六 見た目通り不味いのかもしれない。意外とおいしいのかもしれない。
親に選択するよう指示された進学校に、私はどうにか合格できた。落ちるよりは嬉しいけれど、これからの生活も地獄なのだと思うと憂鬱だ。
高校では絶対に部活動に所属しなければならなかった。物作りが好きだし、私は美術部を選んだ。相変わらず他人との間には見えない壁があるけれど、高校生になったためか、進学校故か、積極的に仲間外れを作ろうとする人はいなくて、美術部内での居心地は悪くはなかった。雑談する相手もできた。けれど、特別誰かと親しくなるということはやっぱりなかった。
ある日、私は美術教師に美術準備室に呼び出された。
「特別トラブルがあるわけじゃないから、言おうかどうか迷ったのだけど、困ってはいそうだったから……」
先生が言うには、私は先天的に普通の人に比べて脳の癖が独特らしい。
どうして私が障害者の定義に当てはまらなければならないのか。屈辱ではあったけれど、生きづらかった理由がわかって、すっきりしたような気もした。
後日、病院に行くと、先生が言った通りの障害の名前が診断された。
人より得意なこともあれば、極端に不得意なこともある。私は自分の能力に折り合いをつけて生きていかなければならない。
美術の先生や主治医は、私がどんな風に振る舞えばいいのか、具体的に、丁寧に教えてくれる。世界が開けたような気がした。
今まで、無自覚に色々な人に迷惑をかけてしまった。これからも故意ではなく他人を不快にさせることもあるだろう。少しずつでも、私は私を変えていきたい。
私は庭に訪れた。
男の子は、私より先に来て自分の果実を眺めていた。
「君は、私のこと、気持ち悪くないの?」
「友達でしょ。そんなこと思わないよ」
そこらの女の子よりも肌理の細かい肌。どんな土よりも綺麗な茶色の瞳。
私も自分の果実を見ることにした。小学生の頃と比べると、だいぶ大きくなった。相変わらず色は悪いけれど、どんな味がするんだろう。見た目通り不味いのかもしれない。意外とおいしいのかもしれない。
ふと左方を見てみると、土人形と、紙粘土で作られた水色のミカンが木に引っかかっていた。
彼がいつも私にとって都合の良いことを言ってくれていたのは、彼は私が作ったお人形だったから。誰かに言ってほしかったことを、彼に喋らせていただけ。
彼は、これからも私に甘い言葉を囁くだろう。
私は、これからもこの庭に通うだろう。
けれど、きっと以前ほど頻繁じゃない。
現実に、私を助けてくれる人が現れたから。
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