第8話 家庭教師のお姉さん
大学受験のために、高二の夏から予備校に通い始めてはいたけれど、それとは別に、高一の頃から志望大学の大学生が家庭教師に来てくれていた。数学と英語を教えてくれた。頭が良くて、美形で、スタイル抜群で、背も高くて・・・とにかくその頃の私にはそういう風に見えた素敵なお姉さんだった。要するに、メロメロに憧れていたのだ。
私が他者に一方的に性的な眼差しを持ってしまったり、一方的に欲望してしまったりしていることを自分で意識した最初かもしれない。数学の証明問題の過程のわからない部分を詳しく教えてくれる時、私の右後ろからノートを覗き込んで熱心に説明してくれるのだけれど、そのときには必ずお姉さんの胸が私の右腕に触れる。谷間が見えることも時々ある。隣に座って英語の構文を解説してくれる時、至近距離でお姉さんの組んだ足が見える。「ほんとうにわかった?」と念を押す時、ものすごく顔を近づけて笑顔を見えてくれる。本当にドキドキしてしまう。
憧れのお姉さん、女の人の肉体。そんな煩悩が頭を覆って、勉強に集中できないこともしばしば。私の腕に触れるお姉さんの胸の感触は、ブラジャー越しなので少しごわついている。そんなのじゃなくて生の感触を知りたい。脚にも触れたい。お願いしたら、触らせてくれるだろうか。私たちはいつも冗談を言い合っていて、何でも言えそうな雰囲気があったから、こういうことも冗談みたいに言えばそのノリでさせてくれるだろうか。そんなことを、夜寝る前にもまで考えてしまったりする。本当は裸でぎゅっと抱いて欲しい、お姉さんの大人の肌感覚を味わいたい、とか。ネットに転がってそうな男性向けポルノだったら、「「偏差値が上がったらご褒美に**させてください」みたいな話があるのだろうけど、現実ではそんなの無理だと思う。というか、そんなことを言う自分が嫌だ。冗談でも嫌だ。
高三になった時だったか。そのときお姉さんは四年生で就職活動中だった。リクルートスーツのままで教えてに来てくれたりするようになった。いつもと違うスーツ姿にもドキドキした。就活が順調だったようで夏前には内定が取れたのことで、やっと落ち着いたよ、と、いろいろ日常の話をしてくれた。
そんななかで、お姉さんに彼氏がいるのかどうかが気になった。あの体に触れる人がいるのかどうかが気になったのだ。「彼氏?ううん、いないよ。」と、ふと目をそらして答えた。そこでわたしは「じゃあ?彼女がいるんだ!」とここぞとばかりに、ちょっと冗談っぽく尋ねてみると、お姉さんも調子を合わせて「彼女もいないよ。でも、できたら欲しいな」との答え。
「じゃあ、JKどうですか?ハグしてください!」とふざけながらいうと、お姉さんはすっと、座ったまま私をハグしてくれた。お姉さんの大きな胸が私のむねにぐっと当たる感触が何となくあった。お姉さんは、何やってるんだろねー、私たち、と言いながら、座っていた椅子から、その後ろのベッドにハグしたまま崩れ込んだ。ふたりともケラケラ笑いながら。調子に乗った私は、いたずらしちゃいます!といってお姉さんの体をさわるふりをすると、お、Aちゃん慣れてるな、でも、だめだよこんなの、といいつつも、私に軽くキスをしてくれた。はい、おしまい!と、お姉さんは起き上がった。そしていつもの通り、勉強を始めた。
そして翌週、それから翌々週、それからそのあとも、勉強の合間に、お姉さんと私はハグしあって、そして軽いキスをするようになった。ベッドではなく立ったままだったけれど。
ある日、母が出かけていて家にいない時、私たちは一線をこえて裸で抱き合った。いつものように立ってハグしあっていると、私たちはいつの間にかベッドに横たわっていた。私の方からお姉さんのワンピースを脱がしていた。私が自分からこんなことをするのは、自分でも意外だった。気が付いた時には二人とも全裸で抱き合っていた。大人のお姉さんとこうして抱き合ってると思うだけで、頭が飛んでしまいそうだった。私はずいぶん積極的に抱き合ったと思う。
いいの?Aちゃん?、とお姉さんは声をかけてきたけれど、私はお姉さんの体を触ることでそれに答えたような気がする。ただ、私はYちゃんに対する罪の意識もあった。わたしはYちゃんとだけ特別な関係であるべきなのに、こうして憧れのお姉さんともこういうことをしてしまっている、と。しかもYちゃんとは裸で抱き合うだけで、本当にそれだけだった。けれどお姉さんとは違った。もっと大人のように私を抱いた。罪の意識もあったからだと思うけれど、味わったことのない肉体的快楽を、私は感じてしまった。肉体的な快楽なるものを、この時初めて知った。それはとってもはっきりした頂点を持つものだった。初めての感覚だった。
体を離して服を着る前、お姉さんはニコッとして、これ、絶対に私達だけの秘密ね、今回だけの特別ね、と耳元で囁いた。
今までに知らなかった肉体的快楽を知ってしまって、それなのに再びそれを味わうことが許されないなんて。全身を渦巻くようなこの衝動みたいなものをどうすれば良いのだろう。お姉さんと、もう一度、ということばかり考えてしまうようになった。けれどお姉さんは、翌週以降、全く以前の通りに戻ってしまって、私がいくら思いつめた眼差しを送っても、以前のようなにこやかな笑顔を返すだけで、そういう雰囲気にはなってくれなかった。
さて、それじゃあ、いよいよ男性向けポルノみたいに、「志望校合格したら私を抱いてください」みたいなことを私から言い出すか。もちろんそんなこと、私には絶対に言えない。でもまたお姉さんに抱いて欲しい。あの感覚をもう一度・・・ムラムラするばかり。
こうして性的に満たされたいという欲求が、自分のの中にもあるのだということを知るようになった。性的欲求ということがどういうものなのかを、高校三年の夏にして初めて知ったのだ。
それって、とても辛いことなんだな、と思った。
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