諦念乱立 -5-

「あ――、――のー、――――だいじょう――すか?」

 耳元で声がする。

 固い石段の上で目を覚ました僕の目の前には見知らぬ少女が居た。

「あっ、目が覚めましたか」

 幼い少女は顔の横に灯りを掲げ、心配そうにこちらを見ている。

「どこか具合でも悪いですか?怪我はありませんか?」

「ああ……大丈夫だよ」

 寝ていた時の体勢が悪かったのか少しだけ節々が強張っていた。

「それは良かったです。えへへ」



「君はこの島の人かい?」

「えっ?はい、そうですよ」

「それなら少し教えてくれないかな。僕はこの島に来たばかりなんだ。しばらく前に森の外にある海に打ち上げられて、それから――」

 しばらく前――――そう言えば今は何時だ?!

「どうかしたんですか?もう夜になってますよ」

 やってしまった。

 ユウの中に居られる時間がどのくらい在るかは分からない。

 この旅は途中で投げ出すことも、手遅れになることも許されないんだ。

「早くしないと……。君はこの島についてどれくらい知っているんだ?この島に一番詳しいのは誰?知ってるだけでいいから教えてくれ!」

「落ち着いてください!それに大声を出さないで!知ってることは後で話しますから!」

 少女は声を潜めて話す。瞳は塔の入口と僕を見つめて行ったり来たりしていた。

「まずは鬼灯ほおずきを掲げさせてください。話はそれからでも遅くないはずです」



 こつこつと二つの足音が暗い塔の中を登ってゆく。

 石で作られた螺旋階段は人ひとりが通れるくらいの幅しかない。気を抜けば地面まで真っ逆さまだ。少女の持っている灯りがなければ足が竦んで階段を進むことはできないだろう。

「そんなに取り乱して何があったんですか」

 少女が小声で問いかける。それにつられて僕も小声で答えた。

「友達を探しているんだ。はやく見つけてあげないと、今よりももっと遠くに行ってしまうような気がして……」

「友達、ですか。この島で知り合ったんですか?」

「いや、そうじゃないんだけど」

「まだ現世の記憶が混在しているんでしょうか。だとしたら、そのお友達さんに会えるかは……。っと、通り過ぎるところでした」

 慣れたように階段を登っていた少女は壁を探りはじめた。灰色の壁をなぞっていた手のひらが何かを掴み取る。すると煉瓦ブロックくらいの大きさの石がふたつほど壁の内側に抜き取られた。

 少女は手に持っていた灯りのひとつを塔の外に出るように掲げ、螺旋階段を半周登った反対側にも同じ要領で灯りを外に掲げた。

「なにをやってるの?」

「鬼灯を掲げているんですよ。この塔に人が居ることを知らせるため、そして魔除けのために」

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