三 粒の細かい柔らかな泥のような瞳

 楽しそうにしている人達を見る度に、どうして私はあんな風になれなかったのだろうと思う。

 私は隔たれている。物心ついた頃には既に他の人との違和感があった。


 私は逃げるように庭に駆け込んだ。

 もう学校に行きたくないけれど、行かなかった場合の将来のことが不安で、通わないわけにはいかなかった。

 そもそも、どうして私がこんな目に遭わなければならないのだろう。いじめをしたり、仲間外れを作ったりする子達は、当たり前に楽しそうに学校に通って勉強しているのに、私が学校に行けなくなるなんておかしい。将来の可能性を潰されていいわけがない。だから、苦しくても堪えなければならないのだ。


「つらかったね。ここに来たらもう大丈夫」


 男の子は、微笑んで私を迎え入れた。

 粒の細かい柔らかな泥のような瞳で、彼は私を見つめる。


「私の果実はこんなにも醜い。他の果実が妬ましい」


 だからといって、綺麗なオレンジ色の果実を地面に落としてしまっていいはずがない。そんなことをしたら、どんなに木が悲しむだろう。そして、私は綺麗に実った果実を切り落として無駄にしてしまった悪い子になってしまう。


「君の果実だって、大切に育てれば綺麗になるよ」


 以前私がハサミで傷つけた果実は、傷跡を残している。きっともう治らない。乾いた白い線はもう消えることはない。傷つけられた記憶を残したまま、生きていく。


「肥料をあげなきゃね」


 甘い声の男の子は、何処からかじょうろを出して、私の実が成っている木の根元に中身を注いだ。

 私の実は、少しだけ艶を増した。

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