諦念乱立 -6-
「魔除け?」
「はい。このことは降りてから話しますね。こんなところでは話しにくいですから」
少女が鬼灯と呼ぶ灯りを石塔に吊るした後、僕たちは登ってきた階段を引き返し始めた。
こぶし大の大きさの鬼灯から漏れる光が周囲を照らす。石塔の最下層に戻ってきた僕たちは対面するように地面に座った。
炎のような光に照らされ、改めて見た少女の服装はとても貧相だった。
大きな一枚布を羽織っているだけのような服と草の編み込みで作られた質素な草履。時代錯誤な服装ということを差し置いても、まるで外見を気にしていないようにボロボロだ。
「もう声を潜めなくても良いのかな」
「あ、そうですね。大丈夫ですよ。えへへ」
「じゃあ教えてほしい。ここはどこなの?」
「それは、えーっと……。驚かないでくださいね?」
少女は言葉を選ぶように少しだけ間を置いて話した。
「ここは死んだ後の世界です。私たちはここを憂の島と読んでいます」
「……死んだ後」
「……あれ、あんまり驚かないんですね。私が初めて知ったときは何が何だか分からなかったのに」
やはりそうなのか。死後の世界に落ちるということは秕原さんから聞いていた。あの時はいくら話を聞かされても死んだ後の世界なんて想像できなかった。その世界にいるというのに、いまだに実感がない。
だけど、ここは僕のいた世界とはまるで違う。それだけは確かだった。
「えっと、私からもひとつ訊いて良いですか?」
考え込んで鬼灯を見つめていた視線を少女に戻した。
「お名前、なんて言うんですか?私はサキって言います」
あぁ。
僕たちはお互いの名前も知らずに話していたのか。
「ヨウヘイだよ。柁本ヨウヘイ」
「よーへいさん、ですね。強そうな良い名前です!」
サキは死人とは思えないほど慈愛に溢れた優しい顔で微笑んだ。
「もう少し質問させて。この島に僕以外に誰かが来たとか分からないかい?」
「もしかして、さっき言ってたお友達のことですか?」
「ああ、僕と同じくらいの年の、ユウって名前の女の子だ」
「ごめんなさい。さすがにその人が居るかは私には分かりません。そんなことが分かるのは、たぶんレンライ様くらいです」
「れんらいさま?」
「島の領主様ですよ。この島のことなら何でもご存知だと聞いています。どこに何があるかとか、この島に誰がいるのかとか」
「本当!?直ぐにその人に会いたい!どうすればいい?」
思わず立ち上がってしまった。
その人ならユウの意識がどこに居るかを知っているかもしれない。
「あっ、会う?そっ、それは、止めておいたほうが……いいです」
僕の興奮とは反対に、サキはずいぶんと歯切れの悪い返事を返した。
揺れる灯りに照らされたサキの表情が曇っていく。
「そういえばヨウヘイさんはこの島がどういうところか知らないんでしたね」
「やっぱり偉い人なの?」
「もちろん偉い人ですよ。この島の領主様なんですから。でも、私たちがあの人に会わない、いえ、見つからないようにしているのはそういった理由じゃなくて。それに、今のあの人に見つかったら、きっとあなたも――――」
殺されます
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