二 剪定ばさみが落ちていた。

 今日の学校は最悪だった。誰も私のことをわかってくれない。わかってもらおうと、話せば話すほど悪く解釈され、誤解が積み重なり、誰も味方にはなってくれなかった。


 秘密の庭に行くと、私の実が成っている木の真下に剪定ばさみが落ちていた。私はそのはさみを拾い上げ、果実の皮に刃で線を引いた。薄く裂かれた表面から液体が浮き上がる。


 自分の心の傷を見ているような気分だ。


 誰にもわかってもらえない。暴れたいけれど、そんなことをしたら更に嫌われる。こんな私なんて死んでしまえ。

 怒りがやり場のない悲しみになって、私の目からは塩辛い雨が降り出した。


 傷つけてしまった果実を、もっとずたずたに引き裂きたい。

 傷つけてしまった果実を、引き裂く前に戻したい。


 ごめんね、ごめんね、こんなことをしてごめんね。

 この果実だって、お母さんである木が一生懸命育んだ命なのに、蔑ろにしてしまった。


 相反する気持ちが渦巻いて、自分のことが気持ち悪くて仕方がない。


「もう、死にたいよ」

「君は、死にたいだなんて思ってないよ」


 やっぱり、気配も出さずに男の子は現れた。


「死にたいよ」

「死にたがってなんてない。生きていたいと思うのが本能だもの」

「君に私の何がわかるの」

「死にたいって思うのは、もっと幸せに生きたいってことなんだよ」


 ああ、そうだ。その通りだ。

 ぐちゃぐちゃしていた気持ちが、一色にまとまった。悲しい色のままだけれど。


「早く帰らないと、お母さんが心配するよ。ご飯を作って君を待ってる」


 私は路地裏を抜け、家に向かった。空は少し綺麗な色をしていた。

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