあいいか……)
元の期待とは違ったものだったため、少しがっかりしました。
「それじゃあまた会おう!」
そう言って、プロングホーンちゃんが別れのあいさつをしてくれます。
「そうだ。これ上げるね」
「ん? なんだこれは?」
そう言ってキュルルがロードランナーちゃんに渡したのは、チーターちゃんとプロングホーンちゃんが走っている絵です。
「二人が走っているところを書いたんだ」
それをみたプロングホーンちゃんとチーターちゃんは満足そうな表情をうかべました。
「まあまあうまくかけてるじゃない」
「なかなかうれしいじゃないか……ってあれ?」
三人はあることに気づくと、笑みが消えました。
特に、ロードランナーちゃんはキョトンとしています。
「オイラのぶんはないのか?」
「ないよ」
キュルルの即答に、みんなびっくりします。
「ってのは冗談だよ! はい、ロードランナーの絵だよ」
そうして、ロードランナーちゃんとカラカルちゃんが水浴びしている絵を渡しました。
キュルルにとって、軽い冗談のつもりでした。しかし、ロードランナーちゃんにとっては、たいへんおおきなショックを受けたのです。
「ばかーーー! アホ! もうお前なんて知らない!」
そうして、叫んだロードランナーちゃんは走り去っていきます。
この反応に、キュルル自身、驚きましたが、すぐに考えを改めました。
――そもそも、僕はおうち探しを優先したかったんだ。
――それなのに、僕を木から落とそうとしても謝らないし、本気で走っても、本気を出してないなんていってくるやつだし……
「いこ、サーバル、カラカル」
「え、ちょっと!」
そうして、トラクターを発進させたキュルルにカラカルちゃんは驚きましたが、意外と進みは遅いようです。
のろのろ進んでいるトラクターに、サーバルちゃんとカラカルちゃんはすぐには、向かいませんでした。
そのかわり、驚いているチーターちゃんとプロングホーンちゃんに、サーバルちゃんはキュルルがどうしておうちを探しているのか説明しました。そして、もしかしたらキュルルが眠ってからニ千年が立っているかもしれないということをいいました。
「だからね、キュルルちゃんは本当はすごい優しい子なんだよ。
今は、とっても苦しんでいるから、ついうっかり言っちゃっただけなんだよ」
それを聞いたプロングホーンは謝罪しました。
「すまない。君たちのおうち探しを引き止めてしまって。ロードランナーには、私の方からフォローしとくよ」
「ありがとう……お願いするね」
サーバルちゃんは、プロングホーンちゃんに感謝しました。
「……」
黙ってサーバルちゃんとプロングホーンちゃんのやり取りを聞いていたチーターちゃんは、キュルルの方を向いて、おおきな声で叫びました。
「キュルル! 私が言ったこと覚えてる?
自分の縄張りってのはね、自分がここだと思った場所を、速さで勝ち取るものよ」
「……」
キュルルは振り返りません。
――どうせうるさく何か言うだけだろ……
――余計なお世話だよ!
「あなたは正しいわ!!」
その言葉にキュルルはビクリと体を震わしました。
「そうやって探して、探して、必ず自分のおうちを勝ち取りなさい!」
最初は何を言っているかわからない言葉だと思った、けど少しだけ勇気が湧いてきます。でもキュルルは、また会おうねと、言葉が出せないまま、ただただ前を向いてトラクターを進ませました。
チーターちゃんは、サーバルちゃんとカラカルちゃんにいいます。
「あいつを元気づけといたわよ」
「……うん! ありがとね! チーターちゃん!」
そう言って、サーバルちゃんとカラカルちゃんはトラクターの方に走っていって、乗り込むのでした。
●第7話 完
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