第6話
●第6話
ドッカーン!
みんなで紙相撲であそんでいると、突然なにかが落ちてきました。
紙相撲は吹き飛ばされ、みんな驚き、落ちてきたものに目をやりました。
「あれは……」
どうやら落ちてきたものは、フレンズのようです。
トラ模様で、目は理性が感じられない凶暴な目つきをしていて、手には鉄製の手枷がついています。
「みんな逃げて!」
危険を感じたカラカルちゃんがそう叫びました。
みんな逃げようとするなか、キュルルは石につまずいて、転んでしまいました。
「あ……」
恐ろしいフレンズと目が合いました。
今までのフレンズとは、話をして、友達になることができました。しかし、目の前にいるフレンズとは、話すことさえできそうにありません。
初めてフレンズに対して、本当の恐怖を感じました。
(食べられる!)
キュルルが襲われそうになっていることに気づいたサーバルちゃんたちは、助けるために、戻ろうとしました。
その瞬間、紙飛行機が飛んできたのです。
「……」
恐ろしいフレンズの目の前を、紙飛行機が横切りました。
恐ろしいフレンズはそれをジー、と見たあと、そのまま紙飛行機を追いかけていきました。
その後、紙飛行機が飛んできた方向から声が聞こえてきます。
「みんなこっちへ!」
「その声は、かばんさんか!」
どうやらゴリラさんと知り合いのようです。
みんな、かばんさんの声に従って、逃げました。
「うまく逃げ延びたようだね」
先程の声の主、かばんさんと思われる方が言いました。
「まだ近くにいるかも知れないから、近づかないように隠れとかないとだめだね」
「なあかばんさん。このキュルルとサーバルとカラカルの三人はヒトを探しているみたいなんだ。この三人はかばんさんのところで預ってもらって構わないか?」
「うん。いいよ」
キュルルは疑問点をゴリラさんに尋ねました。
「さっきのかばんさんがヒトなの?」
「ああそうだ。話はあとで聞くといい。じゃあ、元気でな!」
「ほなまたな!」
「また遊ぼうなー!」
「次こそは決着をつけよう」
「また遊びに来てくださいね」
ゴリラさんに続いて、ヒョウちゃん、クロヒョウちゃん、イリエワニちゃん、メガネカイマンちゃんがお別れの挨拶をしてくれました。
「じゃあかばんさん、早く連れて……ん?」
ゴリラさんがかばんさんに話しかけましたが、かばんさんはじー、と固まったまま、サーバルちゃんを見ていました。
サーバルちゃんもまた、かばんさんを見て、固まっていました。
すると、かばんさんは小声で、つぶやきました。
「サーバル……ちゃん」
はっと我に返ったかばんさんはキュルルたちの方を見て言いました。
「三人はついてきて!
僕のバスがあるからそれで移動するんだ」
「……うんわかった!」
(ふたりともどうしたのだろうか?)
キュルル、サーバルちゃん、カラカルちゃんはかばんさんの後ろをついていきました。
先程のやり取りに疑問はありますが、それとは別に、期待感で胸がドキドキしていました。
――かばんさんはヒトで、そしてバスで移動しているんだ!
――もしかしたらおうちが見つかるかもしれない!
(……)
(……)
でもしかし、この場にいた全員、気が付きませんでしたが、木の陰に、二人のフレンズが隠れ潜んでいたのです。
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バスの中で
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バスでの移動中、サーバルちゃんはもの珍しいみたいで、景色をみたり、バスのあちこちを見てはしゃいでいます。
一方カラカルは最初は、「なんかちょっと怖いかも」といって、縮こまっていたけど、だんだん慣れて、サーバルちゃんと一緒に外の景色を見ています。
そして、キュルルは、意を決して、運転席のかばんさんに尋ねました。
「かばんさんはヒトなんですか?」
「うんそうだよ」
「じゃあ他にもヒトが居るんですね!?」
「……ううん。このジャパリパークにいるヒトは僕一人だよ。」
その言葉に、キュルルは強いショックを受けました。
「じゃあ、かばんさんは何者ですか?」
「僕は、ヒトのフレンズなんだ。このジャパリパークで生まれたから、生粋のヒトじゃないんだ」
その事実に、キュルルは不安になりました。
――かばんさんはフレンズだった……
――じゃあどうすればおうちは見つかるのかな?
進んだ先に、大きくて白い建物が見えました。
周りはおおきなコンクリートの壁に、入り口は鉄製の門があります。
「あそこが僕と、博士と助手の研究所だよ、ボス」
そう言って、腕時計のようなものに話しかけました。すると、
「了解しました」
突然、腕時計が返事を返しました。
「ううわあああああ! 喋ったーーーー!」
しゃべる腕時計に、サーバルちゃんは興奮しています。
かばんさんが説明するには、もともとはラッキービーストと呼ばれる、パーク中にいるジャパリパークガイド用ロボットだそうです。
施設の中に入ると、二人のフレンズが出てきました。
姿かたちはとっても似ています。
くりくりとしたおおきな目に、頭には羽が生えて、自分たちと比べると小さな背丈で端正な顔つきです。
しかし色がお互い違っていて、片方は白色で、もう一方は茶色です。
「こちらは僕と共同で研究をしてる、博士のアフリカオオコノハズクさんと、助手のワシミミズクさんだよ」
白い方、博士が自己紹介してくれました。
「私はかばん博士と研究している博士です。」
次は、茶色の方、助手が自己紹介してくれました。
「私はかばん博士と研究している博士の助手です。」
こちらも自己紹介します。
「私はサーバル!」
「カラカルよ」
「僕はキュルルです。」
「それじゃあ中に入って、話の続きの前に、ご飯を作ろうか」
そう言って、かばんさんはキュルルたちを部屋に案内しました。
「今日は一度食べたらやみつきになる、あれですね」
「お前たちも食べるといいのです」
そういう博士と助手は、表情には出さないものの、とっても楽しみにしているようです。
「おまたせ!」
出てきた料理は、きのこが入ったカレーライスです!
「美味しそう!」
「なにこれジャパリまんじゃないの!」
「不思議な見た目ね」
初めて見るカレーライスに、サーバルちゃんとカラカルちゃんは戸惑っていましたが、いざ一口食べると――
「なにこれ変な味」
二口目食べ――
「これは美味しいのかしら」
三口目――
「なんかすごいいいかも……」
なにも言わずに食べ続けて、ぺろりと平らげていました。
「「「ごちそうさまでした!」」」
サーバルちゃんとカラカルちゃんは初めて食べる味に衝撃を受けながらも、あまりの美味しさに、何杯もお変わりしました。
キュルルも、おかわりの数は負けてません。
たくさんあったカレーライスは空になりました。
その間に、キュルルたちについて、どんなフレンズにあって、どんな冒険をしたのか、楽しい会話をして過ごしました。
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少し時間が立って
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「話の続きを聞かせてもらっていいですか?」
「うん。でもその前に、君はなんでヒトを探しているんだい?」
そういえばかばんさんにまだ自分のことを説明していませんでした。
「僕は、よくわからないカプセルから目覚めたんだ。
それ以前の記憶がなくて……けどどうしてもおうちに帰りたいっていうことだけ覚えていたんだ。だから一緒にカプセルに入ってたスケッチブックを頼りにパーク中をサーバルとカラカルと一緒にパークを回っているんです。」
かばんさんは考える仕草をしたあとキュルルに尋ねました。
「いくつか確認するね。君はヒトで間違えないよね?」
「はい。ヒトだと思います。」
「海から漂流してきたというわけではないんだよね?」
「はい。僕が目覚めたカプセルは海にはありませんでした。ええと……場所は……」
「ピロリン、地図を出すよ」
ラッキーさんが地図を投影しました。
「んーと、たしかここじゃないかしら。」
カラカルが指を指しました。
「ここは……」
かばんさんと博士と助手になにか心当たりがあるみたいです。
「話はずれますが、ここは、最初にビーストが発見された場所に近いのです。」
博士が説明してくれました。
「そういえばビーストって何?」
キュルルが尋ねました。
「森で出会ったあのアムールトラのフレンズのことだよ」
「あ……」
あの恐ろしいフレンズは忘れもしません。
「サンドスターが生き物に当たることで、フレンズになることは知っているよね?」
「……ええと」
かばんさんは、サンドスターについて説明しました。
サンドスターは、パークの火山から放出されていて、これがフレンズの元になる物質です。
「極稀に、フレンズにならずに、あのアムールトラのように暴走することがあるんだ。それがビースト。けど……」
「けど?」
「調べてわかったことなんだけど、アムールトラは、自然発生したビーストではないんだ」
「え……!?」
「その昔、人間がパークで、フレンズを操るための研究をしていたみたいなんだ。そして、その実験体として、アムールトラはビーストにさせられてしまった。」
キュルルは強いショックを受けました。
ゴリラさんが話していたことが思い出されます。
――動物たちを操る力を研究していたって、これのこと!?
「なにそれ、そいつら最低じゃない!」
「そうだよ!」
カラカルが激怒しました。
温厚なサーバルちゃんも、怒りをあらわにしています。
「その研究をした人たちも含めて、パークにはヒトがいないから、僕と博士たちで、どうしたらビーストをもとに戻すことができるのか研究してるんだ」
「……そうなんだ」
「話がずれたね。君の話をもとに、パークのデータベースを検索するね。ボス」
そうして、かばんさんはボスと話をはじめました。
「キュルルが起きた場所に何があるの」
「パークの施設といったものは存在しないよ」
「キュルルの入ってたカプセルに該当するものってあるの?」
「おそらく、フレンズまたはビーストに用いられてた冬眠カプセルだよ。パークにビーストが現れたときに、治療と保護を目的として使用された記録があるよ。けれど、職員退居時には、冬眠カプセルはすべて開放されて、現在並び、直近で使用された形跡はないよ」
「じゃあキュルルの身につけているもので、なにか分かることはない?」
「キュルルが身につけている帽子とカバンは、当時パークで販売していた商品だよ。」
「なるほど……」
いくつかのやり取りをしたあと、かばんさんがとても恐ろしく、険しい表情をしていました。
そして、十数秒、時間がたったあと、意を決したかのように告げました。
「本当に真実なのか、正しいことはまだわからないけど、僕の出した結論を伝えるね。」
「うん」
「君は、ジャパリパーク開園当時のお客様。
つまり、二千年前のヒトだよ。」
「………………二千年?」
一瞬なんのことかキュルルは理解できませんでした。
しかしなんのことかわかってくると、キュルルの視界がぐにゃりと曲がりました。
――二千年眠ってた……?
――僕のおうちはどうなったの……?
――どうして記憶がないの……?
――なんで! なんで! なんで!
その後のことはキュルルはよく覚えていません。
かばんさん、博士、助手、サーバルちゃん、カラカルちゃんに、いろんな励ましの言葉をもらったような気がします。
でも、なにを言われたとしても、なにも頭に入ってきませんでした。
かばんさんが寝室を用意してくれました。
ベットに入り、あることを思いながら、眠りにつきました。
――おうちを探さなきゃ
――おうちを探して、帰らなきゃ
――僕のおうち……
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朝がきました
~~~~~~~~~~~
「僕は自分のおうちを探します。」
「うん。わかった。気をつけてね。」
キュルルはおうち探しを諦めませんでした。
かばんさんは、キュルルの意思を尊重して、送り出すことにしました。
「さっき渡したPPP(ペパプ)のライブチケット、そこにたくさんのフレンズが来るからいろんな話を聞くことができるし、何より、彼女たちのライブはとってもすごいんだ!
絶対見に行ったほうがいいよ!」
「そうですか……」
「それから、腕時計型のラッキーさんも渡すよ。なにかあれば頼るといいよ。
あと、海の近くに気をつけて。海底火山から、セルリアンの元になる物質、セルリウムが大量に出ているんだ。
そのせいで、付近に強力なセルリアンが出ているんだ」
「……ありがとうございます。かばんさん」
キュルルは、心からお礼を述べました。
その言葉に続いてサーバルちゃんが別れのあいさつをします。
「じゃあまたね!」
「サーバル。じゃあまたね」
そうして、キュルル達は研究所をあとにしました。
~~~~~~~~~~
かばん視点
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――サーバルちゃんか……
サーバルちゃんとは、最初に目があった瞬間、万感の思いが、胸に響いたんだ。
おそらく、ずっとずっと前から出会っている……
友達だったんだろう。大切な、大切な……
でもそれを僕は覚えていない。
サーバルちゃんも覚えていない。
フレンズには、動物と同じように寿命があり、それを迎えると、記憶も容姿も性格も一度リセットされてしまう。
そうして、世代交代を繰り返している。
けれど、頭の記憶はリセットされても、魂の記憶には、大切な思い出がずっと刻まれ続けているのだ。
――本当は伝えたかった
――前からあっていたんだよって
――友達にまたなろうよって
でもその言葉を封じ込めた。
キュルルというあの子は、とても危うい子だ。
おうちが見つからなくて悲しんでいるんだ。
あの子のおうちが見つからない限り、悲しみから抜けられず、ずっと苦しんでしまうに違いない。
キュルルにはサーバルちゃんの優しさが必要だ
今は絶対に、キュルルとサーバルちゃんを引き離してはいけない。
「ねえ、かばん」
キュルルについていったと思ってたカラカルちゃんが、かばんさんに話しかけていました。
「どうしたの」
「サーバルが、昔変なフレンズと旅をしてたって言ってたけど、もしかしてあんた?」
「え……」
「あ、変とは言ってなかったけど、あんたとサーバル見てると、なんかお互い変に意識してたみたいだからさ」
その言葉に、自分の中で、急にこみ上げてくるものがありました。
――ありがとう。サーバルちゃん!
「サーバルのこと、よろしくね」
「? ええ、もちろんよ」
そうして、カラカルちゃんもキュルルのあとに付いていきました。
「帰りましたね。」
「そうですね。帰りましたね」
「うん。それじゃあすぐにいこう。キュルルの目覚めた場所に」
第6話 完
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