七 私は果実の実を削ぎ、口に含み、
私は美術が好きだ。自分の感情を作品にして吐き出すと、すっきりする。
嫌なことも、この作品を作るために起きたことなのだと思えば、ある程度は肯定的に捉えることだってできる。
でも、芸術家としてやっていけるほどの才能はないし、そこまでの努力をする気もない。普通に進学し、就職して、趣味として続けようか。それともやっぱり努力してみようか。
進路に悩んでいる時、学校の掲示板に貼られたポスターが目に入った。
臨床美術の展覧会の案内だ。
臨床美術とは、どうやら創作活動を通して認知症を予防したり、心のケアを行ったりする分野のことらしい。調べてみると、私のような発達障害者や、引きこもりといった、様々な人の脳機能の向上にも利用されていることがわかった。
美術は、一部の人間だけが楽しむものではない。あらゆる人にとって実用性のあるものだ。
私は臨床美術のことを学べる大学を探した。美術の先生や、担任にも相談した。
臨床美術士の資格だけでは生計を立てられないそうだけれど、臨床美術の知識はきっと役に立つ。もしかしたら、私のような子供の助けになるかもしれない。
美術教師になるか、医療・福祉関係の職に就けば、臨床美術を活かす場所は作ることができる。確実に仕事の幅は広げられるだろう。
将来に対しては漠然とした不安ばかり感じていたけれど、漸くやりたいことが見つかった。
私は久しぶりに庭に訪れた。よく見てみると、同じように見えたオレンジ色の果実達はそれぞれ大きさや肌触りが異なっていて、どれ一つとして全く同じものはない。私の果実のように風変わりな色のものもあるが、それでも果実であることには変わりなかった。中には、瓢箪の様な形のものもある。それぞれ違いがあるからこそ面白い。
そして、醜い色をしていたはずの私の果実のことも、これはこれでいいんじゃないのかなと思えた。
私は果実の実を削ぎ、口に含み、そして種を土に植えた。
やがてこの種は発芽し、大きく成長し、もしかしたら実をつけることもあるかもしれない。
この幻想の庭のことも、いつか形にしよう。
醜い果実の子 楠ノ葉みどろ @kusunohacherry
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